重ねた唇を離すと、彼女ははあっと熱い吐息を洩らした。すかさず力任せに抱きしめる。抱きしめた彼女の肩は、思っていたのよりもずっと細かった。
柔らかい体が自分の腕の中にある。良い香りのする髪に、頬に、首筋に口づける。
彼女の体がぴくっと跳ねた。すぐ近くに、戸惑っているかのような瞳がある。
普段の彼女からは似つかわしくない反応を可愛らしいと思いつつ、ブラウスのボタンに手をかける。
その手を彼女の手が捕らえた。
「……嫌か?」
しばしの沈黙の後、彼女の手が静かに滑り落ちた。ボタンを外すと少しずつ彼女の肌が露わになって行く。
熱の籠もった空気が外に溢れ出し、彼女の肌の甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
もう我慢ができなかった。ブラジャーを剥ぎとると、柔らかそうな胸のふくらみに顔を埋める。
「あっ!」
乳房の感触を楽しみながら、片方の先端を口に含む。舌で表面をくすぐるように舐め回すうちに、埋もれていた部分が堅く立ち上がって行く。
こりこりした感触を楽しむかのようにわざと歯を立ててみる。
「駄目……もう、立ってられない……」
彼女の体から力が抜け、ぐったりと自分にもたれかかってくる。その耳元に囁きかけた。
「ベッドの上へ行くか?」
自分の胸に顔を埋めていた彼女が、顔をあげた。そのままこくりと頷く。
彼女の腰に手をまわし、抱き上げる。頬を上気させ瞳を伏せた彼女は、何故かとても頼りなく見えた。
「おっさん! いつまで寝てんだっ!」
耳元で怒鳴られ、ヒューズは寝ていたベッドから転がり落ちた。髪を逆立てた年下の青年が、自分を睨んでいる。
「……レッド……?」
「たく、もう十時だぜ。今日はシンディ・キャンベルを締め上げに行く予定だろ。早いところ起きて支度してくれよな」
ヒューズは髪に指を突っこみ、ぐしゃぐしゃとかき乱しながら周囲を眺めた。
次第に記憶がはっきりしてくる。確か昨夜、キグナスを降りたというレッドと再会し、共にキャンベル商事の悪事を暴くということで意見が一致した。
そして昨夜は遅く会社にはもう誰もいなかったので、この安宿に泊まったのだ。ということは、つまり……。
「ちっ……さっきのは夢かよ。考えてみれば、あいつがあんなにしおらしいわけねえか」
常に沈着冷静で冷めた態度の同僚の顔が脳裏を過ぎる。想像の中の彼女は軽く眉根を寄せ、こちらを睨んだ。台詞まで声つきで浮かんで来る。
「なんて夢を見ているのよ。これだから男は嫌だわ」
「うるせえ。俺だって見ようと思ってお前のエロい夢見たわけじゃねえ!」
反射的にそう怒鳴ってしまったヒューズは、レッドの白い視線に晒されることとなった。
「おっさん……誰のエロい夢を見たって?」
「やかましい、お前にゃ関係ない話だ! ガキは廊下に出てろ!」
レッドを部屋から叩き出すと、ヒューズは夢を頭の中から追い出し、支度を始めた。
「シンディ・キャンベル! 覚悟しろ!」
シンディ・キャンベルはかつて会った時と同じように、机の向こうで椅子に悠然と腰を下ろしていた。レッドの姿を認め、うすく微笑む。
「お久しぶり、小此木博士のご子息……あら、そっちは確か」
キャンベルはレッドの隣に立つ、ヒューズの姿に気づいた。
「IRPOの捜査官だったわね」
「ヒューズだ。今度は逃げられねえぞ雌ギツネ!」
ハンドブラスターを構える。が、キャンベルは楽しげとすら言っていい様子で、言葉を続けた。
「ちょっと面白い話があるのだけれどね」
「お前の話なんぞ誰が聞くか!」
「これを見ても、そう言える?」
キャンベルが無造作に何かを放り投げる。乾いた音を立てて、それはヒューズの足許に落ちた。警戒しつつ、それに視線をやる。
見覚えのある黒い革のケースが、そこにはあった。
「……な!?」
自分が持っているのと同じ、IRPOの身分証明。驚愕に震える手でそれを拾い上げ、ヒューズは中を確認した。
今朝夢に見た同僚の写真が、その中にあった。
「なんでこれが……」
