雪原の国バルハラント――。  
一年中が雪に覆われたこの厳しい土地にひっそりとあるガトの村。  
その村唯一の宿屋に、今日はめずらしく客が入っていた。  
パチパチと燃える暖炉の灯りに照らされるのは、  
呼吸も荒く苦しそうにベッドに横たわるアイシャと、それを心配そうに見つめるジャミルだった。  
ことの始まりは、氷結湖の凍った城に邪のデステニィストーンがあるという話を死の王から聞いたことだった。  
刺すような寒さのなかを一行は順調に進んでいたが、途中、寒さと疲労でアイシャが熱を出し倒れてしまった。  
そこで一番足の早いジャミルが、アイシャをおぶさり一足先に村に戻ってきたのだ。  
 
薪をくべて額におかれたタオルを替え、まだ意識が戻らないアイシャを見ながら、  
ジャミルは何故もっと早くアイシャの異変に気付かなかったのかと自分を責めていた。  
こんな小さな村では医者はおろか、ちゃんとした薬さえ置いていない。  
宿の主人が気を遣って毛布を余分にくれたが、焼け石に水のような感じがした。  
 
「くそっ!どうすりゃいいんだ!」  
 
何もできずにいる自分に腹が立ち、ジャミルが頭を抱えていると、  
 
「……ジャミル…?」  
 
バッ、と声がした先を見ると、アイシャが目を覚ましていた。  
 
「アイシャ!気が付いたのか!?」  
「…ここ、どこ…?みんなは…?」  
「お前、熱が出て途中でブッ倒れたんだよ。それで、俺達だけ先にガトの村に帰ってきたんだ。」  
 
「…そぅ、だったんだ。ごめんネ…ジャミル」  
 
熱が高いせいか、虚ろな目でアイシャが答える。  
 
「気にするなよ。あいつらだって心配してたぜ。それより、何か欲しいものあるか?」  
「うん、ありがと…お水、欲しいな…」  
「ああ、ちょっと待てよ。」  
 
ジャミルはゆっくりアイシャの体を起こすと、傍にあった水差しに手を伸ばし、  
アイシャの口元までもっていった。服ごしからでもアイシャの体温が高いことがよく分かる。  
こくこくと水を飲むアイシャを支えながら、ジャミルはこの前の様なことは絶対しないと心の中で誓っていた。  
あれから二人ともその話には触れないし、アイシャも普段どうりに接してくれる。が、傷つけたのは確かだ。  
 
水を飲み終えたアイシャを横にし、タオルをしぼり額に乗せながら、  
 
「少し寝ろよ、ここにいるからさ。」  
 
と声をかけた。アイシャは力なくジャミルを見ながら、  
 
「…ジャミル、この前のこと、怒ってる…?」  
「へ? この前のことって?」  
「私が、ほっぺた、たたいちゃったこと…ごめんね。」  
 
ジャミルの心臓がギクッとした。  
まさかこのタイミングで言われるとは思ってなかったからだ。  
 
「お、怒るも何も、あれは、俺が…悪いんだし…」  
 
しどろもどろになりながらジャミルが答えていると、  
アイシャは少し笑い、そのまま目を閉じて静かに寝始めた。  
 
まだ心臓がドキドキして、落ち着かない。アイシャは寝呆けていただけかもしれないが、  
ずっと心に引っ掛かっていたものが取れ、少し楽になった気がした。  
 
それから数時間後、日が陰り、寒さもいよいよ増してきた頃、ジャミルはハッと目を覚ました。  
部屋の暖かさと疲労も重なり、ついうとうとと寝てしまったのだ。  
暖炉の火は小さくなり、部屋の温度は下がっていた。  
ジャミルは慌てて薪をくべると、ずれたふとんを直し、タオルを替え、  
それらが一通り済んだところでため息をつきながら椅子に腰掛けた。  
 
