ナコルル・・・ナコルル。私。もう一人の私。肉体を削り、魂を燃やし、  
今なお大自然の傷痕を癒し続ける、もう一人の私・・・。あの日、自らの  
命をこの世の自然のために捧げることを誓ってから・・・何度花が咲き、  
何度実を結び、そして何度朽ち果てたか分からない。その間、じっと  
あなたは力を・・・大自然の巫女としての力を振り絞り、その日が来るのを  
待っていた。朝も、夜も。この深い深い森の奥で。いつか訪れると  
信じている、昔のような・・・人間と自然が、本当に支えあっていた平和な  
あの頃が、再び訪れる日を。  
 
それなのに、どう?いつになってもその日は訪れない。大自然に残された  
爪あとが、軽いものではないということは分かっていた。それを癒すために、  
長い年月がかかるということも分かっていた・・・だけど、おかしいわ。  
あなたが発した巫力で、確実に大自然の・・・いいえ、世界の崩壊は  
食い止められ、森も、人間も、草花も息を吹き返し始めたはずだった。  
ねえ、ナコルル?そうでしょう?そして今も、こうしてあなたに  
語りかける今さえも、ナコルル・・・あなたは力の限りを尽くしている。  
最善を、いいえ、それ以上を出し切っている。その身を滅ぼす程に。  
 
それほどにまで頑張っておきながら・・・何故かしら?大自然の悲鳴は止まない。  
癒されずに、今なお苦しむ声が聞こえる。助けを呼んでいる。遠くから、  
近くから・・・!それなのに、私には何一つ出来やしなかった。ナコルルが  
死力を尽くしているというのに、草木の一本も護ってやることさえ!!  
想いは募る。もがけばもがくほど。闘いたい・・・その想いだけが。だから  
もうこれ以上、指をくわえて見ているだけなんて耐えられない・・・。  
 
闘いたい・・・闘いたい!闘いたい!!  
 
だけど、その願いは叶うはずも無い・・・。今の私は、歯の抜け落ちた犬同然。  
なぜなら、アイヌの戦士としての証・・・大自然の厳しさで悪を討つ刃が、  
チチウシが・・・無いのだから。チチウシ!それが、私を・・・優しさで自然を  
癒すナコルルの反面である私を、厳しさで自然を護る私を突き動かす全て  
だった。ああ、もう一度この手の中に握りしめることが出来るのなら!!  
 
 
 
「う〜む、しかし見れば見るほど・・・」  
「あっ、にいさま?」  
「きれいだ・・・」  
「そ、そんなとこさわっちゃ!」  
「大丈夫だって、そっとするから」  
「うん・・・」  
「しっかしすげぇなぁ、このハハクルってのは」  
何をしていたのかといえば、リムルルが愛刀の手入れをしていたので  
横からちょっかいを出していたのであった。  
「これは誰にもらったんだい?まさか自分で作ったわけじゃ・・・」  
つつつ、と峰の部分に指を滑らせながら尋ねる。  
「まさかぁ!メノコマキリって言ってね、女の人が使う小刀の一種  
なんだけど・・・鍛冶のすっごい上手なおじさんが、私専用に作って  
くれたの。普通のとは切れ味も、丈夫さも、全然違うんだよ!」  
自慢げに話しながら、リムルルは窓から差し込む陽の光にその刃をかざした。  
「名工の逸品、というわけか・・・」  
確かに、ハハクルは羅刹丸の攻撃を正面から幾度か受け止めていた。  
普通なら叩き折られても不思議ではないほどの破壊力だったろう。  
にもかかわらず刃こぼれ一つなく、その鏡のように磨き上げられた  
刀身の、吸い込まれるような美しさは変わることがない。古くから、  
この種の武器に心を奪われて・・・という話はよく聞くが、素人が見ても  
こうなのだ。その魅力たるや、なかなかに恐ろしい。  
「はい、おしまい!」  
一通りの手入れが終わり、ハハクルは鞘の中へ戻った。その鞘にも  
美しい模様が彫り込まれている。これもまたおそらく、名のある  
職人の手によるものなのだろう。  
今日は珍しく、普段は朱色の布に大事に包まれているもう一振りの刀、  
チチウシが手入れのためにその姿を見せていた。ハハクルは小刀で  
あるのに対し、チチウシはその2倍近い長さがある。床の上に鎮座する  
チチウシの鞘を握りそっと拾い上げると、ずしりとした重みが伝わってきた。  
 
