深夜。一台のトラックが、闇に沈む林道を疾走している。人里離れた  
小さな山すそに広がる森の奥は街灯さえ無く、行く先を照らすのは、  
ヘッドライトと雲の隙間に霞む朧月だけである。虫さえ鳴かない  
真冬のしんと静まり返った林道に、エンジン音と重そうな積荷の音だけが  
空しく響く。冷たく重い空気をけたたましい音を立てて切り裂き走り行く  
トラックだったが、突如として林道を外れ、舗装されていない獣道へと  
向きを変えた。車が通れるほどとはいえ、木々を利用して巧妙に隠された  
その道の先。そこには、ぽっかりと切り開かれた小さな更地があった。  
「・・・よし」  
運転手がエンジンを切り、助手席に乗っていた男と共に降車する。同じ  
薄汚れた作業服を着た2人はその場で別れ、一人は荷台のほうへ、そして  
もう一人は広場の隅、無造作に何かの上に被されたビニールシートを剥がし  
にかかった。暗い色の天幕が張られた荷台からは、男の指図でまた数名の  
人影が闇夜に躍り出る。どれも男のようで、懐中電灯を照らすことも無く、  
あたりに向かってしきりに目を凝らしている。  
「始めるぞ」  
運転手の男の低い声に始まり、男たちは積荷を降ろし始めた。大人が数人  
がかりで抱えるように地面の上に運び出し、転がすことでしか動かすことの  
出来ない程の重量がある円柱状のそれは、ドラム缶であった。次々と  
トラックの荷台から降ろされては、もう一人の男が待つ方へと素早く移動  
されていく。統率の取れた動き。その証拠に、ビニールシートの下に  
隠されていたのも、幾本にも及ぶ赤茶けた同様のドラム缶であった。  
ぎっしりと並べられたそれに、今日の分が揃えるように配置される。  
薬品の不法投棄。いたる所で問題となっているそれを彼らは金で請負い、  
巧妙な手口で続け、生業としているのだった。  
「・・・これで全部だな」  
ものの数分で、どうやら作業は終わったらしい。10数本に及ぶドラム缶が  
一様に並べられると、男たちは車の横に佇む運転手の周りに集まっていた。  
「あいつが終わり次第・・・撤収だ。乗れ」  
顎をくいっと向ける闇の向こうでは、助手席の男がビニールシートを  
ドラム缶に被せている。少し時間がかかると見たのか、運転手は煙草に  
火をつけた。気だるそうに上を向き、月に向かってふうっと紫煙を吐く。  
 
「・・・・・・」  
黙ったまま再び煙草を口に咥え、時計に目をやったその時だった。  
「・・・!・・・ァ!?」  
50メートル程離れたドラム缶置き場から、小さな叫び声が聞こえ、消えた。  
よくよく見れば、1人のはずの人影が2人になっており、すぐに片方は  
倒れ動かなくなってしまったではないか。  
「誰だ?!おい、お前ら出て来い」  
既に荷台に乗り込んでいた男たちを呼び集め、どたどたと広場の隅へと  
向かうと、助手席の男が赤黒い水たまりの上でうつ伏せになっていた。  
「おい、どうし・・・うっ、ひいィ!?」  
駆け寄った男の一人が肩を揺すったところで、その場にへたり込む。  
「だ、旦那ぁ・・・!首が・・・こいつしん、死ん・・・っでる!」  
「何ィ?」  
ついさっきまで仲間だった男は、首から上が無かった。旦那と呼ばれた  
運転手が覗き込み、さあっと血の気が引いた顔で慌てて叫ぶ。  
「おっ、おい!逃げるぞ」  
「逃がさないわ」  
ふいに背後から聞こえた冷たい女の声に、死体に釘付けになっていた  
男たちの肩が跳ねた。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは闇に溶ける  
地味な服を着た小柄な女と、そのすぐ横でしゃんと座り込む、グレーの  
毛足が長い大きな犬・・・いや、狼である。そう。彼女らは、紛れも無い  
レラとシクルゥであった。  
「これは返すわね」  
そう言いながらレラの左手から放られた生首が、どさりと人垣の前に  
落ちる。その途端、それを中心に男たちがわっと後ずさりした。  
「ぎゃあぁぁ!」  
「うう・・・おメェ、何モンだ?!」  
怯えながら問いただす男の声に、レラは頬に飛び散った鮮血をマフラーで  
拭いながら答えた。  
「・・・これから死ぬ人間に答えても、何にもならないわね」  
 
