金色の美しい髪をなびかせながら、男が空に浮かぶ満月を見ている。男はかなりの美男子だが、何者も受け付けない、寄せ付けない雰囲気をもっていた。  
 男の視線を受けながら、満月は光を放ち輝いている。男と満月、一枚の絵になるような、幻想的な光景だ。  
 どうやらここはバルコニーらしく、綺麗に作った花や草が並んでいた。地面は石造りなのに、とても頑丈なつくりだ。後ろでは、巨大なホテルが聳え立っている。  
 もう夜も深けた為、ホテルの窓にもほとんど明かりが見えない。だからこんなにも満月が綺麗に見えたのだった。  
 あたりはまったくの静寂であり、誰の声もしない。男の息の音さえ聞こえはしない。  
 だが、男に一人近づく者がいる。緑色の皮の服とスカートをはいた、男と同じく金の髪の色を持つ女だ。女の体が、男の影に重なる。  
「…エミリアか。何の用だ」  
「ブルー、話があるの」  
 ブルーはちらりと見ただけで、また空に見上げる。まるで興味がないというように。  
 そのしぐさに苛立ったエミリアは、カツカツと歩み寄ると肩を掴む。それも思い切り力をいれて。ブルーの顔が苦痛に歪む。  
「…痛い」  
「とりあえず来て!」  
 エミリアは手をとると、一生懸命引っ張っていく。離そうと思えば、離せるのだが別に抵抗する事もないと思ったのか、律儀にもついていっている。  
 二人の足は、月明かりを浴びたバルコニーを抜けホテルに戻った。エレベーターを使い、どんどんと最上階の近くまで上がっていった。  
 チンという音がすると、ホテル最上階の数階下でエレベーターのドアが開く。まるで、ブルーを逃しはしないとでも思っているのか、とびだすと一直線に奥の部屋に向かっていく。  
「話というのは何だ」  
 ブルーは絶えず聞いて見るのだが、一言も喋らない為、まったくらちがあかない。とうとう部屋の中に連れ込まれてしまった。  
 真っ赤な木製のドアをあける。部屋の内部は暗かったが、ライトをつけると驚くほど明るくなる。  
 
 最上階に近いということで高級な部屋かと思ったら、意外とシンプルなつくりだ。ベッドやテレビ、シャワールームやトイレなどの必要な設備以外にほとんど物が無かった。  
「ベッドでいいわ。座って!」  
 エミリアが怒ったように叫ぶので、いぶかしげな顔をしながら簡単なつくりのベッドに腰掛けた。  
 かなりフカフカとした作りでとてもあったかい。人が使った形跡など無いのに。これも何か仕掛けをしているのだろう。故郷のマジックキングダムでも見たことが無い。  
 ブルーが様子を見て見ると、小さなボトルを手に取り直に酒を口に注いでいる。自分の気持ちを落ち着けようとしているのだが、ますます興奮したように見える。  
 自分では落ち着いていると思ったのか、ブルーの隣に座った。勢いが良すぎるため、ギィッと嫌な音を立てた。  
「話があると聞いたが?何のことだ」  
「…ブルー、何であなたは術の素質が欲しいの?  
「最高の術使いになるためだ。マジックキングダムで認められるためにやっているだけだ」  
「本当にそれだけ?今日なんて、麒麟を殺してあの世界を壊してまで空術を手に入れたわ。何か他に理由はないの」  
 酒の臭いをプーンと漂わせながら、矢継ぎ早に言葉を投げつけられる。今日会った麒麟を殺した事を言っているのだ。  
 麒麟が持つ空術の素質を得るために、あのお菓子や夢があふれる世界を壊した事を怒っているのだろう。  
 ブルーにしてみれば仕方ない事だった。自分の目的を果たす為ならば、何でもやる。そうキングダムを出たとき決めたのだ。  
 だがそれでも後味は、けっしていいものではない。自分の術が、仲間たちの刃が麒麟の皮膚や鱗を切り裂き血しぶきが飛び散るたびに良心がいたんだ。  
 考え事をしている間に、目の前にエミリアの美しい顔が近寄ってくる。モデルだった容姿は、美しい。下手をすると、堅物なブルーでさえ目を奪われてしまう。  
「そ、それは…」   
「それは?何なの!」  
 酒が回ってきたため、エミリアの顔がどんどんと赤くなる。ますます酒の臭いは強くなり、鼻を抑えて話をしたくなりそうだった。  
 