黒く染め上げられた鞘には、控えめな金の装飾が施されている。だが  
その飾らない出で立ちが、逆に黙して語らぬ無言の威厳、不思議なほどの  
神々しさを醸し出していた。  
『・・・抜いても平気かな?』  
カチャリ、とチチウシの柄に手をかけると、  
「だっ、だめ!にいさま!」  
音に反応したのだろうか、俺に背を向けて後始末をしていたリムルルが、  
必死の形相で叫んだ。  
「へ?」  
だが遅かった。俺の手によってほんの僅かに、冷たい刀身が姿をあらわした  
そのとき。  
 
 抜 ク ナ  
 
「うっ・・・」  
「にいさまっ!?」  
ガチャン、とチチウシが床に落ちると同時に、俺の体もまたもんどり  
うって頭からその場に転げ倒れた。  
「にいさま!にいさま〜」  
「はーっ、はぁー、はぁー・・・???」  
ずきずきと痛む頭を抱えながら、俺は息を荒げた。冷や汗で背筋が  
ぞくぞくとする。寒気までしてきた。  
「たっ・・・鷹に・・・睨まれた」  
「やっぱり・・・だから言ったのにぃ」  
あーあ、とでもため息をつきたそうな様子で、俺の顔を上から覗き込む  
リムルルが言った。そう、あれは刀を抜いた瞬間。怒りに燃える鷹の  
鋭い眼に睨まれたかと思うと、強烈な衝撃に襲われたのだった。実際に  
目の前に鷹が現れたわけではないが、頭の中では鋭い猛禽の口ばしが、  
無法者の身体全てを喰らい尽くさんとばかりに、俺に向けられていた。  
 
「こ・・・怖えぇ・・・何だよこの刀?」  
「チチウシはね・・・カムイコタンに伝わる宝刀なの」  
「ほ、宝刀?」  
俺の横に座りながら、うん、とリムルルは首を振った。  
「そう。ママハハっていう鷹が、この刀には宿ってるの。ママハハが  
認めた持ち主以外が抜くと・・・ね?」  
「ご、ごめんなさい・・・もうしません」  
「うっかり出したままにしてた、私もいけなかったんだけど」  
「いや、俺が悪かった。しかし・・・どんな人が持ち主に選ばれるんだ?」  
「誰よりも強い力と心を持ってたりとか・・・戦士としてアイヌモシリの  
平和とか、自然を守ることを誓った人とか・・・」  
いつの間にかリムルルは浮かない顔をしていた。  
「んで、今の持ち主はリムルルなんだろ?」  
「ちっ、違うよ!姉さまのだよ」  
「あ・・・ごめんな」  
「にいさまは何も悪くないよ。ほ、ほんとは今は私のなんだもん・・・  
だけど・・・姉さまは絶対に生きてるから、だから・・・」  
「分かってる。だから、リムルルはその刀を抜かない。そういうことだろ?」  
下を向いてしまったリムルルの肩を揺する。  
「うん。だから早く見つけなきゃ・・・怪我治して」  
「持ち物は、持ち主のところへ、だな」  
「うん」  
いつもの顔に戻ったリムルルは、チチウシを大事に拾い上げると  
再びそれを真っ赤な布に巻き、丁寧に部屋の隅に戻した。  
 
・・・そう、持ち主のもとへ・・・  
 
「? にいさまー、何か言った?」  
テレビの電源をつけた俺に、後ろからリムルルの声がかかる。  
「あん?なーんも」  
「・・・そう?」  
ガタガタと窓が鳴る。風が出てきたようだ。  
 
