見たくない夢がある。  
しかし、その夢は決して自分を離そうとしない。  
絶望と後悔の地獄に自分を突き落とす。  
〜白薔薇ぁあ!!〜  
「っがぁっ!!」  
夢の中の自分が放つ絶叫でいつも叩き起こされる。  
「はぁはぁ…」  
荒い息をつきながら、ファシナトゥール総統アセルスは唇を噛んだ。  
「くっ」  
頭を振り、また見てしまった夢の残り香を振り払おうとする。  
ファシナトゥールの夜を妖しく照らす紫の月の光が寝室の窓から差し込んでいる。  
その光を少年のような裸身に浴びながらアセルスは両手で顔を覆った。  
「…っ」  
細い、本当に細いその肩が小刻みに震えていた。  
「……アセルス様…」  
その様子を見つめていた同衾者が静かに身を起こした。  
こちらも裸の女性だ。細身だがアセルスよりは女らしい、ふくよかな身体付きをしている。驚くのはその肌だ。白い。いや強い光を間近で浴びせれば透けてしまうのではないかと思わせるような不思議な色だ。  
 
「水晶姫…」  
「アセルス様…」  
優しく身を震わせる主をその胸に抱き寄せた女性は、アセルスの頭を優しく撫でながら彼女が少し落ち着くのを待った。  
「水晶…」  
「はい…」  
アセルスは水晶姫の胸の谷間に顔を埋めながら、忌まわしげに、呪いの言葉を吐くように言い放った。  
「なんでお前は白薔薇じゃないんだっ!」  
穏やかだった水晶の顔が歪み、やがて切れ長の瞳の端から一筋の涙が頬を伝った。  
 
「次に…おい…聞いているのか?我が君!」  
針の城の執務室でイルドゥンが今日のスケジュールをアセルス伝えていた。  
「…聞いてるわよ」  
うるさそうに手をヒラヒラ振って早く次を言えとせかすアセルス。  
総統としての仕事は、ほとんどこのイルドゥンやラスタバンがやってくれるのだが、中にはアセルス自身が腰を上げなければならない事もある。  
「ねぇ…」  
「何だ!?我が君?」  
えっらそうにイルドゥンが聞き返す。  
 
「オルロワージュ父様もこんな面倒くさい事やっていたの?」  
「当たり前だ!お前も今やこのファシナトゥールの総統なのだから………」  
相変わらずのイルドゥンのお小言を聞き流しながらアセルスは昨夜の事を思い出していた。  
 
「あっ」  
水晶をベッドに押し倒し、力ずくでその首筋に顔を埋めるアセルス。  
「あぅっ」  
水晶の肌に牙を突き刺しその血をすする。  
「あ゛…アセル…ス様っ そんな…ふかいっ ぐっんぅっ」  
純白の水晶のうなじが見る間に紫に染まっていく。いつもより乱暴なアセルスの行為に痛みと快感を同時に味わいながら、寵姫、水晶姫はその長い四肢をアセルスに絡め切なげに声を上げた。  
ジュ  
ようやく気が済んだのかアセルスが牙を抜いた。役目を終えた牙は見る間に普通の犬歯に戻っていく。  
「水晶姫」  
唇に残った紫の血を舌先で舐め取り、アセルスは妖しい笑みを浮かべた。  
「気持ち良かった?」  
「…はい」  
 
消え入りそうな声で主の問いに答える。  
「もっとしてあげる。して欲しいんだよね?」  
「……はい」  
瞳を潤ませながら水晶姫は言葉を続けた。  
「ご…ご寵愛下さいませ…アセルス様…我が…君」  
すぅっと細い指先が青白い顔を撫でる。その手を愛おしげに頬ずりしながらも水晶の瞳から流れ落ちる涙は止まらない。  
〜なんでお前は白薔薇じゃないんだ!〜  
主のあまりに無慈悲な言葉だった。  
「…何を泣いているのさ!」  
腹立たしげに若き総統は頬に当てていた手で、ぐいっと顎を掴んだ。  
「こんなに良くしてやっているのに、気に入らないんだね水晶」  
「あっ…痛っ」  
「もういいよ。後ろ向いて」  
乱暴に顎を離すとアセルスはベッドの上に仁王立ちになり、水晶姫に命じた。  
「…」  
首筋から流れる血は一向に止まらない。ただでさえ青白いイメージの顔を一層際だたせながら水晶は震える四肢に何とか力を込め、アセルスの指示に従った。  
「そのままお尻あげて」  
 