彼女は現在、やはりブラッククロス絡みの捜査でシンロウへ出向いている筈だ。その彼女の身分証がここにある……ヒューズははっとなった。
「その表情を見たところ、写真の彼女は知り合いみたいね」
「ドールは……まさか……」
「可哀相にねえ。シンロウで捕まったのよ」
キャンベルの言葉に、ヒューズは背筋が寒くなるのを感じた。捜査官が悪の組織に捕まったということは……。
「まさか……殺されたのか……?」
「始末されてはいないわ。その方が幸せだったかもしれないけれど」
キャンベルが嘲笑を浮かべ、機器のスイッチを入れた。背後の巨大なスクリーンに、明かりが点る。
そこに映し出された映像を見て、ヒューズは完全に凍りついた。
無機的な冷たい印象を与える部屋の中。ベッドの上で、絡み合う二つの裸体が浮かび上がる。
「……お、お願い……もう、止めて……」
「お前の体は止めて欲しがっていないぞ? シーツに染みができる程ここを濡らしているくせに。いい加減自分に正直になれ」
「あ、あなたが……そう、するから……ああっ!」
全裸に剥かれた状態で、体を拘束された若い女。それは紛れも無く、手の中にある身分証の持ち主だった。
これでもかとばかりに広げられた彼女の両足の間に、中年の男が顔を埋めている。ぴちゃぴちゃという淫猥な音が、画面から聞こえて来ていた。
「んっ……あああっ……そんなに……しないで……ああんっ!」
背をのけぞらせ、髪を振り乱しながら必死で懇願する。想像だにしていなかった彼女の姿。
見たくなどないのに、視線を逸らすことができない。残酷なキャンベルの声が追い打ちをかける。
「どうかしら? なかなかに面白い見世物でしょう? ぜひ感想を聞きたいところだわ」
「……ドールは……どうして……」
キャンベルがまたしても笑った。
「Dr.がIRPOの女捜査官の味見をしてみたところ、すっかりお気に召したのよ。
Dr.ったら毎日のように手を変え品を変え、あの女を抱いて悦に入っているわ。正直羨ましいくらいね」
キャンベルの言葉を肯定するかのように、画面からはDr.クラインの声が聞こえて来た。
「……そろそろ辛抱たまらなくなってきたな。入れさせて貰うぞ」
「ううっ……」
諦め切ったかのように、タリスは瞳を伏せた。Dr.クラインが彼女の体をごろんと転がして俯せにさせると、腰を高く持ち上げる。
「あああっ!」
貫かれた彼女の喉から一際高い叫び声があがる。Dr.クラインが凄惨な笑顔を浮かべると、彼女の頭をぐっとシーツに押しつけた。
「……っ!」
塞がれた口からくぐもった苦痛の呻きが洩れ、抑えつける手の下で彼女の体が跳ねた。
その抵抗を力で封じ、Dr.クラインが彼女に腰を激しく打ちつけていく。湿った肉の立てるなんとも言えない音が、響き渡った。
「いい体だ……たまらんな。お前の反応もいい……苛めてやりたくなる」
「……んんっ!」
抗議するかのような呻きが洩れる。Dr.クラインは手にかける力を込め、いっそう激しく腰を突き込んだ。
「もっと腰を振れ……もっと、もっとだ」
Dr.クラインの動きにあわせて、彼女の体もまた揺れる。男の喉から、獣じみた声があがった。
「いいぞ……イキそうだ……今日は、顔にかけてやるか」
Dr.クラインはぐいと無造作に男根を引き抜くと、タリスの体を仰向けにひっくり返した。
白濁した液体が勢い良くほとばしり、彼女の顔面を汚して行く。もはや声をあげる気力もないのか、彼女はぼんやりと視線を宙に彷徨わせていた。
「…………」
魅入られたかのように画面に見入っていると、不意にぶつっと音がして画面が暗くなった。
見ればキャンベルが薄ら笑いを浮かべてリモコンを手にしている。
「で、いかがだったかしら。あなたのご同僚の乱れるところは。なかなか面白い見世物だったでしょう?」
「ふざけるなよ……あんなもん見せられて喜べるか!」
ヒューズはぐっと拳を握りしめ、キャンベルを睨み付けた。
「その割には真剣に見てたじゃないの」
「うるせえ! どこだ、ドールは今どこにいる!?」
「本部よ。今頃はまたDr.に抱かれて喘いでいるんじゃないの?
