「バカだなんてひどいな。 本当に思ってるんだよ。   
柔らかくて気持ちいいし、それに、アイシャは感じやすいから…」  
「だから、言わないで…って、…ぁあ…っ、やあ…っ」  
 軽く歯を立てられ、アイシャは痛みを覚えつつも体を震わせる。  
「アル……、おなかの中がもぞもぞする…」  
 ここ、と、へその下あたりに手を当ててアルベルトに訴える。  
 アルベルトは一つうなづくと体をずらし、アイシャにおおいかぶさるようにして顔を寄せた。  
 安心させるための口付けを繰り返しつつ、右手を乳房から腰へと滑らせ、  
アイシャがしめした場所を何度も撫でる。  
 アイシャはほんの少し舌先を突き出すとアルベルトの唇を舐めた。  
 アルベルトもそれに返す。  
「アルの手、あったかくて大きいね…」  
「そうかい?」  
「うん。 大好き」  
 アイシャはアルベルトの頬に指をあて、更に自分からキスをねだった。  
「私もだよ、アイシャ」  
 アイシャのおねだりに応えて接吻を与えながらも、アルベルトは常にアイシャの肌を攻め続けている。  
 唇と太もも、両方を暖めてくれる熱にうっとりとしかけたころ、その片方…下半身を愛しんでいた方の熱が、  
何気ない動きで内股のところまで滑り込んできた。  
「…ぁ…!」  
 反射的に太ももに力をこめたアイシャだったが、アルベルトが次々と与えてくるキスの雨には抵抗できず、  
じょじょに閉ざす力を緩めていく。  
「大丈夫、怖がらないで」  
 
 アイシャは、たらりと脚をくつろげた。  
 丁度、掌が入るほどの隙間が出来た脚の間に、躊躇することなくアルベルトは手を差し込む。  
「ん…!」  
 気持ち悪くて気持ち良い感覚が、内股からぞわりと上ってくる。  
 アルベルトはアイシャの唇が震えているのを見ながら、指をそこから上…未だ誰も進入したことがない場所…へ、走らせた。  
 柔らかい肉の入り口はぴたりと閉ざされている。  
 そこを、ノックするように指先で何度も軽くたたき、前後にすべらせた。  
「あ…、そ、そこ…、や…」  
「いや、じゃないだろう?」  
 子供がするみたいに首を振るアイシャを、アルベルトがなぐさめる。  
 頬にキスをし、耳たぶを唇ではさみ、優しく囁きかける。  
 いやだ、いやだというアイシャの吐息は、随分と色づいていた。  
「アイシャ。 ゆっくりするから…」  
「…んん…、あ…!」  
 音を鳴らしながら、指が閉ざされていた門をこじ開けて、中に入り込んでくる。  
 まだその奥へは進んでいないが、アイシャにとっては初めての侵入者だ。  
「ア、アル…」  
 アイシャは、アルベルトのわき腹から腕を回すと、親に抱きつく子供のようにしがみついた。  
 アルベルトは耳たぶを舐めながら、アイシャを傷つけることなんてしないと何度も囁く。  
 体内からにじみ出る愛液はまだ少なめで、完全にそこを濡らしきるまでには至ってなかった。  
「アイシャ。 …君の中に入っても大丈夫なように、準備をするからね」  
「え…?」  
 触れられる気持ちよさと、初めてそこを弄られた恥ずかしさに目をつむっていたアイシャが、  
アルベルトの言葉に誘われて瞼を開く。  
 自分を抱いている少年の体は既にうっすらと汗ばみ、頬は熱を帯びていた。  
 アルベルトの指は器用に、クリトリスを指先でしごき始める。  
 最初は、ほんの触れる程度の柔らかさで。  
 乳首を弄られていた時とは違う感覚に、アイシャは今までよりも大きな声をあげてしまい、  
思わずアルベルトの上半身を自分の方へと抱き寄せた。  
「ん…、ん…!」  
 必死に首を振り、声を出さないようにとこらえている。  
 
