ロックブーケはアマゾネスの事を考えていた。
(素直に従ってくれればもっと楽になるのに。)
だが彼女達は断固として抵抗を続けている。どんな懐柔も通用しそうにな
い。もう支配できないと割り切って考える方がいいかもしれない。
(でもやっぱり、もしも言う事聞いてくれたら楽なのに。)
ロックブーケはなかなか諦めれなかった。
(もしもテンプテーションが効いたら済むんだけど…。)
だが女を相手に女のテンプテーションは効かないだろう。そうロックブー
ケは考えた。しかし、女のテンプテーションを女にかけると言う発想が少し気
になった。しばらくして、ロックブーケは思わず叫んだ。
「そうだ!できる!」
(今の自分でダメなら、アマゾネスがテンプテーションにかかるように自分
を変えればいいんだ。)
ロックブーケは色々と考え始めた。
(あの娘達が惚れ惚れしちゃうような人ってどんな感じなんだろう。勇まし
いから守ってあげたくなるようなかわいいかわいい子かな。いや、それは男達
を奪った憎くてたまらないわたしそのものだから嫌いかも。あまり男を夢中に
させないような感じの方が好きだよねきっと。で、女の子に好かれる。難しい
なあ。)
ロックブーケは更に考え続けた。
(かっこいい女の子がいいだろうなあ。でも、一目見て男じゃなく女の子だ
ってわかるようにしないと。)
ロックブーケは寝ながら夢の中でもアマゾネスを篭絡するためには自分がど
うなればいいか考えていた。
ロックブーケは三日間かけて思いついたことをメモに書き続け、それをまと
めた。
(できた!さて、こんな人になるにはどんなカッコがいいかなあ…。)
ロックブーケは変身した自分を思い浮かべた。変身した自分の姿が現れては
消えていった。そして、最高の案が見つかった。
(これだ!これでいこう!)
ノエル兄貴や他の仲間たちとの辛くて苦しい、そして悲しくて憎さがつのる
旅の途中、ロックブーケは見つけた本に夢中になった。本を読んでいる間だけ
は幸せになれた。それは、巨大で高い塔を、その屋上にあるという楽園目指し
て上り続ける人々の話だった。ロックブーケは、心が歪むような現実をつかの
間忘れようとするように本にのめり込んだ。その物語に出てくるシルクハット
の男はとても憎らしかった。だが同時に、その憎らしいシルクハットの男に
ロックブーケは言いようがない好意を抱いた。紳士で優しくて、かっこよくて
美しく、そして、酷い。そのシルクハットの男をロックブーケは思い出した。
長い時間をかけて、衣装が揃った。ロックブーケは早速着替えた。男と間違
われない為に部分ごとの寸法を工夫したスーツ、金色のカツラ、そして、シル
クハット。これを用意するために何度も生地をダメにした。苦労の甲斐あって
出来上がった物は文句の付け所が無かった。ロックブーケは着替え終わると大
きい鏡の前に立った。
(これが、わたし?)
鏡には、あの本のシルクハットの男を女にしたような姿が映っていた。ロッ
クブーケは二度三度、鏡の前でクルリと回ってみた。
「うわぁ。」
思わず声が出る。見事だった。ときめいた。
(じゃあ、始めようかな。)
ロックブーケは深呼吸してから言った。
「このうえに、アシュラがすんでいます。きをつけて!」
ロックブーケは顔が赤くなった。だが、これで恥ずかしがっていたらアマゾ
ネスを支配できない。また深呼吸して言った。
「すざくにはどんなこうげきもつうじません。にげるのがいちばんです。」
今度は流れるように次の言葉が飛び出した。
「このせかいのボスはようへいをあつめていますよ。ボスにあうにはようへ
いになるのがいちばんです。」
調子が更に上がった。
「もう1ど のぼってこれるかー?」
それを言った時、ロックブーケは我にかえった。
(わたしは、鏡に映ったわたしの虜になっていた!)
気がつけば、ロックブーケの目は潤み、頬は赤くなり、脈が上がっていた。
まるで、惚れた相手の言葉に陶酔するように。
(わたし自身がこんな風になるくらいだから、アマゾネスの人達だってき
っと…。でも、危ない。危な過ぎる。大変な事になりそう。)
そうロックブーケは確かに思った。そう思いながら、知らぬ間に声が出て
いた。
「浮かない顔をして、どうしたんだいロックブーケ?」
(えっ?)
鏡の中の自分は、今は口を手で押さえて驚いている。
(今、私、確かに言った。『浮かない顔をして、どうしたんだいロックブ
ーケ?』って。)
「またお兄さんに叱られたのかい?」
またも、無意識のうちに語りかけていた。
(どう、なっているの…?)
鏡の中の自分は、今は驚いた顔をしている。でも、さっきは別な顔をして
いた様な気がする。その瞬間、ロックブーケが思っていた通りのことが起こ
った。鏡の中のロックブーケが、たちまちいかにも優しそうなる表情をした。
まるで、さっきシルクハットの男を演じていた時のように。ただし、今は努
めて演じようなどとは思っていない。そしてまた口を開いた。
「大丈夫、ボクはいつも君の味方だよ。ロックブーケ。」
また、さっきの様に、ロックブーケは鏡に映った自分の虜になり始めてい
た。だが、今度は抜けられるかわからない。前に比べて、深くて、重い物に
なるのは確実だった。
「ロックブーケ、大変そうだね。ボクが支えてあげるよ。」
ロックブーケが自分自身を抱いた。
「落ち着いたかい?気が済むまで、こうしていてあげるよ。ロックブーケ。」
完全に、ロックブーケは正気を失っていた。
「いいのかい?ふふ、君がそうして欲しいと言うなら喜んでしてあげるよ。」
ロックブーケの腕が、スーツの上から、胸をなぞり始めた。やさしく、愛
でるようになぞっている。体がほてって来た。肩が、ゆっくりとした周期で上
下し始めた。口は大きく開き、熱い呼吸を繰り返している。
「これでいいのかい?そう、ありがとうロックブーケ。もっとやって欲しい
のかい?そんな風にかな…これでどう…。」
ロックブーケは両手で、慈愛をもって胸を愛していた。声にならない声をロ
ックブーケは上げていた。首が反った。スーツを間に挟んで、なお快感は燃え
盛った。
「君が満足してくれているようで、ボクもうれしいよ。君の笑顔の為なら、
ボクは何も怖くない。いや、恐れない。」
不思議な光景だった。女性らしさを強調するよう改造されたと言っても元は
紳士のための物である装いをして、美しい女性が自慰に乱れている。その女性
は乱れながらも、鏡に向かって甘く、優しい言葉を語っている。
「ありがとうロックブーケ。じゃあお言葉に甘えて、させてもらうよ。」
ロックブーケは指を陰部に這わせた。切なげな声を上げてもう片方の手でス
ーツの上から胸をいたわってやる。陰部の指の動きが、やや大きくなった。ロ
ックブーケの乱れが増した。脚が目に見えて震えている。陰部から、音がし始
めた。涙を流した。
「我慢しなくていいよ。かわいい、ボクの、ロックブーケ。」
叫んでロックブーケは崩れ落ちた。それから、陰部に向けられていた指を、
丹念になめた。
アマゾネスを誘惑する計画はなかなか実行に移されない。あの衣装になると、
我を忘れてしまうからだ。しかしロックブーケは、度々着替えては鏡の前に立
つ。それは飽きる為だと彼女は自分自身に言い聞かせている。飽きる気配は一
向に無い
(完)