「駄目だな、俺…」  
 
つい口から言葉が洩れ、自己嫌悪に陥ってしまう。  
もやもやした気分を落ち着けるため、ジャミルは残り少なくなってきた薪を取りに部屋を出た。  
 
廊下は冷たく、ジャミルの頭の中を少しすっきりとした気分にしてくれた。  
薪を取り部屋に戻ると、いつのまにかアイシャが目を覚ましていた。  
 
「あれ?もう起きたのか?具合は?」  
「うん…さっきより良くなったよ。今頃みんな、大丈夫かな…?」  
 
そう言って心配そうな顔をしているアイシャを横目に見ながら、  
暖炉の脇に薪を置き、ジャミルはついぽろっと、  
 
「そんなに心配しなくても、ホークのおっさんなら大丈夫だろ。」  
 
と言ってしまった。  
あっ!と思った時にはすでに遅く、おそるおそるアイシャの顔を見ると、  
案の定驚きを隠しきれてなかった。ジャミルはハァ、とあきらめた様にため息をつき、  
 
「…お前がホークのおっさんを好きなのなんか、バレバレだぞ。」  
 
ちら、と目をやったアイシャの顔は、  
熱のせいなのか恥ずかしさからなのか、頬が紅潮している。  
 
「…な、なんで…?」  
「お前の態度見てたら分かるよ。それに……部屋に行ってるのも知ってる。」  
「!!」  
 
ビクッ、とアイシャの体が震え、顔には動揺の色が濃く浮き出ていた。  
(…言っちまった…)  
ジャミルはひどく後悔したが、ここまで言ってしまったならもう後には引けない。  
 
「安心しろよ、シフやアルベルトは知らねぇからさ。」  
「…いつから…知ってたの?」  
「さぁーな。ただ、俺は盗賊だからさ、耳はよく聞こえるんだぜ。  
例えば、夜中に廊下をこっそり歩く音とかな。」  
 
わざと明るく言ってみたものの、やはりショックだった。  
 
例え分かっていても、いざアイシャの口から言われると、思った以上に辛いものがある。  
恥ずかしさと動揺が入り交じった様な表情を浮かべるアイシャを見て、  
 
「…ごめんな、言うつもりはなかったんだ。けど、俺はお前のこと、好きだから…」  
 
アイシャの顔をじっと見て、ジャミルは少しくやしそうに言った。そう言わずにはおれなかった。  
次に出るアイシャの言葉を、ドキドキしながら待っていると、  
 
「…え?だって、ジャミルはファラが好きなんじゃないの…?」  
 
ガクッ、とジャミルの態勢が大きく崩れ、  
声を出そうにも、口がぱくぱくとなり出てこない。  
 
「おまっ…まさか気付いてなかったのか!?」  
 
一気に全身の力が抜けた。  
 
アイシャは顔をさらに紅くさせ、戸惑いの表情を浮かべながら  
 
「ち…違う…の?」  
 
と聞いてきた。  
鈍い、鈍すぎる。ジャミルはハーッとため息をつき、  
(だからこいつ、こんな隙だらけなのか…)  
と一人今までのことを回想していると、ケホケホと咳が聞こえた。  
我に返り、ジャミルがとっさにアイシャの額に手をやる。  
―熱い。  
ちっとも良くなっていない気がする。  
 
「おい、大丈夫か?」  
「うん…でも、ちょっと寒い…夜だからかな…?」  
 
コンコンと咳をするアイシャに、ジャミルは不安を覚えた。  
―さっきまで咳は出てなかったのに。  
 
「他に余ってる毛布がないか聞いてくる」  
 
椅子から立とうとしたジャミルを、アイシャが服の端を持ち止めた。  
 
「…大丈夫だから…ここにいて」  
 
その言葉に思わずジャミルがドキッとする。  
 
「さっきね、恐い夢見ちゃった。誰もいない…私だけ取り残されちゃう夢。一人は…もう嫌なの…」  
 
そう言ってジャミルを見るアイシャは、泣いている様に見えた。  
ジャミルは黙って椅子に座り、アイシャの手を握りながら、落ちたタオルを額に乗せた。  
きっと、村のみんながいなくなったことを思い出したのだろう。  
 
「…そっち行ってやろうか…?  
い、言っとくけど、やましい気持ちじゃないぞ。お前が、その、寒そうにしてるから…」  
 
自分でもなんでこんなこと言ってしまったのか分からない。  
ただ、熱によって苦しそうにしているアイシャが、ひどく寂しそうに見えたのだ。  
 
アイシャは一瞬驚いたような表情を浮かべ、ジャミルはしまった!と思った。  
ただでさえ自分には前科があるのに―。  
しかし、そんなジャミルの気持ちを知ってか知らずか、予想に反してアイシャは少し咳き込むと、  
 