 怒られた子供が堪えている風にも見えるそのしぐさに、アルベルトは愛しさをつのらせた。  
「声は我慢しなくていいんだよ」  
「でも、でも、恥ずかしい…」  
「恥ずかしくなんかない。 アイシャの体が気持ちいいって言ってるんだから。 それに、私も嬉しい」  
「…アル、嬉しいの…?」  
 肩口に押し付けていた顔を上げ、アイシャは目を潤ませながら小首をかしげた。  
 アルベルトはうなづくと、もっと安心させるためのキスを繰り返す。  
「アイシャが辛い思いをしているんじゃないって、分かるからね」  
 何も知らない小さな肉の芽を指でひっかき、そこが感じるための場所だと、  
芽にもアイシャにも教えてやる。  
 アルベルトが爪先を優しく立てるたびに、アイシャは腰をひくつかせて声を出す。  
 指を濡らす愛液の量も、だんだんと増えてきた。  
 アルベルトの愛撫を受けている場所のすぐ近くからは、潤滑のための液体があふれ出てきて、  
指を動かすたびに濡れた音がいやらしく二人の耳に響く。  
「ふ…ぅ…、 ん…、ん…。 はぁ…、あ、ぁぁ…、アル…アル…。 」  
 指の腹全体で、快楽の芽とその周り、そして、液体を漏らし続ける場所をくり返しさすり続けた。  
 時に強く、時に弱く。  
 強い力でこすられた時には、今やすっかり赤く膨れたクリトリスが形を変えて全てを受け止める。  
 アイシャは泣きながら、過ぎる快楽を指先にまで駆け巡らせた。  
 時々背中をしならせ、アルベルトに許しを請う。  
「アイシャは悪くないんだから、謝らなくていいんだよ」  
「で、でも…、だ、…って…、わ、私…、あ、あ…、あ…あ…、はぁ…」  
「すまない。 でも、今、ちゃんとしておかないと…」  
 とめどもなく流れだす愛液は、いつのまにかシーツに小さな染みを作り出していた。  
 アルベルトが手を動かすたび、アイシャが脚を動かすたびに体液は音をたてる。  
 
「アイシャ、入れるよ」  
「え…? …あ!」  
 くぷり、と更にいやらしげな音を立てながら、アイシャの中へ何かが入り込んでくる。  
「あ…、…、い、いた…っ」  
 ぴりっと走る小さな痛みの後、すぐに、それがアルベルトの指だと分かった。  
 十分すぎるほど肉の芽を育てた指が、いよいよ中へと入ってくる。  
「ごめん…、痛かったかい…?」  
 見ている方がかわいそうになるほど、アルベルトの眉が八の字に下がる。  
 秘部が感じている痛みとは違う種類の痛みのせいで、胸と腹部が切なくなった。  
「ん、すこしだけ…。 でも…、大丈夫…だよ」  
 太ももに当たっているアルベルトの熱を思えば、これだけで終わるはずがないのはアイシャも分かる。  
「乱暴にしないでね?」  
「…なるべく、ゆっくりするから」  
 ついばむキスを施しながら、アルベルトは更に指を進めて中を慣らし始めた。  
 急がずにゆっくりと指を回し、中の壁を優しく蹂躙する。  
 腹の中を弄られる感覚にアイシャはわずかな嘔吐感を覚えたが、何度もそうされているうちに、  
最初に感じた不快感は消えていった。  
「はぁ…、はぁ…ぁ…、ぁ、はぁ…」  
 アイシャの声が育つにつれ、アルベルトの指は増え、動きも激しいものになっていく。  
 指と粘膜と愛液、それらの絡み合う音が、すこし広げられた場所から聞こえ続けた。  
 自分の体からこんな音がでるなどとは、今日まで、アルベルトに抱かれるまで知らなかった。  
 
 初めは優しく感じた愛撫も、アイシャにとっては、今やすっかりじらされる行為になってしまっていた。  
 慣らされた場所は次の仕打ちを求めて、自らの肉体を狂わせる。  
「私…、このままじゃ、いやだよ…。 アル、お願い…」  
「アイシャ、…いい、かい?」  
 小刻みに崩れる呼吸が、アイシャに問うた。  
 
 華奢な体を色づかせ、体内の熱を外へ逃がすような呼吸をするアイシャ。  
 アルベルトはそんなアイシャの脚を開かせると、濡れそぼった箇所に己を宛がう。  
「あ…」  
 衣服越しではなく直接触れる男の熱が、アイシャに期待を抱かせた。  
 不安もあったが、体内の熱がそれ以上にアルベルトの侵入を待ち望んでいるのだ。  
「アイシャ、行くよ」  
「うん、アル…」  
 だが…。  
 アイシャにとっては初めての、グロテスクとも言える姿をした物が  
狭い入り口を押し開いた途端、今まで感じたことの無い激痛が襲う。  
 何かを無理やり広げる音が聞こえたような気がした。  
「――――――――っ…いた…ぁ…っ! 、いたい…!」  
 堪えることを思いつかないほどの痛みがアイシャを貫く。  
 木の杭を無理やりねじこまれる自分の姿、がアイシャの脳裏に浮かんだ。  
「力を抜いて」  
 彼女の体を慮ってじれったいほどに慎重な挿入なのだが、相手のそんな気持ちを  
思いやる余裕などないアイシャにとっては、魔物との戦いよりもはるかに苦しい時間が続くだけとなった。  
(やだ、やだ…、痛いのやだ…)  
 熱も期待も、予想外の激痛の前にあっけなく姿を隠してしまった。  
「アイシャ…力を緩めて。 でないと、もっと辛いよ」  
 アルベルトの言葉も、アイシャから痛みを取り除くことはない。  
「あ、あ…、い、いた…いたい…、アル、痛いよ…」  
 