 話してしまえば、ここから出してもらえるかもしれない。ブルーはそう思ってきた。  
 もうこれ以上かくしても仕方ないと思ったのか、ぽつりぽつりとマジックキングダムで命じられた事を話し始めた。  
 試験として、素質を集める事を決めた事。自分がどれだけ望まれた場所にいて、期待されているかということ。双子の兄弟がいる事。  
 初めは興味ありげに聞いている様子だった。マジックキングダムのことなど、ほとんど知らないのだ。話に耳を傾ける。  
 そんな楽しい話だったが、最後の言葉を聞いた時、大きなショックを受けた。  
 術の力を高めるために、双子の仲間を殺すということに。そして決戦の時はすぐ近くに迫ってきていると言うことに。  
「…なんで?なんで、殺さなくちゃならないの!そんな理由で、しかも兄弟を!」  
「なぜ?不思議な奴だな。その事に疑問を持つ事は無い。選ばれた者として当然の事だ」  
 熱く叫ぶエミリアとは対照的にブルーは冷たく言い放つ。  
「それで…もし自分が負けちゃっても怖くないの?だって、死んじゃうのよ」  
「それは、それだ。自分の力が足りないだけだ。仕方が無い」  
「仕方ない、って。そんなの…ないよ」  
 ブルーにはわからなかった。なぜこんなにもエミリアが自分のことに言及するのか。好奇心なのか、ただのおせっかいなのか。  
 エミリアは、そのまま押し黙ってしまった。髪が垂れ下がり、顔が良く見えなくなる。ぶつぶつと独り言が聞こえる。  
「もういいだろう?そろそろ帰らせてもらうぞ」  
 ベッドから立ち上がると、ドアに向かって歩いていく。もう話すべきことは話した。あとは自分の部屋にでも帰って眠ってしまおうと思う。  
 兄弟との戦いも、もうすぐなのだから。   
「まって」  
「ん?」  
 後ろから聞こえた声に振り返る。すると目を疑うようなことがおきていた。  
 エミリアが己の服に手をかけて脱ごうとしているのだ。まるで予想がつかない事をしている。  
 
「な、何をしている?」  
「…ブルーが行っちゃう前に、いい思いさせてあげる」  
「なんだと。どういうことだ」  
「だから抱かせてあげるって言ってるの」  
 エミリアが突拍子の無い事ばかりを言うおかげで、もうブルーは混乱している。  
 どういうことなのか、さっぱりわからない。確かに、ブルーはもうすぐ戦いの場に行く。だが、その前にいい思いをさせるとはどういうことなのだろう。  
 いい思いというのが、男女の関係を暗示している事はわかる。が、なぜ自分なのかそれがわからなかった。  
「くだらない」  
 きびすを返して、再びドアに向かう。もう相手はしたくない。  
「待って!」  
 走り出したかと思うと、ブルーの体にぶつかってくる。のしかかってくる重みに耐え切れず、床に倒れてしまった。  
「何をす……んっ!」  
 睨み返そうとしたその顔めがけて、エミリアの顔が近寄ると唇を寄せる。倒れた格好なので抵抗はおろか、よける事も出来ず、唇を奪われてしまった。  
 乾いた唇に、真っ赤な口紅をつけた唇が押し付けられる。酒の匂いが再び鼻をついた。  
 そのまま何十秒もの時がながれる。だんだんと息苦しくなったため、口を離す。息つぎをしながら、お互いの顔を見た。二人ともほほが真っ赤になり、汗が滲み出している。  
「あ、頭が…。変だな」  
 さきほどから頭がぐらぐらとゆれる。何かが頭の中で、騒いでいるかとも思える。  
 この原因は何かと思った。頭をよぎったのは、さきほどのキスの時に何か薬を、口の中にいれられていたということだ。  
 何の薬かは、よくわからなかった。今は目の前がくらむ。足がふらつく。気分が悪くなっていく。  
 