「うん、ありがとう…」  
 
と言い、ジャミルを見て少し笑った。  
拍子抜けしたジャミルだったが、いざアイシャの横に寝るとやはり緊張する。  
だが、隙間を作るわけにもいかないので、手を回しゆっくりアイシャの頭に腕を通すと、  
まるで壊れ物を扱うようにやさしく抱き締めた。  
 
「…苦しくないか?」  
「うん…あったかい…。」  
 
表情こそ見えないが、安心した様なアイシャの声が耳に響く。  
 
小柄なアイシャは、ジャミルの腕のなかにすっぽりと収まり、静かにジャミルの胸に顔を埋めている。  
相変わらずアイシャの体温は高く、ジャミルの不安は大きくなる一方だった。  
 
「なぁ、」  
 
しばらくして、声をかけたのはジャミルだった。  
 
「言いたくないなら無理には聞かねぇけど、お前は…俺のこと、どう思ってる?」  
 
こんな時に聞くべきことではないのは分かっている。ただ、こんな時にしか聞けそうにないのも確かだった。  
ピクリと反応しおそるおそる顔を上げたアイシャの表情は、どこか辛そうな顔をしていた。  
自分を見つめるジャミルと目が合うと、サッと視線を下に逸らした。  
長い沈黙の後、アイシャが小さく口を開いた。  
 
「…シフやアルベルトは好き。でもそれは仲間として、友達として、なの」  
 
「…じゃあ、俺は?」  
 
ジャミルは自分の心臓の音が早くなるのが分かった。  
 
「…分からないの、ジャミルといると、すごく楽しいしホッとする。  
けど、シフやアルベルトとの好きとは…違う感じなの…」  
「違う感じ?」  
「…ごめんね、こんなこと思っちゃ、ダメなのに…」  
 
そう言って、泣きだしそうな表情をしたアイシャは、  
また少し咳き込み顔を下へ向けると、ジャミルから離れようとした。  
反射的にぐっ、とジャミルの腕に力が入り、離れようとするアイシャをきつく抱き締めた。  
ジャミルの頭には、一瞬ホークのことがよぎった。  
―確かにホークは、男のジャミルから見ても頼れるし、大人だと思う。  
度々守ってもらっているアイシャが惚れるのも、くやしいが分かる気がする。  
 
「俺はさ、お前が誰を好きでも、やっぱあきらめれねんだ。  
ただ、お前が嫌なら、普通の仲間に戻るよ。」  
 
そんなことできるはずない、ただ、これ以上アイシャを苦しめたくない気持ちも事実だった。  
アイシャの顔がこちらを向き、答えを出せずに泣きだしそうな目でジャミルを見た。  
そんなアイシャを見て、ジャミルは喉の奧がキュウッと締め付けられる様な気分になり、  
耐え切れずアイシャの頬に手をやり、溢れる感情を押さえながら、  
 
「ごめん、でも、お前が俺のこと少しでも好きなら、  
今だけでいいから俺だけ見てくれねぇか?」  
 
と言うと、アイシャの額にそっとキスをした。  
アイシャは小さな驚きの声を上げ、何も言えずにジャミルを見つめた。  
顔からは戸惑いの表情が強く現われていたが、拒絶の言葉はなかった。  
 
外はすでに日が落ち、夜の闇が辺りをすっかり覆い、  
窓の外をしんしんと積もる雪が今夜も気温が低いということを物語っていた。  
暖炉の中でパチン、と薪が破裂し、明々と良く燃えている。  
ジャミルは何も言わないアイシャの口に、ゆっくりと自分の口を重ねようとした。  
アイシャはほとんど無意識にあごを引き、かすかな拒絶の意を示す。  
それに気付いたジャミルは、アイシャの頬からゆっくり手を離し、  
 
「…俺のこと、嫌いか?」  
 
と小さく言った。アイシャの目に映るジャミルの顔は、いつもの陽気さはなく、真剣で、どこか悲しそうな顔をしていた。  
 
そんなジャミルを見て、アイシャの気持ちはますます不安定になっていた。  
自然と涙がこぼれ、アイシャはジャミルの服をギュッと掴むと、小さく首を横に振った。  
ジャミルは何も言わずアイシャを見つめると、もう一度アイシャの口に自分を重ねようとした。  
柔らかな感触がジャミルの唇に伝わり、頭に浸透していく。  
その感触を確かめるように、ゆっくりと舌で唇をなぞる。  
 