「次に各地の注意報警報です。XX県北西部に強風警報が・・・」  
「う〜ん、今日はすごいなぁ、風が」  
「いつになったら止むのかなぁ、ね?」  
もう寝る前だというのに、風は依然としてその勢いを弱まらせることは  
なかった。時折、路上を空き缶か何かが転がる音がしたり、風切りの  
音が建物に響くなど、そう滅多にない強風の夜となった。  
「まあ、ウチが壊れることはないし、ちょっとうるさいけど寝るか」  
「そうだね!にいさま、ほら!」  
「ん・・・今日も一緒に寝るのか?」  
「・・・だめ?」  
ふとんをふわっと捲り、俺の分のスペースを作って待っているリムルルが、  
何かをねだるときの上目遣いで俺の心をくすぐる。単なる添い寝だと  
いうのに、妙な事をおねだりをされているような、そんな気分だ。  
「だめじゃないよ。それじゃ寝ようか」  
「やったぁ!」  
電気を消し、俺がふとんに横になると、リムルルは掛け布団を戻した。  
「やっぱり、二人で寝るのがいいねっ!」  
「そうだな・・・あったかいし」  
「わたし、もう脚だいぶいいみたいだよ?明日にはもう平気かも」  
「うん?ホントかぁ?あんまりムリするなよ――」  
ガタガタガタ・・・他愛ない会話を遮る突風が、窓を派手に揺らす。  
「わっ!」  
その途端、リムルルがびくっとして布団を頭からかぶってしまった。  
「?どうしたんだよ、リムルル?」  
「まっくらだと、ちょっと怖い・・・風の音が」  
「ははは!大丈夫だって!!こんくらいじゃ、びくともしないよ?」  
「けど・・・何か怖いんだもん・・・」  
「苦しいだろ?出て――」  
ビュウッ!ガタガタガタッ!!ガシャーン!  
「いやー!ほら!ほらぁ!やっぱり!」  
「う、嘘だろ!ガラスが!?」  
 
異常なほどの突風が吹いたかと思うと、あろうことか部屋の窓ガラスが  
盛大な音を立てて割れたのだ。畳やコタツの上に、大小さまざまの破片が  
キラキラとちらばっている。しかしどう目をこらしても、その中にゴミやら  
石のようなものは見当たらない。まさか、本当に純粋な風の力だけでガラスが  
破壊されたのだろうか?  
「ありえねーって!リムルル、出てきちゃダメだぞ?危ないぞ?」  
「うっ、うん・・・」  
顔を出したリムルルに声をかけると、俺は布団から跳ね起き、飛び散った  
破片を片づけ始めた。  
「これ、他の階の人たちは大丈夫なのかな・・・」  
ぱきっ、じゃり・・・窓に背を向け破片を拾う俺の後ろで、ガラスを踏み  
しめる音がした。  
「リムルル!だから出てくるな・・・って・・・?」  
てっきり、俺はリムルルが出てきたのだとばかり思っていた。しかし、  
そこにいたのはリムルルではない、3人目の見知らぬ人影だった。  
背は低く、160センチぐらいだろうか。闇に沈む暗い色合いの上下と、  
顔を半分覆っている黄土色のマフラーが強風になびく。そして、暗闇の  
中で細く開かれた釣り目の中の瞳が、俺に向けられた。  
「くそ・・・また刺客か?冗談じゃねえぞ!」  
俺は自分を奮い立たせる意味でも、そして少しでも優位に立とうと  
大声を張り上げた。だが、威嚇する俺にはこれんぽっちも用が無い  
とでも言うように、人影の視線はすぐに俺からリムルルへと移った。  
「誰・・・?」  
不安の表情を浮かべながら、リムルルは布団から半身を出して尋ねた。  
すると、その人影はぐっとマフラーを下ろした。紅色の唇が露になる。  
「お、女の・・・ひと?」  
リムルルの指摘どおり、人影の正体はなんと女性だった。気が強そうに  
ぎっと目尻が上を向いた、かなりの美人だ。癖が強い量感のある黒髪の  
上には、変わった帽子。よくよく見れば、上着の裾やその帽子にはどこかで  
見たような模様が施されており、胸元には真紅の首飾りが輝いている。  
 
