ロアンが自分の気持ちを伝えた時、彼の母は一瞬驚きに目を丸めて。しかし、次の瞬間  
には納得したように頷き、女神のような笑顔で我が子を祝福した。  
「そうなんだ。ロアンちゃんももう、17歳だもんね。うん、もういちにんまえだねっ!」  
 村人からは実際の半分以下の年齢で見られている母は、童女のようなあどけない笑みを  
浮べ、感無量といった様子で両頬を手で覆う。  
 ロアンは、少し不安になった。  
「でも母さん、俺が居なくても大丈夫? 俺、心配だよ……だって母さん」  
 ドジで、おっちょこちょいで……実の子が言うのもアレだと思いながら、ロアンはつい  
胸中に呟いた。母は、少し頭のネジが緩い。優しく包容力に満ち、常に明るく朗らか……  
三十路も半ばを過ぎたとは思えない程に、母は少女然としていたから。身も、心も。  
「しんぱいなのはママのほうだよ? ロアンちゃん、旅ってすっごくつらいんだから」  
 色素の薄い、若草色の髪を母に撫でられ、ロアンはそのまま抱きしめられた。柔らかな  
母の胸に顔を埋め、その甘い匂いを全身に吸い込む。  
 だが、決心は変わらない。明日、旅立つ。  
「大丈夫だよ、母さん。俺には母さん譲りの力もあるし。先生も誉めてたしさ」  
「でもロアンちゃんは、まだフレアの書もよめないし……ママはしんぱいだよ〜」  
 村が強盗や足軽に襲われた時、サイコブラストの一撃で屠ったのはロアンの母だった。  
エスパーガールとしては(もうガールという歳ではないが、見た目はまだまだガールで通  
用するだろう)かなりの高レベルらしく、かつては父と異世界を冒険したとうそぶく母。  
「安心してよ、母さん。大丈夫、俺は父さんを必ず連れて戻るよ。それに」  
「それにおば様、御安心なさって下さい。私達がロアン君と一緒に行きますから」  
「そうそう! 僕等でロアンはしっかり守って、ついでに秘宝もゲットだよっ!」  
 不意に背後を振り向き、ロアンは心強い旅の同行者……双子の姉妹に目を細めた。  
「あれ、アーニャちゃんにサーシャちゃんも……ふたりともいっしょに? そっか〜」  
 ロアンの母は、心底安心したような、それでいて不安が増したように大人しくなった。  
 胸以外は全く同じシルエットが、ロアンを挟んで交互に母を諭す。ロアンにはついつい  
同世代の少女同士に見えてしまう。静かに「私達に任せて下さい、おば様」と、清冽なる  
美貌で微笑む美少女がアーニャ。その横で「大丈夫、おばさんも安心してよっ」と溌溂と  
笑う快活可憐な美少女がサーシャ。  
 二人は双子。  
 髪や肌の色も違うが、そっくり鏡写しの二人。だが、例えモノクロームの別次元に突然  
放り込まれても、ロアンは二人を見分けることができる。好きな人を見間違えることなど  
男としてありえない……幼少期に旅へ消えた、父の言葉が頭を過ぎった。  
「うーん、じゃあ……そだね、大丈夫かな? ね、テムジンはどう思う〜?」  
 母はダイニングキッチンから身を乗り出して、庭へと小さく叫んだ。その声に反応して  
一機のメカが近付いて来る。ロアンの家の、自称執事ロボだ。終始無言の彼だが、何故か  
母は意思疎通が出来るらしく。メインカメラの光にしきりに頷いている。  
「奥様、アタシもご一緒シマス! 坊チャン、いいデスヨネ? ネ?」  
 ――執事ロボがいるのだから、当然……メイドロボもいる。共通規格に当てはまらない  
執事のボディの影から、見慣れたメカが飛び出してきた。黄色いボディに猫耳が揺れる。  
「わー、プラちゃんも一緒にいってくれるの? ふふ、ありがと〜」  
「はいデス! 村一番の姉妹に、このアタシがいれバ! ……ただ奥様、一つダケ」  
 メイドである自分がいなくなって、この家の家事がどうなるかを彼女は心配し出した。  
