「…これからどうする、閑丸?」  
別所での荷物のやりとりがあったのと同じくらいの時間に  
手下をなんとか撒いて、姿を隠したリムルルと閑丸は一旦町を出る事  
にし、安全に抜け出す算段を考えていた。追いかけ合いになると困る  
からだ。もしそうなるといくら二人が普通の子供と違うとはいえ、  
大人と子供なのだ。体力の差が少なからず出る。ましてや、こちらは  
手負いの少年をかかえて走っているので早急に手を考えないと追いつかれてしまうのは時間の問題である。  
「どうしよう…早く考えないと………」  
閑丸は必死にこの状況をなんとかする方法を考えていた。  
しかし、考えればそれ程に思考はからからと空転するばかりで、良い結論には至らない。  
「なにか…なにか安全な方法……うーん……。」  
そして、こんな時ほどに余計な事ばかりに気付いてしまう物である。  
勿論、また悩みを増やす方向へ。  
「……あ………!」  
何を思ったか声を出し、難しい顔をした閑丸の顔がぱっと素に戻った。  
するとそれを見て何か閃いたのかと思ったリムルルが、閑丸の方を見やってくる。  
「なになに?何か考え付いたの?」  
期待を顔満面にして問うてくるリムルルだが、残念ながら閑丸が返した  
答えはその期待に応じるものではなかった。  
「…ううん。じゃなくて荷物…あの野次馬のおじさんに預けっぱなし…。」  
「…………っ!?」  
その答えにリムルルは文字通り転びそうになった。そういえば  
さっきからいつも持っている傘も見当たらなかった。  
一応気付いていたけど、成る程そういう事だったのか。雲が晴れる  
かの様に疑問は解決し、しかしそれにより、新たな問題が発生した。  
勿論その荷物を取りに行かねばならない事である。騒ぎの中心になったあの場所まで。期待を見事に裏返す答えにどういう顔をしてよいのか分からなかったリムルルは、閑丸をひたすらに見た。見るしか出来なかった。  
「……………………。」  
閑丸が恐る恐るリムルルの方を見ると、既に無表情の表現  
そのままの顔をして、じっとこちらを向くリムルルの顔があった。  
 
閑丸はその顔に怖気さえ覚えながら声をかけてみる。  
「リムルル……?」  
二人で見合う事数秒。不安げにリムルルの反応をうかがってみていた  
閑丸だったが、あまりにも反応がないのでもう一度声をかけてみると、リムルルは先程の表情をそのままに、短く返して来た。  
「……バカ。」  
「なっ…!?」  
お互いの為、と正直に考えを言葉にする事を厭わないリムルルなら  
ではの一言。その一言に閑丸がひるんでいると、リムルルの顔が  
表情を取り戻し、まくし立てる様に次々と言葉を口にしてくる。  
「おバカぁっ!もぉ〜っ!何でそんな大事な物、忘れてくるのよぉっ!」  
 単にうっかりだけなのならこれで終わりだったのだが、場合が場合なのでこればかりはと閑丸も引き下がらない。  
「ば、バカバカって…!…リムルルが止めたのに輪に入って行ったからじゃないかっ!」  
「うっ……!」  
 尤もな指摘。だが不覚といった表情を浮かべたのは一瞬だけ。そもそもここで参ったする位なら、最初からふっかけたりなどはしない。  
「でも!ならだいたい何で荷物を預けて来たの!?」  
 これまた尤もな指摘。押しの強さでもはや勝負あったと思われたのだがそうでもなく、閑丸も一歩と引き下がらずにいる。  
「え、っと…咄嗟にだよ!あんな事になるだなんて  
 思わなかったんだ…!」  
「相手はあんな奴なんだよ?黙ってやめるとも  
 思えなかったよ!?」  
「そうだけど、でもリムルルだって…!」  
「何よぉっ!」  
「な、何だよっ!」  
 一進一退の攻防。互いが言葉を返すにつれて言い争いは激しさを  
増していってしまっている。二人ともまわりの人間の不審がる視線を  
気にも留めず、頬を朱に染めて自分の言い分をぶつけ合っていた。  
そんな中で、さっき助けられて、しかし今は全くほったらかしにされている少年はどうしていいか分からなかった。  
 
