ワハハ、ワハハハハハ!
まだ夕暮れ時というには早い時間から、
幾人の男もの声が、広い酒場の中で響き渡る。
彼らの表情には、大きな充実感と、
命を長らえた安心感が混ざって現れていた。
ヴェスティア―――古くから、クヴェルを求める探究者が集まる街。
ここから多くの者達が旅立ち、様々な出会いと別れを生み出してきた。
そして、一人のディガーが近年稀にみるほどの成功を収めた事で、
更に多彩なドラマを内包するようになった街でもある。
今日の馬鹿騒ぎは、そんな“彼”のパーティが、
また一つ、無事に冒険を終わらせた事に端を発するものだった。
―――ワハハ、ワハハハハハ…………!
その喧騒の声は、少し遠くから聞こえてくる。
本来、宴会の主役ともなるべき彼―――ウィリアム・ナイツは、しかし、
酒場からやや離れた丘に腰をおろしていた。
街全体をゆるやかに見渡せるそこに、人影は彼一人。
日ごろからあまり人が訪れず、一人で考え事をする時にちょうどいい、
ウィルが気にいっていた場所の一つだった。
丘の芝生の上に座るウィルの肌を、ふと、乾いた涼しげな風が、ゆっくりと撫でていく。
先ほどまで、酒場で交じって飲んでいた強めの酒。
それによって火照った身体には、自然が生みだす愛撫が、
何ともいえず心地よかった。
「んもう、姿が見えないと思ったら……!」
やや呆れたような言葉が背後からかかる。
振り返ると、一目でそれとわかる、二股のテール状の特徴的な髪のシルエット。
傾いた太陽が投げかける、セピア色の風景の中で、
その髪の持ち主が、腰に手を当てて立っている。
「あはは……よく分かったね、コーディ」
「あなたの立ち寄りそうな場所なんて、もうわかりきってるわよ。
で、戻らないの? パーティのリーダーが、肝心な時に場にいないんじゃ締まらないわよ」
「僕なんかいなくても、みんなで盛り上がってくれるさ。
それにあんなに酒が振る舞われたんじゃ、
お互いに誰が誰だかわからなくなるのも、時間の問題なんじゃないの?」
「そーいう問題?…………まぁ、いっか。もう実際、そんな状態になっちゃてるしね」
風にゆるやかになびくオレンジ色の前髪を押さえると、彼女は苦笑を浮かべた。
「ふぅ」
一つ息を吐くと、コーデリアはウィルの左側に座る。
彼女のつややかな頬は、薄紅色が差している。
普段はキレの良い目つきも、今は心なしか目じりがトロンと緩んでいるように見える。
多量ではないにせよ、こちらも酒の申し出を断り切れなかったらしい。
「こんな時間から、酒樽空けるの早過ぎなんだから……人の事も考えてよ」
「いつもは、コーディも自分のペースで飲んでるじゃないか。今日は違ったのかい?」
コーデリアは軽く首を振り、溜息を交えつつ答える。
「いつもは、ね。ただ、タイラーさん辺りから勧められると、やっぱり……」
見知った仲間内では、強気な性格で知られたコーデリア。
酒の勢いに任せて言い寄る猛者達など、軽々とあしらう彼女も、
顔なじみの、そしてヴィジランツとして先輩にあたるタイラーなどから酒を勧められると、
なかなかに断れないものがあるようだった。
「それにしても、せっかくの英雄の御帰還なんだから、
もう少しみんなと喜んでもいいんじゃない? 『タイクーン・ウィル』様?」
からかうような口調で、コーデリアが話しかける。
その言葉に、今度はウィルの方が困ったような笑みを投げ返した。
「やめてよ、コーディ。そんな二つ名、くすぐったいだけだって」
「ここらじゃ、街行く人が揃って言ってる事じゃないの。今さら、何よ」
そう言うと、コーデリアは肘でウィルのわき腹をつつく。
「でも、それだけの成功を収めてきたのは事実なんだからね。
そんなあなたとパーティを組めてるってだけで、
私もちょっとは名を知られてるぐらいなんだし」