今のあの女はさしずめDr.の性欲処理人形ってところね。まあもう男なら誰でもいいみたいだけど。
この前だってシュウザーに犯られて鳴いてたわよ。女捜査官といっても、今じゃあ雌犬以下ね」
キャンベルの見下し切った言葉に、ヒューズの頭の中で何かが弾けた。
「許さねえぞてめえらっ!」
「……おっさん、大丈夫か?」
恐る恐るかけられた声に、ヒューズははっと我に返った。状況を確認しようと辺りを見回す。
無残に破壊されたオフィスの窓の近くで、自分は呆然と座り込んでいた。体のあちこちに傷があるところを見ると、どうやらひどく暴れたらしい。
すぐ近くにはレッドがいて、心配そうに自分を眺めている。
「何があった?」
大体の推測はついていたが、ヒューズは一応レッドにそう尋ねた。
「おっさんがキレてキャンベルに殴り掛かって、そしたらキャンベルが本性――あの女、蜘蛛の化け物だった――を現したんだよ。
そのまま乱闘になって、キャンベルはおっさんの鉄拳をくらってそこの窓から墜落したよ。
死んだかどうかまでは、わからないけど」
「……そうか」
淡々と答えて、ヒューズは立ち上がった。キャンベルの生死など、どうでも良いことだった。
頭の中には未だに、先程の映像が駆け巡っている。Dr.クラインに犯されていたタリスの姿。
そして彼女はおそらく今も、キャンベルが言うように犯され続けている。
「……なあおっさん、さっきの女の人って……」
言い掛けたレッドの襟首をヒューズはぐっと掴むと、力任せに壁にぐっと押しつけた。
「お、おっさん! 落ち着いてくれよ!」
慌てふためいてレッドがそう口にする。だがヒューズはそんなレッドには答えず、更に手に力を込めた。
「……く、苦しい……」
「いいかレッド。さっき見たもんのことは絶対に誰にも言うな。言ったらただじゃおかねえ。わかったな!?」
怯えた様子でレッドは首を縦に振った。それを確認すると、ヒューズは無言でレッドの首を抑えつけていた手を離す。
解放されたレッドは床にへたり込むと、げほげほと激しく咳き込んだ。
「おっさん……誰にも言わないから、一つだけ教えてくれ。あの女の人は、もしかしておっさんの……」
「あいつは俺の彼女でも何でもない。ただの同僚だ。
誰があんな、頭が堅くて真面目で融通が効かない奴のことなんか……」
言い掛けた言葉は、途中で力を無くした。犯される彼女の姿が再び脳裏に浮かぶ。
「助けにいくさ……待ってろ」
「ふん、あっさりやられおって。何の為に改造してやったと思っているんだ、あいつら」
いまいましげにそう口にすると、Dr.クラインは目の前のモニターのスイッチを切った。ぶつっという音と共に、モニターの画面が暗くなる。
「……何か、言いたそうだな」
Dr.クラインはベッドの上で、無言でこちらを眺めているタリスに視線を向けた。
タリスが黙って俯き、瞳を伏せる。その仕草が、Dr.クラインの苛立たせた。
「言いたいことがあるのなら言ってみろ」
彼女に詰め寄り、強い調子で詰問した。
しばしの沈黙の後、タリスは意を決したように顔を上げた。
「……あなた達がいつまでも悪行の限りを尽くせる程、世の中は甘くないわ。近いうちに、あなた達は破滅する」
淡々と語られたその言葉は、Dr.クラインの神経を逆撫でした。
「そんなことが言える立場だというのか!? 私に飼われているも同然の身分だというのに!」
怒号にタリスが身を竦める。Dr.クラインは白衣のふところから手錠を取り出すと、彼女の腕を後ろへと捻り上げて拘束した。
「て、手錠は止めて!」
「自分の仕事道具で拘束されるのはそんなに屈辱か?」
ベッドの上で彼女に膝をつかせると、ズボンのジッパーを下ろして中から男根を取り出した。彼女の髪をわし掴みにするとと、顔を股間に押しつける。
