「はぁ…」  
針の城のバルコニーで一人くつろぐ寵姫、水晶姫は軽くため息をついた。  
主である妖魔、"麗しのアセルス"は旧知の仲であるジーナという人間の女の所へお忍びで出かけている。  
何でも男の子が産まれたとかで、その知らせを聞いたアセルスはもう大騒ぎ。ファシナトゥール総統としての全ての公務をイルドゥンに押しつけ、単身ジーナの元へはせ参じてしまったのだ。  
「…赤ちゃんかぁ… いいなぁ、ジーナさん」  
水晶はジーナという女と面識はないが、度々アセルス達の話題に登場するその名には覚えがあった。  
水晶姫達は寵姫であり、"妻"ではない。どんなに愛し、尽くそうともアセルスの子をその身に宿す事は許されない。  
ただ、あのヒトだけは別だ。あのヒトは自分とは違うのだ…  
「水晶…」  
ふんわり優しい声が響いた。そのヒトの"匂い"鼻をつく。  
甘い薔薇の匂い。  
「…おはようございます…白薔薇…姉様」  
無意識だが彼女の顔は見ない。見たくないのだ。  
「おはよう、水晶。そんな薄着で寒くない?」  
無邪気にむき出しの腕に自分の腕を絡めてくる姉姫。  
 
〜!〜  
その柔らかさに同性でありながらもクラクラしてしまう。そんな水晶の動揺を知ってか知らずか、白薔薇姫は長身の水晶の肩に頬を寄せた。  
「ホラ、こんなに冷たい…」  
「し、白薔薇姉様っ」  
さすがにその顔を見下ろすと、それに反応して顔を上げる姉姫の灰色の瞳とぶつかった。  
もはや、この世のどんな光さえも見ることは出来ない死んだ瞳。  
「姉様…」  
「水晶…こういう接し方…キライ?」  
「ハイ…?」  
「水晶はわたしの事が嫌いなのでしょう?」  
ズキッと胸の奥に何かが刺さった。  
「そんな事は…」  
「ウソ…」  
スッと白薔薇は腕を放すと見えない瞳を向ける。  
「最初はあなたも他の妹たちの様にわたしに心を開いてくれた。でも、最近のあなたは違う。わたしの何処がいけないの?よかったら、教えてくれないかしら?直せることなら直すわ…」  
〜あなたが?あなたが…何を直すと言うのよ…〜  
水晶は白薔薇から目をそらした。  
 
「下がってもよろしいですか?姉様…さすがに寒くなりましたから…」  
「……ええ」  
少し哀しげな表情を浮かべた白薔薇は、それでも水晶姫に道を譲ろうとして純白のドレスの裾を踏んでしまった。  
「…キャッ…あ?」  
バランスを失い、固いバルコニーの石床に倒れかかった白薔薇のたおやかな身体を抱きとめたのは他ならぬ水晶姫だった。  
「っ!」  
思わず抱きしめた姉姫の身体は細く、女の自分の手でもたやすく手折れてしまいそうだった。予想以上に熱い体温、首筋にかかる吐息。  
むせるような薔薇の体臭。  
「…お気をつけ下さい…姉様」  
それら全てから逃れるように、水晶は白薔薇を床に降ろすと、その身体から離れた。  
「あ…ありが…」  
「お目が…見えないのですから、おひとりで歩かないでください…迷惑…です…」  
「……………ごめんなさい……」  
 
「あ…ダメ…アセルス様…あの子が起きちゃう…!」  
「んぐ…ん……大丈夫だって…もう疲れてぐっすりさ…それより…」  
「あぅ…」  
 
パンパンに張ったジーナの乳房を下から持ち上げながらピンと乳首を指で弾くアセルス。  
「ダメ…出ちゃう…そんな事されたら…出ちゃいますぅ」  
「出していいよ…ジーナのお乳、早く飲ませて…」  
「ぃや…いやぁぁ」  
「フフ…ん…」  
再び乳首を含むとアセルスはワザと音を立てながら吸い始めた。  
「ああ…非道い…」  
乳首を刺激しながら両手で優しくジーナのオッパイを搾ってやる。  
上気した顔を振り乱しながらジーナはアセルスの頭を抱え込んだ。  
「ダメ!…出ちゃいますっ!オッパイ出ちゃうっっ!」  
「んっ!」  
刺激に耐えられず、アセルスの口の中にジーナの母乳が放たれる。  
「んっんぐっ ゴホゴホッ…すっごいね、ジーナ…オッパイってこんなに勢いよく出るんだ…」  
「イヤッ もう…許してください…アセルス様ぁ」  
「なんでぇ?…旦那様にも飲ませてあげてるクセに…」  
「あっ…どうして…それを…」  
顔を真っ赤にさせるジーナを上目遣いに見上げ、熱い息を吹きかけながらアセルスはゆっくりとジーナの乳首にむしゃぶりついた。  
「っ あぅ…」  
 