そう、彼女、だ……この猫耳ロボ(本人はこのスタビライザーを『耳』ではなく『羽根』  
だと主張している)は、女性人格で家族の一員。T260J+……愛称はJ+(ジェイプラ)。  
「じゃあ、プラちゃんにアーニャちゃん、サーシャちゃんも……ロアンをよろしくね〜」  
 どうやら母は、旅立ちを認めてくれそうだった。ロアンは一人、安堵の溜息。  
 無言の執事が、部屋からバトルハンマーを取ってきてくれた。ロアンはエスパーとして  
力を振るう方が得意なのだが、旅に武器は欠かせないだろう。J+はスレンダーなサーシャ  
に並んで、競うようにロアンの母を安心させていた。  
 旅立ちは近い、何よりあの人と一緒の旅が――そう感じて意気込むその瞬間。  
「ロアン君、後で学校に行って頂戴。教室で待ってるから……必ず行ってね」  
 意外な言葉に振り返れば、静謐なアーニャが真紅の瞳でじっとロアンを見詰めていた。  
 
 通い慣れた学び舎も、今日でしばらくお別れ……そう思えば感慨深く、ロアンは静かに  
一人廊下を歩く。軋む古びた床板も、今は懐かしく愛おしい。  
 恐らく今日ほど、教室への足が弾んだ日をロアンは知らない。今まで何度も、それこそ  
周囲が呆れる位に熱烈なアタックで挑み……全戦全敗だったから。  
 つまり、意中のアーニャに呼び出されたのが、ロアンは嬉しくてたまらない。  
 同じ双子でも、元気溌溂で明るく人懐っこいサーシャは、学校の人気者。男子生徒達は  
こぞってサーシャに夢中になった。その一方で、同じ美貌のアーニャはと言えば……  
「やっぱり男は当って砕けろ、されど挫けるな。父さんの言った通りだ」  
 知的で物静かなアーニャは、誰にとっても高嶺の花で。サーシャと同じく運動能力抜群、  
更にはサーシャと違って学業も優秀……正に学校のマドンナ。双子の妹とは違いスタイル  
もほど良く肉付いて、たわわな胸と尻の膨らみが、くびれた柳腰を強調していた。無論、  
スレンダーなサーシャも魅力的だが。  
 多くの同級生と違って、ロアンはアーニャに惹かれるまま、素直に真正面から告白した。  
 そして振られ、周囲が納得する中……ずっと挑み続けていたのだ。熱心に好意を寄せる  
ロアンへ、アーニャは一度も首を縦に振ってはくれなかったが。同時に、嫌悪を全く示さ  
ず、常に丁寧に優しく、少し申し訳なさそうに微笑んでくれる。  
 そんな彼女が突然、父親を探し秘宝を巡る旅に、強く同行を申し出てくれた。  
 そして今、こっそり教室へと呼び出した……ロアンの鼓動は激しく高鳴った。  
「おっ、おまたせっ! ごめん、待った?」  
 ――ううん、今来たところ。  
 そんな定型句も、涼やかなアーニャの美声で奏でられれば、たちまちロアンは至福へと  
真っ逆さまに登り詰めてしまうのだが。  
 現実は、違った。  
「ロアンさん、よく来てくださいました。ありがとうございます……アーニャにも感謝を」  
 アーニャとは違う女性が、窓際に佇んでいた。僅かな失望をしかし、ロアンは己に対し  
戒める。同時に思い出されるアーニャの言葉――『後で学校に"行って"頂戴』――確かに  
彼女は、『来て頂戴』とは言わなかった。  
 だが、ロアンは同時に感謝もしていた。この人にはお別れの挨拶を、きちんとしたいと  
思っていたから。  
「後程、お家へ挨拶にと思ってたんですが。アーニャが気を利かせてくれたみたいですね」  
 ロアンは心からの笑顔を浮かべつつ、自分の浅ましさを努めて押さえ込んだ。  
「旅立たれると聞いて。わたくしったらつい、アーニャにお願いをしてしまったのです」  
「お体の方は大丈夫ですか? ここ最近はまた登校されてなかったので、心配してました」  