「口で奉仕しろ。……逆らえばどうなるかは、言われなくてもわかっているだろう」
タリスは何か言い掛けたが、諦めたかのように口を開くと、Dr.クラインの男根を口に含んだ。
温かく湿った感触が男根を包み、舌がくすぐるように表面を撫で回す。
「……上手くなったじゃないか」
否定したいのか、瞳を伏せて首を微かに横に振って来る。その動きが男根を刺激することには気づいてないらしい。
柔らかかったそれがあっという間に堅く立ち上がり、彼女の喉の奥に当たる。
彼女の表情が苦しげに歪められるが、仕置きを恐れてか吐き出すような真似はしなかった。
「ふん……」
悪戯心を起こしたDr.クラインは、タリスに咥えさせたまま腰を落とし、ベッドの上に足を投げ出して座った。
自然と彼女の体は膝をついたまま、彼の膝の上にうずくまるような姿勢となる。
その状態で、Dr.クラインはタリスの胸元に右手を差し入れた。
「……んっ!」
彼女の体が驚いたように強ばる。その反応を楽しむかのように乳房をまさぐってやると、眉根を寄せて耐えるような表情になった。
感じまいと頑張ったところで、長くは持つまい。
先端を探り当てると、しごくように愛撫を加える。乳首がつんと尖るのが感じられた。
「んんんっ!」
いやいやをするように身を捩る。先程までとは異なり、頬が上気していた。
「どうした?」
乳首を弄ぶ手を止めず、わざとらしく尋ねる。左の手で顔に被さった髪をかきあげ、ついっと指を滑らせておとがいを持ち上げた。
潤んだ瞳が見上げて来る。自分の手の中の玩具。苛めてやりたくなるお人形。
左手を背中のくぼみにそって這わせながら、背を屈めて耳に息を吹きかける。
「ん……ふ……」
奉仕の合間に彼女が熱い吐息を洩らした。左手を下半身の方へと伸ばすと、尻の割れ目から秘裂に向けて指を這わせて行く。
タリスの体がびくっと跳ねた。その部分の襞をかきわけるように愛撫すると、指に温かい液体が絡み付く。
「……んん……」
潤っているそこに指を差し入れると、小刻みに体が震え出した。堪え切れなくなってきたのか、舌の動きが鈍くなってきている。
Dr.クラインは右手を戻すと、彼女の頭を掴んで股間に強く押しつけた。
「口が留守になっているぞ。しっかり奉仕しろ」
言いながら彼女の頭を揺する。抗議の呻きを無視し、Dr.クラインは彼女の口から与えられる快感をむさぼった。
思う存分楽しんだところで、手を離す。同じ目にあいたくないのか、タリスは必死で男根に舌を這わせて来た。
「良い格好だな」
咥えさせている間も、敏感な部分への愛撫は忘れない。指をその部分に沈めてやる度、切なそうに彼女は身悶えた。
そして次の瞬間、眉根を寄せて舐める行為に集中しようとする。快感に流されまいと必死で奉仕を続ける様は、彼の嗜虐心を更にかきたてた。
「今のお前のそのあさましい姿を、職場の同僚が見たらどう思うだろうな?」
タリスの表情が強ばった。首が横に振られる。どうやらそれだけは嫌らしい。
「なんだ? 見られたくないのか? 折角ビデオでも送りつけてやろうかと思ったのに……」
「ううっ……」
「まあいい。そろそろ出そうだ……しっかり受け止めろよ」
その言葉とほぼ同時に、Dr.クラインはタリスの口の中に射精した。
勢いでタリスが激しくむせ、白濁した液体が口の端からこぼれ落ちる。生温かいそれが、Dr.クラインの体にも降り掛かった。
「何をしている……そんなにビデオを送られたいか?」
「そ、それだけは……」
「それだけは?」
「止めて……お願いだから……」
Dr.クラインは酷薄な笑顔を浮かべると、彼女の頭を再び股間に押しつけた。
「だったら、お前が今こぼしたものを舐めて綺麗にしろ」
「はい……」