既に刺激に耐えられなくなったジーナは、アセルスの求めるままに母乳を吹き出しながら熱い喘ぎを天井に向けて放った。  
そのすぐ隣にはジーナが女としての幸せの証として授かった赤ん坊が無垢な寝顔を覗かせていた。  
 
「聞いたわよ〜水晶ちゃん!!」  
一人でティータイムを楽しんでいた水晶姫を取り巻く静寂を破ったのは妹姫、石榴(ガーネット)だった。  
「…ふぅ…何?」  
注意しても無駄だと分かり切っている水晶は、お茶菓子が盛られているお洒落な柄をした皿を妹姫の方に押してやりながら尋ねた。  
「白薔薇姉様を、いじめちゃったんでしょ!?」  
「…いじめてなんかないわっ!」  
思わず強い言葉が口を突く。  
「わっ…わっ…水晶ちゃんコワ〜イ…」  
などとほざきながら、お茶菓子をかき回す石榴姫。  
「誰がそんな事言ったの!?」  
「バルコニーで泣いてたんだよぉ白薔薇姉様…一人で」  
ぐっと言葉に詰まる水晶。  
「いじめてないわ…」  
 
声が小さくなる。  
「謝るなら早いほうが良くてよ」  
「黒曜姉様…」  
たった今まで水と戯れていたのか?その水妖の女性の肌はしっとりと濡れ、寵名の通り黒曜石の様に妖しく光っていた。  
例外中の例外である白薔薇姫を除けば、アセルスの信頼が最も厚く、誰よりも早く寵姫に召し抱えられた女性。本当の名はメサルティムというのだとイルドゥンに聞いた事がある。  
「遅くなれば、それだけ謝りにくくなるわ」  
「…」  
頬にまとわりつく濡れた髪をそっと払った弾みに形の良い乳房が揺れる。  
今更のように、水晶は目の前の水妖の姉が全裸だということを思い出し、赤面してしまう。  
「きゃ〜黒曜姉様、セクシー!」  
「ガ、ガーネット…ドレスが濡れちゃうわ…もう」  
などと言いながら、ふざけて抱きついてくる石榴をやさしく受け止め、可憐な唇にチュッと口づけしてやるメサルティム。  
いちゃつく二人を見ていられないといった感じで、水晶は席を立った。  
「失礼します!」  
濡れた乳房に頬をすり寄せながら石榴姫は横目でその姿を見送った。  
「水晶姉様ってお固〜い…」  
「そう?私はそうは思わないけど…」  
 
幼い石榴の頭を優しく撫でながら、黒曜姫は水晶を見送った。  
 
「遅くなっちゃった!アセルス様大丈夫かな?」  
買い物から帰ってきたジーナは我が家の門の前に立つと、辺りをそっと伺った。  
現ファシナトゥール総統に子守をさせているなどと絶対に外部に漏らしてはイケナイ。  
ばれたら最後、大騒ぎになるに決まっているのだ。  
なるべく平静を装って、ジーナは門扉を抜けわき目もふらずに家の戸を開けた。  
「? 寝てるのかな…」  
愛しい我が子の泣き声がしない。アセルスの声もしない事がちょっと気がかりだった。  
「アセルス様?ただいま戻りました…え?」  
居間に二人の姿がない。  
「寝室かな?」  
急に胸騒ぎを覚えたジーナは買い物袋を乱暴にテーブルの上に放り出すと、寝室に駆け込んだ。  
「アセル…きぃやあああああああぁぁぁぁ!!」  
盛大な悲鳴を上げるジーナの目の前に二人はいた。  
母親の悲鳴の大きさに驚いて泣くことも出来ずに固まっている我が子と、その股間に可愛く付いている男の子の証を舌でコロコロ転がしているアセルス。  
「…びっくりしたぁ…何?ジーナ?」  
しれっと尋ねるアセルスに対して、ジーナはヘナヘナと床にへたり込んでしまった。  
 