 大きくつぶらな一つ目で、柔らかくその少女は微笑んだ。モンスター、スライムだった。  
 彼女の名は乙姫。実際にはロアンより年上なのだが、病弱で思うように学校へ通えずに、  
今年になって編入してきたのだ。先生の弟子であり助手でもある、乙女の妹に生まれたが、  
将来の約束されたスーパースライムであるにも関わらず……乙姫は体が弱かった。  
 力無き故に人型を象れぬ橙色の不定形で、ゆっくりとロアンへ近寄ってくる。  
「ロアンさんの一大決心ですもの。体のことなんて言っていられませんわ」  
 ロアンはこの、年上の上品な同級生が好きだった。それは何も、意中のアーニャの親友  
だからという理由だけではない。三種族が寄り添い生きる多種多様な世界は、そのどこも  
種族間の差別とは無縁だから。何より、か弱くとも気丈で優しい乙姫だから。  
 ただ、言い換えれば……同じ種族でも小さな理由で争い奪う、それが世界の全てだった。  
「そんなこと言わずに、体をいたわって下さい。俺、乙姫さんが元気でいてくれないと」  
「ふふ、嬉しいですわ。何か旅立ちの選別に、贈り物ができればと思いましたの」  
 不純物の全く混じっていない、綺麗な体が夕焼けに輝いている。先生や乙女と違って、  
自我に目覚めぬ野のモンスターと容姿は同じだが……乙姫は気高く気品があった。  
「ロアンさん、受け取って下さいますか? 私の贈り物」  
「ええ、喜んで。嬉しいです、乙姫さん」  
 嬉しそうに乙姫は、潤んだ一つ目を細めた。自然とロアンも笑みを返す。  
「では、その前に聞いてください。私の告白を」  
 ――次の瞬間、ロアンは耳を疑った。  
 同時に、何故頑なにアーニャが、自分との交際をやんわり拒んだかを知った気がした。  
「私は、乙姫は……あなたが、ロアンさんが好きです」  
 静かな夕暮れの教室を静寂が満たし、ロアンは探す言葉も解らず戸惑った。  
 
「ごめんなさい、ロアンさん。驚かせてしまいましたね」  
 寂しげに乙姫が微笑んだ。  
「それに、困らせてしまいました。わたくしったら、明日は大事な日なのに」  
「そ、それはっ……困って、なんか、いないです。嬉しいです、けど」  
 それはロアンの本音だった。いつもアーニャに言い寄り振られ、サーシャにからかわれ。  
そうして級友達と過ごす日々を、いつも乙姫は温かく見守っていてくれたから。  
 どこかでロアンは、姉のように乙姫を慕っていた。  
 だからこそロアンは胸が痛む……毎日毎日、アーニャに恥ずかしげもなく想いを伝える  
自分を、乙姫はどんな気持ちで見守っていただろう? 好きな人は、親友が好き。そして  
親友はそれを知って、気遣ってくれる。病弱な体以上に、乙姫は辛かった筈だ。  
「よかった。ロアンさん……わたくし、ロアンさんに想われなくても大丈夫です」  
「乙姫さん」  
「ただ、私の想いは伝えたかった……そして、最後にロアンさんと」  
「最後って、や、やだな、乙姫さん。約束します、俺は生きて帰ってきますよ」  
 父を連れて、仲間達と無事に。その時恐らく、ロアンはアーニャとの仲を深めている  
かもしれないが……それを妬んで拒絶するような乙姫ではない。ロアンはそれが解る分、  
少しだけ自分が卑怯な気がした。だが事実、恐らく確実に、多分絶対。乙姫はロアンが  
アーニャと結ばれると、祝福してくれる。そういう人なのだ。  
「今日が最後になると思います……だからロアンさん、一度だけわたくしを……」  
「? 乙姫さん? 最後って」  
「私の体はもう、長くは持ちません。だから今……見ててくださいね」  
 突如、乙姫の体が光り出した。その姿は伸びて起き上がり、本来あるべきスーパースラ  
イムへと変化し……さらに輪郭を変え、見慣れた姿になった。綺麗な橙一色だった色も  