従順な寵姫の尻が自分に差し出される様を、無表情に見下ろしていたアセルスは無遠慮に脚の間に手を差し入れた。  
「あっ」  
朦朧としながらも下半身から送られてくる強い刺激に思わず声がでる。  
「何だ…」  
しばらく水晶の秘所をまさぐっていた指を引き抜くとアセルスはぺろっとその指を舐めた。  
「感じていたんじゃない…血、止めていいよ」  
「っく…」  
主の許しを得て、水晶姫は意識を集中する。  
「か…克己!」  
死に物狂いで唱えた心術は見る間に首筋に開いた穴を塞ぎ、その身体に失いかけていた生命力の復原作用をもたらしていった。  
「相変わらず…んっ…お見事…あっぁあんっ」  
水晶の尻の向こうではアセルスが自分の股間をまさぐっていた。  
その幼さを残した可憐な唇が、まるで唱うように何やらつぶやき続けている。やがて  
「んっんぅううん!!」  
ビクッと身体を震わしたアセルスは、両手で自分の股間からゆっくりと何かを引き抜くような動作をした。  
「はぁ…おまたせ」  
 
何ということだろう。彼女が両手をゆっくりと開くとソコには華奢な体つきとはあまりに不釣り合いな大きさを誇る男根がそそり立っていた。  
「水晶…あげる」  
囁きながらアセルスは目の前の尻を掴んだ。  
「あっアセルス様っ 私まだ…あっ!?ぐっんぅっ」  
制止する水晶の声を無視し、ゆっくりと入れていく。  
「あっ…水晶って…いつも…きつくって……いぃ」  
引きちぎらんばかりに枕を掴みながら、声も出ない寵姫を見下ろしながらアセルスはゆっくりと腰を使い始めた。  
「あっ…やぁっ」  
堪えきれずに声を上げはじめる水晶姫。だが、せめているアセルスもその美声を愉しむ余裕はなかった。  
「んっ! あっ…だめだっって…そんなに…ぅんっ締めないでっ」  
「ぃやっ あぁ 痛いっ あっ痛いですっアセルス様ぁ」  
「だったら、ぁん もっとっ濡らしてよ! あっまたっ…締めちゃ…イヤッ」  
ガクガクと水晶の背に上半身が崩れ落ち、尻を抱え込んだままベッドの上にしゃがみ込んでしまった。  
「あうっ!!」  
 
その拍子にアセルスのモノが無情にも水晶の中に根本まで突き刺さったようだ。水晶の身体が跳ねる。差し込む月光の中を舞う濃藍の長い髪、切なげにギュッと瞑った瞼をのせた貌。夜を共にするにはこれ以上何を望むのかと、思わせてしまうような美女だ。  
ただし、この女は違う。どんな美女であろうが、聖女の如き清らかな心の持ち主であろうが、致命的な違いがある。  
〜白薔薇〜  
そう、彼女ではない。  
「…水晶」  
身を貫いた強烈な感覚の余韻にまだ身をさいなまされている水晶姫に無情の声を浴びせた。  
「わたしより先にイくの?」  
「あ…も、申し訳…ありません」  
アセルスの股に尻を埋めたまま水晶は弱々しく主を振り返った。その涙に濡れた瞳の醸し出すなまめかしさを充分たんのうする。  
「わたしも、もっと気持ちよくしてよ」  
「えっ?」  
「してよっ」  
「あ…か、かしこまりました…」  
おずおずと、そして次第に大胆に水晶姫はアセルスの股間に据えた尻を淫らに振り始めた。  
 
