ロアンは荒れていた。  
 一人、港町のパブで最奥に陣取り、慣れぬ酒を浴びるように飲んでいる。そうやって  
まるで、自分の中に溜まった怒りと悲しみを洗い流すかのように。  
「おい坊主、子供がそんな飲み方するもんじゃねぇぜ」  
「俺はもう、ひっく! 子供じゃ、ない……いいから、お酒くださいよ」  
 パブのマスターは呆れながらも、大きなジョッキを置くと、やれやれとカウンターへ  
帰ってゆく。その背を見送りロアンは、一気に半分ほどビールを己に流し込んだ。  
 誰よりも慕い尊敬していた、父親に裏切られた。家に母を待たせて、仕事と言いながら  
その実、他の女をかこっていたのだ。しかも、子供までもうけていた……異母兄妹。  
 突然突き付けられた真実に、ロアンは大いに動揺し……次の瞬間には、激怒していた。  
 脳裏を、一人故郷で待つ母の姿が過ぎった。  
「クソッ、何が男らしくだ……父さん、何で。どうしてっ!」  
 せめて何か、訳があるなら話して欲しかった。言い訳でも良かった。  
 だがロアンの父は、何も言わずに立ち去ってしまった。  
 その背を追ってロアンは飛び出した。止めるアーニャや、助け出したリンを置き去りに。  
何かサーシャが言ってたような気がするが、それも耳に入らなかった。怒りに我を忘れ、  
J+の制止も振り切り……彼は荒野に父の姿を求めて一日中さすらった。  
 しかし追いつけず、かといって戻る気にもなれず、こうして酒に逃げている。  
「こうなったら……全部の秘宝を集めて、あの男を見返してやる!」  
 そう吐き捨てるや、再びロアンはジョッキを乾かした。その背に響く拍手。  
「いい飲みっぷりじゃないかい、坊や。一つ、あたいにもおごってくれないかい?」  
 振り向くとそこには、和装の着物をしどけなく着こなす、美人の姿があった。  
 ロアンはマスターに、同じ物を二つ持ってくるよう叫ぶと、微笑を湛えた白い顔を、  
ぼんやりと眺める。どこかで見覚えがあるような、ないような。  
「どこかで、ひっく! お会い、しました、か……?」  
「おや、忘れちまったのかい? あたいはずっと、覚えていたのにねえ」  
 美人はアレイトと名乗ると、ロアンの隣の席に腰を下ろした。手にした異国の弦楽器を、  
大事そうに傍らにそっと置く。不思議そうにロアンが首を傾げて記憶の糸を辿る間も、  
アレイトは楽しそうにその横顔を眺めて頬杖をついた。  
 やがてマスターが、これで最後だとジョッキを二つ持ってくる。  
「じゃあ、再会に乾杯しようかねえ?」  
「は、はあ……うーん、確かにどこかで……でも、ひっく!」  
 アレイトのことが思い出せぬままに、ロアンは杯を交えて再びビールを飲む。流石に  
酔いが回って、豊穣なるのどごしにも飽きがきていた。  
「それにしても坊や、随分と荒れてるじゃないかい。ええ?」  
「……ほっといてくださいよ」  
「ふふ、若いねえ。どれ、その昂ぶりをあたいに……教えておくれ」  
 小さく笑ってアレイトは、あっという間に自分の杯を空けてしまった。その細い身体の  
どこへ注がれてゆくのか……たちまち大ジョッキが空になる。口元の泡を手の甲で拭って、  
彼女はさらに、唖然とするロアンの手からもジョッキを奪う。  
 彼女は、ロアンが口をつけていた部分をそっと指でなぞると、そこへ唇を寄せて一気に  
飲み干してしまった。  
「ふう、熱い……熱いねえ、坊や。あたいの中に入ってくる……坊やの息吹が」  
 愉快そうに喉を鳴らして、アレイトは空になった二つのジョッキを寄せ、立ち上がるや  
