音のした場所に駆けつけると、そこには大きな人だかりと、  
少し前まで形を成していたであろう陶器の破片が散乱していた。  
奥に陶器の入った荷車があるのを見ると、どうやらその中の荷が  
倒れてこうなったと考えられる。  
すぐさまリムルルが野次馬の一人である中年の男を呼び止めて、  
何故こうなったかを聞いてみる。  
「…あの。おじさん、何があったの?」  
中年の男がふり返り、二人を見て警戒を緩めて答えた。  
「あぁ、嬢ちゃん達見なかったのかい?いや、俺も詳しくは  
 知らねぇんだけどな、何でも…ホラ、そこの荷車の近く  
 に子供と大人がいるだろ?」  
と、中年の男が指差した先には確かに少年と男性の姿があった。  
子供の方はリムルル達と同じくらいで、男性の方は  
中年の男より少し若いくらい。何やら少年の方は怯えた顔で  
うずくまっており、男の方はそれに向かって怒鳴り散らしている。  
リムルル達が来る途中に聞いた怒号はこれだったのかと納得していると、  
中年の男が話を続け始めた。  
「荷車ぶつけちまったらしいのよ、あの男。ま、当然荷物は  
 ひっくり返るわな。坊やの方はちょいとぶつけただけで済んだ  
 らしいが、痛ぇわなぁ…。」  
と、顔をしかめながら離す中年の男に、閑丸は先程の  
発言と、今の状況の矛盾を疑問に思い、それを聞いた。  
「え?じゃあ、何であの子は怒鳴られてるんですか?  
 ぶつかられたんなら謝るのはあっちの人じゃ…?」  
ごく当たり前の指摘。しかし、それを聞いた瞬間中年の男は  
「それだ!」と手を打ちながら思い出した様に付け足した。  
「そうそう、そこなんだよ!まぁ、あの坊やが全然悪くねぇ  
 って言ったら嘘になるがなぁ、ともかくあの男が逆上  
 しちまってあのザマよ…。」  
 
「じゃあ、何で誰も助けないの!?」  
理不尽な仕打ちに対する怒りで、興奮気味に話すリムルルに、  
中年の男は少し渋い顔をし、声を落としながら答えた。  
「みんなそうはしてやりてぇんだが、あいつはここら一帯を  
 縄張りにしてるごろつきでなぁ。腕っ節には自身あり。  
 あいつの下にも結構手下がいるらしい。そういう訳で  
 役人でも手出しが……って、おい、嬢ちゃん!?」  
「だからって…!そんなのって……!!」  
中年の男が話している途中で駆け出していたリムルルは、  
物凄い速さで人込みを掻き分け、騒ぎの真ん中へと  
突っ走っていった。  
唖然として暫くそれを見ていた閑丸も、はっと我に返る。  
「おじさんっ、ごめんなさい、荷物お願いします!取りに来ますから!」  
そして、中年の男に荷物を預け、後を追った。後から追いかける  
男の声と、輪を外れて閑丸とリムルルをじっと見ていた視線に  
気付かないままに。  
 
 
騒ぎの中心では、相変わらず男が少年に向かって怒鳴り散らしていた。  
「…だから何度も言ってんだろ!?どうしてくれるんだってよぉ!」  
少年は男性が大きな声で怒鳴るたびに、その小さな体をますます小さく  
縮こまらせ、震えて絞る様な声を出していた。  
「…ぁ…、ごめん……なさい……。」  
怯えて、ただ謝る事しかできない少年の態度が、ますます男の感情を  
逆撫でさせる。  
「聞き飽きたっつってんだろ!?…弁償しろよ…!  
 全部まとめてなぁ…!一人でできないなら親になり  
 何なり出させるぞ、コラぁ!」  
 
そう言って、その足でうずくまっている少年に一蹴りあびせる。  
たまらずに声を上げて転げる少年の姿を見て、周りから呻き声  
がどよめく。  
「どうした、痛ぇのか?痛ぇんだろ?  
 なら早く誰か呼んでみろってんだぁぁ!」  
と、もう一度足を踏み上げた刹那。何か硬いものが男の額にぶつかり、  
勢いのよい音と共にに後ろに倒れた。  
「ぐぁぁっ!」  
男にぶつかった物は握りこぶし大の氷の塊であった。勿論、  
リムルルがコンルに作って貰った物を男に向かってぶん投げたのだ。  
男が身をおこすと、そこには眉根を吊り上げたリムルルが、  
少年をかばう様にして立っていた。  
「…つっ…。氷だと…?手前の仕業か…チビ…!」  
男の怒り様も気にせず、リムルルは息を大きく吸い込んで、  
自分の怒りを吐き出すかの様に大声で答える。  
「そうだよ!恥ずかしくないの!?この子怪我させて、  
 謝りもしないで!」  
見ると助けられた少年は足を捻っており、その部分が青アザに  
なっていた。先程からうずくまっていたのは、その怪我の所為だった  
様だ。  
「さ、行こっ!立てるよね?」  
リムルルが肩を貸すと、少年は「うん」と短く答え、それにつかまった。  
そしてその場を去ろうとするが、勿論ごろつきがそれを許すはずが無い。  
「おい、コラぁ!何勝手な事してやがる、チビ!!」  
怒り狂って、男は腰に差していた刀から鞘を抜き放ち、二人に切りかかった。  
咄嗟に腰の短刀、ハハクルで受け止めようとして構えた所でまた別の刀が  
割り込んで、男の刀を受け止めた。  
大人が持つにも大きな刀。リムルルも何度かは目にしたことがある。  
 
