「・・・イスカン・・・ダール?」
「そうだ。私がイスカンダールだ。」
イスカンダール神殿地下、多くのトラップをくぐり抜けた先にあるイスカンダールの棺が安置された空間。
銀の髪の少女の呼びかけに、突如黒い衣装の男が現れた。彼は自分をイスカンダールだという・・・
「おいお前、あからさまに怪しいぞ・・・」
マイスが少女をかばうように間に割り込む・・・が、少女はその脇をすり抜けて一歩前に出た。
「汝、イスカンダールか・・・?」
男が頷く。
「母、言う。イスカンダールに会せよ」
「君は・・・
聞き慣れない単語が続き、マイスには男の言っている事がほとんど理解できなかった。しかし、少女はそれに対して淀みなく言葉を紡いでいる。
・・・どこか嬉しそうにも見えた。マイスの一度も見た事のない少女の姿だった。自分の立ち入れない、目には見えないが壁のようなものを感じてマイスは焦燥に駆られた。
ふと、少女が言葉を止め・・・一瞬、表情に陰りらしきものが浮かび・・・
次の瞬間、少女は自らの上衣をはだけ、豊かな胸を露にした。
「なッ・・・!?」
マイスは驚きのあまり立ち尽くす事しかできず・・・その間に少女は男・・・イスカンダールに近付き、跪いて黒い衣装の裾に口付けるような仕種をした。
イスカンダールもまた、少女の行動に虚をつかれていたが、少女は顔を上げると口を開いた。
「母、言う・・・イスカンダールが言葉。我、常に聞く」
少女は立ち上がると、半ば倒れ込むようにイスカンダールへとその身を預けた。独り言のように、何度も繰り返した台詞を暗唱するように、淡々と言葉を続ける。
「母、また言う・・・イスカンダールに尽せよ。
母が身、イスカンダールが為に有り・・・我、また同じ」
イスカンダールは少女を抱きとめて、当惑したような表情を浮かべた。同時にどこか醒めた様子で少女の次の行動を見守っているようにも思えた。少女はイスカンダールの身体をまさぐり・・・目的が何であるか、イスカンダールには分かっていたが、そのままにしておいた。
「・・・どうしたものかな?」
イスカンダールは先刻から視界の隅にちらちらと映っているマイスに視線を送った。マイスはそれに全く気付かない様子で、ただ怒りのような、悲しみのような、複雑な表情で少女を凝視している。
『やれやれ』
イスカンダールは軽く溜め息をついて、少女を見下ろした。少女はようやく目的のものを見つけ・・・イスカンダールのそれを取り出して、しばらくためらった後、その先端を口に含んだ。
一瞬、イスカンダールが微妙な表情を見せたが、すぐに平静に戻り、されるがまま、何の抵抗もせずに少女を受け入れた。
少女は必死に奉仕しているようだった。ぎこちなくあるものの、せわしなく舌を動かしている。
しかしそれは全く稚拙というわけではなく、誰かから教わっているような部分があった。
イスカンダールは少女がやりやすいように棺にもたれ掛かるようにして、不器用に体重をかけてくる少女を支えた。 少女の髪を何気なく梳きながら、少女の中にある恐れを感じ・・・どうしたら、彼女を傷つけずに済むか、考え始めていた。
少女の背が震え続けている事にマイスも気付いていた・・・しかし、一歩も動けず、言葉も出て来なかった。
大声を上げて、
頭を抱えて、
やみくもに走って、
ただその場に倒れ込んで、
少女を無理矢理引き剥がして、
イスカンダールとかいう男を殴り飛ばして、
・・・・マイスの頭の中はどす黒い何かが激しく渦巻いていた。同時に空虚な消失感もそこにあり、マイス自身がそれに翻弄され、制御できずにいた。
普段の冷静な彼とは似ても似つかず・・・いや、最初に少女のフォートを見て以来、一度でも冷静になったことがあっただろうか・・・?
やっと見つけた彼女、彼女と共に旅をした日々、今、目の前の情景・・・
『これは、夢なんだろうか・・・一体どこからどこまでが夢・・・?』
マイスは目を背ける事も、耳を塞ぐ事も出来ずにただ立ちつくしていた。
それは悪夢に他ならなかった。
ぴちゃ、ぴちゃ・・・
あまりにも静かな、そして神聖な場所でただ微かな水音だけが響いていた。
慣れてはいないものの、時間をかけて与えられる刺激にイスカンダール自身も反応を示し、少女の唾液に混ざって白く濁った色も見え隠れしている。
少女は一言も発せず、ただ両手でそれを持ち、舐め続けている。
イスカンダールはすう、と目を細めた。
「・・・そろそろ、満足しないか?」
イスカンダールは少女の頭を包み込むように手をかけ、そっと腰を引いた。
少女は不安そうな表情でイスカンダールを見上げた。
しばらく考えていた少女は引き離された事を勘違いして解釈したらしい・・・立ち上がり、足に絡み付いていた衣服を脱ぎ捨てた。生まれたままの姿になった彼女は、棺に腰掛ける形のイスカンダールに跨がろうとし・・・
「待て」
やや強い口調のイスカンダールの声。
少女は怯えたような、不思議そうな目を向けた。
イスカンダールは少女の腰を両手で支え、その動きを止めていた。
「お前は、処女だな」
まっすぐに少女を見据える。
「・・・母、言う・・・イスカンダールに尽せよ」
「お前はどうなんだ」
「我・・・?
「お前は、私に抱かれたいと思っているのか、と聞いている。本心でそう思うのなら、好きなだけ抱いてやる。・・・そうでないなら、もう止めろ」
「・・・我・・は・・・・・・
イスカンダールはふっと笑い、少女の頭を抱え込むようにしてそっと頬を寄せた。
しばらくそのままでいたあと、軽々と少女を持ち上げて、立たせた。
何事もなかったかのように衣服を整える。
少女はその場にぺたりと座り込んでしまった。
「完璧すぎるのも・・・また、難儀なものだな」
誰にも聞かれない声で呟いたイスカンダールは少女の服を拾い上げると少女に羽織らせて、マイスをちらりと見た。
「いい加減、目を覚ましたらどうだ?若造」
その瞬間、弾かれたようにマイスは駆け出し、少女の側に立って・・・しばらく躊躇した後、横にしゃがみ込んで少女の肩を抱いた。
言葉は何もなかったが、ただそうしてずっと側にいてやりたかった。
少女はただ声を押し殺し、かすかに肩を震わせて・・・泣いているように思えた。マイスからは、その涙を確認することはできなかったが・・・
わからない、何もわからない・・・
マイスが顔を上げる。
「イスカンダール?」
もうイスカンダールはどこにもいなかった。
〜Fin〜