(あぁ、今日は菌糸瓶の掃除の日だったっけか・・・)  
ふと日課を思い出し、目を醒ます。けだるい体を起こし、榎稲穂は呟いた。  
しばらく着っぱなしであったのであろうパジャマはヨレヨレ、髪は普段異常にくしゃくしゃ、  
元々身なりには無頓着な彼女ではあるがそれでもなお、といった風体である。  
 
(・・・夏風邪をひくなんて、何年ぶりだろうか)  
去年から彼女の生活は変わった。あまり人とかかわりを持たぬよう心がけ、ひとりクワガタの相手をしているのが日常だった。  
それが去年の夏休み、同じ趣味を持つ小学生と出会い、何の因果か彼のクワガタの師匠になってしまったのだ。  
以後、彼のクワガタ相撲の指導なり彼の連れのとプールに行ったりとめっきり他人と  
過ごす時間が増えた。まあ総じて小学生相手ではあるが。  
(人間、慣れないことはするもんじゃない・・・か。)  
そう自嘲しながら、目覚めの一杯の水を淹れる。これから一仕事だと思い立ったところで、けたたましく部屋のドアを叩く音がする。  
昆虫の飼育にちょうどよいと、実家の博物館の植物園内に設けられた自室。  
知ってる人間でなければ扉の『関係者以外立入禁止』の文字で躊躇するロケーションである。  
となれば親か知り合いであるが、親はまさに夏休みで大入の博物館で大忙しだろう。となれば・・・  
稲穂がドアのカギを開けると、予想通りの人物が飛び込んできた。  
「し、師匠!!大丈夫ですか!・・・オレ!!風邪がって・・・電話で・・・!!それで!!」  
「と、とりあえず落ち着け少年!」  
先程入れた水を差し渡す。『少年』はそれを一気に飲み干し大きく息をついた。  
この『少年』が、先程の彼女に師事する小学生・小笠原真夏である。  
 
「いきなりでびっくりしたぞ少年。今日は力王を休ませる日だから練習は無いはずだが。」  
「いや、白眼力の様子がちょっと気になってさっき電話したんですよ。  
そしたらおばさんが『稲穂は今風邪で寝込んでる』って言うんでオレ、  
何か手伝えることないかと思って・・・師匠!オレに何かできること無いですか!?」  
「少年・・・」  
他人とのかかわりを避けてきた稲穂にとっては当然、他人からの親切にも慣れてはいない。  
戸惑うばかりで思わず条件反射で断ってしまうところだったが、こちらをじっと見つめる  
真夏のいじましくも真剣な表情を見て心が動く。  
「・・・わかった、少年。じゃあお言葉に甘えて私は休ませてもらうから、少年には  
今からやろうと思っていた菌糸瓶の掃除でもやってもらおうか。黄色いラベルの貼った瓶だけでいいし、  
特に特別な処置を施さなきゃならない個体もいないから、普通のやり方でやってもらって構わない。」  
「・・・はい!!」  
ぱあっと明るい表情とともに、元気な返事が返ってきた。  
「あ、ちなみに黄色いラベルの瓶だけで30個以上あるから。頑張ってくれ。」  
「・・・はい」  
・・・そして先程とはうってかわってしょんぼりとした返事が返ってきた。  
 
 
(成程、横着な話だが弟子を持つとこういうところで楽できるのか・・・)  
横で必死に瓶を洗う音を聞きながら布団に潜る稲穂。そしていつしか眠りについていくのだった・・・。  
 
 
「・・・師匠?・・・師匠!?」  
眠りから呼び覚ます声が聞こえる。ぼーっとした頭を起こすと目の前には弟子の少年・小笠原真夏。  
一瞬何故ここに少年が?と思ったがすぐに瓶掃除をやってもらっていたことを思い出した。  
「すいませんわざわざ起こしちゃって。菌糸瓶の掃除が終わったんですけど一応チェックしてもらいたくて・・・」  
「・・・んん、ああ、気にするな・・・じゃあすぐにでも見に行くか。」  
布団を払い上体を起こす。すると目の前の少年の顔がはっとなり真っ赤になる。  
何かと思って下のほうを見ると、寝汗をかきすぎたのか、濡れたパジャマがびっちりと体に張り付いていたのだ。  
ボディラインはもちろんのこと、素っ気無いブラの模様までくっきり丸見え状態だ。  
 