「以上!」  
パンッと乾いた音を響かせてイルドゥンは大層な装飾がついた分厚いノートを閉じた。  
 
「終わり?…じゃ、出てって。悪いけど、一人にして。」  
「針の城」の城主の顔色は冴えなかった。寝不足のせいだけではない。水晶に対して自分がしてしまった仕打ちが朝からアセルスの小さな胸を締め付けていたのだ。  
「あと一つある。」  
イルドゥンはそんな主人の顔をじっと見ながら言葉を続けた。  
「オルロワージュ様は、ご自分の寵姫に対してあのような扱いはされなかった」  
「! 何よ…それ」  
「水晶殿の事だ!」  
いきなり核心を抉る相手の言葉に、すぐさま言い返せない。  
「……水晶が…告げ口したの!?」  
「何故そんな下卑た考えしかできぬ!」  
イルドゥンはアセルスに言葉を続けさせなかった。  
「水晶殿は今「針の城」の最下層の間でお休み頂いている。何があったのかはお話下されなかったがな!」  
「…」  
「先代オルロワージュ様は」  
「やめて」  
今度はアセルスが相手の話を遮る。  
「わたし…アセルスよ。父様じゃ…ないわ」  
偉大なるオルロワージュの娘は額に手を当てた。  
 
「もういいでしょ?朝から頭、痛いの…出ていって」  
「…分かった。…アセルス…水晶殿はお前が自分で選んだ寵姫なのだぞ…」  
「分かってる! 水晶の事…お願い…」  
「…失礼する」  
カッと一礼するとイルドゥンは踵を返し退室していった。  
不必要に広い執務室に一人きりになるとアセルスは頭を掻きむしった。  
〜なんて事を!わたしなんて事を!!〜  
固い机に額を打ち付ける。  
「あんな非道い事…水晶…どうしたら…許してくれる?」  
「そりゃあ、素直に“ゴメンナサイ”するしかないんじゃない?」  
いきなり頭の上から声がした。  
「ヒッ!」  
びっくりして頭を上げると目の前に見知った妖魔がニヤニヤしながら机の対面に頬杖をついていた。  
「いやぁ、アセルス様は陳腐な愛憎劇がホントよく似合うよねぇ〜」  
「ゾ、ゾズマ!?」  
ゾズマは無礼にもポンポンとアセルスの頭を優しく叩きながら同じ言葉を繰り返した。  
「ゴメンナサイって心を込めて相手に謝る。まずはソレさ」  
「う…」  
そんな事は分かり切っている。だが、今は水晶に会う事自体が怖いのだ。どんな顔をして会えばいいのだ?  
 
「まっ、相手は当分“眠り姫”みたいだから、気持ちの整理が出来たら会いに行けばいいんじゃない。」  
そんなアセルスの心中を察してか、ゾズマは悪戯っぽくウィンクした。  
「それより、どうだい?針の城の住み心地は?ファシナトゥールの総統って退屈じゃない?」  
「…変わってあげようか?」  
冗談だろ!という顔をしてゾズマは首を振った。  
「お断り。こんな城の中じゃ1時間だって我慢できないよ!アセルスだってそうだろ!?どうだい、やかましいイルドゥンには黙って、ちょっと遠出してみないかい?」  
「遠出?どこへ」  
「ドゥヴァンでも…」  
「ドゥヴァン?…零姫ね…」  
アセルスはゆっくりと立ち上がった。久しぶりに姫に会いたいという気分になった。だが、会ってしまえば彼女に繋がる記憶がイヤでも思い出してしまうだろう。自分をこの世界に導いたあの事故。ここでの父であるオルロワージュ殺し。そして…白薔薇。  
「わたし…忙しいの…総統ですから」  
「こんなところで何百年も暗く過ごしていくのかい?おかしくなっちゃうよ。たまには外の空気を吸わなきゃ」  
相変わらず人間みたいな事を言う奴だ。  
「行こうよ。総統さん。どうせ仕事なんて無いんだろ?」  
「……もう、ゾズマったら!」  
アセルスは本当に久しぶりに、素直に微笑む自分を感じていた。  
 