「ひっ!ひぃぃ変態ぃぃ!!」  
「ちょ…何よソレ!?変態ってボクの事?」  
さすがにムッとしてジーナを睨む麗しのアセルス。  
「な、何をなさってるんですか!?」  
「こ、声大きいよっジーナ!」  
ジーナはアセルスを押しのけ我が子を奪い返した。  
「この子に何を!?」  
「え?…ああ、暇だったから、お初頂いちゃった!」  
してやったりといった顔でアセルスは告白した。  
「お初って…」  
「初おフェラ!」  
血圧が急上昇したのか、クラクラしてきた頭を片手で押さえジーナは嘆いた。  
「それが…麗しの君たる方がなさる事ですか?」  
「え〜やめてよ!そんなイルドゥンみたいな事言うの…」  
「当たり前です!イルドゥン様のご苦労がよく分かりました!」  
「あ〜ゴメン、ゴメン…悪かったよ…」  
ジーナが本気で怒っているのを見て取ったアセルスは早々に降参した。  
「やってイイ事と悪い事があります!…それにっ!!」  
「だから…謝ってるじゃない…それに?」  
フフンと今度はジーナがアセルスにしたり顔で見返す。  
 
「残念ですけど…アセルス様は"お初"ではありません!」  
「え?」  
ぽかんと口を半開きにしてジーナを見上げるファシナトゥール総統"麗しのアセルス"。  
「母の努めですから、当然この子の初おフェラは私が頂いております!」  
「え…何…ジーナ…したの?この子に…フェラ…」  
当然とジーナは頷いた。  
「ひぃぃぃ!!この変態ぃぃぃ!」  
 
紫の光が辺りを柔らかく包み込み、静寂がアセルスに代わりこのファシナトゥールを支配していた。  
月光によって紫に染められた空中階段を進む寵姫がいた。  
別に人目を気にする必要はないのだ。悪いことをしに行くわけではない。  
だが、その寵姫は無意識に人を避けた。  
空中庭園を抜け、さらに階段を進むと離宮の最上階へと辿り着く。そこに目指す部屋があった。  
「そこの者は誰か!?」  
目的地の扉を守る中級妖魔の女武将二人が抜刀した。  
誰何に構わず足を進める。  
「止まれ!」  
凛とした声が響く。  
 
姫の足が止まった。淡い月明かりの中で整った顔立ちが際だつ。  
「水晶姫様…!?」  
「こんな夜分に何事?」  
「火急の用件にて白薔薇姫様に面会致しとう存じます。」  
武将達は顔を見合わせた。  
「用件をお伺いしたい。」  
「白薔薇姫様に直接お話し致します。」  
水晶も引き下がらない。  
このまま押し問答が続くかと思われたその時、扉の中から柔らかい声が響いた。  
「通しなさい」  
「白薔薇姫様!?」  
「かまいません…二人とも、お下がり」  
逡巡の後、二人は古式の作法に則り刀を鞘に納めると水晶に一礼して夜の闇の中に消えた。  
「入って、水晶…」  
甘い誘いの声。  
黙って水晶は白薔薇姫の部屋の戸を開けた。  
「…」  
「どうしました?こんな遅くに?」  
濃い紫の中に浮かび上がる一輪の薔薇。  
その問いかけに答えず、水晶は白薔薇が座るベッドに歩み寄りビクッと身をすくめる白薔薇姫を見下ろした。  
 
「あ…何?」  
「あの…私…あ、謝りたくて…昨日のこと…」  
何故こんなに緊張しているのか分からなかった。  
「お隣…よろしいですか?」  
「ええ」  
許しをもらい、白薔薇の隣に腰を下ろす水晶。  
とたんに薔薇の香りが自分を包み込む。  
「あの…昨日…」  
意を決して開いた口は、細い白薔薇の指に遮られた。  
オルロワージュにより闇の迷宮に幽閉されている間に、闇に浸食され二度と光を見ることの出来なくなってしまった灰色の瞳を向けながら、白薔薇は妹の手を取った。  
「あ…」  
上に向けられた掌に可憐な指先が文字を書いた。  
"ワタシガニクイ?"  
「違います!」  
"デモワタシガキライデショ?"  
「っ…分かりません…キライかもしれないけど…何でアナタがキライなのか…分からないっ!」  
"アセルスサマヲトッタカラ?"  
 