「はわ・・・わわ」  
伏せていた目が一転して睨みつけられた瞬間、男は凍りついたように尻餅を  
ついてしまった。そんな中、首謀らしき運転手の男が、腰を低くし顔を  
ニヤつかせながらレラに持ちかける。  
「な・・・見逃してくれねぇか?頼むぜ・・・金なら好きなだけ払うから」  
「・・・金?」  
少し見下すような声色ではあったが、レラの様子が変わったのを脈ありと  
感じたか、男は地面に跪き、ひれ伏して続ける。  
「そ、そうだ。金だよ!もうしないからよぉ・・・頼む!ほら、お前らも」  
男の目配せに、後ろの男たちも次々に頭を地面に擦り付けた。  
「ふぅ・・・なるほど」  
その様子をしばらく眺めていたレラが、ため息混じりに口を開く。  
「いつの時代も救い様の無い輩というのは・・・変わらないものね」  
「へ・・・」  
そのあきれ返ったレラの口調に、媚びへつらう様にへらへらと笑っていた  
男の声が止まり、みるみる怒りの形相へと変化する。  
「んだと・・・?」  
「たまたま通りかかったら、そんな物をこんな場所に置き去りにする  
なんて・・・。大自然を汚し、痛めつけるあなたの命には何の価値も無いわ。  
さっさと死になさい」  
「黙って聞いてりゃこのアマぁ・・・おい、たかだか女一人と犬一匹だ。  
ぶっ潰せ。こっちは一人やられてんだぞ、正当防衛だ!」  
窮地に追い込まれ善悪の判断さえも付かなくなった男たちは、一斉に  
立ち上がりレラとシクルゥを取り囲むと、わぁっと突進した。  
「シクルゥ」  
慌てる様子さえ無く相棒の名を呟くと、さっと伏せたシクルゥの上に  
レラはひらりと跨った。  
 
「おらぁぁ!」  
四方八方から突進してくる男の中心で、レラは右手に握られたチチウシを  
握りなおし、姿勢を低くした。そして鋭く静かな怒りに燃える瞳が、  
正面から襲い掛かる2人の男の間に生じた僅かな隙間を捉え、  
「メルシキテ」  
再び呟いたその声に呼応するかの如く、レラを乗せたシクルゥが一瞬で  
その空間に滑り込む。  
「あれ・・・?」  
「きっ、消えた!」  
目で捉えきれないほどのスピード、まして暗闇の中である。男たちは  
完全にレラの姿を見失ってしまったが、間をすり抜けられた二人の男は、  
自分達の身体の横で、後ろに向かってびゅうっと風が巻き起こるのを感じた。  
「こっちか」  
とっさに2人が振り向くと、少し離れたそこには確かにこちらを向くレラと  
シクルゥの姿があった。だが、男2人の体がおかしい。勢い良く振り向いた  
胸から上だけがレラの方を向き、そこから下は前を向いた立ちんぼの  
姿勢のままだ。  
「――ぶがぁ」  
「ぁ・・・か・・・はっ」  
声にならないうめきを上げ、ごぼっと口から大量の血液を吐くと、2人の  
男の上半身は振り向いた勢いで回りながらべしゃりと地に落ち、それに  
折り重なるようにして下半身が膝から崩れ落ちた。  
「うっ・・・ああああああ―――?!」  
「だっ、旦那ぁあぁぁ!俺ァ降りるぜ!!」  
次は自分達の番だ。目の前で繰り広げられた一瞬の惨劇に、残された  
男たちは叫びを上げ散り散りに逃げようとしたが、その時既に、レラは  
シクルゥと共にその頭上高くに舞い上がっていた。  
「イメルシキテ!」  
虚空に響き渡る叫びと共に、闇をぼうっと染める一陣の光がレラを包む。  
 