 
素晴らしい青空が広がっていた。ただ青いだけではない。まるで空全体が太陽の光を優しく反射し輝いているような空だ。  
「すごい…きれいだなぁ…」  
アセルスは何度も空を見上げ、目を細めた。  
「根っこの町のみんなにも見せてやりたいなぁ」  
ドゥヴァンの名所“占い広場”で気が済むまで占いまくってもらたアセルスとゾズマは、零姫が身を寄せる神社に向かってゆっくりと歩を進めていた。  
「…零姫…元気かなぁ?あれから一度も会わなかったし…」  
目的地に近づくにつれて、アセルスは気後れしてきたようだった。オルロワージュの事もあり、零姫はアセルスにとっては特別な女性なのだ。  
アセルスの複雑な心中なんかお構いなしという風にゾズマは脳天気に聞いた。  
「怖いのかい?お姉さまに会うのが?」  
「お姉さま?」  
「あんな事件を起こしたけど、零姫は“魅惑の君”の寵姫だった。君だってそうだっただろう?だったら、零姫は君のお姉さんになるんじゃない?」  
「…どうかな…父様は…わたしだって…寵姫なんて……ホント、わたしって何だったんだろ…」  
言いよどむアセルスの背をゾズマは優しく叩いた。  
「ほら、お姉さまがお待ちかねだよ」  
見上げた視線の先、山を登る石段の頂上に少女が立っていた。空から振る光の中でも一層の輝きを纏う少女。  
 
「零姫…」  
「よう来られた、“麗しの君”。ゾズマご苦労であったな…ひとまず下がってよいぞ」  
「お手柔らかにネ、お姉さま」  
悪戯っぽくウィンクするとゾズマはくるっと背を向け、登ってきたばかりの石段を下りていった。  
「ゾズマ!?」  
慌てて声をかけるアセルスを零姫が制止した。  
「奴の役目はここまで。ここからはわらわの役目じゃ」  
有無を言わせぬ迫力が、アセルスを黙らせる。その緊張した顔を見て零姫は初めて少女らしい笑みを見せた。  
「疲れたであろう、風呂でもどうじゃ?」  
「お風呂…」  
「わらわと一緒に」  
「…一緒に…?」  
「ファシナトゥールでも毎日女共と入っておるのじゃろ?」  
「……そうです…」  
真っ赤になりながらアセルスは小声で答えた。やはり零姫は苦手だ!何故か逆らえない。  
フッと笑いながら零姫は両手を差し出した。  
「え…何です?」  
「抱っこじゃ!風呂場までちょっと登り道だからの」  
 
零姫の案内した風呂と言うのはいわゆる露天風呂だった。神社の裏手に位置し、背の高い岩やこの地方独特の“竹”という植物の林に囲まれ外からでは、そこに風呂があることなど分からない。  
「浅い…これ、お風呂なの?」  
アセルスがびっくりして零姫に尋ねる。巨大な一枚岩をくり抜いて作ったらしい、その風呂は横には広いが深さは膝までもない。  
「そうじゃ、珍しいであろう。だがれっきとした風呂じゃ」  
しゃべりながら零姫は帯をほどき始める。  
「アセルス、お主も脱がんか」  
「うん…」  
しぶしぶアセルスも服を脱ぎ始める。“妖魔の君”となり、数人の寵姫を召すようになってからアセルスの肌は自分でも驚くほどにキメ細かくツヤが出てきている。寵姫達の血がもたらす変化だ。  
「綺麗な身体じゃ。さすが“麗しの君”」  
先に脱ぎ終えた零姫が目を細めながら、あらわになるアセルスの肌を愉しんでいる。  
「そ、そんなに見ないでよ」  
零姫の視線を意識しながらアセルスは見事な刺繍が施されたシルクの下着を外した。  
真昼の太陽の光に晒される2人の少女の身体。  
「この風呂はな、こうして入るのじゃ」  
先に湯船を跨いだ零姫は、湯の中でうつ伏せに寝ころび両肘を付いた。  
 