「え・・・そのモレウ、どっかで・・・あっ!」  
冷たい表情を崩さない女の姿から、リムルルは何かを感じ取ったらしい。  
だが女は、そんな反応に関心を持ったような素振りはこれんぽっちも  
見せず、リムルルの方へつかつかと近づいた。  
「こいつは渡さないぞ!」  
俺はとっさにほうきを携え、リムルルの前に割って入った。すると、  
冷凍庫のドアがバンと音を立てて開き、騒ぎを聞きつけたコンルが  
俺のさらに前へとかっとんできた。  
「にいさま?こ・・・コンルまで!」  
「来るならこ・・・ぃ?」  
だが、女は身体の向きをくるりと変え、俺とリムルルの横を通り過ぎ、  
部屋の隅へと歩いていった。そして壁ぎわに安置されていたチチウシに  
手を伸ばしたかと思うと、闇の中、朱色に燃える布をひゅっと思いっきり  
引っ張った。反動でくるくると回りながら天井近くまで刀が宙を舞い、  
布が足元にふわりと落ちると同時に、女の高々と上げた右手の中に  
漆塗りの鞘がしっかりと握られる。  
「あっ、そっちが狙いかよ!」  
「だめ!それは・・・!」  
俺はほうきを投げ捨て、慌てて女の背後から掴みかかろうとした。しかし、  
捉えたはずの身体は俺の両腕からふっと姿を消してしまった。一呼吸あって、  
後ろでぱきっとガラスを踏む音。どうやら一瞬の間にバック宙を決め、女は  
俺の後ろへと回り込んでいたらしい。背後を取られた戦慄に、俺は慌てて  
振り返って構えたが、女はチチウシを左手に握ったまま、自然体を崩しては  
いなかった。  
「お願い、お願いだから返してよっ!」  
「チチウシ・・・。そう、こういうことだったのね」  
懇願するリムルルの声に逆らうかのように、女は右手を柄に添えた。  
と同時に、ついに女の口から言葉が発せられた。空間を振るわせる、  
芯の通った声。  
「長かったわ。これで・・・闘える」  
そう言うと女は、俺たちの目の前で見せ付けるかのように、迷いなく  
チチウシをすぱっと抜いた。止める間さえ無い。  
 
「だめ!」  
恐らくは、その場にぶっ倒れることになる。あんなに思い切り抜いては、  
下手をすれば命さえ危うい。そう思ったリムルルは思わず目をつぶり、  
小さく叫んだ。だが女は直立したままの姿勢を僅かにも崩すことはなく、  
闇夜に光るチチウシを手の中でくるりと逆手に持ち替えた。青白い残像が、  
刀の起動にそって尾を引き、やがて消えた。  
「え・・・あれ?うそっ、なんで?」  
恐る恐る目を開けたリムルルが、驚きの表情に変わる。  
「持ち物は、持ち主のもとへ・・・そうでしょ?これは私の物よ」  
「そ、それじゃあ・・・ねえさま?やっぱりねえさまなの?ねえ!!」  
チチウシを抜くことができるのは、カムイコタンの戦士だけ。  
となると、当然ながら女はリムルルの姉、ということになる。  
あまりのリムルルの慌てぶりに、女の口元がすこしだけ緩んだ。  
「私は・・・・・・レラ。そう呼ばれていた・・・」  
「レラ?ねえ、なんでチチウシを抜けるの?誰?ねえさまじゃないの?」  
「リムルル、早く怪我を治しなさい。一刻を争うのよ」  
「! わたしの名前まで!」  
レラと名乗る女は、リムルルの問いかけには一切応えず、その代わりに  
更なるセリフでリムルルを驚かせると、チチウシをすっと鞘にしまいこんだ。  
「おい、あんた誰なんだよ!ちゃんと答えろ!」  
俺からも、レラにリムルルと同じ質問をした。すると、少し緩んだ顔が  
再びきっと元に戻り、顎を俺に向け口を開いた。明らかに見下している。  
「弱い男ね・・・そういえばリムルル、あなた・・・今までどうしてたの?」  
「よわ・・・」  
「あの頃からどれだけの月日が経った事か・・・どうやって生きていたの」  
「ううん、違うの!わたしね、親切なカムイの力を借りて、ねえさまを  
探しに・・・えーっと・・・そうだ、昔のカムイコタンから来たの!  
そのカムイは・・・誰かわかんない」  
「そう、過去から・・・それで、この軟弱者は誰?」  
「な、なん・・・じゃく」  
「この人は、わたしのにいさま!こっちの世界で、わたしを助けてくれたの」  
 
