「待って!」
ガレサステップの村に、鋭い声が響く。
振り返ったナイトハルトの頬を、アイシャの平手が高らかに打った。
「騙したのね。はじめから、はじめからそのつもりであたしのこと助けたのね!」
怒りに燃えた緑玉の瞳がナイトハルトを射る。
魔物に襲われたアイシャを助けて村に送り届けた彼は、族長ニザムに目通るや
自国の保護下に入るよう迫った。従わねば村ごと滅ぼされる、どのみち取る道は
ひとつしかない。『黒い悪魔』と称されるリーザリアの日嗣の王子は、敵に
回ったものを容赦無く叩き潰すことで有名だった。
「騙したつもりはないがな。人を悪魔呼ばわりしているくせに、ずいぶんと認識の甘いことだ」
言葉を詰まらせたアイシャを尻目に、ナイトハルトは言葉を続ける。
「まして選択権を与えてやったのだから、感謝されこそすれ怨まれるいわれはない」
表情ひとつ変えずにそう言い放った彼に、アイシャは身が震えるほどに憤った。
一瞬でも目の前の男を信じた自分に嫌悪さえ覚える。
「悪魔……!」
再度振り上げられたアイシャの腕をつかんで見下ろし、ナイトハルトは体を引き寄せて
低く告げた。
「悪魔と罵られたからには、それだけのことはさせてもらおうか」
ふわ、とアイシャの体が宙に浮かぶ。軽々と抱え上げられた彼女は、甘い芳香とともに
意識を失った。
聞きなれぬ音。浮かぶような沈むような不思議な感覚。うっすらと目を開けたアイシャは、
しばし呆然と目の前の薄もやを眺めていた。見たこともないほどの量の湯が自らを浸し、
体の中心がほわほわと温かい。
「お目覚めでございますか」
「ひゃっ」
突然声をかけられて、アイシャは思わず小さく飛び跳ねた。白い布を肌に貼りつかせた
金髪の女官が、甕を持って近づいてくる。
「や、見ないで!」
自分が何も身につけていないことに今更ながら気付き、両腕で肩を抱く。しかし女官は
手馴れた様子でそれをはずし、アイシャを湯からあがらせた。
「失礼いたします」
「な、何……ひぁっ」
足先から、クリームのような泡が塗りつけられる。顔を真っ赤にしてうろたえるアイシャに、
女官はくすりと笑って手をなめらかにすべらせた。
「可愛らしい方」
「ちょ、ちょっと、いやあ! 何これっ」
身をよじらせたアイシャは、いつのまにか数の増えた女官に押さえ込まれた。
体中を撫で回す手が幾方向からも伸び、彼女の肌は泡にまみれていく。
「やだやだ、くすぐった……っふぁあ…ん」
女官たちはどこか楽しそうにアイシャを清め磨き上げ、そのたび彼女は切なげな声を
浴室に響かせた。
やがて身を整えられたアイシャは、ナイトハルトの私室で彼と対峙していた。
「見違えて……はいないな。湯は気に召さなかったか?」
女官が別の服を着せようとするのを頑なに拒んだため、アイシャは元と変わらぬ格好を
していた。髪の結い方も変わっていない。
「全然! お水をあんなことに使うなんて馬鹿げてるわ」
「確かに。砂漠で暮らしていればそう思うだろうな」
「馬鹿にしてるの?」
不満そうに見上げてくる瞳。そのまっすぐな視線は、ナイトハルトの中に眠った何かを
呼び起こし刺激した。
「いや。ただ……知りたいだけだ」
突然腰を抱かれて、アイシャは息を呑む。突き飛ばそうとした手は、いとも簡単に
ひねり上げられた。
拒絶の言葉を叫ぶアイシャを気に留める様子もなく、ナイトハルトはつかんだ腕に力を込める。
半ば引きずるようにして寝所へ連れ込み、そのままベッドの上へ組み敷いた。
「遊牧民の娘風情、寝室で抱かれるだけありがたいと思え」
