銀髪の剣士が村への道を急いでいた。剣士の名はグレイ。グレイはバン
パイアを倒し、クローディアを残した開拓村へと凱旋する所だった。
クローディアと護衛のグレイはフロンティアへ見物に来ていた。だがそ
れは運が悪い事にバンパイア襲来の知らせが広まるのとすれ違いだった。何
も知らない二人はそのまま開拓村へ向かい、その途中クローディアをグレ
イは見失った。帰ってきたクローディアはバンパイアになっていた。不意
打ちの噛み付きをかわし、柱に縛り付けれたのはグレイの技量があってこ
そ出来た事だった。そしてグレイはクローディア達を束ねるバンパイアの
隠れ家に攻め入り、打ち倒したのであった。
グレイは村に着いた。まだ朝が来るまで間があるが、縛り付けておいた
クローディアが気掛かりだった。グレイは、クローディアを縛っておいた
家の戸を開けた。
クローディアは眠っているように見えた。グレイは起こさないように縄
を解こうとしたが、クローディアの目が開いた。
「クローディア…。すまなかった。」
「グレイ…。わたし…。」
「バンパイアはたしかに退治してきた。もう、安心していい。」
縄を解き終わったグレイが丁寧に手をとり、横にしてやる。
「グレイ…、ちょっと…。」
手を伸ばすクローディアにグレイはいざって近づいた。グレイが半身を
横になったクローディアに近づけた。クローディアが手をグレイの背にか
けた。
「ク、クローディアぁ。」
グレイが微かに戸惑った。そのグレイを力強く引き寄せ、クローディア
が首筋に噛み付いた。ただの歯とは違う鋭い痛みを伴いながらクローディ
アがグレイに噛み付いた。
「うぐっ!」
予想だにしない痛覚にグレイは動転した。すかさず突き放そうとするが
クローディアの腕は完全にグレイを締めていて腕が動かせなかった。
グレイは手も足も出ないままクローディアに血を吸われ始めた。だいぶ
血を吸ったクローディアがグレイの首から口を離すと、語り始めた。
「グレイ…、目覚めたみたいなの…。」
グレイを締める腕は緩んでいない。血を吸われて、グレイは返事をする
気力が無かった。
「わたしは、元は勿論バンパイアなんかじゃなかった。でも、バンパイ
アになって、目覚めたの。言うなれば、バンパイアの素質とでも言うよう
なものが。稀に見るような良質の物だってあなたが倒したバンパイアは評
していたわ。」
吸血が再開された。グレイの息はますます弱い物になっていった。また
吸血を止めて、クローディアが口を開いた。
「グレイ…、わたしのこと、好き?」
グレイは力なく、クローディアにおびえた。おびえるグレイを見ながら
クローディアは続けた。
「そう…、でもわたしはグレイのこと、好き。そして、あなたもわたし
のことが怖くなくなるわ。もうすぐ。」
そう言って再びクローディアはグレイの首筋に噛み付いた。グレイは震
えだした。そして、渾身の断末魔の叫びをあげ、うなだれた。クローディ
アは力を失ったグレイの体を自分が横になっていた所へ寝かせた。しばら
くして、グレイが目を開けた。
「おはよう、グレイ。」
「おはようございます、クローディア様。」
グレイがまずした事は、ひれ伏してクローディアのつま先にキスをした
事だった。片方にして、またもう片方にした。顔をあげ、また床にひれ伏
した。
「グレイ、わたしのこと、好き?」
「全てを捧げる程に、敬愛しております。」
「そう、褒美に、あなたが今一番したい事をする事を許します。無礼講
よ。」
グレイはしばらく硬直していたが、少しづつクローディアの脚に顔を近
づけていった。美しい脚だ。国宝である一等級の名刀の様に、クローディ
アの脚が、月光を受けて輝いていた。輝きを見て、グレイの動きが止まっ
た。汚す事を許されない高貴な輝きだった。
「許す、と言ったはずよ、グレイ。」
弾かれた様にグレイが飛びついた。両手で脚をつかみ、唇をその月光に