「はあぁーっ!」  
ぐわっと見開かれた目が、捉えた男たちの姿を見失うはずが無い。輝く  
残像を残して月夜から降り注ぐ必殺の突進撃が、数人の男たちをいとも  
簡単に光の渦に巻き込み、一刀両断に切り裂いた。  
「うぎ・・・ひぃぃぃ!」  
「車だ!は、早く!!」  
紙一重のところでレラの一撃を免れた2人の男が、ばたばたと転げる  
ように光の渦に背を向け、トラックの方へと逃げ惑う。  
「・・・見え見えよ」  
だが、ざざざっとスライディングするように光の中から現れたレラには、  
全てがお見通しであった。シクルゥはそのまま勢いを殺すことなく後足を  
滑らせ、忌むべき受刑者の方へと瞬時に回頭し、姿勢を立て直す。  
「いい子ね・・・カントシキテ!」  
そしてレラの号令が発せられると、驚異的な跳躍力で再び夜空高くへと  
勢いよく跳ね上がり、次の瞬間には男たちの背後に迫っていた。  
「たあっ!」  
空中で頃合いを見計らったレラが、シクルゥの背中からばっと飛び降り、  
片方の男の肩の上に飛び掛かる。逃げることしか頭に無かった男は、  
レラの勢いに負け、地面に突っ伏した。  
「ぐおっ!」  
「逃げる必要なんて無いわ・・・」  
倒れこむ男の背中の上で馬乗りになったレラは、首の横の地面に  
チチウシをどすっと両手で突き刺し、  
「そうでしょ?」  
冷たく光る刃を、勢い良く男の首へと傾けた。無慈悲にも降り注いだ  
断頭台の如き刃によって主を失った身体が、びくんとレラの下で跳ね、  
そのまま二度と動くことは無かった。  
「・・・」  
黙ったまま立ち上がるレラの傍らには、口元を朱に染めたシクルゥが既に  
戻ってきており、向こうにはもう一人の男の屍が無造作に転がっていた。  
自らの手で重ねた屍の山を背に、レラはふわりと癖毛を風になびかせた。  
しかし、これで終わりではなかった。  
 
「逃げたわね。残るは・・・」  
言いかけてトラックの方を振り返ると、パアンという炸裂音と共にレラの  
頬をびうっと何かがかすめた。既に赤黒く乾いた男たちの返り血の上に、  
鮮やかな一筋の血化粧が再び施される。  
「こっ、殺す・・・!このっ、この化け物!!」  
それは、首謀者の男が狩猟用ライフルから放った銃弾だった。どうやら、  
トラックの中に搭載されていたらしい。がたつく手が銃身を握りしめ、  
ボルトを再び引き込もうとするが、極度の恐怖にさらされた四肢が  
言うことを聞かない。レラはシクルゥを待たせ、一歩、また一歩と  
無表情のまま男に近づいた。  
「く・・・来るな!来るな・・・あ――!ひぁ――!!」  
慌てふためくその姿をあざ笑うかのように迫り来る、死。トラックの前で、  
男はライフルをガチャガチャと手の中で躍らせていたが、ついに諦めた  
のか、ライフルをレラめがけて投げつけた。だがその抵抗も空しく、宙に  
放り出されたライフルはレラの足元にガチャンと落ちただけだった。  
「ひ・・・ぃ・・・許して!許してくれ・・・!」  
完全に腰が抜けているのか、立ち上がることさえ出来ないままわめく男を  
よそに、レラは自らの命を脅かした鉛玉を吐いた筒に手を伸ばし拾い  
上げると、男の正面にまで歩を進めた。  
「自然を汚すだけに飽き足らず、動物たちまで・・・!あなた、この銃で  
意味の無い殺りくまで行っていたのね」  
「ひィ・・・!」  
右手に刀。左手に猟銃。血だらけになったレラの姿と、声色ひとつ  
変わらないその態度が男をさらに縮み上がらせたが、レラの怒りに  
燃える瞳に釘付けにされ、目をそむける事も、閉じることさえも出来ない。  
「救いようが無いわ」  
終わりだ。男は、レラの言葉と再び強く握りしめられたチチウシを見て  
そう思ったが、その意に反してレラはチチウシを自らの服で拭い、くるりと  
手の中で一回転させたかと思うと、腰の後ろに結わかれた鞘に戻してしまった。  
 