屈辱を感じているのか顔を歪めて、それでもタリスは口を開いた。桜色の舌がゆっくりと、付着した精液を舐めとって行く。
「……終わったわ。これでいい?」
そう言ってこちらを見上げて来る瞳には涙が滲んでいた。……まだだ。まだ、苛めたりない。この女が泣き叫び、哀願する様が見たい。
「ふん……まあ、ビデオを送るのだけは止めてやろう。だが」
ぐいと纏っていた薄布を引き剥がすと、ロープで身動きできないように体を縛り上げる。
抵抗を封じる為ではない。縛られた彼女の見せる表情がたまらないからだ。
柔らかい肌に目の荒いロープが、ぎりぎりと音を立てて食い込んで行く。乳房に巻きついた縄は、ただでさえ豊かな胸をいつもより大きく見せていた。
両足は広げられた状態で固定され、先程の愛撫で蜜を絡ませた秘部が丸見えになっている。
「……いい眺めだな。乳首は立っているし、下は濡れている。ついに縛られただけで感じるようになったか?」
「それはさっきあなたが……!」
言い掛けたタリスの口中に、Dr.クラインは指を入れて舌を掴んだ。タリスの瞳が驚きで見開かれる。
「口ごたえするな。お前は私の玩具だ。黙って抱かれていろ」
強い調子でそう言うと、Dr.クラインはタリスの秘所へ顔を埋めた。濡れたその部分に軽く息を吹き掛ける。
そんな僅かな刺激にも、敏感になっている彼女の体は激しく反応した。
「あ……駄目……」
「考えてみれば、お前はまだイッてなかったな。さて、今日も腰が抜けるまで可愛がって……」
Dr.クラインがにやにや笑いながら、タリスの最も敏感な突起を軽く咥えた時だった。
不意にけたたましい音を立てて警報が鳴り出した。
「えい、また邪魔が入ったか!」
苛立ちで顔を歪めると、Dr.クラインは端末の電源を入れて状況を確認すべくキーボードに指を走らせた。
画面に流れる文字の列を追ううちに、その表情が驚愕に取って変わられる。
「……馬鹿な。ブラックレイが爆破されただと!? 誰の仕業だ。何、アルカイザーの姿が基地内に!? 早急に情報を送れ……ええい、埒があかん! これからそっちへ行く!」
叫びながらキーボードで何やら打ち込むと、Dr.クラインは立ち上がった。
「何が起きたの……?」
「いまいましいヒーローが現れただけのことだ。だからお前を構ってはやれん……とはいえこのままでは可哀相だな」
部屋にある戸棚の一つから、Dr.クラインはバイブレーターを取り出した。広げられた両足の間に屈み込むと、それを膣口にあてがう。
「そら、戻って来るまでこいつを入れておいてやる。これで淋しくないだろう?」
反応を楽しむかのように、ゆっくりと中へ押し込んで行く。タリスの体がぴくっと震えた。
「あっ……くうっ……」
「考えてみれば、玩具を入れてやるのは初めてだったな」
奥深くまでしっかり入り込んだことを確認すると、Dr.クラインはバイブのスイッチを入れた。唸りを上げてバイブが振動を始める。
「あっ……あっ……いやっ……な、何これ……ああっ!」
「私が戻って来るまでそうしていろ。何、すぐに戻って来てやる」
喘ぎ始めたタリスに背を向けると、Dr.クラインはその部屋を後にした。
ヒューズは苛立っていた。
ブラッククロスの本部に潜入するまでに、考えていた以上に時間がかかってしまっていたのだ。
手をこまねいていたわけではない。が、ことは一刻を争う。何と言っても相手は悪の科学者だ。
いつ何時彼の気が変わって、彼女は殺されてしまうかもしれない。もしかしたら、既に手遅れとなっている可能性も――。
悪い方向へと傾く自分の想像を必死で打ち消し、ヒューズはブラッククロス本部へと潜入した。
潜入する際のごたごたでレッドが行方不明となり、代わりにアルカイザーという奇妙な格好の奴が加わったが、それすらも今の彼にとっては些細なことだった。