 そしてそのまま床に倒れてしまった。何とか起き上がろうと力をいれ、よろよろと立ち上がる。  
 ぼんやりとした目でエミリアを見ると、さきほどと同じように服に手をかけている。もう抵抗する余力が無い。それほど強い薬だったのだ。  
「見て…」  
 皮の服とスカートを脱ぎ去る。服は地面にバサッと落ちた。ライトで影を作り、ブルーの目の前に立つ。生まれたままの裸で。  
「あ…」  
 エミリアの体は、とても美しい。きれいなだけではなく、プロポーションが整っている。モデルとして活躍してきた為、体を鍛えているのだ。  
 適度についた筋肉が、この美しい体を保っていた。意外と大きくふっくらと膨らんだ胸に、まるで腕で包み込めそうなほど細い腹や腰つき。  
 ブルーの目は、その白く輝く体に吸いつけられていた。  
「ふふふっ」  
 そんな様子がおかしいのか、笑っている。視線を気づかれた為、つい下を向いてしまう。女性の体になれていない為だ。  
 こんなに容姿がいいブルーなのに、女性とつきあったり関係した事は無い。興味を持つ事も多少はあったが、長く続いた修練の最中に十分に楽しむ事など出来なかった。  
 その事を今は少しだけ悔やんでしまう。もし誰かと付き合ったり、ある程度の経験をしていれば、こんなにあたふたする事はないのだろう。  
「ブルーも脱いだら?それとも、脱がせてあげようか」  
 まるで悪戯をした子供のように笑いながら、手を伸ばして服に触ろうとする。慌ててその手を払いのけ、自分の手で服を脱いでいく。  
 こんな所で軽んじられるわけにはいかない。不思議にそんな焦りに襲われる。たどたどしい手でなんとか、脱いでしまうと部屋の片隅へ放り投げた。  
「…脱いだぞ」   
 目の前には、裸のエミリア。そして自分。不思議なことに裸同士だと、恥ずかしいということを感じなくなっていた。  
 エミリアはそのまま近づき、ブルーを抱きしめてやる。膨らんだ胸があたり少しこそばゆく感じる。目の前に見える顔はやはり美しかった。   
 
 ブルーも両手を背中に回しゆっくり力をこめていく。お互いの体が密着した。皮膚越しに鼓動と暖かさを感じる。  
 女性特有の皮膚のやわらかさに触れることで、なぜだかとても安心してしまう。まるで母親に抱かれている頃を思い出すようだ。  
 ブルーの首を持ち、自分の胸に持ってくる。胸の突起に口元を寄せさすと、舐めてと言った。  
「…あ、あああぁ」  
 うつろな目で、舌を使うとぺちゃぺちゃと舐めてみる。けして美味しいものであるわけは無いが、取り付かれたように舌を使う。するとどんどんと堅さを増していく。  
 興奮しているため、目が潤んできていた。胸を赤ん坊のように吸い舐められることに気持ちよくなっていく。肌の感度はかなりいい。  
「こっちも」  
 もう一方の乳房を押し付ける。頭は抑えられているので、しょうがなく手を使いもてあそんでやる。膨らんだ胸はまるでゼリーのようなゴムのような手触りだ。  
 ぽよんぽよんと小気味よく弾み、手に吸い付いてくる。人差し指と親指を使い、こちらの突起もくりくりとこね回してやった。右に左にこねるごとに、頭を抑える手に力が入る。  
 何度も舐め、つばやよだれをベッドにたらす。赤ん坊のように一生懸命に、頑張って奉仕していた。  
「もういいよ。ブルー。今度は私がやってあげる」  
 そうしていたら、なんとエミリアがブルーを離し、今度は自分がやってやるといってきた。何をするのか、待っているとエミリアは驚くべき事をしてきた。  
「えっ!」  
 そそりたつブルーのものに、なんと口を近づけてきたのだ。そして舌で一度なぞり味見をすると、ぱっくりと開いた口で咥えてしまった。  
「くううううぅぅぅ」  
 つい漏れる声を手で抑える。思わず放出してしまいそうだ。  
 口の中は暖かく、ザラザラとした舌が全ての個所を余す所なく舐めていく。余った手は玉の方に近寄り、握ったり転がしたりする。  
「エ…エミリア」  
 汗がいっそう多く流れる。もう耐え切れない。  
 