テーブルへ腰掛けた。すらりと長い脚を組み替えれば、脚線美が白くのぞく。  
 そのまま彼女は、三味線を手に取り弾き始めた。パブの誰もが、その雅な音色へ向けて  
振り返る。ロアンも鼓膜に浸透してくるメロディに、やっとのことで思い出した。  
「あ、ああ! あの、色んな町で、ひっく! 旅の、芸人さん……」  
「ふふ、やっと思い出したねえ。あたいも今丁度、この曲が完成したよ」  
 坊やのお陰と笑って、ベベンとアレイトが三味線を鳴らす。  
 気付けばロアンは、先程までのささくれだった心が自然と安らぐのを感じた。  
「いい、音楽ですね……アレイトさん。ひっく!」  
「ありがとよ、坊や。どれ、曲もできたし久しぶりに帰ろうかねえ」  
 立ち上がったアレイトが、もう少し飲みたいとロアンに流し目を送ってくる。  
 千鳥足で立ち上がると、ロアンは会計を済ませてアレイトと腕を組み店を出た。  
 
 アレイトはミューズの一人だった。  
 今、紅葉が舞い散る晩秋の中、ロアンはアレイトの園で周囲を見渡している。  
「さて、準備はこんなもんでいいかねえ? おいで、坊や」  
 やや酔いは覚めたものの、誘うアレイトを見れば頬が熱くなるのを感じる。  
 あでやかな秋の夜空を見上げながら、ロアンはアレイトの力でどこからともなく現れた、  
十畳敷きの畳へ上がった。既にもう、酒や肴がずらりと並んでいる。  
「あの、アレイトさん……その、坊やっての、やめてくれませんか」  
「おや、嫌いかい? ふふ、そうだねえ……」  
 座布団の上にロアンが腰を下ろすと、膝の上に手を載せ、アレイトが身を寄せてきた。  
「あたいと飲み比べして勝ったら、坊やはやめてあげようかね」  
 そう言って徳利を差し出してくる。言われるままにロアンは、杯を手に取り酌を受けた。  
 まるで清水のように、透明な酒をグイと一気に飲み干す。茶化すように隣のアレイトが  
拍手をするので、ロアンはむきになって杯を押し付けた。アレイトはそれを受け取るや、  
ロアンの酌を受ける。  
 真っ赤な唇が器の淵にふれて、ロアンは先程の間接キスを思い出してしまった。  
「おや、顔が赤いねえ。もう酔っ払っちまったのかい?」  
「そ、そんなに寄りかからないでくださいよ……あ、ちょっと」  
「ふふ、男の子だねえ……さ、いいからもっとお飲みよ。今夜は無礼講さね」  
 あぐらをかいて座るロアンの、太股を両手で撫でながら、アレイとは身を預けてくる。  
 どぎまぎしながらもロアンは、言われるままに返された杯に満たされた酒を覗き込む。  
真っ赤になって酔っ払った自分が、揺れて杯の中に映っていた。目を瞑り、一気に飲む。  
「いい飲みっぷりだねえ、坊や。ふう、あたいは暑くなってきちまったよ」  
 不意に寄りかかるアレイトの弾力が離れて、ロアンの肩が寂しさを覚えた。何事かと  
見上げれば、立ち上がったアレイトはおもむろに着物を脱ぎ出す。衣擦れの音に追われて、  
慌ててロアンは背を向けた。  
「ふう、いい夜……さ、坊や。もっとお飲みよ? どうしたんだい」  
「アッ、アレイトさん!?」  
「いいじゃないかい、暑いんだもの。坊やも脱げばどうだい?」  
 背中に二つの丸みが当てられ、首を細い腕が包んでくる。耳元に息を吹き込まれて、  
ロアンは一瞬で酔いが覚めた。このままでは、アレイトと間違いを犯してしまいそう……  
しかし心のどこかで自棄な気持ちが、昂ぶる怒りのはけ口を求めていた。  
「坊や、もう飲まないのかい? ほら、あたいが器になってやるから……お飲みよ」  
 アレイトは既に全裸で、しかしそれを隠さずロアンの正面に回るや、膝の上に腰掛けた。  