いちいちカチンと来るセリフをレラは放つ。そして短いやり取りが終わると、  
はあっと大きなため息をつき、さも残念そうに首を左右に振った。  
「まあいいわ・・・その状態じゃ、到底私と一緒に行動はできない。リムルル、  
早く良くなるのよ。すぐ迎えに来るわ。コンル、リムルルをお願いね」  
レラは胸元から小さな袋を取り出し、迎えに来るという言葉と共にそれを  
リムルルの膝元に放った。そしてくるりと窓のほうへと向き直り、窓枠に  
手をかける。名指しされたコンルはといえば、勢いよく登場したにも  
かかわらず、女がリムルルに危害を加えないということが分かってからと  
いうもの、特に目だった動きをするわけでもなくリムルルの横で漂って  
いただけだった。  
「待ってよ!あなた誰なの?ねえさまを知ってるんでしょ?」  
「あの子を、ナコルルを救うためにも・・・リムルル、あなたの力がいるわ」  
「救う・・・?」  
「こうしてはいられないの」  
「あっ!ねえ!!」  
呼び止めたにもかかわらず、レラは2階の窓から飛び降りた。俺が窓の外を  
眺める頃には、何かに乗ったレラの人影は人通りの無い裏通りを疾走し、  
あっという間に見えなくなってしまった。  
「な・・・何だよあいつ・・・あ!しかもチチウシ奪われちゃったじゃん!  
いいのかよリムルル?なあ?」  
だが、姉の持ち物を奪われ憤慨しているはずのリムルルは、予想に反して  
布団の上に座り込んだまま、さっきの包みの紐を解き、中を覗き込んでいる。  
「これ・・・カムイコタンの薬草!」  
つまみ上げたかさかさになった葉っぱをまじまじと眺め、リムルルは  
興奮気味の声で言った。  
「モレウもねえさまのとそっくりだったし、わたしの名前も知ってるし!」  
「モレウ?」  
「服の模様のこと!わたしのと一緒だったでしょ?」  
リムルルは、指で宙にぐるぐると模様を描いた。  
 
「え、あーそーいえばそーだったかなー・・・って覚えてないって。つーか  
あの模様・・・モレウか、そんなに重要なのか?」  
「あのねっ、あのね?家によって、少しずつ模様が違うの!わたしも、  
おばあちゃんとねえさまに習った」  
「なるほど。家紋みたいなもんか・・・ってことは?!リムルルの親戚?」  
「それがわからないの・・・わたし、ねえさま以外にお姉さんいないよ?」  
「それじゃ、やっぱり姉さんじゃないか?チチウシ平気で抜いてたぞ?」  
「わかんない・・・!そんなこといわれても!」  
リムルルは、度重なる俺の質問に頭を抱えてしまった。  
「けど・・・うん、わたしが知ってる限り、チチウシを使えるのはねえさまと、  
わたし・・・だけだ。けどね、けど・・・」  
「?」  
「ねえさま、あんなにギラギラしてない・・・もっと優しい。あの人、まるで  
戦うためだけに生きてるみたいな感じだった・・・だけど、やっぱりどこか  
ねえさまに似てるの」  
つぶやくように、リムルルはレラから受けた印象を述べた。  
「そういえば、前に神社で見た幻、あれが姉さんの姿なのか?」  
「うん」  
「それじゃ見た目はだいぶ違うな・・・リムルルの言うとおり」  
「けど、ねえさまに関係あるのは絶対だよ・・・モレウ、チチウシ、  
わたしの名前・・・それに、よく分からないけど・・・どこか似てた」  
「あ、だからチチウシはいいのか?落ち着いてる場合じゃないだろ!  
宝刀なんだろ?」  
「うん、大変なことは大変・・・」  
「はぁ?」  
一大事であるとは思えないようなリムルルの返事に、俺は呆れてしまった。  
「大変なんだけど、全然心配じゃないの・・・確かにあれはあの人の、  
レラの持ち物なんだって気がするんだ・・・どうしてだろね」  
「・・・俺にはよくわからないけど?」  
「それに、迎えに来る、って言ってた。もう一度絶対に会えるよ」  
「まあ、今は追いかけられないしな」  
「うん。その時までに脚を治して・・・次こそ色々聞きださなきゃ」  
 