(…う…、やば…)  
 小さなアイシャの中は彼女の躯体そのままに狭く、彼の熱を食いちぎりそうな程きつく締め付けた。  
 このままでは、行くも戻るも地獄となる。  
 適度なしめつけは名器といえるが、何事も過ぎれば辛いだけのもの。  
 何よりも、自分の下で泣いている少女のかわいそうな顔を、これ以上見ていられない。  
 アルベルトは、自分の雄で押し広げられた入り口のすこし上…  
先ほどまでアイシャに快楽を与えていた小さな丸みを、中指で優しく弄った。  
 赤くなっていたそれは、すぐさまアルベルトの愛撫を最大限に受け入れて、  
これ以上は大きくなれないと打ち震える。  
 とっくに既知のものとなった感覚は、アイシャをひどく安心させた。  
 大きな痛みと、痛みのすぐ近くに寄り添う快楽が同時に、  
アイシャの下半身から尻、腰、背中を上っていった。  
「あ…、ふ…。 あぁ…」  
 下腹部を切なくさせる気持ちよさに意識をとられ、アイシャは全身の力を緩める。  
 その瞬間の隙をついて、アルベルトが力強く自分の雄を奥まで突き入れた。  
 せっかく薄まりかけた痛みは再びアイシャを強く捉えたが、悲痛な声にかぶせるようにして、  
アルベルトは肉芽への責めを再開する。  
 アイシャの体はアルベルトによって激痛と快楽を同時に打ち込まれ、  
激しい波に飲み込まれていった。  
 
痛みを忘れさせるために与えられた快楽は、アイシャを容赦なく泣かせた。  
 知らず知らずに腰がはね、その度に、角度を変える形となったアルベルトの雄が  
中からアイシャを突き上げる。  
「は、あ…あ、あ…ん、やあ、…い、いた…」  
 理性を蕩けさせる気持ちよさと異物が入っているための痛みが、かわるがわる襲い掛かってきた。  
 クリトリスを責める指はおとなしくなるどころか、アイシャの腰が動くほどに、執拗になってくる。  
 波の訪れる間隔はだんだんと狭くなり、痛いと感じた次の瞬間には泣きたくなるほどの悦楽に支配される。  
 絡み合った痛みと快楽はアイシャの中で、いつのまにか一つのものと化していた。  
 痛いのに気持ちいい、気持ちがいいのに痛い。  
 アイシャは自分の体がおかしくなってしまったと、アルベルトに訴える。  
「大丈夫だよ、おかしくないから」  
 そういうアルベルトの声がやけに低いことに、アイシャは気づかなかった。  
「あ、あふ…、あ…! あ、やぁ…」  
「もう、我慢できそうにない…。 アイシャ、すまない…」  
「ア…、アル…?」  
 今までアイシャの感覚を狂わせていた指が、そこからぬるりと離された。  
 愛液にまみれたそれはテラテラと光り、細い糸を指先から垂らしている。  
 アルベルトの指を淫猥に見せているものが、自分の中から出ているものだと  
見せつけられているような気がして、アイシャは咄嗟に顔をそらした。  
 その、濡れた指がアイシャの腰をしっかりと掴んだ。  
 決して逃さないと、力強い力が言葉なく物語っている。  
「あ…っ!」  
「アイシャ」  
 今まで聞いたことがないような声で囁くと同時に、アルベルトはアイシャの体をゆすり始めた。  
「あ――――…っ!! あ、あ」  
 痛みをごまかすための快楽は、もう与えられていない。  
 今ここにあるのは、純粋な痛みだけだった。  
「アル、…ああ、あ…、いた、いたい…! いたいよ…ぉ」  
「すなない、アイシャ…!」  
 