「ね、ねぇ……。」  
 とりあえず二人に声をかけてみる、が、あまり大きな声でなかった  
のがいけなかった。二人はまだ「閑丸が」とか「リムルルが」とか  
論争を繰り広げていて、こちらに全く反応してくれない。仕方なしに少年も声を大きくしてもう一度よびかける事にした。  
「ねぇっ…!」  
 しかし、またもや反応無し。この仕打ちに痺れを切らした少年は、もう一度、一際大きな声で呼びかけた。  
「……ちょっと!聞いてくれてもいいじゃないかぁ!!」  
 ここまできて、やっと声は届いた様だ。二人とも、一瞬獣の様な  
形相でこちらを睨み付けたかと思うとすぐに「しまった」という風な顔に変化していた。  
「あ………。」  
 誰のものか分からない漏れ出した様な声の後に気まずい沈黙が続く。  
やがて、リムルルが二、三度口ごもった後に、申し訳無さそうに言った。  
「……え、えと……えっと…ごめん。早く…家に戻らないとね。」  
 それに続き、閑丸もぺこりと頭を下げて「ごめんなさい」とお辞儀で  
謝った。二人に一度に謝られ少年は少し困ったが、その言葉を笑顔で  
返す事で、答えとした。その表情に雰囲気が少し和んだ所で、三人はすっかりずれて何処かに行ってしまっていた本題に戻ることにした。  
「え〜っと…そうそう。きみが安全に町を出る方法、だったよね。」  
 問題点を再び定めたところで、リムルルはさっき自分の言った事に  
なにかあったのか、一度「うぅん」と唸る様な声を出し、首を  
傾げながらさっきの言葉に言いなおす様に付け足した。  
「いつまでも「きみ」って呼んでたんじゃ変だよね。きみ、名前はっ?」  
 リムルルがずいと前に乗り出して少年の方を向いた。少年は少し  
その勢いに押されながらもはっきりと答えた。  
「ぼくの名前は空…。空って言うんだ。」  
 照れと苦笑いが混ざった様な笑みを浮かべながら少年は  
自分の事を「空」と呼んだ。  
 
「ヘンな…名前だよね…。」  
 やや自嘲気味にそう言うと、少し斜め下を向いた。  
実際、自分としてもあまり自信を持てる名前ではなかった。  
 少し変わった名前であるだけでも、同じ年の子供達に馬鹿にされたり  
のけ者にされるには、十分な理由なのである。が、しかし  
『そんな事無いよ!』  
 リムルルと閑丸の声が同時に合わさって放たれ、空はいきなりの事に  
少し驚き、びくっと肩を軽く振るわせた。  
「いい名前じゃない! 空って。青くて広くて、綺麗で見ててほっとできるし…。」  
 と、うっとりとした表情で答えるのはリムルル。持てる想像力の  
全てで作り上げた自分の中の「空」で悦に入っている。  
「僕もいい名前だと思う。ヘンじゃないよ、…うん。」  
 閑丸も何度もうんうんと頷くことで、変でない事を訴えかける。  
 二人のその言葉に、空は自信を取り戻した様に一言つぶやいた。  
「…そっかぁ……ヘンじゃ…ないんだ…。」  
 その呟きが耳に入り、リムルルは背中を押してやる様に答えてあげた。  
「うんうん、絶対いい名前だよ!」  
 と、二人はわきあいあいとした雰囲気で話していたが、  
その後ろで閑丸は浮かない顔で咳払いをしていた。  
「……閑丸?」  
 リムルルは少し驚いている様な顔をして、くるりと閑丸の方を向いた。  
 すると閑丸が少し呆れた感じの顔で静かに口を開く。  
「…それで…町を出る方法…。」  
「あぁ!」と納得の声を上げ、手をぱちんと叩いた。知らない内にまたうっかり  
脱線してしまっていた。リムルルは少しばつの悪そうな恥ずかし笑いを浮かべる。  
「え…えへへへ…ごめんごめん、また飛んじゃってたね…。」  
 そう言うとリムルルは片目をつむって後ろ頭をかく。  
 