「・・・ひ?」  
「あなたを斬るのはやめにしたわ」  
「は・・・?そ・・・それじゃ・・・!」  
「えぇ、あまりに汚らわしいから」  
闇夜に小気味良い機械音ともう一発の銃声が轟き、それを最後に森は元の  
静寂を取り戻した。  
 
・・・・・・  
 
レラはシクルゥに跨って山道を下り、木々の間を抜け、清流へと辿り着いた。  
丸く磨かれた大小の石が転がる川辺と、心地良いせせらぎを生む岩場。  
幸い天気も崩れそうに無く、身体を休めるには良さそうである。  
「ありがとう、シクルゥ」  
シクルゥから降りたレラは、相棒のたてがみに指を通し愛しそうに撫でると、  
チチウシと共に奪ったまま持って来てしまった猟銃を川岸の大岩に立てかけ、  
血で汚れきった上着を脱ぎ始めた。いつの間にか月を遮っていた雲は風に流れ、  
降り注ぐ月光が、服の色とは対照的なレラの透き通るような白い柔肌を照らす。  
その光の下、水を飲むシクルゥの横でレラは顔を洗い、次いで服を水で洗い  
始めた。落ち切ることの無い幾重にも重なった染みが、レラがくぐり抜けた  
死合の数々を物語る。そして今日、数百年振りにその歴史が塗り返される  
こととなった。だが、そんな事に感慨を受けるレラではない。  
『全ては大自然のため。アイヌの戦士としての闘いの結果よ』  
闘い。それは、彼女に課せられた宿命であり、誇りであった。闘いを  
拒絶するナコルルに代わり、戦士として大自然に仇をなす悪を討つ。  
だが今回は今までとは違う。動くことさえままならなないナコルルの  
身を護るため、闘うのだ。  
『大自然のため、そして・・・私たちのために』  
 
レラは手を休める事無く、ただ自分を突き動かす必然だけを思い返して  
いたが、再び顔を上げた頃には、シクルゥは既に身を丸め眠りについていた。  
それを見て少し表情を緩めたレラは、洗い終えた服を絞り大岩に延べて  
形を整えると、畳んでおいたアイヌの刺繍が施されたローブ状の外套を、  
岩陰に隠れるようにして小石が敷き詰められた川原に敷き、その上で  
下穿きと靴、そして帽子を脱ぎ去った。今、レラの全身を包み隠すものは  
何も無い。若々しく花開いた美しいその女体に青白い光を受けながら、  
レラは静かにせせらぐ川辺でその身を清めることにした。ちゃぷりと沈めた  
足の指先を刺すような、冷たい小川の水。水面を撫でる、穏やかながら  
決して優しいとは言えない冬の冷気を運ぶ風。常人なら寒中水泳だの、  
修行だのと大騒ぎする光景だろうが、レラにとってはまるで違った。  
『生きている・・・!!』  
気が遠くなるほどの長い眠りの日々。それを、悲痛なまでの心からの願いを  
聞き入れたチチウシを手中に収めるで打ち破ったレラは、生の喜びと感動、  
安らぎを、変わり果てた世界にあっても昔と同じように流れ続ける、冬の  
川での行水に見出していた。透明な流れを横切り、レラは膝下まで迫る程の  
深さにまで静かに歩むと、水面に手を差し伸べ水をすくい取り、手の中で  
揺れるそれを、ぱしゃっと肩口を越えさせるように放った。  
「ふ・・・っ!・・・あぁ・・・」  
首筋、背骨、鎖骨・・・上半身を上から下へと伝い降りる水が、ぞくぞくっと  
レラの体を撫ぜる。全身が総毛立ち、美しく朱色に燃える唇から、小さな  
うめきと共に白い息が漏れた。背中に感じられる小さな流れが、無駄無く  
締まった尻へと到達する頃には、レラは再び両手で水をすくい、今度は  
胸元へと勢い良く飛沫を飛ばしていた。  
「あく・・・・・・ッ!」  
水と肌がぶつかり合うぴしゃっという音を遮るかのように、ざわざわと  
耳の奥にまで鳴り響く力強い血の巡り。冷水によって心臓をぐっと押し  
潰されるような感触に、息が詰まる。レラはぎゅうっと目を閉じたまま  
天を仰ぎ、唇を噛み締めながらその衝撃に耐えた。  
「・・・・・・ふう・・・。はぁ、ああ・・・」  
程なくして体の内側に走る緊張が解けると、レラは呼吸を整えながら  
両手をそれぞれ逆の肩に回し、震えながら自分自身を抱きしめた。  
 