「―――っ!」
両腕を押さえこんだまま、ナイトハルトは彼女の首筋へと顔を寄せた。
暴れてわめきちらすアイシャのタラール語は、その早口もあって完全に理解するには至らない。
ただひとつ、はっきりと聞こえる単語は『黒い悪魔』――カヤキス。耳障りなその言葉を
つむぐ唇を、顎を押さえて強引にふさぐ。噛みつこうとする唇を割り、ゆっくりと舌を
からめとった。
アイシャは逃れようと必死に頭を振るが、顎に回ったナイトハルトの手がそれを許さない。
上顎や舌の付け根を丹念にたどってくすぐる舌先に、アイシャの腕は力を失っていく。
「…んぅ……っふ…ぁ」
口の端からもれる水音と吐息が艶めかしい音をたてる。やがてアイシャが苦しげに首を
仰け反らせると、舌を首元へすべらせてうなじへ指をからませた。ようやく唇を解放されて、
彼女は大きく息をつく。憎しみに歪んだ瞳が、涙に濡れていた。
「……っや、…めて…っ……」
それでも多少は落ちついたのか、アイシャは標準語で哀願の言葉を吐いた。
出会ったときには気にも留めなかった疑問が、ナイトハルトの胸に浮かぶ。
「誰に習った?」
突然の問いに、アイシャは訝しげな瞳を向けた。愛撫の手をゆるめることなく、
ナイトハルトは言葉を続ける。
「標準語だ。誰に習った」
「ぁ…っ……わからな…、別に……村の人は皆、知って…っ…」
他部族との交わりを嫌いながら、意思疎通の手段を持つのはなぜか。交流を持つつもりが
なければ、共通言語など不要なはずだ。タラール族は単なる遊牧民の部族ではない。
彼らの存在は、世界にちりばめられた秘密を解く鍵のひとつ。その確信のもと、
ナイトハルトは彼らを掌握しようと目論んだ。そして目の前の少女は、その探求心を
受け止めるだけの価値がある。
「族長の孫、か」
呟きを漏らしながら髪飾りを抜きとり、複雑に編まれた髪を梳く。鮮やかな橙色が、
太陽のごとくシーツの上に散った。タラール族の衣装は装飾が多い。幾重にも巻かれた帯を
ほどき、袷をはだけさせると、色とりどりの飾り石がばらばらと散った。
「お前たちは何者だ?」
「何……言って、っん、や……離して…っ…」
露わになる体の線は未成熟な少女のものでありながら、腰はほっそりとくびれて色香さえ
漂わせる。そこへ手を当てると、アイシャはくすぐったそうに肩をびくつかせた。
陽の光すら嫌いそうな、抜けるような雪白の肌。自ら輝くものは、何かに照らされる
必要などない。そう物語っているようにも見えた。
「姿かたちは何も変わらぬくせに。ここも……ここも」
わずかなふくらみと、小指の先ほどの桜色の突起。やわらかな肌を撫でさすり、感触を
確かめるように乳頭をニ、三度押し込んだ。
「やぁ、やだぁっ……、ふぁあ」
「やたらと敏感ではあるようだがな」
涙声で反応するアイシャを満足そうに見下ろし、ぷっくりと隆起したそれを口に含んで転がす。
アイシャはぞくっ、と体を震わせ、喉奥から細い悲鳴のような声をあげた。快楽から
抜け出そうと上半身をくねらせるアイシャを押さえつけ、時折ちゅっ、と音をたてて
吸い上げると、そこから伝わる鼓動が速さを増した。
頬は薄桃色に染まり、乱れた呼気が甘みを帯びて零れ出す。切なげに歪む眉にそそられて、
ナイトハルトは思わず彼女の秘所へ手をすべらせた。
「あっ……んんぅ」
アイシャの脚が跳ねあがり、背が弓なりに仰け反る。固い蕾の中心を押さえつけた指に、
つ、と蜜がからみついた。
「こんなところも、何ひとつ変わらぬ」
「…っん、や…ぁ……何で…こんな、何で……っ!」