濃い緑色の湯から、姫の頭と真っ白いお尻だけがぴょこんと顔を覗かしている。  
「あ…可愛い…」  
思わず本音が口を出る。  
「? 何がじゃ?」  
「何でもないっ!何でもないよ!」  
姫の小さなお尻が可愛いです。なんて言おうものなら、ロザリオ神速ローリン雲身払車ツイスターでもたたき込まれそうな気がしてアセルスはブンブンと首を振った。  
「相変わらず変な娘じゃのぅ。早う入れ」  
促されるままにアセルスも湯の中に入り、零姫の隣に横たわる。  
緑の湯原にお尻がもう一つ浮かんだ。  
「ん〜気持ちいい!こんな格好でお風呂入るのって初めて!」  
「気に入ってくれたかの、“麗しの君”」  
アセルスはむずがゆそうに顔をしかめた。  
「その“麗しの君”ってやめて」  
「何故じゃ?もはやこの世で“妖魔の君”の称号を頂くのは“指輪のヴァジュイール”と“麗しのアセルス”しかおらぬ。名誉とは思わぬか?」  
「…別に、嬉しくないし…重たいだけだし…」  
「そうか」  
しばしの沈黙が流れた。その重苦しい雰囲気を崩そうとアセルスはワザとふざけた調子で大きな声を出した。  
 
「このお風呂って、お尻だけ冷たいよね!」  
「ん?そうじゃの…」  
零姫は隣のアセルスに湯をかけないようにゆっくりと身体を起こすと、アセルスのお尻に手を置いた。  
「ひゃっ!」  
びくっと身をすくめるアセルス。  
「確かに冷たいの…」  
小さな少女の手が、お尻をゆっくりといたわる様に撫で揉んでいく。  
「零姫…」  
「楽にしておれ…」  
小さな手は二つに増え、お湯から突き出た肉をマッサージしていく。  
「気持ちいいじゃろう?」  
「…うん」  
肌に食い込む指は時に強く深く、時に指先だけでアセルスをほぐしていく。  
チュ  
「あっ」  
少女の唇が尻に触れた。そのままキスの嵐を浴びせる。  
「やぁ、ダメだよ…お尻にキスなんて…」  
「綺麗な尻じゃ。もっと口付けたいぞ。何処ならいいのじゃ?」  
「そりゃあ…キスは唇だよ…」  
 
「後でそなたのキスを教えてもらおう。今はわらわのキスを教えてやる。」  
ぐっと両の親指が谷間を押し広げた。  
「わっ!」  
驚いたアセルスが止める間もなく、零姫の唇の先が谷底のすぼまりを奪った。  
「ダメッ! そこは一番キスしちゃダメなトコだよ…」  
「ほう、ならここなら良いのか?」  
尻のラインを伝いながら湯の中に沈んだ指は、何処に辿り着いたのだろう?見る間にアセルスの瞳が潤み始めた。  
「ん…」  
「ここにも口付けたいぞ…」  
肉体こそは少女に転生してはいるものの、零姫の正体はオルロワージュさえも虜にした第一寵姫である。少女の幼顔が妖しく微笑む。  
「零姫…わたしを…抱くの?」  
「そうじゃ…お主のことじゃ、抱かれたことはあるまい?」  
「あ…ダメ…熱いよ…零姫? このお湯熱いよ…」  
「…そうであろう?」  
クックッと零姫が意地悪く笑った。  
〜これ…ただのお湯じゃない!?〜  
獲物に認識されたとたん、緑の湯は隠していた牙をむいた。  
「あっ…かっ…!」  
 