『冷たい・・・心臓が凍りつくようだわ』  
そのような事を思いながらも、レラの表情には悦のようなものが見え隠れ  
していた。眉はひそめられ、その下では、いつもなら強い意志を表すかの  
ように冷たく輝く切れ長の目が、涙で潤み始めている。切り傷の残った少し  
やせ気味の頬にもうっすらと紅が差し、半分開かれた艶やかな唇からは、  
絶えず喘ぎにも似た吐息が漏れ出していた。そして粟立つ上半身の頂、形の  
良い乳房の先端を飾る、濡れそぼったピンクの乳首が、月の光を返しながら  
むくむくと勃起していくのが見ずとも感じ取れてしまう。  
「もう一度・・・んぁっ・・・くっ・・・う!」  
きゅうっと自らを結んでいた両腕を解くと、レラはまたも打ち水を自らの  
胸元に撒き散らした。上質の絹で織られたかのように滑らかな上半身を、  
何の抵抗も無くさらさらと水が伝い降りるたび、レラの口からは緊張と  
安堵の吐息が繰り返し、双乳の先を彩るしこりも次第に硬さを増していった。  
「はぁ・・・はぁ・・・」  
自分自身の体を伝い、指先や後れ毛から川へと滴り落ちる水滴が奏でる  
かすかな音さえも拾えてしまうほどに、レラの感覚は研ぎ澄まされていた。  
聴覚だけではない。髪の毛一本揺らすのがやっとの弱々しい寒風さえ、  
全身ではっきりと感じ取れてしまう。幾年の月日を経てもう一度自然に  
抱かれることが出来た喜びと、死線を潜り抜けた興奮が、レラの神経を  
強烈に昂ぶらせているのだった。それほどにまで敏感になった全身が、  
まさか快感だけを受け付けないはずが無い。  
「ふぁ・・・あぁ〜!ち・・・乳首・・・が!」  
自分でも驚くほどに凝り固まった乳首の先を、枝一本さえなびくかも  
分からないほどの微々たる風が通り過ぎるたび、レラは胸いっぱいに  
ほとばしる心地良い感触に悶えた。  
「んっあ!・・・くぅ・・・ぁ!」  
時折川上から迫る寒々しい吹き下ろしが、尖り切った乳頭に容赦なく  
鞭を振るう。自然が作り出す予測不能な攻めから逃れるすべも無く、  
レラに許されているのは、川の只中でしなやかな肢体をくねらせること  
だけだ。しかも乳首だけではない。脇の下からうなじ、股ぐら・・・全身の  
いたるところを舐めるように通り過ぎる見えざる手が、レラの身体を  
余すことなく犯し続ける。  
 