『タイクーン』―――ディガーとして、最上に近い通り名。
数々の遺跡を踏破し、多くのクヴェルを手にしたウィルは、
わずか20代で、その通り名で呼ばれるようになった。
その傍らに立つコーデリアも、その名を名乗るだけで、
ヴィジランツとして一目置かれるほどの存在となっている。
むろん、並の戦士程度なら相手にならないほどの槍さばきを見れば、
うら若き彼女が、ただ名ばかりの存在ではない事が、嫌でもわかるのだが。
今回の探索も、普通のディガーならば、腰を据えてかからなければならないシロモノだった。
それをいとも容易く成功に導けるところが、
ウィルと彼を取り巻く仲間の実力を如実に示している。
「まぁ、今回の冒険も成功だったのは嬉しいよ。
みんなも無事だったし、目的だったクヴェルも手に入った。
だけど、僕が求めているのは……」
「ん…………」
―――“そんな『もの』じゃない”―――
その単語を飲み込んだウィルの心をくみ取り、コーデリアも言葉を切った。
もう10年以上、追い求めているもの。
物? 者? もはやそれすら定かではない、異質な存在・エッグ。
ウィルの数々の冒険は、このエッグの手掛かりを探すものだった。
彼の成功は、それに付随してきた過程にすぎない。
父母の仇であるアレクセイ一家を壊滅させた時、一度は終わったと思われた。
しかし、ウィルの敏感な感覚は、エッグのアニマの存在を消し去れずにいる。
ウィルの一族を縛る戦いは、まだ途切れてはいなかったのだ。
「わかってる、わかってるわよ。私も、忘れてなんかいない」
「コーディ……」
「アイツを追ってから10年……は過ぎてるわよね。
それほどまでに、あなたが探してる事、私も忘れられるものじゃないわ」
そう言うと、コーデリアは芝生に置かれたウィルの左手に、そっと自分の右手を重ねる。
「でも今は……今日だけは、私とあなたが、無事にこの街に帰ってこれた事を喜びたいの。
それがわかってくれれば、十分だから……」
ウィルの顔を覗き込むコーデリアの表情からは、先ほどまでのからかうような笑みが消えていた。
むしろ、そこには切なさを感じさせる翳りさえ見える。
ふと、コーデリアはウィルから目線をそらす。
そうしてから、遠くの山々を見詰めつつ、ポツポツと話し始めた。
「私ね、最近になって感じる事があるんだ。
ウン、昔の私からはちょっと想像もできなかったんだけどね」
「……なに?」
「昔、あなたと出会ったころは、ホント、怖いものなんてなかった。
私に足りないのは経験だけ、だから前を向いて走っていれば、何でもできるって思ってた」
かつての記憶をたどるように、ゆっくりと言葉を繋げるコーデリア。
「でも、今は違う。私、この街に帰って来られなくなる、そんな事になるのが怖いの。
だから……なのかな? 時々ね、戦いなんか放りだしちゃって、
静かに暮らすのもいいかなって、思うようになっちゃったんだ。
けど、ウィルはアイツを追っかけてる。
私が―――怖いけど、戦ってられるのは、ウィルも頑張って戦っているからなんだよ。
私も頑張らなくちゃ、ってね」
そこまで話してから、コーデリアは再びウィルを見つめる。
「今度もエッグとは関係は無かった。だけど、二人で頑張って、頑張って、
そして、無事にここに戻ってこれた。当たり前の事かもしれないけど、それが嬉しい―――」
「わっ……!」
ウィルが少し驚いた声を上げるほどの勢いで、コーデリアはウィルの手を引いた。
ウィルは、自然とコーデリアの身体にもたれかかり、
彼女の豊かな胸に、顔をうずめるような姿勢になる。
ウィルの顔を胸と両手で包みこみながら、コーデリアはウィルに囁く。
「あなたは私が守るから。だからあなたは、安心してエッグを追って。
……ただ、約束して欲しいの。私を置いていかないで、私から離れないで、ね?
