「こ、これが聖杯の力? ばっ、馬鹿な……」  
 手から木の器を取り落とす。体が燃えるように熱い。伝説の聖杯を友と探し当て、  
そこに満たした清水を飲み干した瞬間――アポロンは驚愕に震えた。手から零れる  
聖杯が、その名の割りに粗末で質素だったことに驚いているのではない。  
 聖杯伝説の意外な結末に、ただただ言葉を失い倒れ込んだのだった。  
「は、謀ったな、大佐っ! これは、こんな――」  
 もとより眉目秀麗な顔立ちが、より耽美に柔らかな丸みを帯びてゆく。鍛えられた  
長身も今は縮んで、大理石の彫刻のように逞しかった肉体も柔和に、華奢に。  
 アポロンは身を焦がす紅蓮の炎が去ったのを知るや、我が身の異変に気付いた。  
「へっ、だから止めろって言っただろうがよ……やはり飲んだな? アポロン」  
 一人の男が、やれやれと肩を竦めながら溜息を一つ。  
 アポロンは涙目で潤んだ視線で、もう一度「謀ったな、大佐!」と叫んだ。  
 大佐と呼ばれた男は帽子を目深に被り直すと、苦笑を堪えながら腰の鞭に手を  
伸ばす。それが帯を解かれて地へと伸びるや、撓って空気を引き裂いた。  
「まあ、元が元だけになかなかの美人になったじゃねぇか。ええ?」  
 熟練の技が鞭を繰り、アポロンの衣服を一瞬で細切れに変えてゆく。舞い上がる  
タキシードのなれの果てが、一片残らず床に散らばった時……そこに艶かしいまでの  
美貌を湛えた肢体があった。  
 アポロンは今、見るも眩い絶世の美女となっていたのだ。聖杯の力で。  
「さて、講義の時間だ……アポロン。聖杯伝説とはそもそも、何だ?」  
「何を今更っ! ――貴様が異界よりもたらした、秘宝伝説に並ぶ……」  
 優雅に響く自分の声音に、戸惑いながらもアポロンは己の肩を抱く。たわわに  
実った胸の双胸を押し上げつつ、股間を手で覆った。触れる手が、そこに有るべき  
男の象徴を捜すも……そこはもう、茂みの奥に秘裂があるだけだった。  
「まぁ、俺も色んな世界に飛んだけどよ。それはアレだ、ええと、どこだっけ」  
「マルディアス。そこの神々が作った、一種の"裁きの器"なんだよね」  
 美貌を歪めて睨むアポロンの裸体を、大佐は視線で舐めてゆきながら。直ぐ傍らに  
控える兄弟の言葉に、わざとらしく「それだ、それ!」と手を叩いて見せた。  
 猛獣使いの如き鞭捌きの大佐は、見るも逞しい虎を――白虎を従えていた。  
「アポロン、聖杯は死者に残る執着や妄念を浄化し、不死の魔物を土に返す」  
「同時にあれだ、その、まあ……生者に対しては、治癒の力を示すんだがよ」  
 大佐の目付きが鋭くなった。  
「自称"新しき神々"さんにゃあ、聖杯はちっと罰を与えたみてぇだな……ええ?」  
 アポロンはビクリと身を震わした。豊満な尻を床に擦りながら、無言の抗弁と共に  
後ずさる。しかし、素早く回り込んだ白虎の牙が、アポロンの逃げ道を断った。  
「大佐、私は神に……古き神々を超える神になるっ! そうして、お前と一緒に――」  
 縋るような視線をしかし、大佐の眼光が跳ね返す。  
「悪ぃな、アポロン。俺ぁ"前の世界"で手前ぇが何をしたか――するか、知ってんだ」  
「だからこうして、僕達が別世界で使った聖杯をエサに、おびき出させて貰った」  
 前の世界? 知っている? 何を? アポロンは混乱しながらも、言う事を聞かぬ  
我が身で必死に逃げようとする。こんな人間風情に、自分の野望を潰されるものか……  
しかし無情にも、細くしなやかな足に鞭が巻きつき、アポロンは宙へと釣り上げられた。  
 あれほど強力だった魔力も行使できず、ただの人間の女に成り果てたアポロン。  
 彼は――彼女は今、どさりと大佐の両腕の中に落ちた。必死でもがくも、そのまま床へ  
押し倒され、圧し掛かられる。強靭な肉体も今は無く、抗う術も失われていた。  
「さて、と……どうする兄弟? まあ、聞くまでもねぇと思うんだがよ」  
「聖杯は毒をアポロンに飲ませなかった。死では無く、違う罰を……って感じかな」  
 獰猛な獣らしからぬ、知性に溢れた言葉を紡ぎながら。大佐に擦り寄る白虎がグルルと  
喉を鳴らす。その声に頷き、大佐はニヤリと笑って……ベルトのバックルに手を掛けた。  
