「おや、これはこれは。お久し振りです。カタリナ様」  
「元気そうね、トーマス」  
 
世界が一度終わり、再び始まったあの日から数ヶ月後。  
「なかなか素敵な造りじゃない。貴方らしくて良いわ」  
「有難う御座います」  
「でも世界の経済をおさめる力を持った会社を捨てて  
 こんな所にお店を開くなんて。変な人ね」  
カタリナがそう言うと、トーマスは目を閉じて静かに微笑む。  
トーマスはあの日の後、経営していた会社を信頼できる人物に任せ  
シノンに新たに自分の店を開いたのだった。  
 
「でもここは何のお店なのかしら。酒場にしては落ちつきがあるというか…  
 何か品の良さがあるわね」  
「カタリナ様ならお分かりになるのでは?」  
「私?」  
「ええ。カタリナ様はもちろん、モニカ様やミカエル様もご存知のはずですよ」  
「あ」  
トーマスは何かを思い出したように  
 
「ユリアンのやつは…馴染んだかな」  
と言うとクックッと笑う。そんな様子をカタリナは訝しげに見つつ  
 
「全然わからないわ」  
と言うとふぅ、と何となく溜め息をついた。  
 
「あちらに見える物に見覚えは?」  
「?」  
「あ…」  
それは宮中での生活では当たり前になっていたものだった。  
 
「ここ…お茶を出すお店…?」  
「はい。その通りです」  
 
「なるほど…面白いこと考えるのね。トーマス」  
 
確かに自分達のような貴族階級は、何かの休憩時間や定時になると  
茶を嗜む習慣があるが、それはあくまで自分達が殆どで  
一般階級の人々達にとっては馴染みは薄いものであった。  
 
「ええ、私は世界を見て回って、陽気に振舞ってその日に貯まった  
 ものを発散する場所はあれど、ゆっくりと静かに一時を過ごせる場所が  
 少ないということを知りました。  
 ならば自分の手で造ってみるか、そう思ったのです」  
「で、私達の生活の一部を持ってきたのね」  
「ええ」  
トーマスはにっこりと笑う。  
 
「でも何故シノンに?ピドナとかツヴァイクの方が  
 お客は入ると思うけど?」  
「それはもう、自分の故郷の人達にお茶を味わって貰いたいからですよ」  
その言葉を聞くと思わずカタリナは心の中で首をかしげる。  
変な人。優雅な時を多くの人に知ってもらいたいって言っているのに  
こんな田舎にお店を開いてどうするのかしら。  
 
何か、変なの。  
 
「…まあ普通はやりませんよね」  
「え?」  
「普通はこんな田舎にお店を開いても人は来ませんよね  
 ってことです」  
 
カタリナは一瞬ドキリ、とする。  
でも確かに頭の良いトーマスのこと、そんなのはわかっていて当然か…  
じゃあ  
「なんで、シノンに?」  
カタリナはあえて聞く。  
 
「何となく、ですよ」  
「そう何となく…」  
どことなくトーマスは寂しげに言う。  
 
「…え…と、お店開くの何時なのかしら」  
何かちょっと気まずくなったのか、カタリナは話題をそらす。  
 
「ええ、実は明日からなのですよ」  
「あら」  
「そうだ」  
トーマスは茶器を取り出し  
 
「この店は果たして本当に自分の求めている『時間』を  
 お客様に提供できるのか、試して頂けないでしょうか?」  
「自信ないのかしら?」  
「いえ、もちろんあります。いわゆる最終チェック、と言うやつです」  
「光栄だこと」  
「味と種類の豊富さは保証できますよ。何たって…  
 
「何たって世界のほぼ全ての良品を集めましたから。  
 きっとご満足頂けるかと」  
「シノンに世界が集まる?ふふ、本当、面白いわね」  
「どれに致しましょう」  
「うーん、お任せするわ」  
「かしこまりました」  
 