繊細に蠢く指はアイシャの襞をやわらかにたどっていく。ちゅくちゅくと淫音が漏れ、
アイシャは羞恥に顔を背けた。
「かつてお前と同じ名の娘を愛した男がいた」
「…っ、……?」
不意につむがれた言葉に、溺れかけたアイシャの意識が引き戻される。
「一国の王でありながら他部族の娘にうつつを抜かし、やがてその娘との間に子を成した」
ナイトハルトは瞳を伏せ、もう片方のアイシャの胸元へ回した。絞り上げるように
左の乳房を握り、指をめりこませて強く揉みしだく。同時になだらかな恥丘をなぞっていた
指が、ゆっくりと秘肉を押し広げた。
「だがその子は娘ともども葬り去られた。男は失意のうち国を出奔し、その後のことは
誰も知らぬ。今は妙な悲恋物語に仕立て上げられて広まっているがな。
お前は自分の存在の意味を考えたことがあるか?」
「っ…ぁ、知ら…ない……知らない…っ…」
アイシャは声を震わせ、ゆるゆると頭を振る。微熱を帯びた体は与えられる刺激に
陶然となり、思考などできる状態ではない。
そんな様子にはかまわずに、ナイトハルトはとろとろと溢れる淫液を秘唇にからませていく。
敏感な箇所を探っていた指が、朱珠へと到達し上部に触れた。
「んっ…んぁあ……っ!」
寒気にも似た感覚が、腰から背筋へと抜ける。ふるえあがる体とともに、アイシャの
意識は浮遊感に呑まれた。
突起はみるみるうちに熱の色に染まる。それを指で挟みこんでいじり回しながら、
ナイトハルトは自らの衣服を乱していく。取り出された昂ぶりは反りかえらんばかりに
屹立し、目の前の少女を求めていた。
泣きそうな声をあげるアイシャの秘所は潤みに満ち、腿や尻にまで蜜が伝っている。
そこへ先端をあてがうと、アイシャの腰がびくん、と痙攣した。
同族婚を繰り返し、余計な血を混じらせることなく培養されてきた一族の少女。
恐らく彼女は本当に何も知らないのだろう。しかし、そんなことはもうどうだっていい。
「やっ……あ、痛い! 痛い、やめて!」
押し戻そうと力を込めた、アイシャの細い指が腕に食い込む。
涙をためた瞳に、これから行われるであろう行為への恐怖が宿った。それはむしろ
ナイトハルトの征服欲を煽り、欲情を増幅させる。
「今さら拒んだとて止める気はない。村の外に興味を示し、私と関わった。すべて
お前が望んだことだ」
逃れようと引かれた腰を抱え上げ、未開の地へ分け入るようにゆっくりと侵入を始めた。
「いや、あっ、あ……!」
拒んで萎縮し、きつく締め付けてくる内壁を強引に押し開く。やがて先端にぬるりとした
感触を感じ、それを幸いと一気に腰を進めた。
「ひうぁ…っ……ああぁ…あ!」
ずぷずぷと沈む陰茎に、アイシャの肉襞がからみつく。
痛みに震えた彼女が脚をばたつかせるたび、内部はひくひくと蠢いてナイトハルトの
昂ぶりを誘った。
アイシャの喉から漏れる声は言葉にもならず、何の言語かなど気に留めることはない。
やがて先端に奥壁の感触を得て、ナイトハルトはアイシャの上体を抱え起こした。
「知りたかったのだろう? これからいくらでも教えてやる。お前の知らぬすべて、
この世界のこと。その……快楽も」
首へ手を回し、耳元で囁きかける。耳の後ろからうなじへと舌を這わせると、上気した肌が
ぞくりと粟立った。脚が竦み、膣内が収縮してきゅっと締まる。
「あ…ぅ、…く……っふ」
奥からにじみだす、痛みとけだるい感覚。
褒美とばかりに髪を撫でるナイトハルトの手に、アイシャは安堵にも似た感情を抱いた。
しかし彼女は必死にそれを振り落とす。
「……な…い」