今は淡雪のような白い肌が、深い翠緑色の髪が……何より、真紅の瞳が飾られていた。  
 まるで死力を振り絞るように、乙姫はアーニャと寸分たがわぬ姿に変身した。  
「アーニャはわたくしに許してくれました。姿を借りて、想いを遂げることを」  
 そっと一歩、乙姫が歩み出た。二人の距離がゼロに近付く。足音は間違いなくスライム  
だったが、その姿形はアーニャそのもの……どこか柑橘類を思わせる香りがロアンの鼻腔  
をくすぐった。  
「今、ここで、抱いてください。わたくしの純潔を、ロアンさんに捧げます」  
 アーニャの姿で切々と、恥ずかしげに俯きながらも言い澱むことなく。乙姫は募る想い  
のたけを言の葉に託した。あまりに突然のことで硬直するロアンは、不意に手を取られて  
思わず身を強張らせる。  
「ごめんなさい、ロアンさん。体温までは再現できないんです。でも、触ってください」  
 乙姫の手で導かれて触れた頬は、驚く程に柔らかかった。ただ、スライム特有の冷たさ  
は残っていたが。ずっと想像していたアーニャの感触が、そのまま手の内にあった。  
 と、冷たさに触れる手に一滴の温もりが零れた。  
「ごめんなさい、泣かないって決めたのに。もう、満足です。ありがとう、ロアンさ――」  
 刹那、胸を焦がす熱い情動が爆発した。理性の飛んだ脳裏を思惟が駆け巡り、気付けば  
ロアンは乙姫を抱きしめていた。全身に冷たさを感じてなお、強く強く抱いた。  
「俺は乙姫さんに、謝らせてばかりだ。乙姫さんは悪くないのにっ!」  
「ロアンさん……でも、わたくしは卑怯です。親友の姿を借りて、貴方につけこんで」  
「いいじゃないですか……俺、乙姫さんの為に何かしたいです。俺はどうすれば」  
 エスパー特有の、術式の紋様が浮かぶ褐色の肌に顔を埋め、乙姫はロアンをただそっと  
抱き返しながら囁いた。  
「アーニャを、これからも好きでいてあげてください。あの娘は、本当は……」  
「乙姫さん。それは、俺はアーニャが好きで! でもっ、今俺がしたいのは!」  
「アーニャの頑なさは、別の理由もあるようにわたくしには感じるのです。それと――」  
 ついと爪先立ちで背伸びをして、乙姫が目を瞑る。その仕草が何を求めているのかを、  
ロアンは咄嗟に理解しながらも。眼前の人物が本物のアーニャでないことを理解した。  
 アーニャもサーシャも、本当はロアンより目線一つ背が高かった。  
「ふふ、気付かれてしまいましたね。少し質量が、何より魔力がもう……」  
「乙姫さん、最後にしないで……生きてください。そう約束してくれるなら」  
 その先を言葉で語る前に、ロアンは蕾のような桜色の唇に唇を重ねた。  
 初めてのキスはひやりと冷たく、互いに求め合い絡む舌は甘かった。  
 
 母と交わすおやすみのキスとは違う……初めてロアンは、異性とキスをした。  
 ただ、乙姫の切なる願いに自分のファーストキスを捧げてもいいと思えたから。しかし、  
若さゆえに下腹部が熱を持つと、自然とロアンは乙姫を、乙姫はロアンを夢中で吸った。  
「乙姫さん、あの、俺も、初めてだから……」  
「まあ、ではやはり……いけません、わたくしったらアーニャに……でも」  
 躊躇う素振りを乙姫が見せたが、ロアンが優しく自制心を奪った。そのまま手近な机の  
上へと乙姫を寝かせる。彼女の肉体で構成されていた服が、まるでその身に染込むように  
溶けて消えた。  
 目の前に今、一糸纏わぬアーニャの肉体があった。やや小さいが、すらりとしなやかに  
長い足も、豊かな肉感の太股や尻も……くびれた腰も、たわわな胸の双丘も。いつも想像  
していた全てが、今目の前にあった。  
