「春埼――君が隠し事をしているのはわかるよ?」  
 
今まさに捕食される小鹿のように震える春埼を  
ベッドに横たわらせながらケイは春埼に、そう声をかけた。  
 
「はい、わかっています」  
 
ケイに話せない様々な感情を飲み込んで、春埼はケイにそう答える。  
柔らかな拒絶。  
しかし、それでも春埼はケイをその身に受け入れようとした。  
ケイに求められたのならば、けして断らない。そう決めた。  
春埼にとっては、未来視をもつ恋敵・相麻菫に、  
何度となく邪魔されたケイとの初めての夜なのだから――。  
 
おずおずと、震える唇が触れ合い。  
次第に唾液を交わすような激しい口づけへと移っていく。  
その頃には、理性など役にたたないモノに成り果てていた。  
 
★  
 
 
「――…んっ」  
 
ビュクビュクと、ケイのペニスが痙攣する。  
桜色に美しく上気した春埼のナカに、ケイは精液を送りこむ。  
 
春埼の初花を手折り。  
ケイは避妊を拒み、半ば恣意的に中出しをして、  
M字に開かせた春埼の白い脚の中心の性器から、自分の性器をズルリと引き抜いた。  
白く温い体液が春埼の尻からポタポタとシーツに零れ落ちる。  
それを確認して、初めての行為に恍惚とした心ここに有らずな体の春埼に  
ゆっくりと、ケイは顔を近づける。  
その耳元で――囁いた。  
 
「――春埼、リセットだ」  
 
 
☆  
 
 
「――春埼、リセットだ」  
 
 
☆  
 
 
次の瞬間にはケイは、ケイが春埼を初めてベッドに誘う前のセーブ地点に戻った。  
いつもの喫茶店のテーブル。  
バニラアイスと、まだ熱いコーヒーを手に、向かいあって座っている。  
記憶を思い出して、ケイは何事もなかったかのようにコーヒーをテーブルに置き、  
かわりにバニラアイスのスプーンを手にした。  
スプーンひとすくいの冷たいアイスは、ケイの思考を冷やして、すぐに舌の上で溶けて消えた。  
 
何も知らず、まだ無垢で純潔のままの春埼は、  
綺麗なガラス玉のような瞳でケイを見る。  
ごく自然に、かつ事務的に、現在の時間を述べる――。  
 
ほんの一瞬前まで、ケイに抱かれて健気な痴態を見せていたとは思えない、  
絶対的なまでの無垢さと清純さをたたえていた。  
 
春埼の無垢。純潔。清らかさ。  
それらを、ケイは失われることが惜しく思っている。  
処女の春埼を。  
絶対的に清らかな存在を。  
ケイは満足するまで。納得するまで。或いは、飽きるまで。  
大事に取っておきたいと思う。  
そうして。初めての夜は、幾度も。  
繰り返し、繰り返し、飽くことなく繰り返えされる。  
 
春埼はその記憶を保たずとも、ケイは既に春埼の体と、その声と、その痴態のすべてを熟知している。  
心も体も無垢なまま、春埼はケイの情人も同然だった。  
 
 
春埼――僕は、君のことを誰よりよくわかっているつもりだよ?  
 
 
 
【END】  
 
 

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