大祓禍神閑丸。割り込んだ刀の先には、それを両手で構える  
赤毛の少年の姿があった。  
「閑丸!」  
そう呼ぶと、男の方を睨み据えたまま閑丸はこくりと頷き  
「僕だって、格好悪いと思います。」  
とはき捨てる様に言う。何度も子供に邪魔された事で怒りが頂点に  
達したごろつきは、ついに最後の手段に出る。  
「手前ら…俺を舐めるのもいい加減にしやがれ…!!  
 おぃ野郎共!構いやしねぇ、たたんじまえ!」  
男の叫びとともに、図体だけ大きそうな男がぎらぎらと光る刀を  
抜いて、三人を追いかけていた。  
「どうする、閑丸!?」  
リムルルは閑丸に問うが、それは疑問ではなく確認の意であった。  
閑丸もリムルルの言葉の意を理解していた。  
「だってこれが一番いい方法でしょ?」  
と即答し、少年のほうに駆け寄り、二人一緒にその少年を抱えた。  
「ね…ねぇ、どうするの…!?」  
状況の理解できない少年が慌てて質問を繰り出と、二人は  
同時に「逃げる!」と答え、脱兎の如く一目散にその場を後にした。  
後には唖然とする野次馬と、相変わらず憤慨するごろつきの親玉と  
慌てて三人を追うごろつき共の姿。  
「あ〜あ…行っちまったなぁ…。これ…どうするよ…。」  
とぼやくのは先程リムルル達が話を聞いた中年の男性。  
リムルルが少年を助けに行き、慌ててそれを追って閑丸  
も向かったが、その時に荷物を預かっていたのである。  
「取りに来る…つってたから、忘れちゃいねぇだろ。  
 しかし、あそこまで威勢の良い子供も珍しいもんだ。」  
と、稀に見ない光景を思い出し、一人でうすら笑いを浮かべていると  
不意に後ろから声が飛んできた。  
「ねぇ…そこのあなた。」  
 
気配のなかった事に驚いて後ろを振り向くと、一人の少女が静かに腕を組んで  
立っていた。少女とは言ってもリムルルよりはもう少し上で落ち着いた雰囲気を  
持っており、髪は肩ほど、紫色の衣装で纏めた格好で、意志の強そうな瞳で  
こちらを見ていた。そしてその少女がもう一度口を開いた。  
「その荷物、さっきの子達のよね?」  
急な事で呆然としていた中年の男は、荷物の事を聞かれてはっと我を取り戻した。  
「そ、そうだぜ姉ちゃん。あの赤毛の嬢ちゃんから預かったやつだ。」  
赤毛の嬢ちゃん、とはどうやら閑丸の事を言っているらしい。  
男の答えを聞いた少女は、くすりと口の端を緩ませながら言った。  
「…その荷物、私が届けるわ。預けて貰えない?」  
その質問に、すこし怪訝そうな顔をしながら中年の男が答える。  
「…まぁ届けてくれる分にはありがてぇが、姉ちゃん、  
 あの二人の知り合いかい?」  
少女はその質問に、躊躇無く答える。  
「ええ。片方はよく知ってるわ。私の妹だもの。」  
中年の男はなるほど、と頷き、荷物を預け様にもう  
一つ質問をくりだした。  
「あんた達、名前聞いても構わねぇかい?  
 いや、あんた達みたいに骨のある奴は久しぶりでなぁ。」  
少女は一瞬悩んだが、小さく頷いて質問に答える。  
「いいわ。あの栗毛の子はリムルル、私の妹よ。  
 赤い髪の子は…閑丸君…だったかしら。」  
荷物を受け取り終え、くるりと背を向けて顔だけを  
中年の男に向けて、最後に自分の名前を答える。  
「私の名前は…レラ、レラよ。」  
男が名前を聞き終え、「そうか。」と答え反対を向いて何やら  
ぶつぶつと呟き始めた。  
「あの姉ちゃんがレラで、栗毛の嬢ちゃんがリムルルで…  
 あぁ、ややこしい名前だなぁ!んで、最後に赤毛の嬢ちゃんが  
 閑丸…君…?って、あの子男なのかい!?姉ちゃ………ん…?」  
中年の男が振り向いた先には、先程までいたはずの少女は、とっくに  
姿を消しており、後には悠々と風が舞っていた。  
 

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