「アセルス様を…独り占めしちゃったからかなぁ?」  
「なぁに?ガーネット?水晶の事?」  
針の城の大浴場を豪勢にも貸し切った黒曜姫と石榴姫は湯船に浸かりながら冷えたカクテルグラスを片手に談笑していた。  
「そう、白薔薇姉様がアセルス様を取っちゃったから、水晶姉様は怒ってるんだよ!」  
「それは…違うわね」  
スッとアルコールを口に滑らしながら黒曜姫は断言した。  
「ええ〜?何でぇ?」  
石榴の小さい掌がゆっくりとメサルティムの身体をなぞりあげ、胸のふくらみを優しく包み込んだ。  
「何が、違うのか…教えてっオ・ネ・エ・サ・マ!」  
「んぅ…」  
乳首から奔る鋭い刺激に繭をひそめながら、石榴姫の頭を抱え込む。  
「白薔薇姉様がアセルス様を取ったからじゃない…アセルス様が白薔薇姉様を独り占めにしていることが気に入らないのよ、あの娘は…」  
 
窓から差し込む穏やかな月光に守られ、ゆりかごの中で赤ん坊は静かな寝息を立てていた。  
怒りとも憎しみとも無縁なその寝顔のすぐ脇で、母親は犬のように尻をアセルスに捧げていた。  
「すごっ…ジーナっ…熱っっ!熱いよっジーナの中っ」  
 
「んっ…んっ…ぅんっ…あっ!…あ…ソコ…」  
ジュプジュプと例えようもない粘着音が部屋に響く…。  
「あっアセルス様ぁ…もうすぐウチの人が帰ってっ…きちゃうから…」  
「…きちゃうから?」  
「それまでに…イかせてっっ!」  
 
 「…困るの?ジーナ?」  
 「ああっ 困りますっ あぅっ!」  
 「ふ〜ん…」  
 アセルスは腰の動きを止めると、汗にまみれたジーナの背中に覆い被さった。  
 唇を耳元に寄せる。  
 「このお尻は誰のモノ?」  
 「お願い…やめないでぇ…」  
 ジーナは涙を流しながら訴え、腰を振った。  
 「このお尻は誰のモノか言ってごらん…」  
 アセルスは動かない。ジーナが自分の望む答えを言うまでは決して続けないだろう。  
 そして、ジーナは彼女の望む答えを知っていた。  
 「あ…私…私のお尻はアノ人のモノです でも今は…」  
 アセルスは乾ききった唇の濡れた舌先を滑らした。  
 「今のジーナの…お尻は…あぁ…」  
 「…ジーナ…そんなにじらさないでよ」  
 前に回ったアセルスの指がキュッとジーナの乳首を抓る。  
 「あぅっ! やぁ…」  
 潰された乳首から迸った濃白色の液体が床を濡らした。  
「ア、アセルス様のモノです…」  
「よく言えたね」  
 
 アセルスは歓喜と恥辱の涙に濡れる頬にチュッとキスしてやると、ゆっくりと身体を起こしていった。  
 「じゃ、ご褒美だよ…ジーナ」  
 パンッ!と勢いよく腰が打ち付けられた。  
 「ああっ! いぃ…」  
 「ふふ…」  
 がっしりと一児もうけた母親の腰を掴むと、麗しのアセルスは激しく腰を使い始めた。  
 「あっ はっ…はげし っくぅ…あっ やっ!」  
 自分の膣を突きまくるその動きにジーナは喘ぐ事すらできず、獣のような息づかいと肉がぶつかる乾いた音が頭の中に鳴り響いていた。  
 
 "ワタシニ イイタイコトガ アルノデショウ?"  
 言いたい事は山ほどある。  
 この女は嫌い?ドコが嫌い?主にとって完璧な寵姫だから?  
 アセルスの恋人だから?  
 「貴方は…ズルイ」  
 知らず知らずの内に頬のスロープを滑り落ちた涙の粒が白薔薇の指で弾けた。  
 「貴方が闇の迷宮にいる間、アセルス様は私たちに心を開いては下さらなかった!貴方がアセルス様の心を捕らえて離さなかったから!」  
 嗚咽しながら水晶は続けた。  
 