そしていつも一緒にここに戻ってこようよ。私たちの始まりの街へ」
「うん、約束する。僕も、コーディ無しでなんて、戦えるわけないじゃないか」
「それが聞けて……良かった。私も離れたくなんか、ない……!」
コーデリアに抱かれながら、上目づかいで見上げるウィル。
その視線が、熱っぽく見降ろすコーデリアの視線とからみつく。
次の瞬間、二人の唇は交わり、激しく舌を吸いあっていた。
そして互いの身体はこの上ないほど密着していく―――。
もう何度目だろうか、二人が身体を重ねるのは。
最初は、戦いの恐怖と興奮を収めるためだけだったのかもしれない。
しかし、今は違う。
一時の衝動などではなく、自分の人生から切り離せない存在として、
互いに認め合い、そして求め合うようになっていた。
既に20代も半ばとなった二人。
互いに幾多の冒険を潜り抜けた中で、自然と引き締まっていった身体の中にも、
コーデリアは、突きだした胸部に、丸みを帯びた軟らかな腰つきと、
女として艶めかしいラインを保っている。
整った顔立ちも含め、大通りを通れば、男の大半は目を凝らして彼女を見つめるだろう。
そこに、ウィルは存分に溺れる事が出来た。
……彼女以外に女を知らないウィルとしては、
それがどれほど男として恵まれているか、他者と比較する機会もないのだが。
「はぁ……ん」
湿っぽい溜息のみが、お互いから漏れる。
激しく吸いあうお互いの口の中で、二つの舌が複雑に絡み合い、
唾液が妖しく混ざり合う。
ウィルが少し口を離しただけで、粘り切った液体はツーと糸を引き、
コーデリアはだらしなく、よだれとして口の端から垂れさせてしまう。
しかし、それを汚いとは思えなかった。むしろ、その呆けた仕草さえ愛おしい。
「あ…………あぁっ」
舌の感触を味わえなくなったコーデリアが、やや物足りない声を漏らした次の瞬間、
ウィルは彼女のあご、のどに舌を這わせつつ、キスの雨を降らせる。
その感覚に、コーデリアは新たな嬌声を挙げる。
「や、あ……あ」
「……このままじゃ、イヤ?」
ウィルの確認に、コーデリアはかぶりを振る。
「ち、が……イイの。もっと、いいの、して……」
上ずった口調に、ウィルは軽くほほ笑むと、片手を彼女の背中にまわし、
もう片方の手をスカートの中から下着の中へと滑り込ませる。
「あっ!」
下半身から与えられ始めた刺激に、一度、コーデリアの身体が跳ね、
それからゆらゆらと揺れ始めた。
その動きは、ウィルの指の動きとシンクロし、まるで彼のマリオネットとなったように見える。
時に彼女のヒダをなぞるように、時に彼女のクリトリスを弾くように、
ウィルも緩急をつけて、快楽の波を立たせていく。
「あはっ、はっ、ふぅん、やっ、すご……いっ」
「……コーデリアの方が凄いよ、こんな濡れて……」
「や、だぁ……そんな、言わないで…………よぅ」
「そんなコーディ、いつもより可愛いって言いたいんだけどね」
「!!! し、知らなっ…………い、ひぃん!」
コーデリアは、恥ずかしさから身をよじろうとするが、
巧みな指使いの前にしては、すぐに蕩けるような快感に飲み込まれてしまう。
ウィルの方も、コーデリアの悦ぶ箇所を知り尽くしているので、それも当然の反応だった。
ウィルによって、いつの間にか、袖なしのベストと、スカートの中の下着は脱がされていた。
しかし、他の服は着たまま繰り返される愛撫に、
コーデリアの身体はいつもとは違う興奮に包まれている。
早く昂ぶっていく感覚を抑えきれない。
「あぁっ、ふぇ…………くふぅ、うぅん」
コーデリアが身悶えながら、そのしなやかな指を、ウィルの股間に添えた。
それが彼女の、いつもの欲しがる時の癖だった。
「あっ、はああぁ……」
「……そろそろ?」