「アル…、アル…、いた…い、…いた…ぁ、…アル…!」  
「アイシャ…」  
 痛いと泣くアイシャだが、拒絶の言葉は口にせず、かわりに、  
親を探す子供のように両手を伸ばして助けを求める。  
 アルベルトの二の腕を掴むアイシャの指は、かわいそうなほどに白くなっていた。  
 指先が筋肉に食い込んでいく。  
「好きだ、アイシャ。 …好きだ…」  
 掴まれた腕よりも胸が痛む。    
 だが、動きを止めることはできない。  
 アルベルトはアイシャの体を揺らすのを止めると、今度は自分の腰を動かした。  
「――――――――あ…、あは…ぁ…! ア、アル…、ぁ…、は…!」  
 奥のほうで動いていた熱が突然、外へ向かって走り出したかと思うと、また、中へ押し入ってくる。  
 内側を引き出される感覚と、押し上げられる感覚にアイシャは泣き叫んだ。  
 硬くて熱い物が自分の中を動き回って、自分を翻弄し突き上げている。  
 痛い、痛くないのレベルではない。  
 暗い世界に一人で放り出され、闇の中で体を突き上げられるような錯覚を覚えた。  
 アイシャは涙を流してアルベルトに抱きつく。  
「助けて、アル…助けて、…助けて…!」  
 この世界にいるのは自分ひとりだというようなアイシャの声に、アルベルトはそれ以上  
強引に進めることが出来なくって、辛さを堪えて動きを止めた。  
「アイシャ」  
「怖い、怖いよ、アル…怖いよ…!」  
「私なんだよ、アイシャ。 君の中にいるのは、私なんだ。 怖くない」  
 そしてアルベルトは、子供のようなキスを一つする。  
(…そうだ、アルなんだ…。 私と一緒にいるのは…アルなんだ…)  
 無防備な姿で震えていた少女が、ゆっくりと光の世界へ引き上げられる。  
 そこには、金髪をゆらめかせて彼女を待っている少年の姿があった。  
 アイシャも、ついばむようなキスを返す。  
 
「ア、アル…。 …んん、…ぁ…!」  
 再び、激しい衝動がアイシャを襲った。    
 入り口も途中も奥も、思うまま乱される。  
 だが、それはアイシャが知らない他人ではない。  
「アル…、あふぅ…、あ、ああ…、…ぅあ…、んんんん、…!」  
 痛みはまだあるし、内臓を押し上げられる違和感は取り除けないが、  
それを与えているのがアルベルトだと思うと、不思議と愛しいものに思えてきた。  
 自分の中にあるものが今、どこを責めているのかも感じられる。  奥へ行き、奥から戻り。  
 時折、手に持ったアイシャの腰を激しく揺らす動きの一つ一つが、新しい感覚を開かせた。  
 最奥に至るまでの壁をこすられるたびに、自分の手で慰めることが出来ない悦楽が浮かんでくる。  
「あ…ん、ん…アル…、…ぁ…は…」  
 今までとは違うものが声に混じってきたのを、アルベルトは確かに聞いた。  
 わざと力強くそのあたりを攻めてやれば、ひときわ声が高くなり、その声はますますアルベルトを興奮させる。  
「あん、あ…アル、そ、そこ…だめ…、だめ…」  
 だめといわれて素直に引き下がる男などおらず、アイシャは身を震わせるたびに自らをますます追い詰めていく。  
 痛みも違和感も、新たな愉悦に飲み込まれた。  
 全てを内包した快楽が、ひたすらアイシャを支配する。  
 まるで、光に突き上げられ、抱かれているようだった。  
「やだ、やめて…お願い、アル…やだ、やだぁ…、あ…、ああ…!」  
 快楽だけがアイシャの全てとなり、脳も、指も心臓も全てアルベルトのものとなった。  
 アイシャは、自分の中でアルベルトがどんどんと育っているのを感じ、喜びに震える。  
 震えながらも、口から出る言葉はやめてと懇願する言葉だけだ。  
 その度にアルベルトは、やめない、と呪文のように返し、アイシャを翻弄する熱の強さを更に誇示する。  
 アイシャも無意識に腰を動かしそれに応えた。  
「アル…、好き…、好き…。 好き…、好き…」  
「私も、好きだ…アイシャ、君が好きだ…」  
 アルベルトの顔が苦しそうに歪む。  
 自分を狂わせている男の顔が子供の猿みたいで、アイシャは泣きながらも少し笑ってしまった。  
 同時に、もっと愛しくなる。   
 