 アポロンはただ、無力な人間の乙女のように、硬く結んだ唇を噛んだ。  
 
「どうだアポロン……人間の、女の身体は」  
「屈辱だっ! このような惰弱で貧相なっ! この私が愚かしい人間風情に、んふぅ!?」  
 己を嘆き、同時に人間を侮蔑するアポロンの言葉が遮られた。貪るように唇を吸われて  
驚き目を見開き……次の瞬間には、絡み付いてくる舌の妙技にとろけて虚ろな眼差しを  
宙へと彷徨わせる。  
 大佐の舌使いでアポロンは、初めて体感する女の愉悦に満たされていた。  
「おいおい、ちょっと可愛がってやればこれかよ。罰になんねぇだろうが」  
「くっ、何を……や、やめ……大佐ぁ! 貴様っ……ぁ」  
 アポロンの抵抗も虚しく、大佐の舌は首を伝い、見事に実った乳房へと吸い付いた。  
先端の乳首は既に痛い程に勃起しており、桜色の乳頭が上を向いている。それを口で  
丹念になぶられ、アポロンは恥辱に塗れながらも湿った吐息を零した。  
 同時に大佐は、手でもう片方の胸を揉みしだきつつ……下半身へも手を伸ばす。  
「よ、よせっ! やめろ大佐っ、私は男だっ! 貴様という奴は――」  
「いいから黙ってな、今ヒィヒィ言わせて……女にしてやる」  
 決め細やかな肌を滑る手が、淫らな茂みを掻き分けてゆく。必死でアポロンは両手を  
伸べて、逞しい大佐の腕に縋りつくが……既にもう、股間に溢れる蜜は内股を濡らして  
床へと滴っていた。それが大佐の指使いで音を立てるたびに、アポロンは身を捩って  
押し寄せる快楽へと抗う。  
「これが、罰だ。が……まあ、ダチのよしみだ。アポロン、神になるなんて諦めろ」  
 不意に手を止め、大佐が言い放つ。その眼差しはどこか寂しげで優しく。先ほどまでの  
野獣のような眼光が一瞬だけ影を潜める。  
 ――しかし、運命の女神が繰る糸は、物語をあるべき方向へと紡いでゆく。  
「私はっ、それでも私は神となるっ! 新しき神々の一人として、唯一の神へ!」  
「……馬鹿野郎が、どーなるか解ってんのか?」  
「最古の神を思い描いているな? 大佐、私は塔など立てて戯れたりなどはしない!」  
「……」  
「私が正しく治めねば、愚かな民は秘宝を使って……あの聖杯だってそうだ!」  
「……まあ、そうだな。おい、兄弟」  
 大人しくしていた白虎が、その巨体をのっそりと持ち上げて。床に転がっていた聖杯へ  
歩み寄るや、いとも簡単に踏み潰した。異界の奇跡を封じ込めた器が、乾いた音を立てて  
木っ端微塵に砕け散る。  
「これでいいよね。苦労して取ったから、ミリアムやガラハドが見たら怒りそうだけど」  
「もう必要ねぇよ。あっちの世界でも――こっちの世界でも、よ」  
 アポロンは戦慄き震え、自分を陵辱する者達の愚かさに激しく憤った。  
「きっ、貴様はどこまで愚かなのだっ! 聖杯の価値が解らないのかっ!」  
「ああ、解らねぇな。手前ぇが人間の価値を解らねぇのと同じに、よっ!」  
 不意に裂痛が身を貫き、アポロンは罵る言葉を飲み込み……変わりに絶叫を上げた。  
 大佐の赤黒く充血して強張る男根が、容赦なく挿入されたのだ。  
「あ……あが、がっ! き、きさ、ま……」  
 爪がはげるかと思われる程に、アポロンは床を掻き毟った。そうして怒りと屈辱に耐え、  
何より痛みに耐えた。この身体は、処女だった。破瓜の鮮血に塗れた、大佐の熱い怒張が  
何度も何度も挿抜を繰り返してゆく。敏感な部分にカリ首が感じられるほどに引かれるや、  
最奥の子宮口を抉るように強く貫かれる。  
 アポロンは気付けば、悔しさに泣き叫んだ。  
 この時、ガーディアンズの一人と一匹は、女性となったアポロンの女性機能が潰える  
まで、何度も何度も犯した。そうして野望を諦めるよう、厳しくアポロンを懲らしめた。  
 穴という穴を犯され、全身を白濁に汚されたアポロンはしかし……改めて己の野望を  
強く心に念じ――最初の秘宝を手に入れるや、元に戻った姿で一つの世界を掌握した。  
 この屈辱をアポロンは、中央神殿で大佐と再会するまで忘れていた。  
 

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