「まったく…、しっかりしてよ?」  
 閑丸がそう言うと、リムルルはさっきと同じ格好を崩さないで  
もう一度謝った。  
 ふと、その様子を見ていた空はある疑問が浮かんだ。  
「ねぇ、お姉ちゃん達。」  
 早速聞いてみようと、空は意気揚々と二人に声をかける。  
「ん?なぁに?」  
 空の無邪気な声にリムルルが何の気無しに後ろを振り向くと、  
思いにも寄らない言葉が飛んできた。  
「…お兄ちゃんとお姉ちゃんって、「恋人同士」…なの?」  
 
「……ふぇ…!?」「…ぃ……っ!?」  
 
 あまりの豪速球に一瞬反応が遅れ、中途半端にこっちを  
向いて固まる閑丸に、真っ直ぐに立って固まっているリムルル。  
二人は絶句し、顔を真っ赤にして固まっていた。そんな様にもお構い無しに、空からの質問は続く。  
「母上が言ってたよ。女の子と男の子の仲良しは、その二人が「恋人同士」の時なんだって。…違うの?」  
 違う。…いや、違わない。しかし違う。だけど違わない。  
その解釈に少しずれのある事を無視しても、答えることができない。  
 二人が二人とも、恥ずかしいのだ。水邪を退け、お互いが体を重ねた  
あの日から、それといった言葉に敏感になっていた。  
そういった言葉を耳にするたびにあの夜の情景が頭に浮かんでしまう  
からだ。しかし、さっき出会ったばかりの空はそんな事を知っている  
はずが無い。ただ好奇心の赴くままに、あくまで純粋に質問している。  
しかし、真正面から受け止めてしまっているリムルルと閑丸にとってはどんな謎かけより答えにくい質問なのだ。  
「は………うぅ……。」「……う…ぅ………。」  
 リムルルと閑丸は、自分は何も言えないといった表情でお互いを  
見合わせる。らんらんと輝く空の視線がとても痛い。  
 
「え、えと…その…ねぇ、閑丸?」  
「…え?あ…そ、そうだよね、そ、それより先に…まずは…  
 ここから離れなきゃ…ね…?」  
 どうしようもなくなった二人が最後の手段といわんばかりに、  
話を逸らすという荒業にかかると「ちぇっ。」と空は心底がっかりした  
表情でリムルル、閑丸を順に見渡した。  
 二人は空と目線があうと、再び心にずしり、とのしかかる物を感じず  
にはいられなかった。引け目を感じながらもすごすごと路地に戻る二人  
に、空がこれ以上の追求をしてやらなかったのが幸い、と言えば幸いか。  
 売り手と買い手でごった返す屋台通りの路地に戻った三人は、  
流れ来る人の波を逆行しつつ進んでいた。辺りは既に暁がかっていて  
帰路に着く人々と、もう一買い程して帰ろうという人とでぱっきり  
分かれていた。ここまでの人ごみではあのごろつき共見つかる可能性も  
ほとんど無いのだが、それでも用心するに越したことはない、との閑丸の意見なのだ。  
「う、う〜ん…ぎゅうぎゅうで…せまい…。二人とも、ついて来てる?」  
 と、リムルルが人ごみをかきわけながら言うと、その人ごみの  
中からひょこひょこと二つの頭が現れ、その後に続く様に体も現れた。  
「うん、ちゃんとついて来てる。」  
「僕も大丈夫だよ。」  
 閑丸と空が言葉を返すのを聞き、一旦それに向かって頷くとリムルルは再び前を向いて歩いていき、人ごみの中へと消えていった。  
 慌てて二人が追いかけると、すぐにリムルルが再び視界に入った。  
しかし、目に入ったリムルルは正面から向かってくる人の腹に見事に  
顔をうずめていた。閑丸は何かぞっとする物を感じて瞬く間にそちらに  
飛び、背負われていた空は危うく急加速でふり落とされそうになる。  
「…わぷっ…!」  
「っ!? 気をつけろ、チビガキ!」  
 顔をうずめられた男は、さぞ不機嫌そうな顔を首だけこちらに向けて  
怒鳴ると、くるりと顔を体と同じ向きに戻して行ってしまった。どうやら虫の居所が悪かったらしい。  
 