「アル、お願い、このまま一緒に…」  
「一緒に…、ああ…」  
 言うや否や、アルベルトは一番奥まで激しく突き上げ、   
泣いて身をよじるアイシャを自分の方へ引き戻して左右に揺さぶり、  
アイシャが背中をしならせて体を震わせれば掌を膝頭まで移し、大きく脚を開かせた。  
 初めての性交で恥ずかしい格好をさせられて、アイシャの神経は焼ききれてしまいそうだった。  
 シーツを掴んで背中を浮かせ、腰を打ち付けてくるアルベルトの全てを受け入れた。  
 アルベルトの動きには余裕も時間もなく、解放だけを求めてひたすらにアイシャを犯し続ける。  
 二人の頂点はすぐそこに見えていた。  
「アイシャ、中に…」  
「うん、は…ぁ、あ、いい…、いいよ…。 アルぅ…!」  
 何が“いい”のか。  
 それを思うことなく、アルベルトはアイシャの脚を最大限に開かせて頂点を目指す。  
「――――ぁ、あは…、ああ! アル、あ…、いや、奥…に…!」  
 被虐めいた声が部屋に響く。  
 呼吸が間に合わずに意識が飛びそうになった直前、アルベルトはアイシャの中に白濁を吐き出した。   
 
 
「あのシーツ、明日の朝、見られちゃうんだよね…」  
「…そうだね」  
 バスルームから戻ってきた二人は、自分たちの情事の跡がはっきりと残っているシーツを見てため息をつく。  
「まあ…私たちは若いから、宿屋の人も納得してくれるだろう」  
 どうにも繋がらない論理だが、アイシャはなんとなくうなづいてしまった。  
 あいているベッドに腰を下ろすと、アルベルトがアイシャの肩に手を回した。  
 セックスの間、自分の腰をつかんでさんざん好きに動かした手が、今は優しく包み込んでくる。  
 アイシャがアルベルトの腰に腕を回すと、肩にかかる力がさらに強くなった。  
 相手の体温が温かくて気持ちいい。  
 人の体温は、心の奥に隠してあるものを吐露させる。    
「アル、さっきね」  
「ん? なんだい?」  
「私の中で、その…しちゃったでしょう?」  
 
 アイシャがそれを許してくれたのだが、性交の熱も消えた今、我に返って、  
『気持ち悪かった』  
 などと言われるのではないかと、アルベルトは心臓を早鐘のようにした。  
 つばを飲み込む音が、体内に響く。  
「…ああ…。 果てたけど…」  
「赤ちゃん…出来ないかなって」  
「!! あ、あか…!?」  
 ぎょっとしてアイシャを見れば、緑色の目が泣き笑いでアルベルトを見上げていた。  
 笑ってはいるが明らかに、悲しみに溢れているアイシャの顔。  
「無理だよね。 私たち、種族が違うもの。 赤ちゃんが出来るわけないよね」  
 一縷の望みを持つことも許されない自分たちの恋に、アイシャは声を震わせて涙を流した。  
「ごめんね、変なこと言って。 おやすみなさい」  
 ぽろぽろとあふれ出る涙を見られまいとベッドに入るアイシャを、アルベルトは後ろから抱きしめた。  
「きゃ!」  
 その勢いで二人ともシーツの上に倒れこんだが、アルベルトはアイシャを離すことなく、そのまま抱きしめ続ける。  
「ア、アル…」  
「もし、子供を授かったなら、私はきっと酷い男になる」  
「!」  
 腕の中にいるアイシャが身をこわばらせた。  
 イスマス復興に身を捧げるアルベルトには、異種族である自分との子など荷物でしかないのだろう。  
「君をニザム氏の元へ返さず、ともにイスマスで暮らすようにするだろう」  
「…アル…」  
「周りがどれほど反対しようが、君を娶る」  
「……」  
「君が故郷に戻れなくて悲しむと分かっていても、君と、私たちの子を手放すつもりはない」  
 アルベルトの力強い言葉に、流れる涙は質を変えながらシーツを濡らす。  
 アイシャはアルベルトの腕の中で向きを変えると、涙に濡れた顔で微笑みかけた。  
「おじいちゃんなら、きっと、わかってくれるよ」  
 頬に流れる涙を、アルベルトの指がそっとぬぐいとる。  
 
「アルの髪の毛、キラキラ光っててきれいだね…」  
 突然そんなことを言われて驚いたアルベルトだが、そうかな、とだけ返すと額に唇を落とした。  
 アイシャはうっとりとした気分でキレイな金髪に指を絡める。  
「光の神様みたい」  
「私が光の神なら、アイシャは大地の女神だね」  
 恋人たちの戯言は何の気なしに続いていった。   
「アルと一緒に生きていきたいな…」  
「私もアイシャと共に生きたい」  
 
 例え、旅の終わりが恋の終わりだとしても、別れが来るその日まではずっと共にあろう、と。  
 このぬくもりを離さずにおこうと。  
 アルベルトは腕の中の少女を、アイシャは自分を抱きすくめる少年を思い、ゆっくりと目を閉じて眠りについた。  
 
〜〜〜〜〜終  
 

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