お湯から与えれらていた暖はいきなり強烈な快感に転じた。  
〜何?お湯が気持ちっっいぃっ〜  
一瞬にしてアセルスの腕から力が抜け、お湯に顔を付けてしまう。  
慌てて顔を上げるとアセルスは再び驚愕した。  
「あっあぁ…」  
頬を伝い落ちる緑の水滴一つ一つが指先に感じるのだ。それも女の細い、女にしか分からない女体への力加減をわきまえた指に!  
顔だけではない。いまやアセルスの体中を無数の指が這っていた。まだ湯の中にある小さな乳房に至っては無数の掌で撫でられ揉まれ続けている。  
「あ゛っ あっ はぅっ」  
きけなくなった口を代弁するかの様に瞳から涙が溢れた。  
「ほぐれてきたようじゃのう…どれ、ちょっと腰を上げて見せてみぃ」  
零姫の細い指が滴に嬲られヒクついている肛門に押し当てられた。  
「ひっっ」  
零姫の言葉通り全身の筋肉が弛緩しているのか、指はなんなくソコに潜り込んだ。  
「そら」  
その指をかぎ爪の様に曲げて、零姫はアセルスの腰をつり上げた。  
 
「ああ…痛い…痛いよ」  
何とか振りしぼる声は何とも儚げだ。これが自分の寝室では、あれほど威圧的に寵姫達の身体を貪っていたアセルスの声とは信じられない。  
零姫の指がもたらす鋭い痛みから逃れようと無意識に脚腰に力が入り、アセルスは上半身を湯に浸からせながら高々と尻を掲げた。皮肉にもその姿は二日前に自分が水晶にさせた格好と全く同じだ。  
「やはり…もう開いておる…」  
零姫は股間に顔を近づけた。目の前にはアセルスのもう一つのピンク色の唇が刺激を求めて喘いでいる。当然、緑の湯はソコにも容赦なき淫靡な刺激を与えていたのだ。  
「んむ…」  
その唇をためらいなく口に含む。  
「あんっ! んんっ…あっああ!…」  
予告無しに濡れぼそっている秘所を吸われ媚声を上げるファシナトゥールの総統。  
風に揺らぐ竹林の音でももはや甘い声は隠し仰せない。  
「ん…んぅ…」  
熱い息を吐きながら零姫は小さな舌を這わせ、ピンクの肉襞ねじり込む。菊門に潜り込んだ指先も灼熱と化した中で優しく蠢き続けている。  
「はぁ…あっっ す、すごっいっ…いいっイイ…」  
湯の中で身体がのたうち、むき出しの尻を力一杯少女の顔面に押しつけるアセルス。波立つ湯がうなじを舐めあげ、固い風呂底に乳首が擦れる。  
 
「ああっ いや…ぁん! いやぁ!」  
「ん…んはっ これ、暴れるな…湯が…ああぁ…湯がっかかるっ んっ」  
上気した顔を天に向け、零姫はブルッと身を震わした。アセルスが跳ねる湯が彼女の身体にかかっていく。  
ほとんど隆起していない胸に乳首だけがツンと立ち、蹴り上げられた湯が淡い茂みにしか守られていない股間を襲う。  
「ヤダ…零姫…姉様ぁもっと…してっ あぁ…おっぱいっおっぱい痛いっ! もうやめてぇ!」  
湯から乳房を隠そうと腕を動かすが、それさえも新たな胸を襲う流れを生み出してしまう。  
「おねがい…いじめないでぇ…んぅっ!!」  
零姫の親指が包皮を剥き、真っ赤に充血したクリトリスに息を吹きかける。  
「はぁ…はぁ…こうしてくれるわ…」  
ピチュっとワザと音をたてながら、零姫は危険なほどに神経が集中している肉芽に吸い付いた。  
「ああぁあああっ!!」  
あたりをはばからず、歓喜の声が響いた。身体が海老のように跳ね、波立つ湯がせめる少女の身体に当たる。  
「んぅ!んっぅんっっ!」  
遂に耐えきれなくなり、膝を屈した零姫の腰が湯の中に落ちる。ほとんど余分な肉が付いていない若々しい獲物に湯がまとわりついていく。  
 