ポットの茶葉を入れ、お湯を注ぎ茶がほどよく出るまでの時間。  
カタリナはふと懐かしい気分に浸っていた。  
ああ、この感覚。久しく忘れていたわ…  
 
「さあ、どうぞ」  
「ありがとう」  
「いただきます」  
 
   あ  
 
この香り…  
 
「…?どうしました?」  
カタリナがカップに口を近付け、正に飲もうとした瞬間。  
彼女はそのまま固まってしまった。  
 
   そう…これは…  
 
「!? カタリナ様!?どうされました!?」  
カップを置き、突然涙を流しだしたカタリナ。  
動揺するトーマス。  
 
カタリナはそのまま机に顔をうずめ、静かに嗚咽を漏らし続けた。  
トーマスはただ困惑するだけであった。  
 
 
「昼間は…ごめんなさいね…」  
「…」  
 
あの後、ただひたすらに泣き続けるカタリナを  
トーマスはずっとなだめ続けていた。  
そして少し落ちついてきた頃にカタリナはぽつりぽつりと語りはじめた。  
マスカレイド探索の旅に出た自分。  
それは貴族としてではなく、一個人であった。  
いや、最初は使命感もあったと思う。  
しかし旅をしていく途中、様々な出会いが自分を変えていった。  
色々な人の人生に触れていく中、自分はそんな人達に比べ  
小さい存在なのだろう、と思うようになった。  
自分はなんて世界が狭かった人間なのだろう、と思うようになった。  
そして名誉や使命などの体裁を保つ事よりも  
本当に誇らしい自分になりたいと思うようになった。  
 
マスカレイドを取り戻し、さらには世界までも救い、自分の旅は終焉を迎えた。  
 
ロアーヌに戻り、以前の生活に戻った。  
そして…ミカエル様が…自分と一緒になって欲しい、と告げた。  
しかし…私は、それを断ってしまった。  
あんなに昔から想い、慕っていたのに。  
今回の旅だってあの方の想いが引き起こしたものだったのに。  
本当に、本当に好きだったのに。  
なぜ、断ったのだろう。  
それは、きっとあの旅を経て、自分は生まれ変わったから…  
もう、以前の自分には戻れない、それを知ってしまったから…  
 
今日、トーマスが出してくれたお茶は  
昔、王宮での生活でお気に入りだったお茶。  
ミカエル様やモニカ様と楽しい時間を過ごした記憶があるモノ。  
そういえば、ミカエル様もお気に召していたっけ。  
「カタリナ、お前とは何かと好みが合うのだな」  
そう言われた時の自分を思い出してしまった。  
 
「バカ…バカよね。今更後悔するなんて。今更気がつくなんて。  
 ちょっと世界を見たくらいでいい気になって、自立したい、だなんて。  
 バカバカしいわ。本当に。何よ。本当はまだ好きなんじゃない」  
「自分の本当の気持ちに気がつかない、誤魔化している、逃げている。  
 そんなので、どうやって私になれるって言うのかしらね」  
「本当、バカ…バカよね…」  
 
昼間、泣いてしまったワケを話した後、カタリナは少し  
静かな所で1人になりたいと言い出し、トーマスは自分の部屋を貸した。  
そして夜になりトーマスは様子を見に来た。  
 
「昼間はごめんなさいね」  
「…」  
「うん、でも何だかスッキリしたわ。  
 私なんかの愚痴に付き合ってくれてありがとう。トーマス」  
「…」  
「さ、明日からまた旅を続けることにするわ。  
 今日はエレンとサラの家に行くことにしているの。  
 もしも来る機会があれば、是非って」  
「それじゃ、おやすみ。トーマス」  
 
椅子から立ちあがり、部屋のドアに近付き出ようとしたその時。  
 
すっ  
 
「え?トー…マス?」  
「…このままで、このまま…」  
 
後ろから抱きしめられ戸惑うカタリナ。  
 
「ちょ…ちょっと、トーマス?」  
「…」  
 
動揺しつつも心の何処かが高鳴っているのがわかる。  
そして、トーマスは口を開きはじめた。  
 
「僕は…僕は卑怯だ」  
「…?」  
 
僕には勇気がなかった 怖かった きっと駄目だろう  
そう思いこんでいた いや、そう計算していた 心の底では  
だから何も言わなかった そう、駄目だとわかりきっているから  
貴方とあの方の間に入りこめるはずもない もう諦めていた  
でも、今はこの目の前にいる人の現状と気持ちを知ってしまった  
もう、自分を止めるモノは何もないのでは?  
勝手な思いこみかもしれない いやそうであろう  
 