「ロアンさん……お願い、します。わたくしを、旅に奪い去って……わたくしの想いを」  
 華奢な裸体を気遣いながら、ロアンは身を僅かに預けて再び唇を重ねる。先ほどよりも  
強く吸い合い、そのまま頬から首筋、胸の谷間へと舌を這わせる。初めてなのでロアンは、  
夢中でただただ乙姫を貪った。両の手は既に豊満な胸を揉みしだいており、時折乙姫から  
切なげな吐息と共に短い声が漏れる。  
 二人は息を荒げて身を重ね、夕焼けの最後の残滓を浴びながら行為に耽っていた。  
「ロアンさん、ここ……アーニャも、たぶん、こうですから……見て、ください。それと」  
 ロアンの下で乙姫が、しどけなく股を大きく開いた。薄っすらと濡れて光る茂みの奥に、  
淫らな秘裂があった。思わず食い入るように魅入って、ロアンは生唾を飲み下す。  
「それと、ロアンさんのも、わたくしに見せてください。わたくしだけ、恥ずかしいです」  
 それだけ搾り出すように言い終え、頬を赤らめ乙姫は顔を背けた。同時に、しっとりと  
汗ばんだ肢体を見せ付けてくる。ロアンはズボンのベルトを外した。  
 既に勃起したロアン自身は、包皮を脱ぎ捨てており、露出した先端が露に濡れていた。  
「まあ、これがロアンさんの……わたくし、殿方のは初めてみます。立派ですわ」  
「俺も、女の人のって……そりゃ、母さんは家じゃ無防備ですけど、でも……」  
 互いにうぶで、しかし昂ぶる性欲は旺盛で。ただ身を重ねて、ロアンも乙姫も、視線で  
相手をなでまわしながら、自然と手に手を取って握り合う。それはやがて手を開く形で  
指と指を絡めあい、より一層強い結びつきを望んだ。それを互いに相手へ確かめた。  
 完全に日が沈むのを待って離れた手は、互いの性器を近づけあう。  
「も、もういいんですか? 乙姫さん、あの」  
「ロアンさん、そんなに緊張なさらないで……わたくしも初めてなので。でも、ここ」  
「は、はい。もう、こんなに濡れて……い、いいんですか?」  
「ロアンさんと初めてを交わせるなんて。わたくし、今、しあわ――っ!」  
 淫靡な蜜に濡れたクレパスを、不器用に肉柱の先端で撫でていたロアンは、遂に挿入を  
果たして、そのまま刺し貫いた。激痛に身を仰け反らせながらも、至福の笑みにまどろむ  
乙姫。二人は一つに繋がったまま抱き合い、三度唇を重ねた。  
「い、痛くないですか? 乙姫さん、初めての時って、誰でも痛いって……」  
「この痛みが、嬉しいのです。わたくし、まだ、生きてる……生きていけるのですから」  
「乙姫さん……そうですよ、生きてくださいっ!」  
「はい……ロアンさん、動いて……生を、精をわたくしに……生きる、力を」  
 言われるままにロアンは、破瓜の純血に濡れた男根を引き抜く。冷たさだけはそのまま、  
後は恐らく本物と同じなのだろう。初めて味わう女性の肉路は、優しく締め付け、狂おし  
く圧してくる。思わず射精感が込み上げ、慌てて再度ロアンは腰を押し込んだ。  
「ひうっ! あ、ああ……奥に、感じます。ロアンさんの、昂ぶりを」  
「あ、当って、ます……奥にっ! あ、締まるっ」  
「もっと、もっと荒々しく……ロアンさん、わたくしを犯して……貴方のものにして」  
 例えその姿が、親友を借りた偽りのアーニャであっても。そうまでして想いを遂げたい  
と願った、乙姫がロアンは愛おしかった。そうまでさせたことが切なかった。  
 次第にはばからず、嬌声を上げて乙姫は喘ぎ出す。ロアンも夢中で腰を振り、汗に濡れ  
ながら肉と肉がぶつかる音を聞いた。そしてやがて達し、大量の精を膣内に放つ。  
 それがロアンの旅立ち前の、最後の夜だった。  
 

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