そして手にする徳利の酒を、自分の胸の谷間に注ぐ。きめ細かな白い肌が濡れて、飛沫を  
弾けさせながらロアンの前に差し出される。  
 気付けばロアンはアレイトを押し倒し、その肌を濡らす酒を舐め取っていた。  
「ふふ、美味しいかい? いけるクチだねえ、坊やは」  
 アレイトが楽しげに、自ら酒を浴び、ロアンは夢中でそれをすすった。鼻息を荒くして、  
胸の谷間を流れてヘソへと注ぐ酒を、貪るように飲み下す。同時に手は程よい大きさの  
胸の双丘を揉みしだいていた。  
「いいねえ、がっついてて……若い子は好きだよ、あたいは。美味しいかい?」  
「お、美味しいです。アレイトさん、もっと……もっと忘れさせて、ください」  
 胸の谷間に顔を埋めて、泣くようにロアンはアレイトを求めた。その頬を優しく撫でて、  
アレイトが僅かに身を起こす。そうして彼女は、股をぴたりと閉じた。  
「坊や、とびきりの酒をご馳走してやるよ。飲み干して全部、忘れるといいさね」  
 アレイトは最後の酒を、下腹部と太股の三角地帯へと注いでゆく。肉の器に満たされた  
美酒へと、ロアンは夢中でくちづけた。そのまま溺れるように飲んでゆく。忽ち飲み干し、  
それでもロアンの舌は酒を、アレイトの蜜を求めて蠢いた。  
「おやおや、ふふ……可愛いねえ。坊や、もっと飲むかい?」  
「もっと……もっ、と。アレイトさん、ん、んっ……ふっ、はぁ」  
「上手いじゃないか、坊や。濡れちまうよ。それじゃあ……全部お飲みよ?」  
 不意にアレイトが身震いするや、ロアンの顔面を飛沫が襲った。  
「んっ!? あ、ああ……」  
「さあ、お飲みよ坊や。たまらないねえ、こうして若い子と飲むのは」  
 言われるままにロアンは、勢い良く溢れ出すアレイトの小水を飲み続けた。  
 
 夢を、見ていた。  
 父と母と、自分と……執事ロボとメイドロボ……J+と。  
 家族の夢が覚めて、真夜中にロアンは目を覚ました。いつの間にか畳には布団がしかれ、  
その中でロアンはアレイトと全裸で抱き合っていた。あのまま、抱いてしまったのだ。  
 そして今、尿意を感じて目覚めれば……胸の中でアレイトが微笑み見上げていた。  
「凄いじゃないか、坊や……若い子は激しくていいねえ」  
「アッ、アレイトさん……その、もしかして、俺は」  
「あたいを抱いたね。それも一度じゃない。怒りをぶちまけるように乱暴に……良かった」  
「ああっ! またやってしまった……っと、それよりも。アレイトさん、トイレは……」  
 ロアンはいよいよ、膀胱が限界を訴えてくるのを全身で感じていた。それを察したのか、  
アレイトは布団をはねのけロアンから身を離すと……既に萎えたロアン自身を手にした。  
「あっ、ちょっと……その、も、ももっ、漏れそうなんですけど」  
「さっきのことは忘れちまったのかい? こんどはあたいに、飲ませておくれ」  
 ロアンは咄嗟に、臥所を共にするまでの時間を思い出した。アレイトの身体を濡らす、  
酒という酒をすすって舐め取り、更には黄金の飛沫を浴びて飲み干した。その後も二人は、  
互いに口移しで酒を飲ませあいながら、布団の中へと沈んだのだった。  
「さあ、我慢せずお出しよ……あたいは好きなんだよ、こういうのが」  
「ちょっ、そんな……あ、ああ」  
 アレイトがロアンのペニスを口に含んだ。そのまま舌を使われ、排尿を促すように、  
睾丸を左右交互に手で揉まれる。いよいよ限界を感じて、ロアンは決壊した。  
 柔らかく暖かなアレイトの口の中で、だらしなく粗相をしている……ロアンは顔を手で  