 「零姫様のお社で私、アセルス様に言ったわ 貴方を助けてって…でも、アセルス様が救い出した貴方は…眼が…!」  
 顔を上げるとすぐそこに白薔薇の顔があった。怒るでもなく、泣くでもなく穏やかに彼女の話に耳を傾けている。  
 その端整な顔にまるで吸い込まれていくように水晶姫は白薔薇の方へ身を寄せる。後ずさりする訳でもなく簡単に白薔薇は妹の腕の中に捕らえられた。  
 「あ…」  
 無言で姉姫をベッドにゆっくりと押し倒す。  
 白薔薇の吐息が直に顔にかかり、立ち上る薔薇の体臭はまるで媚薬のように水晶の身体を焼いた。  
 顔を近づける。互いに熱い息を漏らす唇同士が触れ合う寸前だ。  
 「そんなのってズルイ! これじゃあアセルス様は貴方しか見ないわ」  
 「だから…キライ?」  
 白薔薇の唇が動く度に組み伏している水晶の唇にかすめる。  
 「はぁ…」  
 ため息を漏らしながら唇を奪う。  
 ゆっくりと時間をかけながら、姉姫の唇の全てを味わう。あまりの柔らかさにまるで自分のソレと溶け合ってしまいそうだった。  
 アセルスしか触れることの許されない唇。  
 
 「んぅ」  
 白薔薇は全くの無抵抗だ。  
 両手をそっと頬に添えると、姉の手が優しくその手を包み込んだ。  
 「…キライ…よ 貴方はいつもアセルス様に隠れてばかり」  
 華奢な身体を守る、金糸で豪華な薔薇の刺繍が施されている姉のネグリジェ。  
 その襟に指をかけた。  
 姉姫は身じろぎ一つしない。水晶のなすがままになっていて、まるで人形のようだ。  
 ビッと乾いた空気に絹が裂かれる音が響いた。  
 「…」  
 姉も妹も無言のまま、引き裂かれていくネグリジェだけが悲鳴をあげる。  
 次第に目に入ってくる白薔薇の身体。  
 可愛らしげな乳房、程良く引き締まったウエスト。そしてシルクのショーツに包まれた、意外なほどにふくよかな腰つき。  
 「…素敵」  
 喘ぐように声を漏らす。  
 恥ずかしげに両手で顔を覆ってしまう白薔薇。  
 何もしていないのに既に固くしこっている姉の乳首に吸い寄せられるように顔を近づけ、熱い息をたっぷりとかけてやる。  
 「ああ…」  
 身じろぐ姉の身体を全身で押さえつけると水晶はゆっくりとその乳首を口に含んでいった。  
 
 舌に触れる固い感触が心地いい。  
 「んふぅ…」  
 ピクッピクッと舌を這わせる度に反応する姉が何故か嬉しくて、濡れそぼった蕾を甘噛みしてやる。  
 「はぅっ!」  
 押さえつけた身体が跳ねる。  
 「白薔薇姉様 イイんでしょ…?」  
 胸から顔を上げ、相手の顔を覗き込む。  
 「…ええ 気持ちいいの…」  
 「アセルス様がいるクセに…非道い人」  
 オシオキとばかり、水晶は真っ白な乳房を抓ってやる。  
 「ツッ! 水晶…痛いわ」  
 「痛くしているんです。姉様…アナタのことが嫌いだから…」  
 そっと唇を奪う。言葉とは裏腹の優しいキス。  
 
 「はぁ…」  
 石榴姫は湯船の縁に両手で掴まりながら、うっとりと姉の愛撫を受けていた。  
 「ん…」  
 「ここ…どう?」  
 そっと囁きかけるメサルティムの優しい声が、その指の動きと共に心地よく全身に染み入る。  
 「いいよ…とっても」  
 
 黒曜石の手は少し温めの湯の中で、そっと石榴姫の尻の盛り上がりを撫でていた。  
 「姉様…ホントにガーネットのお尻、好きなのね…」  
 「だって、柔らかくて…形がいいし…一日中触っていたいわ  イヤ?」  
 石榴は肩越しに振り返ると潤んだ瞳を姉に向けた。  
 「ううん…嬉しい 嬉しいよ、黒曜姉様が私の事…どんな事でも、気に入ってくれてるんだって思うと…」  
 見返す黒曜の瞳もまた濡れていた。  
 「石榴…好きよ」  
 ギュッと石榴の頭を抱きしめてやる。  
 嬉しそうに眼を瞑りながら石榴はぽつりと漏らした。  
 「…こんなに素敵な気持ちになれるのに…水晶姉様もさっさと告白しちゃえばイイんだよ!」  
 「白薔薇姉様に? それは、まだ無理ね… 水晶は自分の想いと正面から向き合っていないもの。向き合うのが怖いのね。だから無意識に白薔薇姉様を避けるのよ」  
 「あ…ん」  
 縁を握る手に力が入る。姉の指が段々と尻の谷間の奥深くまで入り込んできたのだ。  
 「ん…でも ぁんっ!」  
 細い中指が自分のもう一つの唇をなぞり上げていく。  
 「あの二人の話はあの二人が締めくくればいいの。私たちは単なる脇役だわ」  
 キュッキュッと指を締め付ける感触を楽しみながら、可愛い声を楽しむ。  
 「でも今の調子じゃ、姉様と水晶のお話は何も進展もないわ」  
 