だけど  
 
感情が止まらない 思わず抱きしめる力が強くなる  
こんな、こんな状況でしか言えないなんて 本当に最低だ  
だけど、どうやっても引き返せない  
 
「ずっと…お会いしてから、いや一目見た時から…ずっと好きでした」  
「本当に…貴方の事が…好きです」  
 
この瞬間  
その想いだけが、僕の心の中をグルグルと渦巻いている気がした。  
 
「………!!!」  
 
私は、涙を流した ごくごく自然に流れた  
これだ これだった 本当に欲しかったのは 求めていたのは  
子供っぽい、と言われるかもしれない  
でも私は他に一切を語らない素直なこの一言を  
 
あの方に言って欲しかった  
 
「トーマス…」  
「…」  
 
カタリナが自分の名を呟くと、抱きしめた手を解く。  
そして、涙を流した自分の想い人の顔を見た。  
泣いている。自分と同じように感情が止まらない表情。  
そしてやはり自分は2人の間には入りこめなかったことを悟った。  
 
「トーマス…」  
「もし…宜しければ…この一晩だけでいい。夢を…叶えさせて欲しい」  
 
んぐっ  
 
カタリナは何も言わずにトーマスの唇に自分の唇を重ねた。  
しかし、心では確かに言った。  
 
ありがとう   
そして   
 
ごめんなさい  
 
んんっ……ハァハァ…んぐ…  
 
長い口付け。夜が明けてしまうのではないか。  
そんな心配すらしてしまう程長く感じる。  
二人はそのまま寝具に倒れこむ。  
口付けをしたまま、お互いに服を脱ぎ、脱がし合う。  
両者とも裸になった頃、トーマスは自分の指をカタリナの下腹部に這わせ始めた。  
 
んっ…はぁっ!んんっ!あっ!  
 
クチュクチュといやらしい音を立てる。  
自分はその音でさらに興奮しているのがわかる。  
 
いいわ…貴方のを……  
 
そう彼女が言うと、自分のモノを彼女の秘所にあてがう。  
そしてゆっくりと腰を動かしはじめた。  
 
あぁっ!ん!!あぁん!あっ!あっ!  
はぁっ!はぁん!あぁ…  
 
下半身から来る快楽に顔は歪み、矯正も遠慮なく漏れる。  
手は快感に耐えるかのようにシーツをしっかり握ってしまう。  
しかし腰はさらなる快楽を求めようと、彼の動きに合わせようとする。  
彼は私を動かし、後ろを向かせた。手はしっかりと腰に合わさっている。  
再び腰を動かし始めた。  
 
あっ あぅ!んぁっ!んんん!ああ!  
はっ…はぁっ!  
 
部屋に肉同士が打ち付け合う音がこだまする。  
本当に自分はこの人の事が…  
そう考えると腰の動きがより一層激しくなる。  
彼女もそれに応えるように合わせてくる。  
 
んっ! トーマス… 私…もう!  
あっ!ああああああああああ!  
 
 
自分が絶頂を迎えると同時に、彼もまた快楽の頂点に達した。  
 
 
 
エピローグ  
 
「では、いってらっしゃいませ」  
「また、何時の日か」  
 
 
カタリナは爽やかだが、ほんの少し寂しい表情で帰路に向かう。  
私はもう迷うまい。悩むまい。そう考えている。  
自分の真実がようやく見出せたのだから。  
自分が本当になりたかった姿を見つけられたのだから。  
それを気がつかせてくれたあの人に感謝を込めて。  
 
トーマスは穏やかな表情で茶器を見つめ磨いている。  
もう僕は二度と自分に嘘はつかないだろう。そう心に決めた。  
自分のちっぽけな勇気を受け入れてくれたあの人に誓って。  
 

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