「う、うわあああああああああ!!!!」  
 
恥ずかしさのあまり叫び声を上げて再び布団に潜り込む。顔は日を吹き出しそうなくらい真っ赤になり  
心臓は破裂しそうなほどの鼓動を刻む。当然の如く、今まで他人に肌を晒したことのない稲穂としては  
まあ厳密には肌を晒してはいないのだが、これまでに味わったことの無い羞恥に襲われていた。  
しかしそんな稲穂に対し、意外にも真夏の対応はびっくりするくらい冷静なものだった。  
「し、師匠・・・とりあえず寝汗はかいたままにしとくと風邪ぶりかえしますよ・・・  
よかったら体拭きましょうか?」  
「い、いや大丈夫だ!大丈夫だから!!」  
「いや大丈夫じゃないですよ!早く!」  
「・・・じゃ、じゃあ拭きにくい背中だけでも・・・」  
またも彼の真剣さに押される形で親切に甘えることになった稲穂。真夏に背を向けパジャマをたくし上げる。  
汗を拭いてもらうさ中で、さっきの瞬間を反芻しまた胸の鼓動が高まる。  
(まさかあんな形で、少年に恥ずかしい姿を晒す羽目になってしまうなんて・・・  
いや、でもアレは不可抗力だし・・・それに幸い少年も気にしてないし・・・  
何よりもまだ布越しに見られただけだし・・・)  
と、心音も収まり、次第に落ち着いていく中でふと気付く。  
『今まさに背中とはいえ少年の前に肌を晒している』という事実に。  
 
この倒錯したシュチュエーションにはっとして心臓の鼓動が再び高鳴る。頭の中が真っ白になる。  
と、瞬間、更に彼女を混乱させる事態が起きた。  
 
バツンッ  
 
ブラのホックがふいに外れたのだ。見た目以上にたわわなバストが拘束を解かれぶるんと揺れる。  
「・・・なっ!?」  
びっくりした稲穂が胸を押さえるよりも早く、真夏の手が掴みあげる。  
そしてその感触を堪能するかのように、むっちりと揉みしだき始める。  
胸を掴むと同時に密着した真夏の口から荒立った呼吸音が耳に響く。  
稲穂は経験したことの無い事態の連続にすっかり混乱していた。  
「ちょ・・・少年!!一体何を・・・!?」  
「・・・知ってました師匠?タカアキから聞いたんですけど、風邪を一番早く治すには  
『アレ』が一番効くそうですよ・・・」  
 
昆虫知識とは対照的に性的な知識には疎い稲穂でもここまでされていれば『アレ』が何なのかは流石に分かろう。  
「少年・・・冗談はやめっ・・・んくうっ!!」  
「いや、オレは至って本気ですよ・・・風邪を治すことも、師匠のことも・・・」  
「・・・な、どういう意味・・・んはぁ!!」  
文字通り小学生の手には余る大きさのバストを、真夏は目一杯強く揉みしだく。  
考えたことも無いシュチュエーションで頭が一杯なさ中に、味わったことの無い快感が押し寄せ、  
稲穂は完全に思考が出来なくなっていた。真夏もまた胸の感触を味わうのにいっぱいなのか、その呼吸は更に荒立つ。  
 
次第に真夏の片手が下のほうに伸びていき、ズボンの下に潜らんとしていた。  
稲穂はかすかな理性の限りにそれをふりほどこうとする。  
「ダメっ!少年・・・そこだけは!!ダメぇ!!」  
さすがに秘所をまさぐられるなると胸を揉まれるどころではない。自分でも一ヶ月に数回しか触れない場所である。  
それに風邪ひきのせいでしばらく風呂にも入ってすらいないためパンツの中は蒸れ上がり、においたっていることだろう。  
――そして何よりも不味いのは、先程からの胸への愛撫で「濡れて」しまっていることを悟られることだ。  
 
しかしそんな稲穂の願い空しく、真夏の欲望は止まらぬまま、また彼女自身も特に止めることないまま、  
その手はすんなりとパンツの中へと滑り込む。  
「くちゅり」とした感触が指先に走ると、真夏は思わず意地悪く微笑む。  
「師匠・・・オレ、嬉しいですよ。オレので感じてくれるなんて・・・」  
「〜〜〜〜〜ッ!!」  
混乱・羞恥・快感―――そのあらゆる感情から最早言葉も出ない稲穂。  
その上に指が動くたびに、快楽の電流が走る。くちゅくちゅと数回秘所を弄るとふと手を止め、  
愛液を掬い上げ稲穂の目の前まで持っていく。  
「やだぁ・・・しょうねんぅ・・・やめぇ・・・」  
思わず目を背ける稲穂。基本年上の高校生として気丈な態度の彼女だが、その口調はもうすっかり甘ったるいものになっていた。  
しかし目を背けても「臭い」は遮りようも無い。指先の愛液と汗と垢の混じった液体からつんっとした「雌の臭い」が漂う。  
その臭いが、男の欲望をさらに加速させる。  
「すげえ・・・エロくていいにおいだよ師匠・・・オレ・・・もう我慢できねえよ。」  
既に上体を支える気力も無くほぼ真夏にもたれかかる状態だった稲穂。真夏はゆっくりと前に回り、  
重力に任せるようにベットに横たえさせる。  
これからおこる事はそれなりの年齢なら言わずとも判るところだろう。  
そして稲穂は、それを拒むそぶりすら見せなかった・・・  
 