「あっん ふっんぅっっっ」  
湯から出ている零姫の上半身が悶える。中身は成熟し性の喜びを知り尽くしている女だが、その悦びを表現しているのは十代の肉体である。まだうっすらと産毛をまぶした背が悩ましくねじれ、ルージュを引くまでもない新鮮な唇にアセルスの蜜が光っている。  
気が付くとアセルスの声を聞きつけのか、何事かと鳥や天駈ける幻獣達が集まっていた。彼らの目の前で純白の肌を朱に染めた2人の少女は絡み合っているのだ。  
クリトリスを離した舌が一気に性器をなぞりあげ、ほぼ根本まで埋まっていた指を一気に肛門から引き抜く。残酷なまでの快楽。  
「ひっ!んんんっ!!!…ぁはっぁ …ダメ…もうダメ…許して…」  
いつの間にか本気で泣き出しているアセルスの様子を見て、零姫は名残惜しそうに最後に菊門を舌でねぶってやった後、彼女の尻から顔を離す。  
支えを失ったアセルスの腰が湯に落ち、そのしぶきに零姫が鳴いた。  
「いいぞ…いいぞ…アセルス…いまイかせてやろうぞ…」  
荒い息のまま零姫は唱い出した。いまだ淫らに波立つ湯面に手を近づけると詠唱の終わりと同時にスゥっと上げる。  
するとその手に引っ張られるように湯面が盛り上がり、その一部分がまるで噴水のように吹き上げ始めた。  
「アセルス…」  
逃れられない湯の愛撫に人形のように弄ばれていた彼女の手を取り、乱暴に立たせる。  
「ここに座れ…」  
 
耳元で囁かれた零姫の言葉の意味を、白濁とした頭で理解したアセルスの瞳は恐怖に見開かれ、やがて淫らに細まった。  
ここに座るのか。この緑の湯の噴水にむき出しの性器と肛門を押しつけるのか!  
「…ハァッ…」  
うっとりと目を閉じ、アセルスは鳥たちが固唾を飲んで見守る中、零姫の手によって勢いよく噴きあがる湯に腰を下ろした。  
「ああああああっ!!」  
その淫らな悲鳴に鳥たちは驚き、知性に長ける幻獣たちは顔を背けた。  
無我夢中でアセルスは腰を前後に振りはじめた。その様はまるで騎上位で責められている女性のようだ。  
両手で乳房をすくい上げ、乳首をちぎらんばかりにつまむ。  
「いいっ!ィクィクああっイク!いっちゃうっ!!」  
止めどなく涙を流しながらアセルスは自分を見下ろしている零姫に訴えかけた。  
その顔を見ながら零姫の指は自らの股間に滑り込む。  
「ああ…良いぞ…ああ…わらわも…アンッこんなに…!」  
「あっあっぅん! ああイクゥ!ああっイくぅ!!」  
「イイぞ…あぁ…そうじゃっ そうっ! あっ」  
「あああああああああっ!!!!」  
自分が上げる絶頂の声をどこか遠くで聴きながら、アセルスは意識を手放し深い闇の中に落ちていった。  
 
はっと目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。  
「あ!?…ここ…?」  
「わらわの家じゃ」  
「零姫…」  
彼女は布団の横にちょこんと正座し、悪夢にうなされるアセルスに団扇で優しい風を送り続けてくれていたのだ。  
「あ…もう、夜なんだ」  
「ゾズマにお主を連れてこさせたのはな、説教を垂れるためじゃ」  
団扇を仰ぐ手を休めずに零姫は厳しい顔で言葉を続けた。  
「何故、闇の迷宮に赴かん?場所は割り出してあるじゃろう?」  
零姫の話を聞きながらアセルスは布団を頭の上まで引っ張り上げてしまった。  
「臆病者」  
「だって…!」  
布団の下から反論するアセルス。  
「父様を殺したのに!何度も何度も父様の体を剣で突き刺してやったのに!!完全に殺してやったのに!!!迷宮は…迷宮は…!!」  
「崩れなかったな…ならば、自らの手で崩せば良い話じゃ」  
「だって…」  
「怖いのじゃろう?もし、自分が赴いても迷宮の扉を開けなかったら?…それが怖い」  
「怖いよ!」  
 