「何?」
単なる意地か、血の誇りゆえか。問うたとて彼女は、関係ないと笑うだろう。
「そん……なの、つまらない。知りたいことは、じぶんで確かめる。誰かに、教えて
もらいたくなんてない…っ…」
絶え絶えな息を吐き出しながら、アイシャは声を絞り出す。その視線は、はっきりと
ナイトハルトの瞳を貫いた。
「面白い娘だ。その瞳の色、『魔のエメラルド』とはよく言ったものよ」
口元に自然と笑みが浮かび、昂揚感に奮い立つ。抗うものを制圧し手の中に収めること。
だからこそ価値があり、その充足は何物にも替えがたい。
「ならばしっかりとその身に刻め。見て、感じて、そして知るがいい」
ナイトハルトはつながったままアイシャの背を抱いて自らの上に乗せた。ぐっと引き寄せて
中のものを揺すり上げる。
「あぁうっ」
浮きあがったアイシャの体がバランスを崩して倒れこむ。
沈んだ腰が、ずっ、と根元まで陰茎を呑み込んだ。奥を突かれた蜜壺は驚愕にわななき、
その律動はナイトハルトにえもいわれぬ感覚をもたらす。
「我らを魅了してやまぬ太陽の娘。お前はどれほどの愉楽へ導いてくれるのだ?」
眼前に差し出された乳房へ遠慮なく吸いつき、下から穿ち強く突き上げた。びくん、と
跳ねあがる体。反りかえったアイシャはナイトハルトの首にしがみついて嬌声をあげる。
「やぁっ、動かないで……、動…くの…やぁあ……」
駄々っ子のように首を振るが、秘腔から溢れる淫液と破瓜の血が陰茎を包み奥へと受け入れる。
慣らされた体が反応を返すたび、内部は吸いつくような収れんと緩和を繰り返した。
「は……っあ、んぁっ、あ…っ、あぁっ」
規則正しく弾む息と尻。伝う汗は肌をきらめかせながら薄い茂みへと吸い込まれていく。
下腹から突き上げる痛みは心地よさへと変わり始め、アイシャは初めてのその感覚に怯えた。
きつく目を瞑り、ナイトハルトの頭を抱き寄せてふるふると首を振る。
「どうした。怖いのか」
そう声をかけながらも、ナイトハルトは律動を止めずむしろ激しく突き上げた。
その衝撃には抗えず、アイシャの乳房が可愛らしくぷるっ、と揺れる。
「んっ…ぅ、っ…怖……くなんか……っ」
「では気持ちいいのだな」
「ち…が……っ、あっ……ぁ、あ……!」
口では否定するが、体はそうはいかない。
震える腕、そして肉襞はナイトハルトをぎりぎりと締め上げる。秘所からは幾筋もの蜜が腿を
伝い、淫らな音を響かせていた。
「や…、もっ……やめ…、…っ」
だんだんと短くなる呼気に彼女の限界を感じとり、ナイトハルトは動きを速めた。押し付け
られる胸乳を唇で弄び、浮き上がる体を抱き締めて奥を突く。
アイシャの意識はもはや彼女のもとを離れ、つながった相手をそそりあげる甘い声を漏らすのみ。
体は絶頂を求めてうねり、秘部は激しく収縮する。その締め付けに呼応するかのごとく、
ナイトハルトの昂ぶりがどくん、と脈打った。
「あっ…ぁ、何…か来……っ、だめ、あ……っああぁ……!」
一瞬だけ戻った意識は、すぐに満たされる感覚にさらわれた。
注ぎ込まれる精は熱く深くアイシャを浸し、力の抜けた彼女はナイトハルトにもたれかかる。
「女ひとり護れなかった、愚かな男の二の舞は御免だ。お前は……もう戻れぬ」
ひとり言のように呟きながら、アイシャの髪をとって指で梳く。噴出がおさまってもなお、
ナイトハルトはアイシャを離さなかった。
「熱…っ……熱い…よ……。おじー…ちゃ……」
消え入るようなその声に、ナイトハルトは苦笑する。
