郊外の小さな一軒家。その庭に一人の男が降り立った。そこには様々な花や木が植えられ、今が夜でなければさぞ美しい光景が見られたことだろう。
しかし、そこに薔薇だけがない。
それに気がついた男は舌打ちしたい気分になった。そんなにも忘れたいのか・・・。
男はそのままドアも開けずに家の中へと移動した。ベッドの上に腰掛けていた女が男のほうを振り返る。白いシャツに黒のパンツ。ユニセックスな服装を好むところは変わっていない。しかし、かつて翠緑に輝いていた彼女の髪は今は柔らかなブラウンへと変わっていた。
「やあ、イルドゥン。こんな遅くにレディーの部屋を訪ねてくるなんていけないなあ」
驚いたそぶりもなく、彼女はそう軽口を叩いた。
「何度でも来る。お前が承諾するまでな」
そう言いながらもイルドゥンは今夜もその望みが叶えられることはないだろうと半ば諦めていた。
「アセルス、ファシナトゥールへ帰れ。新たな王はおまえしかいない」
何度も繰り返した問いだ。だが、言わずにはおれなかった。
郊外の小さな一軒家。その庭に一人の男が降り立った。そこには様々な花や木が植えられ、今が夜でなければさぞ美しい光景が見られたことだろう。
しかし、そこに薔薇だけがない。
それに気がついた男は舌打ちしたい気分になった。そんなにも忘れたいのか・・・。
男はそのままドアも開けずに家の中へと移動した。ベッドの上に腰掛けていた女が男のほうを振り返る。白いシャツに黒のパンツ。ユニセックスな服装を好むところは変わっていない。しかし、かつて翠緑に輝いていた彼女の髪は今は柔らかなブラウンへと変わっていた。
「やあ、イルドゥン。こんな遅くにレディーの部屋を訪ねてくるなんていけないなあ」
驚いたそぶりもなく、彼女はそう軽口を叩いた。
「何度でも来る。お前が承諾するまでな」
そう言いながらもイルドゥンは今夜もその望みが叶えられることはないだろうと半ば諦めていた。
「アセルス、ファシナトゥールへ帰れ。新たな王はおまえしかいない」
何度も繰り返した問いだ。だが、言わずにはおれなかった。
オルロワージュを倒したことによって、アセルスのなかに流れていた彼の血の呪縛は解け、彼女は人間に戻った。
同じく、オルロワージュの力によって闇の迷宮に囚われていた白薔薇姫が解放されるのを見届けた後、アセルスはファシナトゥールを去った。
後に残されたのは主のない針の城と統治者を失い混乱した街だけである。
「あなたがやればいい」
だがイルドゥンの要求に、アセルスはにべもなくそう答えた。
セアトもラスタバンも死に、もはや城内に残った上級妖魔はイルドゥンだけである。零姫もドゥヴァンに戻り、ゾズマが統治者になどなりたがるわけがない。
「それに私はもう人間に戻ったんだよ。妖魔の王になんかなれるわけがないし、なるつもりもないよ」
それはイルドゥンも十分わかっていた。しかし・・・
「俺はそんなこと望んでいなかった」
主を裏切ってまで、アセルスに手を貸したのはただ彼女に惹かれていたからだ。
決して自分がかわって支配者になりたかったわけではない。悩みながらも明るさを失わず、
あくまで前向きな彼女を愛し、その望みを叶えてやりたかっただけだ。
だが、今アセルスがその望みを叶えたことを素直に喜べない自分がいる。
本当に妖魔から人間に戻ることができるなど思ってもいなかった。
なんとなく、いつまでも共にいることができるような気がしていた。
「そんなこと」がファシナトゥールの支配者となることを指すのか、
それともアセルスが人間に戻った事を指すのか、自分でもよくわからない。
「いくら言われても無駄だよ。私は二度とあそこに帰るつもりはない」
あくまで拒絶するアセルスに対し、次の言葉を探しながら、何気なく視線を動かした彼は凍りついた。
部屋の隅に掛けられた純白のウェディングドレス。それが何を意味するのか。
イルドゥンがドレスに目をとめたことに気づいたアセルスは実にあっさりとその答えを出した。
「そう…、わたし結婚するの。だから、なおさらあそこには戻れない」
とどめだった。彼女は自分のもとから去り、二度と帰ってはこない。
そのことをこれ以上ないほど決定的に突きつけられた。
許せない。
「…イルドゥン!?」
気が付いたら、彼女に掴みかかっていた。そのまま、服を引きちぎる。
「イルドゥン!放せ!」
激しく抵抗する彼女に構わず、押し倒した。アセルスの下着は剥ぎ取られ、その胸が露わになった。
そのとき爪で傷つけてしまったのか、左の乳房に小さな引っかき傷が出来ている。
その傷からにじむ血の色に彼はさらに逆上した。その傷に牙を突き立て、血を貪るように吸い始めた。
「イルドゥン!やめて!」
アセルスは狂ったようにもがき、体を引き離そうとするが、両腕を押さえられ、どうにもならない。
「やめてよ!なんでこんなことするの!?」
その言葉に、ようやくイルドゥンは吸血をやめ、顔をあげて答えた。