できる限り早く彼女を助け出し、ついでにDr.クラインをぶちのめす――考えられるのは、ただそれだけ。
焦る気持ちを抑え込み、ヒューズはアルカイザーはその他の連れと共に、基地の最深部を目指した。Dr.クラインのいる場所にきっと、彼女もいる。
そして対に、ヒューズはDr.クラインを追い詰めることに成功したのだった。
「バカな! 何故だ……」
自らの最高傑作と豪語した機械兵器を撃破されたDr.クラインが取った行動は、背を向けて逃げ出すことだった。
「てめえ待ちやがれ! 逃がすかっ!」
ヒューズは勢いよく床を蹴り、逃げる男の後を追った。ここまで来て、逃がすわけにはいかない。現在彼女の居場所を知るのは、おそらくこの男だけだ。
彼の突然の行動に、取り残された仲間の一人、レッドがシュウザー基地への案内をさせた金髪の女が声をあげた。
「ちょっとあんた、どこへ行く気よ!? なんかまだ真打ちが残ってるっぽい雰囲気なんだけど!?」
「アニー、おっさんを行かせてやってくれ。おっさんにとっては大事なことなんだ」
聞こえて来たアルカイザー――中身の見当はついていたが、言及するのは野暮というものだろう――の言葉に、ヒューズは心の中で礼を呟いた。
そのまま逃げる白衣の背を追うことに集中する。長い廊下を半ば程まで来た辺りで、追い付くことができた。
Dr.クラインの襟首を掴んで引き寄せると、力任せに持ち上げ、渾身の力を込めて床へと叩きつけた。
男の体が床の上で弾み、動かなくなる。再び襟を掴んで上体を起こさせると、頭にハンドブラスターを突きつけた。
「てめえがドールを弄んでいたことは知ってる。俺が聞きたいのはこれだけだ。言え! ドールはどこにいる!?」
「ドール……ああ、あの女捜査官か」
Dr.クラインはふてぶてしい笑顔を浮かべた。
「あの女は実にいい体をしてるぞ。感じやすくて濡れやすい上に、犯される時の声と表情の色っぽいことと言ったらない。
一度抱くとやみつきになる。捜査官なんかにしておくのはもったいないな」
「うるせえ! 聞かれてもいないことを喋るんじゃねえ!」
激昂したヒューズを、Dr.クラインは嘲るかのような瞳で見た。
「もしかして彼女に気があったのか? ふむ……格好からすると君は同僚のようだが、どうして彼女を犯ってしまわなかったんだ?
まあおかげで男というものを、じっくりと彼女に教え込んでやれたわけだが」
「いいかげんにしやがれっ!」
大声で叫ぶと、ヒューズはDr.クラインの脚目掛けてハンドブラスターの引き金を引いた。
銃口からほとばしった光線が、男の脚を貫通する。肉の焦げる匂いが辺りに漂った。
「ぐあっ!」
Dr.クラインが苦痛の呻きをあげ、撃たれた脚を抑えてのたうちまわる。ヒューズは無言でその傷を踏みつけた。
「ぐううっ……は、離せ……」
「いいか。もう一度だけ言ってやる。ドールはどこに閉じ込められている?」
Dr.クラインは答えない。ヒューズは踏みにじる足に力を込めた。
「言え! 言いやがれっ! 言わなきゃもう一本の脚も撃ってやる!」
「わ、わかった……」
「ここか……」
Dr.クラインから聞き出したタリスの監禁場所は、ヒューズが彼を問い詰めた廊下からそう遠くなかった。
これまた彼から奪ったキーで、施錠されたドアを開ける。科学者本人は、手錠で柱に繋いで放置してきた。
「ドール!」
部屋に飛び込んだ彼の視界に真っ先に入ったもの。それはベッドの上に、ぐったりと伏しているタリスの姿だった。
体に巻きついているロープ以外には、何一つ身に着けていない。おそらくDr.クラインが縛ったのだろう。余すところなくその魅力的な肢体をさらしている。
「……ん……あ……」