「あ、う、うん。でも、最初は……」
はにかみながらそう言うと、コーデリアは両の手をウィルの胸に添え、
緩やかに押すようにして、ウィルの身体を横たえる。
その下半身にまたがり、コーデリアは腰を下ろした。
赤いスカートが、ふわりとウィルの腰を包み込む姿になる。
「私が、上で、ね……いいでしょ?」
ウィルの答えを待たず、スカートの中で、彼のものを器用に掴むと、
自分の性器に近付けていった。
そして、尖った先端が触れたと思った瞬間、熱い塊が彼女の中をかきわける。
「あふ、んんぅ……」
一つ、大きな息を吐くと、コーデリアはゆっくりと腰を揺らし始めた。
初めは上下に動いていたコーデリアの身体は、
次第に円を描くように変化する。
たわわに実った胸が、服の上からでもわかるぐらいに揺れ、
リズミカルな動きは、コーデリアの艶めかしさを、より一層引き立てる。
そんな彼女の表情は、目はうるみ、口は半開きのまま。
ひたすらに快感を求め続ける中で、
戦場での凛々しさからは考えられないほど、緩みきっていた。
(こんなコーディを見られるのは、僕だけ、なんだろうな)
熱くたぎる下半身を何とか抑えつつ、ウィルは思いを巡らす。
そこには、妙な役得感が生じるのを隠せない。
「いい?」
「いいよぅ……気持ちいいよぅ。ウィルゥ……!」
「ん……」
「! ひいっ!?」
コーデリアのなすがままにされていたウィルも、ようやく腰を連動させ始めた。
下から定期的に突き上げ、コーデリアの中をこすり上げる。
不意なリズムに悲鳴に近い声を挙げたコーデリアも、
すぐに甘いあえぎ声に変え、その変化を存分に味わう。
「やっ、あっ、んくっ……こん、なっ、いい、イイのっ!」
生みだされる快感の前に、次第にコーデリアの声が短く、鋭くなっていく。
それと同時に、腰の動きも前後に激しくなっていった。
その激しさに、今や、二つのテール状の後ろ髪が、踊り狂うように振り乱れている。
互いの股間が密着し合う度、
ウィルのモノが、コーデリアの中と入口のクリトリスを交互に嬲り、彼女の理性を溶かしていく。
「やっ、ダメ、ダメ! あっ、あっ、あっ、あっ、あああぁぁぁ!」
一段と、激しく高く鳴き、背筋をピンと伸ばすと、
コーデリアはゆっくりとウィルの胸の上に崩れ落ちた。
快楽に耐えきれなくなった下半身は、ビクン、ビクンと、軽いけいれんを起こし、震えている。
ハッ、ハッ、ハッ……。
コーデリアは荒い息遣いを繰り返し、遠のきそうな意識を、かろうじて繋ぎとめていた。
「……ふぅ」
ウィルは、一つ息を吐く。
ようやく息が整ってきた様子を見て、コーデリアの身体を自分の上から降ろし、
すぐ横に横たえてやる。
「あ……はぁ……」
頂点に達したコーデリアは、首から顔にかけて、肌を桃色に染めていた。
悦楽を貪ったその柔肌の様子は、ゾクゾクとした色気を漂わせている。
「…………え!? 何?」
行為の後の余韻にひたろうとしていたコーデリアの口から、戸惑いの声が挙がる。
彼女が視線を下げると、スカートがまくられて、自らの股が開かれており、
その間にウィルの身体が覆いかぶさろうとしていた。
「今度はさ、僕の番、かな?」
「あ、ダメッ……今は、イッたばかりだから……ダメェ……!」
抵抗しようとするコーデリア。しかし、甘ったるい痺れが残った身体では力が入らない。
……いや、本当に抵抗しようとしているのか、コーデリア自身もよくわからない。
身体の奥底では、更なる快感を期待する疼きが、残っていたのだから。
疼きを見透かしたように、ウィルは少し意地わるげに聞き返す。
「ホントにダメなのかな?」
「ダメだってば、止め……ダッ…………ああぁぁああ!」
ズクン、とウィルのモノが再び彼女の中に入りきると、甲高い声が口から洩れる。