「はわ・・・ぁ・・・あ・・・!んんっ!いいわ、いいの・・・ふうッ!」  
優しく、また時に激しい天然の前戯に、レラは既に虜となっていた。  
足元を流れ続ける清流が足の指一本一本をしゃぶり尽くし、ぷるりと  
弾むお尻が、時折岩場で砕け舞い上がる水飛沫でしたたかに叩かれるたび、  
男の手によってぴしゃりと平手打ちされているような情景を思い浮かべた。  
「あっ、うあっ!あぁっ、あっ、あはぁ!!こんな・・・!」  
予想だにしなかった、愛する大自然から送られる狂おしいほどの愛撫と  
絶え間ない折檻の連続に、思考がみるみるうちに混濁してゆく。顔だけを  
染めていた薄紅色はもはや全身へと行き渡り、川のせせらぎに辛うじて  
打ち消されるほどに大きい喘ぎ声を上げながら、指一本触れないままに  
焚きつけられたレラの肉欲の炎は激しく大きさを増してゆく。  
「んっ、んはっ、はぁっ、はあぁっ・・・ふあぁぁ!!」  
自然に身を任せ、与えられるがままに悶え狂うレラだったが、しばらく  
して、どうしても満たされない心地に駆られ始めた。そんなレラの視線は、  
煌々と月に照らされた自分の乳首へと、自然に向けられてしまう。  
『こ・・・こんなに・・・硬く・・・大きくなって・・・!』  
どんな小さな快感さえも逃すまいと、かちかちに隆起した姿に驚いたのも  
つかの間、この後訪れるであろう絶頂の瞬間を頭の中で想像するだけで、  
めまいさえ覚える。  
『これに・・・これに触れたら・・・!』  
ごくたまに吹き下ろす風があるとは言え、基本的に穏やかな空気の流れ  
の中でさえ、ひりひりと気持ちの良い痺れをもたらすその突起を前に  
レラは躊躇したが、こう考えている間にも熱心な不可視の愛撫は止まらない。  
大自然に誘われるかのように、快感を求めるレラのほっそりとした指先が  
未知への扉を叩くのに、そう時間はかからなかった。  
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」  
ない交ぜになった期待と不安が、両手を震わせ、息をさらに荒げる。  
真っ白く湿った吐息は、視界の妨げになるのではないかと思うほどだ。  
 
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」  
そして興奮に押されるように、両手の指が桜色に萌える乳首を優しく  
潰した瞬間。  
「はぁ・・・ふああぁぁぁ――――んッ!」  
まるでそこには、あらゆる快感が詰められていたかのようだった。  
指で触れると同時に、待ち焦がれていたかの如く乳頭から駆け巡る、  
熱い熱い快感の波。レラは首を仰け反らせ、たまらず喘いだ。  
「くあぁっ、だめ、らめぇ・・・!感じ・・・すぎてッ・・・うぅ・・・ふぅっ!」  
復活して間もない体を獰猛なまでに襲い来る刺激に、ろれつさえ回らない  
まま、レラは息を詰まらせながら、心地良い弾力を返す乳を下から揉み  
しだき、親指でさらに先端を転がした。  
「ふぁ・・・くぅ!むっ、胸が・・・おっぱいがぁ・・・きもち・・・い・・・」  
混沌とした意識の中、幼児語さえ突いて出る蕩けきったその顔には、  
既に戦士の面影は無かった。ぼうっと視点の定まらない潤んだ瞳からは  
歓喜と快感の涙が流れ、鼻息も荒くなってしまっている。だがそんな  
状態であろうと、更に強い快楽を求める本能だけは失われることは無い。  
「んふー・・・ん・・・ちゅる・・・るる・・・んはっ・・・」  
レラは胸を揉む両手を止めると、だらしなく開かれた口に指を咥え、  
唾液をまんべんなくまぶした。ぬらりと光るその指を今度は乳首に添え、  
くるくると回し、潰し、弄ぶ。  
「ひぃ・・・!!あぁ・・・あっ、ぬるぬるがぁ・・・んあ!」  
寒空に晒されていた乳首へと突如として加えられた生温かな感触に、レラは  
息も絶え絶えになりながら声を荒げた。そして恍惚とした表情のまま、再び  
口へと指を運んでは、愛しげに音を立てて1本1本をじっくりとしゃぶり、  
しとどに濡れた自らの手指で、鼓動に合わせひくつく乳首を中心に、胸全体を  
ぬめりに染めていった。もはや、レラの弾む乳房を月の光に輝かせている  
のは川の水ではなく、触ればくちゃくちゃと音を立てる唾液だけであった。  
その余すところ無く汚された自らの乳房を、絶頂寸前のレラは朦朧としながら  
満足げに眺め、指を這わせゆっくりとした手つきで再び鷲づかみにした。  
 