がばっと布団を跳ね上げアセルスは零姫を睨み付けた。  
「零姫に!あんたなんかにわたしの気持ちなんか…!」  
「このたわけっ!!」  
零姫が大喝する。  
「それで毎晩罪のない娘たちを嬲り者にして、うさを晴らしながら生きるのか?奴を殺すと決心した理由は何じゃ!?白薔薇を再びその胸に抱く為ではなかったか!?白薔薇はどうなる?闇の中でひたすらお主を待ち続けているあの娘は!?」  
零姫の言葉にアセルスはうなだれてしまう。やがて布団に涙のシミが広がる。  
「泣くな!顔を上げよ!!お主がすべきことは下を向いて泣く事ではないはずじゃ!」  
「でも…失敗したら…」  
「また挑戦するのじゃ。その延々たる命が燃え尽きるまで。それともあきらめた方が楽か?」  
「ヤダ…ヤダッ…!」  
「ならば、明日発て。結局、お主が選べる道は二つしかない。救うか捨てるか、じゃ」  
「父様に…勝てる?」  
「信じれば…な…。口づけしてたもれ…」  
「?」  
「先程頼んだ。お主のキスを教えてくれ。今のお主のキスを」  
「…うん…」  
そっと少女の唇にキスを落とすアセルス。しばらくして顔を離すと零姫の頬はポゥと赤く染まっていた。  
 
「素敵なキスじゃ…このキスをしてやれば水晶も機嫌をなおすぞ」  
「…イジワル。だれから聞いたの?」  
2人の少女は寝るのを忘れ、色々な事を語りあいながら夜を過ごしていった。  
 
あくる朝、覚悟を決め零姫の家を出たアセルスを迎えたのは、針の城にいるはずの2人だった。  
「水晶…」  
傍らのイルドゥンに支えられながら、やっとの思いで立っている女性は彼の手を離れ、ふらつく足取りで主に歩み寄った。  
「…アセルス様…」  
みなまで言わせず、その唇を優しく奪う。  
「ん…」  
「今まで…ゴメン…水晶」  
コツンと主の肩口に額を押しつけた水晶は涙の混じる声で答えた。  
「ずるいです…こんな優しいキスをした後で謝られるなんて…」  
その髪を指ですいてやりながら苦笑するアセルス。  
「アセルス様…白薔薇様を助けてあげて…」  
「…………必ず…」  
その身体をいたわりながら、そっと地面に座らせてやると“麗しの君”は決然と足を進めた。  
「オルロワージュ様は偉大なお方だった」  
イルドゥンが重々しく口を開く。しかし、アセルスは彼の方を見向きもしない。イルドゥンもかまわず続ける。  
「だが、今のファシナトゥール総統はお前だ!オルロワージュ様の力に遅れをとる事は許さぬ!!必ず!!!」  
イルドゥンの脇を通り過ぎアセルスは石段を降りていく。その背中にイルドゥンの言葉が飛んだ。  
「必ず2人で帰ってこい!!」  
アセルスの姿は既にイルドゥンの視界から消えていた。  
「おやおや〜」  
石段を下っていくアセルスに再び声がかかった。格好つけて鳥居の柱にもたれかかっているゾズマだ。  
「そこを行かれるは“麗しの君”ではありませんか?どちらへ?何をしに行かれるので?」  
「白薔薇の元へ」  
アセルスは歩を止めずに答えた。  
「夢の続きを見に!」  
〜完〜  
 

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