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「ディアナはローザリア出身なの?」
アイシャは知り合ったばかりの仲間に尋ねた。彼女は見事な金の髪をしているのだ。
こんな綺麗な髪をしているのはアイシャの知る限りローザリア人だけだ。。
ディアナと呼ばれた女騎士は頷く。
「そうよ、ローザリアのイスマスという所なの」
「やっぱり! じゃあ、おとなりさんだ! ガレサステップはローザリアの隣にあるんだよ!」
「そうね、そうなるわね。でも、イスマスはローザリアの端にあるから……」
一瞬、辛い記憶が蘇る。だがそれを振り払うように、ディアナはタラール族の少女に微笑んで見せた。
「私はまだガレサステップに行ったことがないわ。どんな所なの?」
アイシャは嬉しそうに笑う。その無邪気な笑顔を見ていると弟を思い出した。歳はもう少し若いようだが。
「うんとね、すごくいい所よ! 乾いてて、風が澄んでいて、住んでるひとはみんないいひとばっかりなの。
着いたら案内するね!」
「ありがとう、アイシャ。私も……」
イスマスの案内をする、と言いかけて唇を噛む。 もう故郷は何処にも存在しないのだ。
また落ち込みかけた所で、アイシャが思いもかけぬことを言った。
「ねえねえ、ディアナはクリスタルシティに行ったことはあるの?」
「ええ、ローザリアの首都ですもの、当然」
少し驚いて答える。タラール族は滅多にガレサステップから出ないと聞いたからだ。
もっとも、こんな南の島で会ったのだから、この少女は例外には違いないが。
「やっぱり! じゃあねじゃあね、カヤキス、じゃなかった、ナイトハルト殿下にも会ったことある?」
にこにこと笑いながら、アイシャはそう言った。
「……アイシャ、アイシャはナイトハルト殿下に会ったことがあるの?」
逆にディアナに問い掛けられて、アイシャは元気よく答えた。
「うん! あのね、モンスターに襲われてた時にね、助けてもらったの」
「殿下が?」
アイシャはその時を思い出してうっとりと目を細める。
生まれて初めてガレサステップを出た日。ナイトハルトの馬に乗り、クリスタルシティに行った時のことを。
「それでね、そのままクリスタルパレスに連れて行ってもらったの!」
あの日以来、ナイトハルトはアイシャの憧れの王子様なのだ。
「あ、そこで初めてお風呂にも入ったんだよ! それで王様に会わせてもらって、いつでも遊びに来ていいよって言われたの。
殿下も王様もすごくいいひとよね!」
ディアナも熱い水で体洗ったりするの、と聞きかけた所で。ディアナが黙り込んでいることにアイシャは気づいた。
「ディアナ、どうしたの?」
「……何でもないわ」
その声が微妙に低いことに気づいて、びくっとアイシャは体を震わす。
にっこりと、ディアナは十六になったばかりという少女に微笑んだ。
「その時の話、詳しく聞かせていただけるかしら?」
黙って酒を飲みながら二人を遠巻きに見ていた他の仲間たちはと言うと。
「おい……俺には闘気と書いてオーラが見えるぜ。あの姉ちゃん、只者じゃねえな」
「俺には見えんな。……と言うか見たくない」
「げ、こっちにとばっちりが来そうな気配だぜ」
「……そう言う訳で俺はもう寝る。後は任せた、ホーク」
「って、おい、グレイ、逃げる気か!」
ウェイプの夜はこうして更けていくのであった……。
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