「ふぅあ・・・あ・・・あ〜っ」  
ねっとりと唾液を塗りたくった乳房から迫る、肉感に溢れる快感の渦。  
レラは柔らかな肉に埋めた指を蠢かせるたびに肩をぴくっぴくっと躍らせ、  
軽く絞り上げるようにしながら、淫らに絡みつく感触を深く味わい、一歩  
一歩、着実に絶頂への道を歩んでいく。  
「んっ、んんんっ・・・・・・っあ!くる・・・のっ、来る・・・はーっ、はぁ〜!」  
もう何を口走っているのかも分からないまま、レラはもう少し、もう少しと  
念じながらどこまでも自分の身体を焦らし、ギリギリにまで乳首が張り詰めた  
ところで、ついに指を伸ばした。  
「ふぁ・・・あっ・・・あっ・・・!」  
そして、つん、つんと爪先で僅かに触れるだけで弾けそうなほどの感度に  
唇をわななかせながら、優しく捻り上げる。  
「んぐっ・・・あぁぁ―――んっ!」  
待ち焦がれた絶頂へとその身を一気に押し上げる心地良い痺れが広がり、  
レラはひときわ大きく叫びながら、添えた指はそのままに、さらに唾液  
まみれの突起をちゅぶちゅぶと乱暴とも思えるほどにこねくり回した。  
それはまるで、自らの手でとどめを刺さんとばかりの激しさである。  
「うあっ、ひんっ・・・あっあっ!あン!!」  
『胸でっ、乳首だけでっ・・・私は!もうっ・・・もう!!』  
胸への愛撫だけで。みるみるうちに真っ白になる視界の中、レラは明るく  
なった夜空に浮かんだ月を視界に納めながら、今や全身の神経が集まった  
そこをきゅっと勢い良く摘み上げ、びくびくと派手に全身を痙攣させると、  
今だかつて体験したことの無いかたちで数百年ぶりの絶頂を極めた。  
「いっ、あっ・・・・・・くッ・・・あっ・・・ふあぁぁぁ―――!」  
愛しい程の快楽に全身をまみれさせながら、レラはその名が示すように、  
羽が生えたかと思うほどふわりと軽くなった身体を仰け反らせ、もう一度  
小さくひくり、ひくりと震えると、水の中へと倒れこみそうになる身体を  
辛うじてこらえ、千鳥足のまま近くの大岩に倒れこむように手を突いた。  
 
「ふぁーっ、はあーっ、あーっ」  
男の胸に抱かれるようにレラは全身をひんやりとした岩肌に寄せ、深い  
絶頂の余韻を楽しみながら火照りきった胸を冷ましていたが、川の中で  
淫らに変貌した少女の姿を惜しむように、岩場で砕けては舞い上がる  
飛沫が、ここはどうしたのだ、と股間を撫で回した。  
「んは・・・ふぅ・・・。ふふっ、慌てないで・・・」  
貪欲に快楽を追い求めることに何の抵抗も持たないレラが、その存在を  
忘れるわけは無い。まだ息も整わないままだったが、レラは小さく笑い  
ながらその誘いに導かれ右手を伸ばし、引き締まった腹筋に指を這わせ、  
ふんわりとした茂みを通り抜けると、その下で熱く息づく秘唇に今宵  
初めて触れた。  
「んくっ・・・ん・・・!」  
太股を伝い、川へと滴り落ちそうなほどの粘液を吐き出しぐしょぐしょに  
なった秘部の感触。レラは予想以上の光景に、ちゅるりと舌なめずりをした。  
 
 
長い夜は、まだ始まったばかりである。  
 

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