少しぽかんとしていたリムルルだったが、さっき男に言われた  
言葉を頭の中で繰り返すごとに、機嫌をどんどん斜めにしていった。  
「…ちび……。 …むかぁっ…!」  
 眉根を吊り上げ、リムルルはぐるりと反対を向きながら  
だんっ、と勢いよく足を踏み出し、いざ言い返さんと大きく口を開いた。  
「…っ!だれが小さっ   …むぐっ!むぐむぐ……!」  
 大声で叫んだ筈だった口は、誰かの手によって塞がれており、  
リムルルは全てを口にする事なく口をむぐむぐとさせるしかなかった。  
突然の事に驚きながらも、自分の口を塞ぐ腕の先を辿ってみると、  
肩で息をしている閑丸の姿があった。  
「ん〜っ!むぐっ、んむ〜!」  
 声が出せずともお構い無しに猛抗議するリムルルと、それに気おされ  
ながらも口を塞ぐことを止めない閑丸。やがて、男の姿が完全に消え去ってから、閑丸はゆっくりとリムルルの口を塞ぐ手を離した。  
「ぷはっ! もぉ、閑丸っ!何で邪魔するのっ!?」  
 やっと声をまともに発する事を許された口が鉄砲水の如く言葉を発  
す。理不尽、といえば理不尽な仕打ちに対する憤りは、当然それをぶつける事を妨げた閑丸にも向く。  
「…え?あ、これはその、えっと…つ、つい…。」  
 自分でも驚くほどの迅速な反応だったと思う。  
何せ、あんな所でまた大騒ぎになってしまったりしたら、  
敵の捜査網をかいくぐって来た意味がまるでないという物だ。  
次に見つかってしまったら逃げ切れない可能性だってある。  
「ほ、ほら、行こうよ。急ぐんだもんね?」  
「…わたし、閑丸にだって起こってるんだからね。」  
 なんとか理由を説明し、しかしまだ納得いかずに眉を吊り上げる  
リムルルを連れ、やっと三人は町の外まで出て来ることが出来た。  
とっぷりと日が落ち、町近くの林の木々は月明かりに照らされ、  
青白く光っている。その林に紛れ込んだ三人は、またさっきの  
様に今後どうするかを考えていた。  
 
「やっぱり家に戻る時の方が問題だよね…。」  
と、今自分達がおかれている苦しい状況に首を傾けるリムルル。  
 それに応ずる様に二人の少年も首を縦に振る。  
「待ち伏せ…されてるだろうしね。」  
閑丸もこの先は十分警戒していく様に促す。実際、待ち伏せは当然、  
下手をすれば家族まで危機にさらされている可能性もなくはないのだから。  
「……………。」  
 その会話の中で一人、空だけがうつむいたまま何も喋らなかった。  
この二人を巻き込んでしまった、いや、それだけではなくもしかしたら  
他の誰かをも巻き込んでいるかもしれない、そう考えて責任を感じずに  
いられる程、空は図々しくない。  
「……………空?」  
「……どうしたの?」  
「…………僕………。」  
 心配そうに顔を覗かせる二人をよそに、空はすっくと立ち上がる。  
そして、真剣そのものの表情で言った。  
「…僕、町へ戻るよ。」  
 そう言うや否や、あっと言う間に空はリムルルと閑丸の横を駆け抜けて行った。二人はぎょっとするが、急いで空を止めに入った。  
「駄目だって、落ち着いて!」  
 閑丸がまず前に立ちはだかるが、見えないかの如く横を通り過ぎる空。  
と、その腕が誰かに掴まれる感覚。そこには自分の腕を必死に掴むリムルルの姿があった。  
「気持ちはすごく分かる! でもここで行っちゃなんにもならないよ!」  
「でも! 父上と母上も危ないかもしれないんでしょ!?」  
 そう言うと振りほどこうと腕の力を強める。するとそれに応じてリムルルの腕を掴む力も強まった。  
 