覆って恥辱に耐えながらも、止まらない尿に興奮を覚えた。静かな夜に、アレイトが喉を  
鳴らす音だが響く。  
 飲んだ酒の分をたっぷり出し終えた時にはもう、ロアンは再び漲り猛っていた。  
「ふう、沢山出したねえ……おや? 坊や、またこんなに硬くして……」  
「そ、それは、だってアレイトさんが……」  
 放した唇をチロリと舌で舐めながら、アレイトが硬く屹立したロアンの強張りを手で  
しごいてくる。忽ち先走る粘液に濡れて、ニュルニュルとぬめりけが快楽を呼び込む。  
 ロアンは恥ずかしさで顔を背けながらも、今度は射精感に苛まれた。  
「いいんだよ、坊や……あたいもこれが、欲しくなってきちまった」  
 アレイトは頬を上気させながら、ロアンの上に跨った。そうしてゆっくり、手に握る  
ロアンを自らの中へ導き、腰を落とす。自然とロアンは、アレイトの細い腰に手を添えた。  
「ほら、挿ってくよ坊や。どうなんだい? お言いよ」  
「き、気持ち、いいです……温かくて、きつくて、あっ! し、締まるぅ」  
「可愛い顔して、もう女の味をしめてるんだねえ。ほら、全部挿っちまったよ」  
 ストンと腰を下ろして、アレイトは僅かに割れたロアンの腹筋に両手を突く。そうして  
暫く、彼女は自分の中を貫く男の劣情を、じわじわと膣圧で締め上げてきた。  
 もどかしい快楽が押し寄せ、ロアンは言葉にならない声を呻いた。  
「解るかい、坊や……奥に当ってるよ。先っちょが子宮口に、んっ、ふふ……」  
「あ、はい……んっ、はぁ! ア、アレイトさん、俺……う、動いても」  
「いいんだよ、坊や。あたいに任せなよ。その胸の黒いもん、全部吐き出しちまいな」  
 アレイトはゆっくりと腰を浮かせ、抜けそうになるロアンのカリ首が引っ掛かると、  
再度深々と挿入する。そうしてロングストロークのピストン運動を繰り返しつつ、徐々に  
その挿抜の感覚を狭めてゆく。気付けば二人は汗に濡れて、月夜の園に肉と肉がぶつかる  
淫靡な音を奏でていた。  
 ロアンはただ身を横たえて、自分の上で上下するアレイトを眺めていた。胸を揺らして  
アレイトは、激しい腰使いでロアンを締め上げてくる。  
「アッ、アレイトさん! 俺もう……」  
「あたいも、いきそうだよ……今度は、一緒に、んんんっ!」  
 二人は同時に達した。  
 眉を潜めて愉悦に身震いする、アレイトの中でロアンは爆発した。酔いに任せて何度も  
交わった後でも、若さゆえの劣情が白濁となって、大量にアレイトの中を満たしてゆく。  
「はぁ、はぁ……あ、ああ、まだ出る。アレイトさんっ」  
「立派だよ、坊や。噂以上さね……すっきりしたかい?」  
 断続的な射精が終ると、ロアンは呆けた顔で頷き……そのまま眠りに落ちた。  
 
 アレイトの園に朝が来た。眩しい朝日に、目覚めたロアンは思わず手を翳す。既に、  
胸の中にアレイトの暖かな身体はなかった。  
「起きたかい、坊や。帰る前に風呂に入ってきな」  
 身を起こして全裸で布団から這い出ると、ロアンは声の主を探して首を巡らせた。  
 紅葉が生い茂る園の片隅に、白い煙を上げる温泉が現出していた。そこで腰に手を当て、  
アレイトがロアンを呼んでいる。立ち上がろうとして、額の奥に鈍痛を感じる。  
 ロアンはどうやら、二日酔いのようだった。  
「イデデ、何だこれ……あ、頭が」  
「ははっ、坊やだからさ。二日酔いだなんて、だらしない子だねえ」  
 ふらふらと湯煙に歩けば、裸のアレイトが笑った。何とか辿り着き、手を引かれるまま  
石を敷き詰めた洗い場に座らせられ、熱い湯を頭から浴びせられる。  