「…ん」  
 
アイシャの声が小さく洩れ、ジャミルの舌がアイシャの中へと入っていく。  
クチュ、と舌の交わる音がし、耳に残る。  
ジャミルはアイシャの肩に手をやると、そのままアイシャを仰向けにし、  
小さなアイシャがつぶれないようにゆっくり上になった。  
 
そしてアイシャから唇を離すと、今度は首筋にチュ、と軽くキスをした。  
唇も首も、体全体が熱のせいで熱く、その温度差にジャミルは少し心配になった。  
けれど、もう止められない―。  
そのまま首筋に舌を這わすと、ピクン、とアイシャの体が動き、かすかな声が洩れる。  
 
「んっ…や…ッ」  
 
ハァ、と出る甘い吐息は、さらにジャミルを高ぶらせた。  
 
ジャミルは、女を抱くのは初めてではない。ただ、こんなに胸が締め付けられたのは初めてだった。  
それが自分の手に入らないものへの嫉妬からなのか、純粋な恋心なのかは分からなかったが―。  
 
「…んっ…」  
 
小さく反応するアイシャの身体は、次第に熱以外の火照りを感じ始め、  
自然とジャミルの首に手を回していた。  
ジャミルは首筋にキスをしながら、ゆっくりと服の上からアイシャの身体を撫で下ろし、  
そのまま手を中へと滑り込ませた。  
細く、柔らかな感触が手に伝わってくる。  
 
「ぁ…」  
 
ジャミルが指の腹で、アイシャの胸の先端を、ゆっくりとなぞる。  
ピクン、とアイシャが反応し、背中に回した手に力が入る。口からは吐息混じりの切ない声が洩れ、  
熱のせいでぼんやりとする頭のなかに、次第に痺れるような感覚が襲ってくる。  
 
ジャミルはいつの間にかアイシャの服をはだけさせ、  
今度は舌を使って先端をなぞり、軽く吸い上げた。  
 
「あっ…や…ッ」  
 
アイシャの身体が大きく反応し、ジャミルの服をギュッと掴む。  
ジャミルは顔を上げ、そのままアイシャに唇を重ねると、  
確かめるように舌をからませながら、胸に置かれた手を徐々に下へと下ろしていった。  
ジャミルの手が、腰骨を撫で、そのまま太股へとすべり、足の付け根へと向かっていく。  
アイシャの肩がピクッ、と震え、口の端から小さな声が洩れた。  
ジャミルは下着の上から敏感な部分をゆっくりと弧を描くようになぞり、刺激する。  
 
「…んッ…」  
 
ハァ、とジャミルの頬に、熱い吐息がかかる。  
ゆっくり、ゆっくり、じらすようにジャミルは指を動かしながら、  
するりと下着の中へ手を滑り込ませた。  
ビクッ、とアイシャの下半身が動き、思わず脚をきつく閉じる。  
 
「…嫌?」  
 
そう言うジャミルの顔は、叱られた子供のようにしゅん、としていた。  
アイシャは一瞬、自分がいじわるをしている様な気持ちになり、無意識に脚の力を抜いてしまった。  
その瞬間、待っていた様にジャミルの指がアイシャの中へと入り込んだ。  
 
「あッ!んん…ッ!」  
 
アイシャの脚がまたきつく閉じられ、首に回していた腕に力が入る。  
 
それでもジャミルの手は、ゆっくりとアイシャの中で動かされ、止まらない。  
クチュ、クチュと次第に中が潤ってきた音が聞こえ、アイシャをますます刺激する。  
 
「んっ、やッ、あ…ッ!」  
 
段々とジャミルの手が激しく動くにつれて、アイシャの声も大きくなっていく。  
脚に入れていた力は、とうにどこかへ消え、アイシャはジャミルがくれる快楽に身を任せていた。  
 
「…んんっ…ふ…」  
 
とろり、と愛液が溢れ、ジャミルの指にからみつく。  
十分に潤ってきた事を確認したのか、ジャミルは手を止めると下着に手を掛け、  
するりとアイシャの脚からはぎ取った。  
 