「絶対離さないから! あいつら空を待ってるんだって!」  
 一度大きく感情を爆発させた事でだんだんと冷静になってきた空は、  
ここまで必死なリムルルを見て、だんだん自分が悪い事をしている  
気分になってきた。この事件で一番協力してくれたり、迷惑をかけたり  
しているのは間違いなくこの二人なのだ。今自分がしている事は、  
その二人を裏切っているのではないか、空はそう考えると、これ以上足を前に進める事など出来なかった。  
「………………。」  
腕の力を抜き、その場に立ち尽くす。その様子をリムルルが見て、  
掴んでいた腕を離した。  
「空…………?」  
「ごめん、僕……。」  
申し訳なさそうな顔をする空を見て、閑丸は首を振りながら言う。  
「なにも言わなくていいよ。それより……」  
「…あそこに戻る方法でしょ? 出来ないこともないわね…。」  
「……………!?」  
突如、聞きなれない声が閑丸の声に割って入る。ばっと三人がその  
声のする方向を向くが、そこは墨をひっくりかえした様な夜空に、  
星が散らばっているだけだった。  
「ほら、どこを見ているの?」  
「………誰なの…!?」  
今度は反対からの声。リムルルがその声に声だけで反応する。  
「…少なくとも、あなたたちの敵ではないわ。」  
リムルルもかすかにそれは悟っていた。あの連中の中に女性は  
いなかったし、余裕綽々に今の状況を楽しむなど、連中に出来ること  
ではない。でも、ならば何故姿を見せないのか、そこが解せなかった。  
「…敵じゃないんなら、ちゃんと出てきてよ。」  
「ふふ……嫌だと言ったら、どうするの?」  
まるで悪戯を楽しむ様な声で謎の女性は答える。  
眉を吊り上げて警戒を強めるリムルルの代わりに、閑丸が一歩踏み出して答える。  
「僕たちの敵なら、戦います。」  
閑丸の言葉を聞いた声の主は、くすりと小さく笑った。  
「冗談よ。心配しなくても、ちゃんと出て行くわ。」  
声の主が喋り終わった直後、今リムルル達の後ろにある林の木々が  
がさがさと騒いだ。三人がそちらを見ると、黒い塊がたんっと軽い音を  
立てて着地した。  
 人の形をした闇色の塊は、徐々に月光に照らされながら、その姿を現していった。  
「……こんばんは。」  
 
「…………………!!」  
 そこに現れた姿は、声のとおり女性であった。紫の見慣れない衣装を  
纏い、首には淡い褐色の長布を丁寧に巻きつけている。凛とした目立ち  
顔立ちに、肩近くで揃えた黒髪が夜風でなびいている。  
 思ったよりも年若い声の主の登場に驚いていた三人だったが、  
なかでも一番驚いていたのは、今まで最もこの女性と渡り合っていた  
リムルルであった。  
「 …………? リムルル… どうしたの?」  
 どこか様子がおかしい少女に閑丸が気づき、声をかける。  
確かに、そわそわと視線を左右に泳がせたり、女性の顔をちらちら  
見やったと思えばうつむいたりと、どこか不安げで落ち着きが無い。  
 そんな様子に気付いたかは分からないが、その女性はリムルルに  
近づいて行き、声をかける。夜なのでよく見えないが、その顔は  
閑丸にはかすかに笑んでいる様に見えた。  
「急に大人しくなったわね…?」  
リムルルは視線を下に落としたままおずおずとしている。  
「……ま…え……。」  
誰に言った物か分からないほど小さな少女の声に、女性は少し疑問そうな顔で聞き返した。  
「…少し聞こえ辛いわ。」  
「な…まえ…、名前、 なんて言うの…?」  
いつもらしからぬか細い声。質問なのに、まるで言うのが嫌な様子であ  
る。そんな様子のリムルルに、女性が耳元まで顔を寄せ、何かを  
ぽつりと呟くと、今度は明らかに少女の顔に動揺が走った。  
それを確認した声の主は、三人の前にわざとらしく歩いて行き、くるりと向き直った。  
「私の名前はレラ。レラよ。」  
声の主は、リムルルの方に目線をやりながら、はっきりとそう言った。  
「レ…ラ……。」  
まだ同様している風なリムルルを後目に、レラと名乗った女性は  
夜風を体一杯に浴び、月に向かって大きく伸びをしていた――  
 

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