「……本当にわからないのか?」
その迫力にアセルスは一瞬、言葉を失った。
イルドゥンはさっきまで血をすすっていた乳房を、今度はゆっくりと舐めはじめた。左手で乳房を揉み、乳首を口に含む。
「……あっ」
アセルスはびくっと体をふるわせた。彼はそのまま右手でパンツを脱がしはじめた。それを足首までずらすと、下着に手を入れそこをまさぐる。
「あぁっ!やめて、お願い……」
その嘆願をわざと無視するように、いっきに下着をずり下ろした。
一糸纏わぬ姿になったアセルスの両腕を押さえつけたまま、じっと彼女を見下ろして言った。
「この体、他の誰かに見せたことはあるのか?あるだろうな…」
「関係ないだろっ」
「誰にだ?相手の男にか?主上にか?ああ、それとも…白薔薇様に?」
冷たくそう言うと、イルドゥンは薄く笑った。
アセルスは怒りと屈辱で顔を赤くした。自分だけでなく、最も大切な存在だった白薔薇まで嘲られたように感じた。
「放せ!放せえぇ!!」
自分を押さえつける腕を振り払おうとして彼女は気づいた。力が入らない…。
それは吸血行為によってもたらされた脱力感によるものだったのだが、アセルスは気づかなかった。
一方、イルドゥンも自分の発した言葉によって衝撃を受けていた。そうだ、彼女はただの一度も自分のものであったことはなかった。
かつて彼女の心を占めていたのはオルロワージュや白薔薇姫で、そして今は、自分の知らない誰か。
自分がそうであることはなかった。ただの一度も。
自分の体の下で、アセルスが必死でもがいている。あれほど焦がれていた存在が。手の届かなかった女が。
イルドゥンは強く乳房を掴んだ。
「痛い…っ」
思わず、悲鳴をあげたアセルスの唇を塞ぎ、舌を入れる。存分に口内を犯した後、ようやく唇をはなした。
今度はやさしく乳房を愛撫しながら、下に手を伸ばし花芯を刺激する。
「……ああっ」
アセルスは声をあげて、体を捻じらせた。イルドゥンは乳房を解放し、秘所を舌で責め始めた。
ぐちゅぐちゅと音をたてて刺激する。
「い、嫌!…んっああっ」
「何が嫌なんだ。こんなに感じているのに」
冷たく笑ってそう答えながら、そろそろ頃合いだと感じた彼は屹立した自身を取り出し、アセルスの秘所にあてがった。
それに気づいた彼女が腰を引いて逃げようとするのを、足を掴んで引っ張り戻した。
「イルドゥン、やめて!やめてよ!」
やめるつもりなどない。
激情をぶつけるように挿入していった。
「いやあっ!いやーーー」
きつい締め付けに今にも果ててしまいそうだ。イルドゥンは何度も何度も強く撃ちつけるようにアセルスを責めたてた。
淫液が蜜壺から溢れるように湧き出している。
「犯されてこんなに感じているのか」
「…違う」
「何が違うんだ?相手の男に申し訳ないとは思わないのか?」
「やめて…」
「お前みたいな女が普通の人間として幸せになれるわけがない。過ぎた夢だったな」
「やめて!……あっ」
アセルスの内部が激しく収縮する。イルドゥンはアセルスが絶頂をむかえる気配を感じていた。こちらもそろそろ限界のようだ。ひときわ強く撃ちつけて、昂ぶりを放った。
「…うっ」
「ーーーーっ!!」
声にならない叫びをあげて、アセルスも絶頂に至った。
射精後の虚脱感と共に罪悪感が襲ってきた。アセルスは茫然としているようだった。
まともに顔を見ることが出来ない。この先も二度と顔をあわせることはないだろう。
このまま何も言わずに出て行こうとも考えたが、彼女の呻き声で異変に気づいた。
「アセルス、どうした!?アセルス!!」
裸のまま、のたうちまわる彼女を見て愕然とした。髪が緑色へと変化しつつある。
さっき自分の牙を突き立ててできたあの傷も塞がり、跡形もない。
そこで、ようやく気がついた。自分の行った吸血がその原因だということを。妖魔の吸血がもたらすものを。
アセルスもまた自分の体に生じた変化に気づいていた。それが何を意味するのかにも。
「うそ、うそだ。こんな、こんな……」
すっかり緑色へと変わった自分の髪をかきむしり、しばし茫然自失していた彼女がふと顔をあげ、
凄まじい目でイルドゥンを睨みつけて言った。
「許さない」
その瞳。人間となってからは久しく見ることのできなかったあの激しさ。
「私はもう一度、人間に戻る。絶対に。あなたを殺して」
オルロワ―ジュによって半妖になったときとは明らかに状況が異なる。
しかし、彼女は万に一つの可能性に賭けたいのだろう。それはイルドゥンにも理解できた。
「…なら、俺を殺しに来い。針の城に俺はいるから」
そう言い残し、彼は夜の闇へと消えていった。
ようやく、あの方が零姫様を追い続けた気持ちがわかった。俺はこれをこそ望んでいたのだ。
アセルス、俺の最初の寵姫。俺は針の城の主となろう。そしてお前を待つ。
忘れ去られるよりは憎まれるほうが遥かにマシだから。
そう、俺の望みは今こそ叶ったのだ。
〜完〜