ウィルはコーデリアの腰を、両手で抱えてから、ゆっくりと彼女の中を味わい始めた。
「うっ、ん、ふうっ、ん」
小刻みに出し入れされる中で、コーデリアは最後の理性を振り絞る。
右手の人差し指を口に含ませる事で、声が漏れないようにし、
女としての淫らな本性を見られまいと耐える。
それは限界を超えた快感を得る事に恐怖した、
本能的な抵抗だったのかもしれない。
しかし、その抵抗もわずかな間に過ぎなかった。
粘りついた唾液と共に、指が口から離れると、
それを合図としたように、コーデリアの腰がくねり始める。
その動きは抵抗ではなく、より強い刺激を求めて、ウィルを迎え入れるものだった。
「んあぁ! く、ううぅぅん! 私、こんな、かき回されて、こんなのってぇ……!」
自ら絞り出す嬌声が、自分の耳をより刺激し、更なる快楽に導いていく。
もう、コーデリアの頭の中に、乱れることへの羞恥心は残っていなかった。
「はひっ、はっ、ウィル、ウィルッ、すご……ぉい。
こんなのぉ、もう、お、おかしくなるっ! 私、おかしくなっちゃうよぉ!」
「コーディ……僕も、いい……」
「もっと、もっとぉ、あぅん! そんな……ダメッ、いいのっ! ふぅん……んん!」
ウィルは上半身を前傾させ、コーデリアと唇を合わせる。
コーデリアもまるでエサに食いつく魚のように、ウィルの口を貪る。
次第に激しくなっていく腰使いの中、重なり合った二人は快楽を与えあう。
くふっ、うぅん……。
はっ、はっ……。
際限無く続くかと思われた交歓も、少しずつ終わりに近づき始めた。
コーディの膣が収縮し始め、ウィルを絞り取ろうとする。
最初の交わりでは達しなかったウィルも、
重ねての刺激に、背筋を撫でられるような独特な感覚に襲われる。
「コーディ……!」
「や、やだぁっ、離れちゃイヤッ!」
コーデリアもウィルも限界に近い事を察し、足首をウィルの腰の後ろでクロスさせる。
足で挟まれるようになったウィルにとっては、コーデリアを突きぬく以外に、満足に動けなくなる。
「コーディ、このままじゃ……」
「イイの、私はイイからっ!」
そして一瞬、下半身に全ての感覚が集中した後に、
ウィルの精は、コーデリアの中に解き放たれていた。
「あっ、あぁぁぁぁぁ………………」
ドクドクと白く粘ついた液体が、コーデリアに注ぎ込まれ、
お互いに目眩がしそうな快感の渦に、身体の全てを委ねていった―――。
身体の昂ぶりが収まってきてもなお、二人は仰向けで芝生の上に身体を投げ出していた。
太陽が完全に山に隠れたころになり、ようやくウィルが言葉を発した。
「コーディ、そろそろ戻ろうか」
「まーだよ」
「いや……最初に呼び来てのはコーディの方だし」
「ダメ」
そう言い張るコーデリアに、ウィルは軽くため息をつく。
「ほら、一緒にココにいるの。さっきは『私から離れない』って約束したじゃない」
「ったく、こういう意味じゃないのはわかってるだろ」
コーデリアは、ウフフ、といたずらっぽく笑い、横向きのまま、改めてウィルに抱きつく。
「わかってる……でも、今はもう少しだけ……。
こうしてるとよくわかるの。ウィルのアニマ、とても温かくて気持ちいいってこと」
そのつぶやきが、ウィルの耳に届いた時、
また一つ、酒場からの喧騒が風に乗って聞こえてきた。
あたりが夕闇に包まれる中、宴の時間はまだ続きそうだった。
コーデリアが、コーデリア・ナイツと名前を変え、
““タイクーン・ウィル””の傍らに寄り添うようになったのは、
この夜から、間もなくの事であった。
彼女の身体の中に、新しいアニマ―――リチャードを宿すまで、
その活躍は幾度もウィルの危機を救っている。
そしてその度に、二人は互いの結びつきをより一層強くしたのだった。
―――了―――