仰向けで胸をまびろにした状態でベッドの上に横たわる稲穂。長い前髪の隙間から除く潤んだ瞳が実に官能的だ。  
真夏はその求めるような眼差しに応えるように、そっとパンツを下ろす。  
再び、むわり、と「雌の臭い」が漂い、本能を刺激する。  
加速した欲望に突き動かされるようにズボンを下ろす真夏。怒張したペニスは正に臨戦態勢だった。  
稲穂の両腕を押さえつけ覆いかぶさり、ペニスの先端を秘所にあてがう。  
先端に愛液のぬめりとした感触が走る・・・  
 
・・・と、ここまで準備したところで真夏の動きが止まる。  
何かあったのか?焦らされているのか?と思い、切なげな表情で真夏のほうを見る稲穂。  
そこにあったのは何かに心惑う真夏の表情だった。荒立った吐息と高鳴る鼓動が部屋に響く。  
やがて、何か決心したのだろう、真夏が口を開いた。  
 
「・・・し、師匠。今からやる時なんですけど・・・その・・・お、オレのこと、名前で呼んでくれませんか?」  
 
傍から見れば実にすっとんきょうなお願い。しかしそれは当人達にとってみれば実に真剣な話なのだ。  
「師匠のお父さんのこと、島治郎さんから聞いて知ってます。師匠のトラウマのことも・・・」  
稲穂が小学三年のときに起きた不幸な事件。昆虫学者である父とその仲間たちがタイでゲリラに襲撃され行方不明になった。  
その事件後に呼応するかのように次々と死んでいく、彼らの名をつけたクワガタたち。  
そして刻まれる心の傷―――自分が名を呼ぶものは皆いなくなってしまうのではないかという疑念。  
それ以降、真夏を「少年」と呼ぶように、彼女が他人を名前で呼ぶことは無くなったのだった。  
 
「こんな形で、こんなやり方でなんて卑怯だってことは自分でも承知してます・・・  
名前で呼んでもらいたいってのもオレ自身の我儘の押し付けみたいなモンです・・・。  
でも!でもオレ!師匠の・・・特別な人になりたいから・・・っ!!」  
師弟の敬愛が慕情に変わったのは何時だっただろうか、今となっては彼自身もわからない。  
それでも今彼を突き動かす感情は、師弟というゆるい関係に甘んじたくない、  
どんな手を使ってでも「少年」と呼ばれるだけの立場で終わりたくないという激情・・・。  
いつしか真夏の目からは大粒の涙がこぼれおちていた。  
 
「・・・ん、はぁ・・・ま・・・・まぁ・・・あ・・・・・んっ!」  
長き沈黙の後、やがて稲穂も彼の激情を汲んだのか必死に言葉を紡ごうとする。  
――肉欲を求むるが故か、必死な真夏への同情か、あるいは彼の気持ちを受け入れたのか。  
しかし稲穂はただ口をぱくぱくさせるだけで、肝心の「まなつ」の名前は一向に出てこない。  
稲穂を蝕む心の傷は、想像以上に大きい。やがて彼女の口からは言葉でなく吐息だけが漏れ出す。  
「はぁ・・・はぁ・・・すまない、少年。まだ今の私では、少年の気持ちに答えを出すことはできそうにない・・・」  
「・・・そ、そうっすよね!お、オレみたいな小学生相手にフツー本気になんかになんないっすよね!」  
稲穂の応えを受け、そそくさげに体を引き離す真夏。  
先程とはまた別の意味の涙が流れそうになるのを上を向いて必死におさえようとする。  
 
「い、いやそっちじゃなくて!まだ・・・とうさまの事件が頭から離れそうに無いってだけで、  
その、あの・・・少年のことは・・・こういうことになっても何ら問題ないというか・・・  
・・・そ、そもそも今回のコレは風邪の治療じゃなかったか?ってことで・・・その・・・」  
耳まで真っ赤にさせながら、もじもじと真夏を引き止める稲穂。  
男とは現金なもので、ふられたと早とちりした真夏のモノがむくりむくりとまた元気になる。  
「じゃあ、師匠・・・!」  
こっくりと目深にうなずく稲穂。  
 