ビクッ、とアイシャの肩に力が入り、首に回していた手が離れる。  
ジャミルはやさしくアイシャの頭を撫で、自分の上着を脱ぐと、めくれていた布団をかぶった。  
ケホッ、とアイシャが軽く咳き込むと、  
 
「…熱、大丈夫か?」  
 
と、心配そうに聞いてきた。  
 
「うん…平気…」  
 
アイシャがそう言い終わると、ジャミルは軽くアイシャに口づけをして、また腕を下へと伸ばしていく。  
布団にかくれて見えないが、とろとろになったアイシャの秘部は、誘うように蜜を滴らせていた。  
ジャミルはゆっくり脚を開かせ、アイシャに覆いかぶさり、自身をあてがった。  
 
「んっ…」  
 
アイシャが小さく反応し、側にあった布団の端を掴む。  
ジャミルは首筋にキスをしながら、ゆっくりとアイシャの中へ進んで来た。  
 
「あっ、や…ッ、んっ」  
 
アイシャの背がピンと張り、瞳が潤んでいる。  
 
「…あっ…ち…」  
 
皮膚の温度とは比べものにならないような熱さが、ジャミルにまとわりつき、締め上げてくる。  
自身の愛液により満たされたアイシャの中は、奥へと促すようにジャミルを受け入れ、  
やがて最後まで到達した時ジャミルは小さく唸るとゆっくり腰を動かしだした。  
 
ピクン、とアイシャの身体が反応し、さらにジャミル自身を締め上げた。  
 
「あっ、っふ…ッ」  
 
徐々に早さを増していく動きに、アイシャの声も比例するように高く、大きくなる。  
クチュ、ズチュ!  
と繋がっている部分が卑猥な音を立て、お互いを上へ上へと押し上げていく。  
 
「あっ…!やんッ!ダメ…ッ!」  
 
込み上げてくるものを必死で押さえ、しかし抗う術もなく、  
アイシャは布団から手を離しジャミルにすがりついた。  
 
「…ッハ、ヤッ…ベ」  
 
ジャミルの動きが限界が来ていることを知らせる様に一層早くなり、  
到達する瞬間、勢いをつけぐっ!とより深く、自身をアイシャの中に突き立てた。  
 
「ああっ!やッあ…ッ!」  
 
アイシャの身体が、ビクン、と大きく反応し、  
喉の奥から声にならない声が洩れ、頭の中が真っ白になった。  
 
 
―次の日。  
 
ジャミルが目を覚ますと、横にいたはずのアイシャがいない。  
あの後、お互い抱き合って眠り、自分の腕のなかにいたはずなのに。  
まさかと思い、慌てて体をベッドから起こすと、  
ドアがカチャリと音をたて、アイシャが入ってきた。  
 
「やっと起きたの?もうお昼だよ」  
 
そう言って笑うアイシャの顔は、昨日の熱はどこかへ飛んでいってしまった様にいきいきとしていた。  
 
「…んだよ、脅かすなよ。」  
 
ホッ、と安心し、胸を撫で下ろしたジャミルの頭が、急にズキッ、と痛んだ。  
気付けば寒気もする。  
 
「なんか、いっぱい寝たら、風邪治っちゃったみたい」  
 
うれしそうに話すアイシャを見ながら、ズキズキと痛む頭でジャミルは思った。  
 
(……違う、俺に移して治したんだ)  
 
げんなりした表情でジャミルはベッドから起き上がると、  
窓からこちらに向かってくるホーク達に気付いた。  
 
「おい、みんな帰ってきたぞ!」  
「え!本当!?じゃ、私先に下行ってるね!」  
 
と言い残し、急いで部屋を出ていった。  
昨日のしおらしさはどこへやら、いつもと変わらない態度でアイシャは接してくる。  
まぁそれは、恥ずかしさの裏返しなのかもしれないが。  
結局、昨日は自分に対しての気持ちをアイシャからはっきりと聞けたわけではない。  
ただ、ジャミルに一つの決心をさせた。  
窓の外で話しているホークとアイシャを見ながら、ジャミルは少し笑うと、  
 
「見てろよ、俺は欲しいものはなんだって奪うぜ。」  
 
とつぶやき、ゆっくり部屋を後にした。  
 
 
 

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