「ふっ…! んぅんっっ!」  
昼間、せっかく侍女達が皺一つなくピシッと敷いたシーツを握りしめながら、白薔薇姫は必死に歯を食いしばっていた。  
引き裂かれたネグリジェは腰の辺りにまとわりつき、ショーツは既にベッドの下に落ちている。  
「ん…ん…」  
彼女の股間に潜り込んだ妹は夢中で舌を滑らせ、指を柔襞に潜り込ませていく。  
その淫猥な舌先は、乳首と同様に肥大した淫核、既に蜜を垂れ流しながら開きかけている秘唇を抉り、更には嫌がるアヌスにさえ及んだ。  
「はぅっ…あっ あっ!」  
切なげな声が耳を打つ。  
でも…まだ足りない。もっと聞きたい。  
なぜって?この女が嫌いだから…  
「あ!?っく…やっ! いやぁっ!」  
拒否の声を無視し、指を奥に進めてやる。  
「熱いわ…姉様の中…」  
時に優しく、時に激しく指を動かしながら姉の顔を覗く。  
真っ赤に紅潮した顔。流れる涙。次第に緩んでくる唇。  
今までオルロワージュとアセルスしか見る事が出来なかった光景を今、水晶は独り占めしていた。  
 
「っん…」  
水晶自身もたぎっていた。内股から姉の匂いが染みついたシーツにいくつもの滴を降らせている。  
「白薔薇姉様…もう我慢できないかしら?」  
開かせた両足の間を豹のように滑らかに通り、汗と自分の唾液にまみれた姉の上に覆い被さる。  
しゃぶり尽くされ痛々しいまでに尖りきった乳首をピンッと弾き、あがる悲鳴を恍惚の表情で受け止める。  
「あ…お願い 水晶…もう許して…」  
ついに哀願の言葉を洩らした薄いピンクの唇をすっと指でなぞりながら、口元から垂れた涎をぬぐい取り  
「どう許して欲しいです?姉様」  
「え?…」  
「やめて欲しいの? それとも、イかせて欲しいの?」  
指先に付いた白薔薇の唾液を舐め取りながら答えを待つ。  
「…水晶の…あなたの好きにして…」  
「ッ!!」  
ガッと水晶は白薔薇姫の顎を掴んだ。  
「…ズルイ…」  
押し殺した声に怒りをのせて、指に力を込めた。  
 
「ぐ…」  
「ズルイわ…姉様…」  
馬乗りになった状態で、空いている手を姉の下半身に伸ばす。  
「んぁ…」  
ねっとりと熱く絡みつく蜜を掬い取るとゆっくりと白薔薇の前にかざす。  
「こんなになって…やはりアセルス様でなくても誰でもいいのでしょう?」  
「違う…」  
「なにが違うのかしら?」  
べっとりと指先の蜜を白薔薇の頬にこすりつけながら水晶は再び顔を近づけた。  
「…違うの…水晶 あなただから…こんなに、嬉しいの…」  
「やめて…」  
「…どうして?言ってはいけないの?」  
「当たり前でしょう!? 寵姫のクセにっ アセルス様を私たちから奪ったくせにっ! 今さらっ!!」  
今まで無抵抗だった白薔薇姫の両手が初めて動いた。自分の顎を押さえつけている水晶姫の手を優しく包み込む。  
「どう思われていても、私はあなたが好き… こんな風に抱かれるのも…嬉しいの」  
「う…」  
水晶の腕から力が抜け、白薔薇の顎は簡単に解放された。  
「私が憎い?」  
 
「…違います…」  
「でも、私が嫌いでしょ?」  
「嫌い…嫌いになりたいです…」  
優しく微笑むと白薔薇は水晶の腕を引いた。  
力無く姉の上に崩れる上半身。  
「ね?続きして…あなたの好きにしていいのよ?」  
 