この後に及んで祖父を呼ばわるとは。一度抱いただけで手に入ると思うほどおめでたくはない。
しかし目の前の少女は独占欲を刺激するのに十分すぎるほどに乱れ、自らの手の中で絶頂さえ
迎えたのだ。
「つれないことだ。名を呼んではくれぬのか」
戯れに髪先を弄び、手のひらで頬を包む。アイシャは唇を震わせ、潤んだ瞳を向けた。
「カヤキス……」
「こんなときにまで悪魔呼ばわりか?」
つながったままにナイトハルト自身は蘇生を始め、アイシャはひゅ、と喉を鳴らして息を呑む。
「教えただろう、私の名を」
白い喉をさらけ出し、アイシャは官能に眉を歪める。まぶたを伏せるのと同時に、アイシャは
彼の望むその音をつむいでみせた。
「……カール…、アウグスト……」
「そうだ」
「……ナイトハルト……」
言い終わるや彼はアイシャの後頭部を引き寄せて唇をふさいだ。深く、時にはついばむように。
角度を変え、何度も何度も口付けて口内を探る。
一度達した体はすぐに骨抜きになり、アイシャは可愛らしい声を漏らす。
しかし慣れぬゆえか、舌をからめられると顔を背けて離そうとする。ナイトハルトはしばらく
それを楽しんだのち、そのまま押し倒そうとして、思い当たったように唇を離した。
「もっと知りたいか?」
何を、と言いかけたアイシャの唇は、彼のそれによって再びふさがれる。そのまま腰に手を
回し、舌を耳元へすべらせた。
「ならば自分で動け。自分で……確かめたいのだろう」
「そっ……ん、あっ…ぁ……」
背で円を描くだけの手が、アイシャを逸楽へと誘う。
―――知りたい。
未知の感覚もその快感も、そして自らの宿命も。それはどうにも抗えぬほどに魅惑的だった。
昔、ずっとずっと昔に祖父が言った。
『お前はいつか外へ出て、我らの運命を変えるやもしれぬ』
がくがくと震える膝をこらえ、アイシャは必死に腰を浮かせた。伝う汗がナイトハルトの手を
すべらせ、支えのなくなった腰が沈みこむ。
ぎこちない動きは、いつしか自然な抽送となった。
「お前を抱いたら、かつて賢王と呼ばれた男が溺れた……その理由がわかる気がした」
「…っあ、あたし…、あたしは…っ…」
奥を突かれ、中をかき回されて、橙の髪が振り乱れる。
『けれどアイシャ、覚えておいで。お前は誇り高きタラールの娘。たとえ世界が滅んでも――』
顔にかかった髪を振り払い、濡れた声を響かせて、アイシャは首を振る。
「何も……知らない……っけど、でも…っ…」
「そうだ。お前は……それでいい」
やがて激しい摩擦を生むほどの律動が天蓋を軋ませた。熱に支配された体が上下に動く
たび、甘い痺れは脳天へと突き抜ける。
それから何度、その腕の中で達したのか。
『我らは生き延びねばならぬ。だから必ず、戻っておいで。戻っておいで、アイシャ』
ナイトハルトはひと晩中アイシャを抱き続け、陽の光が射し込む頃には精も根も尽き果てて
天井を見上げていた。情欲に狂った夜は朝の静寂に押し流され、照らされているのは穏やかな空間。
隣では、アイシャが自失状態で四肢を投げ出していた。肌のところどころにどろりとした白濁が
付着し、股の間には血や愛液の入り混じったそれがぶちまけられている。
瞳はぼんやりと開かれたまま、目の前の情景を映すのみ。
けれどそこに、意思の光はある。
自分が、何者なのか。
彼女もまた、好奇心のもと世界をめぐることとなる。
その後タラール族は砂漠から忽然と姿を消す。
数奇な運命をたどった彼女が彼らと再会し、その素性を知るのはまだ先のこと。
太陽の娘が神々の祝福を受け、世界を混沌から救うのも――まだ先の、こと。
<了>