「あら、ロアーヌ公がわざわざお見えになるなんて」
寝室にやってきた、ミカエルを見てカタリナはくすりと笑う。
「……私が一人の部屋を『たまたま』あてがわれているのって、こういう時の為なのでしょうか?」
「たまたまなどではないと知っているだろうに」
一時さえも無駄には出来ないように、ミカエルは後ろ手に扉を閉めるとカタリナの寝巻きをするりと脱がした。
カタリナがミカエルに抱きすくめられながら、静かに呟く。
「良い、香り」
「香を久方ぶりにたいてみたからな」
カタリナの口端に淫らな笑みが浮かんだ。
「そうですね、香――蛇香の匂いが、いたします」
蛇か――
獲物を見つめる――その視線を受け止め、カタリナは小さく、だが強く呟いた。
「早く、早く、私を高みへと導いて下さいませ」
ミカエルはカタリナを赤子のように軽々と抱き上げ、膝に乗せた。カタリナは見せ付けるように脚を大きく
拡げ、ミカエルを見上げると唇の端をそっと上げた。
赤い舌がカタリナの唇から蛇のようにちろりと刹那、見え隠れした。
それを合図にミカエルの手がカタリナの太ももに伸び、ゆっくりと撫で回す。
目もくらむような快感が、カタリナを襲った。
太ももを触れながら、ミカエルはカタリナの喉元に唇を這わす。
しがみつくカタリナも、貪るミカエルも、まるで獣のような力強さ。
カタリナは目を閉じ、無意識に開いてしまった唇から―― 一筋涎を垂らし、のけぞる。
ミカエルはカタリナの乳首を口の中に含み、柔らかく転がす。カタリナの身体が軽く痙攣し始めるとゆっくり
と指を濡れ始めた秘所に這わせた。
愛撫は獰猛だった。動きは暴力的と言ってもよく、カタリナは自分の中をガリ、とミカエルの爪で引っかかれ、
痛みに思わず腰を引いた。
が、ミカエルは憎憎しいようにカタリナの腰を構わず引き寄せ、今度は強引に臥牀に押し倒して猛りを突き刺す。
両腕を掴まれ身体は臥牀に押し付けられ、カタリナは自由を奪われたまま目の前の美しい顔を見上げた。
「――お前を一時でも側から離したのは、大きな間違いだった」
何も言わないカタリナに、ミカエルは震える声で呟く。カタリナが軽く笑うと、ミカエルは己の主の敵を討つように
唇をカタリナの頬、額、耳、胸元にすべり落とす。
長く激しい口付けの後、ミカエルの唇は再びカタリナの柔らかな唇に戻る。
乱暴な愛撫に身体は悲鳴を上げて良いはずなのに、熱い猛りを腰の中心に据えられて、カタリナは知らず
喘ぎ声を漏らしていた。
と、思いがけない、カタリナの低い声が室を満たす。
「マスカレイドを奪われたとき、私は操を――なのにミカエル様はそんな私を――」
ミカエルは静かに、顔色を変えずに答える。
「それがどうかしたのか?お前は私を求めてる」
「あああああっ」
太い楔を打ち据えられ、カタリナは一言も言えぬまにすすり泣いた。
身体の芯に火が灯されない内に逃げようと、カタリナは身体をのたうつ。が、軽々とミカエルの腕に絡めとられ、
そうしてまた愛撫の嵐に合う。
無垢も、穢れも、選べない――
誰か、罰してくれればいっそ楽なのに!!
己の身体を壊すようなミカエルの猛りを感じながら、純愛と淫蕩との狭間にカタリナは泣いた。
「全て――忘れさせてやろう」
ミカエルが一層激しく突き上げ、カタリナの子宮の奥底に白濁の精を放つ。
カタリナは強烈な光に焼かれ、忌まわしい記憶ごと浄化されていくのを感じた――