「いつまで逃げているおつもりですか?アセルス様」  
「逃げる?ボクが?」  
帰宅してきたジーナの亭主をファッシネイションで誘惑したあげく、一晩中壮絶な3Pを繰り広げた3人はあられのない姿で床に転がっていた。  
「白薔薇様から逃げているじゃありませんか…」  
アセルスの薄い胸に頬を寄せていたジーナは気だるそうに身を起こした。  
「白薔薇様のお目は、アセルス様のせいではありません」  
「ボクのせいだよ…他の誰のせいなのさ?」  
下から手を伸ばし、少し垂れ気味のジーナの乳房を掴む。  
「ダメ、話を聞いてください」  
優しくその手を払うとジーナは真っ正面から妖魔の顔を見つめた。  
「アセルス様がいつまでもウジウジしていると、周りの方達までおかしくなってしまいますよ」  
 
「何が?」  
「いつまでも白薔薇様を傍らに縛っておかれて…それじゃ先代様と同じではありませんか?」  
「ジーナ…誰に向かって物を言っているのか分かってる?」  
「アセルス様です。」  
まったく、といった顔でアセルスは天井を向いた。  
「守っている素振りをしながら、真正面から白薔薇様をご覧になっていないでしょう?眼が見えないことをいいことに」  
「白薔薇はボクがいなきゃ、もうダメなんだよっ!」  
「そうでしょうか?」  
 
くねる背中が乳首をこすり、たまらず声を上げた。  
「あ…水晶、可愛い…声」  
息も絶え絶えの白薔薇は水晶の膝の上に座らされていた。後ろからの優しい愛撫に幾度となく軽い絶頂を迎えている。  
大きく上下する肩に軽く噛みつきながら、股間に潜り込ませた手首を奥へ押し込んでやる。  
「んっ」  
仰け反った拍子にウェーブのかかった髪が顔にかかる。その髪からも薔薇の香りがした。  
「…」  
白濁した頭の中にとある光景が浮かんだ。  
 
ある日垣間見た、アセルスと白薔薇。この姉の髪を手に取り、その匂いを嗅いぐ主の幸せそうな横顔。そして恥ずかしがりながらも、アセルスに身を任せている白薔薇姫。  
紫の木漏れ日が降り注ぐ中庭での一コマ。  
〜ダメなんだ〜  
今こうして、自分の腕の中にいるのに。自分の愛撫を全て受け入れ、素直に感じたままを声に出しているのに。自分の事を好きだと言ってくれたのに…  
〜この二人の間に、私は入れないんだ〜  
初めから分かっていた事でもあった。だから嫌いになりたかった。  
なのに、この人は私の心を乱すから…  
「キャッ…」  
白薔薇の身体がドサッとベッドの上に投げ出された。  
「…」  
無言でその両足を開くと、水晶姫は呪法を呟きはじめた。  
「それは!?」  
白薔薇には聞き覚えがあった。いつもアセルスが自分の上に覆い被さりながら唱える呪法。  
自分を快楽の極みに突き上げる為に、自分と一つになる為に唱える呪法。  
「んっ!くぅんっ ダメっ っっっんんんん!!」  
目が見えずとも水晶が何をしているのかが分かる。今、彼女の股間がどうなっているのか。  
「…はあっ うっ…くっう… っん…」  
「水晶…大丈夫?無理しないで…」  
 
「……っん 白薔薇姉様、お願い…受け入れて、これが私の…」  
「え? あっぐっ! んっふぅ…んっ!!   んぅ…」  
股間を割られるような異物感に歯を食いしばりながら、白薔薇は身体の力を抜き水晶姫を受け入れようと腰を浮かした。  
不慣れな為か、アセルスよりも乱暴な挿入。時おり鋭い痛みが背中を走った。  
「んっ…大丈夫…大丈夫よ、入ったわ…力入れないで、水晶」  
「は、入ったの?大丈夫?姉様…」  
勝手が分からない妹を落ち着かせるように、背中に手をまわす。  
「そう…大丈夫…動いて」  
その言葉を受け水晶は腰を降り始めた。創り出した男根が姉の秘唇にめり込み、引き出されていく。  
「あっ ああっ!!」  
組み伏せた華奢な身体が歓喜に震えるのが直に伝わる。  
〜姉様…す…〜  
想いを振り払い、水晶は腰を打ちつけながら、また別の呪法を呟きはじめた。  
夜も更け紫月の位置も変わり、二人の影も闇に飲み込まれていた。  
部屋中に響く喘ぎと肉打つ音と耳を塞ぎたくなるような粘着音が、水晶の新たな呪いをかき消していた。  
 