映える脚に這わせた。その様を見たクローディアは微笑を浮かべて、両手
をついて座った。全てのためらいを捨て、今までのこらえをグレイはクロ
ーディアの脚に絡み付けていた。荒々しく、恥じらいの欠片も無く、グレ
イは目の前の脚に縋っていた。たっぷり、クローディアはグレイに堪能さ
せた。
「グレイ、わたしの褒美はそこだけだと思ってるの?」
「わたしには、これが最も相応しい褒美かと。」
「そう…、では、褒美は終わりです。」
グレイが後退り、また伏した。
「グレイ、顔をあげなさい。」
グレイの目の前に、全てを脱ぎ捨てたクローディアが前と同じ姿勢で座
っていた。
「あなたが一番好きな褒美では無いようだけれど、わたしからの次の褒
美よ。わたしが好きなら受け取って。」
夢の中ですら見てはいけないと、隅に追いやろうと努めていたクローデ
ィアの裸体。だが今は、目の前に本物があった。
「ただし、脛に口をつけることは許しません。」
グレイが顔を前にして、クローディアの太ももに近づき、それにほお擦
りした。
「あなた、本当に脚が好きなのね。」
音を立ててグレイは両方の太ももをなめて、吸った。クローディアの顔
がほころんだ。次第に、吐息に熱がこもり出した。
「グレイ、あなたが喜んでるみたいで、わたしも、う、れし、い…。」
グレイは尚もふとももを貪った。クローディアの息遣いが荒くなり、腰
が動き出し、耐えられなくなって指が股間に向かった。
「わたしの愛しい筆頭下僕!!もっと求めなさい!!もっと縋りつきな
さい!!もっと頼りなさい!!もっと、わたしに、わたしに!!」
叫びながらクローディアは自分の指を荒れ狂うように踊らせた。腰が荒
馬の如く跳ね、いつの間にかグレイが濡れた指をしゃぶっていた。ぬめり
を吸い尽くして、ぬめりの源を吸い始めた。啜りに啜った。
雄たけびを上げ、クローディアは床に背を預けた。
「それでですね、勇ましく出て行った勇者さんが帰ってきたんですけれ
ども、何故か村を出た時にはお連れの方と一緒にバンパイアになってたん
ですよ。どう見てもボスをやっつけて帰ってきたように見えたんですよ本
当に。でもその後に、村で勇者さんは吸血鬼になっちゃったんです。私は
命からがら逃げてきました。見てる間に後ろからバンパイアに忍び寄られ
てたら危ないと気がついて気配が無いうちに逃げ出したんです。」
「こ、怖いよう。」
たまたまグレイの出発に立ち会い帰還も目撃した行商人の話をアイシャ
達は聞いていた。
「アイシャちゃん今夜はお姉ちゃんが一緒に寝てあげるから大丈夫大丈
夫。」
バーバラが後ろからアイシャによしよししてやっている。と、外が暗く
なってきた。ウエストエンドの空は急激に濃い雲に覆われ、日光が遮られ
ていっている。
「なんで!バーバラお姉ちゃん何これ!?おかしいよ!!」
「灯りを点けましょう!!何も見えなくなる前に!!」
「よし、いや、灯りつけたら窓のカーテンすぐ閉めて!!それと、商人
さん、あなたにも戦ってもらうよ。腕に自信ある?」
ウエストエンド入り口の前に黒衣の集団がいた。レインコールの術を応
用した雲の制御をしていたその集団は十分に日光が遮られた事を確認する
と一斉に黒衣を脱ぎ捨て顔を露にした。その中にグレイもいた。
箱を載せた輿にグレイが駆け寄り、中に何かを呼びかけた。輿が下ろさ
れ、厳重に光を遮っていた箱の一端が開き、主が姿を現した。
「ご苦労、グレイ。」
クローディアだった。傍に跪くグレイの頭に手をやり、つぶやいた。
「ここの者達はどんな味がするでしょうね。もっとも、あなたの血より
も美味な者などもういないでしょうけど。今考えると、もったいなかった
かしら。」
「…。」
「グレイ、私達がバンパイアになる前も、わたしのこと、好きだった?」
「勿論。」
「とにかく、行きましょう。」
(終)