「駄目だ。…うおっ」  
 そう呟くと、激しく腰を振り口の中へ精液を流し込んだ。それをひとつも残さずにゴクゴクと飲み干していく。  
 だが全ては受け止めきれず、少しだけだが白い精液の残りが口から流れ出た。それさえもすくいとりエミリアは舐めていった。  
「お疲れ様。…でも、一番大事なところがあるの」  
 エミリアは腰を浮かす。そうするとピンク色のそこが目の中に飛び込んできた。思わずゴクリと唾を飲んでしまう。  
(これがエミリアの…か。不思議だ)  
 そのまま体を寝かして、エミリアが繋がってくるをまつ。自分はあまり動けないし、自分から下手に失敗して赤恥を晒すのは嫌だったからだ。  
 エミリアの方も乗り気のようだ。精液の残る舌で口のまわりをペロペロと舐めて微笑む。  
 モデルは関係なさそうだが、まるで娼婦にでもなったかのようだ。役を演じているのではないか、とブルーには思えた。  
「それじゃあ…いくね」  
 エミリアは体を仰向けにしている状態のブルーの上に乗っかっていく。どろどろのピンク色のそこは、生物のように天井を向くそれを見つけ飲み込んでいった。  
「うあっ!」  
 内部はまるで竜巻のようだ。いや、自分の物を包み、体の中を快感が駆け巡っていく。それがまるで竜巻のように感じた。  
 ドロドロと溶けた熱い泥のようにも感じる。初めての体験だ。まるで夢のような気分に一瞬で襲われていく。  
 エミリアは歯をのぞかせながら、ニヤリと笑う。それがまるで娼婦のように淫らで淫乱に見える。  
 モデルという職業の関係で、このような事をしていたとは思えないが、それでも男を誘う力を何時の間にか身につけていたに違いない。  
「小さな乳首ね。ブルーの体ってきれいでいいなぁ…」  
 手をあばらの骨が浮いている胸に置いた。指でピンク色の乳首をいじっていく。  
「くぅ。な、なにをいっている。お前の体もきれいだ。私なんかよりもずっとな…」  
「ふふ…うれしい」  
 
 ほほを赤くしながら、今度はまだ精液の匂いが残る口で、乳首を舐め始めた。  
 まるで女のように白い肌に、ピチャピチャと音を立てながら、ゆっくりと舐める。じかに乳首は責めない。少しずつじらしているのだ。  
「エミリア、うぅう。つ、つらいぞ」  
「ごめんなさい。ブルー。ちょっと意地悪だったね…それじゃ、もう終わりにしようか」  
 独り言のようにつぶやいたかと思うと、いきなり大きく飛び跳ねるように動いた。もちろん、腰がつながっているので、直接ブルーにも刺激が来る。  
 腰を責められ、つい声を上げてしまいそうになる。だが、ここで声を上げてしまってはまるで馬鹿のように見られると思い、歯を食いしばった。  
「別に声だしてもいいのに。馬鹿になんてしないよ」  
 口元からハッハっと息を吐き出しながら、何度も何度も飛び跳ねる。ぐちゅぐちゅと音がして、二つがつながっている場所から蜜が染み出る。  
 もちろん時間がたつごとに、どんどんとテンポも速くなっていく。甘い声も、それと同じくして増えていった。  
 エミリアだけが快感を感じえているわけではない。ブルーも同じように体の奥底からこみ上げる物を感じていた。  
 さっきあんなに出したのに、もうこんなにも沢山の欲望にまみれている。堅苦しい自分とは思えなかった。  
(これはただ単に、女との交じり合いのせいなのか?それともエミリアだからなのか?)  
 真っ白になりそうな頭の中でもやもやした何かをと考えていた。  
 もう限界は近い。息を整えつつ、再度発射の準備をする。結果的に中に出してしまうが、しょうがなかった。  
 エミリアも特に気にしていないようだ。自分の肉を動かし、発射を促している。肉の中の細胞のひとつひとつが、それをいたぶる。  
 これがミミズ百匹とでもいうのだろうか。それほど欲望を誘い、また締め付けるいいものだった。肉には愛液でコーティングがされ、なめらかにモノを飲み込む。  
「で、出る。出るぞ。…エミリアァッ」  
 
「ああぁっ!いいよ。だ、出して…いいから!出してぇ」  
 それが合図だった。両手を使い、太ももと抱えるように下から固定する。細い腕からは考えられないほどの力で握り締めた。  
 モノがブルルと振動したかと思うと、一気に溜め込んだ精液を放出した。白い精液は尿道をとおり、得もいわれぬ快感を送る。  
 そして先端からついに全ての生命のしまいこまれた精液が、エミリアのそこに送り込まれていった。  
「あー!いいっ!出てるっ。中で…中でぇっ!!」  
 長く伸びた爪が背中に突き刺さり傷を作る。痛くはあるが、そんな事はこの天にも上るような気持ちとは比べ物にならない。背中から血が流れる中、必死に体を固定する。  
 自分のものがどんどんと大きくなるのを、ブルーは感じていた。血があつまり、少しでも多く精液を送るようにと務める。  
「ぐうあぁぁ!うおっ!くそっ!で、出てるぞ。こんなにも…!」  
 ブルーの手はしっかりと太ももを掴んで離さない。こんなにもクールで華奢な男が、情欲と雄の本能にかられていた。  
 内部に出た精液は、全てそこが飲み込んでいってしまう。やがて数分もたつと、赤くなるほどに力をいれていた手をだらりと離してしまった。  
 最後の一滴まで搾り出した時、二人は目を合わせた。美しい何も考えていないような純粋な目だった。まるで赤ん坊のような風でもある。  
 二人はハァッと息を吐くと、横になってしまった。二人は汗まみれだった。  
 ベッドの上で会話もしないまま、長い時間だけが過ぎていく。  
 だが温まった体も、寝ている間にどんどんと冷えてくる。時間がたつごとに心の中が空っぽになっていくようだった。  
 そのまま、眠ってしまおうかと思ったとき  
「ごめん。つい、やりすぎちゃった…」と声がきこえた。  
 後ろを向いたまま、エミリアは泣きそうな声で話し掛けてくる。金色の髪は枕の上から流れる川のように垂れている。  
「いや、いいさ。エミリア。お前が私の事を思ってしてくれたのだから。別に悪く思う事など無い」  
 
