ふいに目の前が真っ暗になった。  
自室でくつろいでいた時とはいえローラのこと、  
背後から歩み寄る気配に気付かなかったわけではない。  
だがその足音は余りにも耳に馴染んでいたので注意をひかなかったのだ。  
 
視界を奪った物の正体は、後ろから目の位置に引き下げられたヘッドバンドだ  
ということは1秒ぐらいたってから理解していた。  
あんたでも悪戯したりするんだね。  
小さくため息を付くと、身動きはせずに問いかける。  
「なんなんだい、アンリ」  
だが答えは与えられず、代わりにふふっと笑う声が耳もとで聞こえた。  
「ちょっと…」  
じゃまなヘッドバンドをはずそうと顔に近付けた腕は掴まれ、  
柔らかい感触に口を塞がれた。暖かい液体が口腔に注ぎ込まれる。  
その口移しのアルコールをむせながら飲みこむと、  
小さな異物も一緒にのどを下りていった。  
「ケホッ…なっ…何してんだい!アンリ!」  
 
座っていた椅子から立ち上がろうとしたが、思ったより強い力で  
肩を押さえられ、そのアンリらしからぬ強引さが  
沸き上がりつつあったローラの怒りを殺いだ。  
 
そこへノックの音がした。  
「王子、私です」ドアの向こうから聞こえる抑えたトーンの声。  
「フランシスか、入ってくれ」  
がちゃりとドアが開き、入ってきたフランシスは訝しげな表情をしていたが  
そこにいた二人を見ると一目で状況を察して立ち止まった。  
「王子!……どうして私を呼ばれたのですか?」  
「鍵をかけてくれ。少し手伝って欲しいんだ」  
 
さっき飲まされたもののせいか、やや朦朧とた意識のローラにも  
今から始まろうとしている事が推測できた。  
「アンリ……あんた、なんでそんな……」  
今まで何度も二人で体を重ねてきたのに。  
どうしてこんなやり方をする気になったのか、にわかには理解しかねた。  
 
「たまにはいいじゃないですか、私がリードをとるのも。いけませんか?」  
わずかに笑いを含んだようなアンリの声の調子が、  
いぜん目隠しされたままのローラの不安感を煽った。  
 
「フランシス、ローラさんの腕を抑えててくれ」  
フランシスは言われるままに、後ろからローラを立たせ、  
自分に持たれかけさせるように腰の辺りで後ろ手を組ませると  
その手首をしっかり掴んだ。  
 
ローラの胴衣のヒモをアンリがゆっくりほどいていく。  
自然と突き出される形になった胸に、その指が時折かすかに当たって刺激する。  
されるがままは性に合わないローラだが、体に力が入らず、  
がっちり押さえられた手をふりほどくこともかなわない。  
羞恥と怒りで顔が熱い。  
「ア、アンリ……バカなことはやめるんだ……  
フランシスもだよ、あんたこんなことしてただで済むと思ってんのかい?」  
だがその声にいつもの迫力はない。  
 
ヒモは完全にとかれ、パサリとスカートごと地に落ちた。  
フランシスは静かに息を殺し、アンリの次の命令を待っている。  
 
 

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