焦点のあわない瞳を天井に向け、荒い息を吐いている。部屋に誰か入って来たことにすら、気づいていないようだ。
助けに来たものの、想像もしていなかった事態に、ヒューズはしばし呆然と立ち尽くす羽目になった。
今更ながら、誰か女性の手を借りれば良かったと後悔する。
「……くっ!」
眺めているだけでは埒が開かない。まずはロープを解こうと、彼女の横たわるベッドへと近づいた。
「しっかりしろ」
否応なしにタリスの白い裸身が視界に入る。豊かな胸やその膨らみの桜色の先端に目を奪われそうになるのを必死で抑え、ロープに手をかけた。
彼女の首が僅かに動き、潤んだ瞳がこちらを見た。その唇が微かに開き、熱っぽい吐息が洩れる。
「戻っ……て……来た……の……?」
熱に浮かされたように彼女は呟いた。目の前にいるのが誰なのか、わかっていないらしい。
「お願い……こ、これ……もう、抜いてほしいの……」
「抜いてくれ? 何をだ?」
思わず尋ね返していた。
「……抜いて……苦しいの……」
視線が下腹部の方へと移動する。つられてヒューズの視線も動いた。
大きく広げられた両足の間、なるべく見るまいとしていた部分に、唸りをあげる黒い物体があった。
「あ、あの変態科学者! 何を考えてやがるんだ」
Dr.クラインの行動に、ヒューズは改めて吐き気を感じた。一体どれくらいの間、こんな状態で放置されていたのだろう。これで精も根も尽き果ててしまったに違いない。
ヒューズは深く入り込んでいたバイブのスイッチを切り、引き抜いて投げ捨てた。タリスが安堵したかのように大きく息をつく。
「待ってろ。今こいつも外してやるから」
肌に食い込んでいたロープを解きながら、ヒューズはできうる限りそっと声をかけた。
手に触れる彼女の肌の柔らかさについては、なるべく考えないようにする。
「……ん……」
彼女は未だ焦点のあわない瞳で、ぼんやりと宙を見ている。
「くそっ、堅いな……あの変質者、どういう趣味してんだ……」
ようやくロープと手錠が外れた。タリスは生気の無い表情で視線を彷徨わせながら、解放された手首をさすっている。
白い肌についた赤い縄の跡を、ヒューズは痛々しい気持ちで見守った。
「助けに来た。もう大丈夫だからな」
顔を覗き込むようにしてそう告げる。彼女の瞳の焦点が定まったかと思うと、驚いたかのように見開かれた。
ようやく、目の前にいるのが誰なのかわかったようだ。
「ヒューズ……? なんでここに……え……」
安心させようと口を開きかけたヒューズを遮ったのは、彼女の喉からほとばしった悲鳴だった。
「いやあああああっ!」
「お……おい!」
思ってもいなかった反応に抗議の声が出る。だがタリスはそれに答えず、激しくかぶりを振って絶叫した。
「見ないで! 見ないでよおっ!」
伸ばされたヒューズの手から逃れるように身を引き離すと、タリスは顔を覆って伏してしまった。
「あ……あなたにだけは……あなたにだけはこんな姿、見られたくなかったのに……こんな、情けない姿……」
伏した体が小刻みに震え、嗚咽が聞こえて来た。
「ドール……」
伸ばした手は、途中で止まった。今の彼女に触れたところで、怯えさせてしまうだけではないだろうか?
「見ないで……お願い、私を見ないで……」
かけてやれる言葉すらみつからない。何を言えば彼女に届くというのだろう。
「……何か着る物、探して来てやる。その格好じゃ帰れないだろ」
例えようもなく苦い気持ちを胸に、ヒューズはその部屋を出た。
「くそっ!」
出たところで、ヒューズは力任せに壁を殴りつけた。意味がないのはわかっている。だがそうせずにはいられなかった。
「あいつを……あいつを無茶苦茶にしやがって! あんな姿、俺だって見たくなんかなかったさ!
なあ、俺はどうすりゃいいんだ……」