 指を目の前の金色の髪に寄せ、指のすきまを通らせてもてあそんでいた。  
「それより大丈夫か。あんなに激しくして。…なれていない私だから、気持ちよくないだろう」  
 つい気遣いをしてしまう。男の自分はどんなになっても大丈夫だが、エミリアは女で受身の体だ。もし手荒にしていたら、何か問題が起こるかもしれない。  
「大丈夫。…大丈夫だから」とだけ言うとひっくひっくと泣きじゃくる。   
 エミリアの顔が見れないまま、ブルーは目を閉じた。  
 もうこれ以上の会話は不要だろう。エミリアにかける言葉はもう不思議と見つからない。話したいことはたくさんあるのに、投げかけたい言葉はあるのに口を割って出ない。  
(朝になったら…どんな顔をしようか)  
 そんな事を思いながら、体の力を抜き目を閉じて眠りについた。  
「遅いな」  
 ブルーはついに戦いの日を迎えた。  
 あたりは草やコケが生えた荒廃した大地だ。夜の為、星が輝く。その中のいくつも地面から生えた巨大な岩の柱に立ち、兄弟を待つ。これから行われる殺し合いをはじめる為に。  
 エミリアはこの戦いに来てくれなかった。行きたくないとだけ言っていた。マジックキングダムの隠された儀式に、来れるはずも無いのだが少しさびしく思う。  
 そんな時、腰の袋に何か異物感を感じる。最低限の荷物しか持ってきていないはずなのに、不思議そうに首をかしげた。  
「何だ?」  
 
 手を入れ袋の中をまさぐると、中から大きな真珠が出てきた。とても大きく美しい真珠。何か見覚えがあると思ったら、これはマンハッタンで売っているパールハートと気づく。  
「買ったのか?私の為に」  
 光り輝く真珠を手に握っていると、エミリアのことが思い出されるようだった。ブルーの身をあんじ、この真珠を買ったのだろう。  
 エミリアがブルーを守ってくれるように一生懸命に選んで買ったものだった。現にパールハートには、水の攻撃を無効化する力がある。お守りとでもいうつもりだろう。  
「馬鹿な女だ。奴が、水の攻撃をしてくるとも思えないのに」  
 口の中でクックッと笑う声が聞こえる。だが、やがてあの晩と同じように光り輝く月を見てつぶやいた。  
「……ありがとう」  
 目の前にはいつ来たのだろうか。宿命の兄弟、ルージュの姿がある。同じく石の柱の上で、体から微量ながら術の力を漂わせて立っていた。  
 伸びた髪で顔はわからないが、ボロボロに敗れた服や傷ついた体が、秘めた力と強さを物語っている。  
 一人で戦い抜いてきたのだろう。つらく、恐ろしい戦いをたった一人きりで。  
 ブルーとルージュの間に言葉はいらなかった。体からオーラのようなエネルギーを次第に放出しながら、体を浮き上がらせた。風がとどろき、大地がゆれる。  
 体内の奥からあふれ出てきそうな力。今まで倒してきた、殺してきた者の力を全て相手にぶつけるのみだ。二人の体は光速にも見える速さでぶつかっていった。  
 その瞬間、ブルーは思った。ルージュには守るものが、会いたい人がいるのだろうか、と。この傷ついた男に愛があるのだろうか、と。  
 自分は負けるわけにはいかない。守るもの、そして会いたい人がいる。体に一層の力を込めた。  
(エミリア…)  
 エミリアの事が、なぜかこんな時だというのに、妙に気になったのだった…。  
「いくぞ!ルージュ!!」  
 高らかに叫んだ声といっしょに静かな思いを抱いて、ブルーの宿命の戦いが、今始まった。  
 
 
 

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