「ん?…」  
 
歓喜の極みに達し、痙攣するガーネットの股間から顔を上げたメサルティムは繭をひそめた。  
「何…コレ?」  
気がつけば、針の城全体に強い気が充満していた。アセルス?イヤ、違う・・・  
ダンっと浴室の扉が開き、眼にも鮮やかな緑のドレスを纏った女性が飛び込んできた。  
「翠緑!何事!?」  
「ふぇ?エメラルド姉様?」  
寵姫、翠緑姫は黒曜姫と石榴姫の有様には目もくれずに、悲痛な声を上げた。  
「この気!水晶の気です!姉様!!」  
 
「ジーナは簡単に言うよ…ボクの気持ちなんてわからないだろ?」  
裸エプロンで朝食の準備をしているジーナに恨みがましく声をかける"麗しの君"。  
「ええ、分かりませんとも!他の寵姫様達がお可哀想!!」  
「む〜」  
おもしろくなさそうにジーナの息子の両足を持ち上げ、父親がオムツを変えるのを手伝ってやる総統。  
アセルスもジーナの亭主も素っ裸なのがおかしいのか、赤ん坊は無垢な笑い声を上げている。  
「…素直だね、赤ちゃんは…うらやましい」  
「どんなに長く生きていても、素直な心はなくならないですわ!」  
台所からジーナの声が飛ぶ。  
 
「うぇ…筒抜けだね。」  
無言で頷く亭主。  
「とにかく!」  
ジーナが台所から出てきた。  
「お城にお戻りになったら、きちんと白薔薇様を"見て"あげてください!素直なお気持ちで!」  
「…ハイ…」  
「そこから仕切直しですわ!白薔薇様とも!他の寵姫の方々とも!!」  
「……ハイ…わかりました…」  
「ほんとに…」  
ジーナはやれやれと首を振った。  
「危なっかしいですわ!アセルス様。女心をわかってないから…」  
「…勉強します」  
「お城に戻られた時に、とんでもない事が起きてるかもしれませんよっ!」  
 
ふと気が付くと、自分の身体の上に女性が覆い被さっていた。  
〜ああ、水晶〜  
何気なしにそう思い、半身を起こす。  
この妹に快楽の極みまで押し上げられ、意識を失っていたのだろうか?やけに頭が痛い。  
ふと気が付くと自分の胸にもたれかかっている身体が薄く発光していた。淡い紫。  
 
ほんのわずかに届く月の光が反射しているのだろうか?こんな綺麗な肌は見たことがない。  
「水晶…キレイな肌ね…  !!?」  
見える!眼が見える!!  
「…どうして!?見えるわ…」  
「…よかった…姉様…」  
弱々しく顔を上げる水晶姫。  
「! あなた!!」  
復活した白薔薇の眼に写った妹姫の顔には明らかに死相が浮かんでいた。もはや生気がない。  
「見える?姉様…私が?」  
「まさか、あなた私の為に…」  
すっと頬を撫でる手をギュッと握りながら、白薔薇は水晶姫を抱き寄せた。  
「姉様…私を見て…?」  
「……」  
「姉様…私を見て…? 私…今、姉様のお顔を見てるから…」  
それは嘘だ。  
水晶の眼は今や何も写っていない。瞳はすぐ傍の姉の顔ではなく、虚ろに宙を彷徨っていた。  
「…見ているわ…水晶。あなた…キレイね…」  
「…嬉しい」  
 
白薔薇の握る彼女の腕から、ふっと力が抜けた。  
「ダメ!水晶っダメ!!」  
大粒の涙がこぼれ、死を待つばかりの妹の唇に落ちた。  
「泣かないで…泣かせようと思って、したんじゃないから…」  
「どうして?どうしてこんな真似を!?」  
「…アナタがキライだから…」  
「水晶…」  
「…だいっ…きら…い…」  
最後の言葉が唇からこぼれ落ちた。  
「水晶!? イヤッ…誰か!!誰かぁああああ!!」  
 
二日後、ファシナトゥール総統不在のまま、寵姫、水晶姫の葬儀が針の城内で、密やかに執り行われた。  
参列者の先頭に立つ黒の喪服と白の喪服。  
メサルティムと白薔薇姫は棺の主に最後の別れを惜しんでいた。  
「…見えるわよ…」  
「はい? 何かおっしゃいまして?白薔薇様」  
白薔薇はベール越しにメサルティムを見た。  
「あの娘の声が聞こえたの」  
「…そうですか」  
白薔薇は紫の日差しにまぶしそうに瞳を細めながら、天空を仰いだ。  
また声が聞こえた。  
〜白薔薇姉様 私が見えますか?〜  
                                「完」  
 
 

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