決心に燃えるリムルルの瞳。怪我が治るにつれ、リムルルのやる気は  
羅刹丸との一戦の前とは比べ物にならないほど強くなっているようだ。  
挫折しそうになった自分を乗り越えたことで、きっと一回り成長したの  
だろう。子供がいたためしは無いが、まるで父親にでもなった気分だ。  
『リムルルの親父さん・・・娘さんは、ちゃんと成長してますよ』  
そんな事を心の中で思っていると、リムルルが俺のズボンの裾を  
引っ張り、さっきの袋をぐっと俺の手の中に握らせた。  
「にいさま?この薬草・・・使いたいんだけど」  
小さな袋の中にはぎっしりと、乾燥した薬草が詰められている。  
「はは〜ん、さっきのヤツが持ってきたのか。効くの?」  
「うん!すっごく効くの」  
「ホントに?」  
「うん。お湯がいるの。沸かしてくれる?」  
「はいはい、りょーかいね・・・って、寒いなあ・・・」  
割れた窓からは、相変わらずの強風がびうびうと吹き込み、コンロの  
火をゆらゆらと揺らす。  
「はぁ〜・・・大家さんに何て言おう・・・」  
「あ、窓のことね?」  
「うん、割れちゃったからなぁ・・・修理しないとなあ」  
げんなりしながらガラスを拾う俺を見ていたリムルルは、しばらく考え事  
をしている様子だったが、何かを思いついたらしく手をぽんと打った。  
「そだ!コンル!!」  
傍らで浮かんでいたコンルにリムルルは呼びかけ、窓枠を指差した。  
コンルはひゅんと窓へと近づき、しゅううっと冷気を発する。すると、  
あっという間に割れた窓に、透明なガラス・・・いや、氷の膜ができた。  
「なるほど!氷のガラスか!」  
近づいてノックしても、割れる様子も解ける様子も無い。。しかも、  
ガラスよりもずっと透明度が高く、風が窓を揺らす音がしなければ  
そこに窓があるとは気づかないような出来である。  
 
「どう?」  
「コンルすごいなぁ!完璧。いい仕事のモンだよ〜、こりゃ」  
手放しで大喜びする俺を見て、コンルは嬉しそうにしているが、感想を  
尋ねたのは自分だというのに無視されっぱなしのリムルルは不満そうだ。  
「むーっ、にいさまぁ!考えたのはわ・た・し!」  
「あぁ、名案だよ。ちゃんとコンルの能力を分かってるんだな。さすがだ」  
「うん。コンル、ありがと!」  
頭を撫でて褒めると、リムルルはころっと笑顔に変わり、顔の横に  
近づいて来たコンルとぴたりと頬を合わせ、すりすりとしている。  
本当に仲が良い・・・というよりも、最高のコンビという方が正しそうだ。  
「おっ、お湯が沸いたぞ」  
「そしたらね、さっきの薬草を・・・」  
俺は指示に従って薬草を煎じて湿布を作り、リムルルの傷口に当てた。  
薬草独特の臭気が部屋に充満しているが、この匂いさえ傷に効くのだと  
言う言葉を信じ、リムルルが眠るのをすぐ横で確認し、俺も目を閉じた。  
だが、気がかりなことが1つだけあった。  
―迎えに来るわ―  
女・・・レラは確かにそう言った。リムルルを迎えに来る、と。  
 
 
リムルル 第三章 はじまり  
 

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