【月に柘榴色】
鋭く伸びた牙がカタリナの首筋をなぞった。
「……ぁ」
ひくり、と背を震わせカタリナは鏡の中の自分と、後ろに立つ男を見つめた。
いや、男ではない。
(千年の時を生きてきた――吸血鬼)
知っている事実を、冷静に思い浮かべるだけの余裕は、まだ残っていた。
鏡を通じて、カタリナとそれは見つめあっている。
鏡の中のそれ――吸血鬼――レオニードは目元を緩ませ、微笑った。
「怖いですか……? カタリナ嬢」
それには答えず、ただ瞼を伏せただけのカタリナのうなじを、冷たい牙がからかって滑る。
「ご安心なさいませ。私はあなたの血を吸おうなどとは考えていませんから」
「ど、どうして……こ、こんな……こと、を……」
「このような場所まで来てくださった貴女を楽しませたいだけですよ」
レオニードの妖力を帯びた蔓薔薇に、カタリナの両腕は背中でひとつにまとめられていた。
その蔓が腕を地に引っ張る力に、胸を突き出すようにして、背を反らせる姿勢を強いられている。
レオニードの長い爪がカタリナの胸元を裂いた。
「やっ……!」
鏡の中に白い豊かな膨らみが晒けだされ、カタリナは身をよじって鏡から顔を背けた。
「思ったとおり美しい身体だ……」
低く笑ったレオニードの息が鎖骨をくすぐり、その感触に肌が粟立つ。
女だてらに大剣をもっとも得意とするカタリナの身体は、
雌豹のように鍛えられていたが、それでいてロアーヌの貴族子女らしいたおやかさも備えていた。
レオニードは鏡の中のカタリナの肢体を隅々まで鑑賞し、
そむけたままの顔にそっと手をあてがった。
「カタリナ嬢、目をあけてごらんなさい」
体温をまったく感じない掌が火照った頬を撫でる。
冷たい指先はすっと顎先から首筋をとおり、
左胸の膨らみを頂点まで登ると、その薔薇色の頂をつまみあげた。
「あっ……っ!」
「ずいぶんとかたくなっていますよ……つんと尖って……まるで《魔女の瞳》のようだ」
レオニードの指先はこりこりとカタリナの乳首を引っ張り転がした。
「いやぁ……んっ」
「感じやすいのですね、貴女は。では……両方、可愛がってあげましょう」
カタリナの両方の乳首を同時にレオニードは弄びはじめた。
指先の間で押しつぶすように転がしたり、指の腹で擦りあげ、
鋭い爪の先で小さな痛みを与えたりと、強弱をつけて敏感な先端だけをなぶる。
「あ……あん……ゃ……っ」
汗を浮きあがらせた背中にレオニードの宵のローブが擦れ、
全体に広がるくすぐったさにカタリナはさらに胸を反らす。
だが、それを見計らってレオニードがさらに乳頭を前に引っ張った。
「あううっ……っ」
ふふ、とレオニードがカタリナの耳に息を吹きかけながら、笑った。
長い舌を伸ばして、ねっとりと小振りな耳朶をねぶり、甘くそれを噛む。
両胸の頂への愛撫を止めることなく、レオニードはカタリナに囁いた。
「貴女はこうしたくて、ここに来た……そうでしょう?」
「ち、違う……わ……ぁ……ああっ!」
強く乳首を抓られた途端、カタリナは背後のレオニードに後頭部を押しつけて身体をのけぞらした。
「おや、少々痛いのもお好きなようですね……」
言葉では答えられず、ただ首を振って否定するカタリナに、レオニードは苦笑した。
「今は認めなくてもかまいませんよ……でも、きっと認めることになると思いますが」
(違う……私はこんなことをするためにここに来たわけではないわ……)
カタリナは緩やかに張りつめてきた快感から逃げるように、
ただ首を振り、きつく唇を噛んで、数刻前のことを思い返していた。