未だ横たわる稲穂に覆いかぶさりキスを交わす。そして再びペニスを秘所に近づける。  
互いの先端が互いを感じあい確かめ合ったところで、一気に挿入を開始する。  
「ん・・・んああああああああっ!!!」  
今までに感じたことのない異物感が稲穂の膣内に広がる。  
小学生のモノである。先程の前戯の甲斐もあり決して大きくないソレはたやすく半分まで侵入していく。  
真夏は腰を動かしながら、もう半分をゆっくりと押し込んでいく。と、その侵入が「壁」に阻まれる。  
小学生の性知識でもこの「壁」が何であり、どういう意味を持つのかは容易くわかろう。  
「し・・・師匠?」  
申し訳なさげに上目で稲穂の表情を伺う真夏。が、前髪に隠れた瞳からその正否を伺うことはできない。  
やがて真夏の動きを察したのか、ごくりと唾を飲み込んでから、彼女は深く頷いた。  
「ほ・・・ホントにいいんですね?」  
憧れの年上の女性の処女を貰う。そんな倒錯的なシュチュエーションに真夏の興奮は最大値に達する。  
そして、最後の一突きを放った。  
 
「〜〜〜〜〜っ!!」  
ペニスに肉壁とは違うどろりとした温かみを感じる。血だ。話に聞いていたソレの血だろう。  
そして血が出ているということは痛みを伴うはずである。しかし稲穂は声を押し殺していた。  
真夏に心配かけまいという心づもりなのだろう。しかし痛みを堪え歯を食いしばるその様は余計に真夏の心に響く。  
―――思えば出会ったその時から彼女には世話になりっぱなしだった。  
力丸を救い出すこと、指揮棒の使い方を教えてもらったこと、自分専用のキノコレシピを作ってもらったこと。  
いつも彼女は自分のことを気遣ってくれていた。そして今もなお。  
 
だから・・・だからオレは師匠に報いるべく、これからの人生命を賭けても彼女を守り抜く!  
チャンプの、あいつらの思い通りになんてさせない!  
 
押し寄せる快楽の波の中生まれる確かな強い決意。その強い思いのせいか、真夏の腰の動きもよりいっそう早まる。  
「・・・師匠!!師匠!!オレは!!オレは・・・!!」  
「ちょ・・・しょ、少年!!激しっ・・・んあぁっ!!」  
求め合い激しく抱き合うふたり。そして絶頂。  
真夏の迸る情熱が中へと注がれる・・・。  
 
「・・・まったく、日が日だったら危うく少年とブリードしていたところだぞ。」  
事を終え、大股開きで拭き取る稲穂。性に疎い割にこういうあたりは放埓というか無頓着というか、  
さすがに今まで事に及んでいた真夏も思わず照れて顔を背ける。  
「あ、そうだ師匠、今更なんですけど菌糸瓶のチェック・・・」  
「んん、それならすぐやるさ。幸い、少年の看病も効いてきたしな。」  
意地悪く笑いながら応える稲穂。彼女の思わぬ反撃に真夏はまたも照れて顔を背ける。  
 
(・・・思えばオレ、すごいことやっちゃったんだよなぁ)  
ややあって憧れの女性を押し倒し、そのまま処女までいただいちゃったわけで。  
ふと、彼女の胸の感触、愛液の臭い、膣内の温もりが思い出される。  
本能の赴くままに行動していた先刻ならまだしも、冷静になった今それらの感覚を思い出すと妙に恥ずかしいものだ。  
もうこうなったら意地でも彼女の人生守りぬかないとな、と苦し紛れにあの時の決意を反芻する。  
と、同時に胸に去来する物足りなさ。まだ自分は「少年」であって「真夏」ではない。  
自分はまだ彼女にとっての特別になりきれてない。彼女の心の傷を忘れさせる存在でもない。  
高望み、といえばまあそれまでなのだが。  
 
「ああ、そういえばさっき言ってた名前の事なんだがな・・・」  
と、その刹那ちょうど今考えていたことをズバリ指摘するような呼びかけを受ける。  
心の中を覗かれたようで心臓が飛び出そうになる。  
「・・・私のことを『稲穂』って呼んでくれたらこっちも呼んでも構わないぞ。」  
「え!?えええええええええ?!」  
稲穂の更なる発言に心臓が飛び出るどころか破裂しそうになる。  
彼女の表情を見る限り本気ではないのは明らかなのだが真夏にとってはそれどころではない。  
顔を真っ赤にし、脂汗たらたらで唇を震わせながら必死に言葉を紡ごうとする。  
 
「なっ・・・い、いな!!なっ・・・いなっ・・・い・・・・し、師匠!!」  
 
あははは、と稲穂の笑い声が響く。なんだかんだで結局自分もこの有様だ、と思うと真夏も釣られて笑い出す。  
この二人、まだまだ師弟の域を抜け出せないようだ。  
 
 
おわり  
 
 

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