 ロアンはアレイトにされるがままで、ぐったりと座り込んで背中を流された。  
「若い子はいいねえ、肌なんかピンとしててさ」  
「アレイトさんだって、その……」  
 昨夜の情事が、互いの痴態がおぼろげに思い出されて、ロアンは前屈みになった。  
「あたいはまあ、ミューズだからねえ。ほら、目ぇ瞑りな。頭も洗うよ」  
 再び湯が浴びせられ、細く綺麗な指がわしわしと髪の中を梳いてゆく。  
「はあ、またやってしまった。俺は……こんなんじゃ――」  
 身持ちも固く、想い人に一直線……そう心に決めていた筈が、どんどん女の味を知り、  
それに餓えて渇くようになってしまう。それは更なる牝の匂いを求めてしまう。  
 しかし今、一途にアーニャを想う自分に、そうあれかしと教えた人間を思い出して、  
ロアンは舌打を一つ。それは他ならぬ、自分の実の父親だった。  
「何だい、あれだけ相手してやったのに、まだスッキリしないのかい?」  
 何もかもお見通しであるかのように、頭上で笑う声が響く。  
「俺は父さんが許せない……でも、父さんの教えが無価値になった訳じゃないんだ」  
「まあ、おおまかな話はカリオペから聞いてたけどねえ……そうかい、そうかい」  
 手桶で湯をすくって、それをロアンの頭に浴びせるや……背後からアレイトは頭を、  
ぎゅっと抱き締めてきた。アレイトの甘い体臭がロアンを包む。  
「いい子だ、坊や。もう荒れて仲間を心配させたり、しないね?」  
「……はい」  
「あたい達ミューズも、坊や達を見守ってるんだよ。そりゃ、ハラハラもするし――」  
 御節介も焼きたくなる、と笑って、アレイトの唇がロアンの頬に触れた。  
「いいかい坊や、よくお聞きよ? ……顔。ウソ。体。ウソ。心。大ウソ。でもね……」  
 ロアンの耳元でアレイトは、声をひそめて囁いた。  
「坊やの中にいる、坊やだけの全てがホントなんだよ。覚えといておくれ」  
「アレイトさん……」  
 思わず肩越しに振り向いたロアンは、突然唇を奪われた。僅か一秒にも満たない、ただ  
唇と唇がふれただけのキスだった。それで全てが伝わった。  
「いい男だね、ロアン。秘宝集め、しっかりおやりよ」  
「は、はい」  
 何故か気恥ずかしくて、ロアンは俯き黙る。先程まであれほど隆々と滾っていた剛直も、  
今は大人しく包皮の中へと身を隠していた。  
 どうやらロアンは一晩で、すっかり毒気をアレイトに抜かれたようだった。  
「よしっ! これで綺麗になったねえ。どこに出しても恥ずかしくないさね」  
「ど、どうも。あの、アレイトさん。アレイトさんは、ミューズの皆さんはどうして……」  
「野暮なことを聞くんじゃないよ、ほら! 黙って湯に浸かって温まりな」  
 ミューズは皆、ロアン達に親切で。それは、助けて貰ったお礼というには、余りにも  
親身で温かく、献身的だった。それが何故かを聞き出せぬまま、ロアンは二日酔いの重い  
身を、温泉の湯船につけて溜息を吐く。  
 帰ったら先ず、仲間達に謝って……また、前に進もうと心に結ぶロアン。  
 そうと決めたら、今は父への怒りを収めるべきだと、少しだけ冷静になることができた。  
 同時に不意に、アーニャが恋しくなる。  
「何かあったらまた飲もうじゃないか、ええ? それとも――」  
 好きな娘と、好きな娘のが飲みたいかい? とアレイトが不意に後で笑った。  
 想像するだけで羞恥に顔を真っ赤にして、ロアンは思わず湯の中へと潜った。  
 

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