――そんなこと言われてもなぁ。言われっぱなしは悔しいっての。  
いつもは有難く感じている親父の小言に逆にケチをつけつつ、俺は茶葉をつぎ足して  
三人分の茶をまたまた淹れる。何か手つきが自分でも良くなってる気がする。  
「あー、そうだリムルル。これまでの話はレラさんにしたの?」  
べぇとレラに舌を出して、さっきまで自分のいた場所に戻ったリムルルに俺は尋ねた。  
「これまでの、って?」  
「ここに来て色々あったじゃん。戦ったりさ」  
「ううん、まだ。あ、にいさまありがと」  
手渡された湯飲みを、両手を温めるように握ったリムルルが首を横に振った。  
「そういえば怪我してたわね、リムルル。あんなに動き回って随分早く治ったみたい  
だけど、本当にもうすっかりいいの?」  
頬杖をついて自分の湯飲みが緑茶で満たされていくのを見ていたレラが、コタツの布団に  
隠れたリムルルの太股を気づかった。  
「うん、ホントにもう平気。見る?」  
お尻を浮かせて、リムルルは座ったままご自慢のジーンズを降ろした。レラもそれを良く  
見ようとリムルルの方に身を乗り出して、顔を太股の間近に近づけじっくり観察している。  
いきなり見せる方も見せる方だが、俺という男が居る前でリムルルが服を脱ぐことに  
何の注意もしないところ、さすがはリムルルの姉という気がした。  
「本当ね。きれいに塞がっているわ。けど・・・・・・ひどい。痛々しい・・・可哀想に」  
完全に治癒したとわかって喜ぶのもつかの間、レラは悲しそうな顔をした。  
リムルルの健康そうな太股には、血はもう滲まずとも無残な置き土産・・・羅刹丸の恨みが  
込められた一撃の跡が、今も消えずに残されているのだ。  
若い身体にみなぎる治癒力をもってしてもこれから先消えるかどうか分からない、死線を  
乗り越えた証。  
女性の柔肌には似つかわしくない、辛勝を制した勝者の印。  
「何てこと・・・何てことを・・・!」  
嘆きは怒りへといつしか姿を変えていた。  
レラは震える手でその傷痕に触れ、覆い隠すようにゆっくり何度も撫でる。  
すると、その手がかざされる度に傷が薄れ、いつしかそこには何も無かったように――  
 
不思議な存在のレラならとそんな奇跡を俺は祈ったが、聞き届けられることは無かった。  
傷口は依然としてリムルルの脚の上であざ笑っている。あの日のあの時の事を。  
リムルルが目の前で吹き飛ばされ、頭を脚で小突かれ、蹴り飛ばされたあの時。  
そして、コンルが来てくれなければまず確実に二人とも死んでいたあの時。  
「く・・・っ」  
熱っぽい頭に今でも鮮明に思い出される、拳を叩きつけたい悔しさ。  
「守れなくてごめんなさい」と置手紙をして、この場を去りたいぐらいの不甲斐なさ。  
奥歯を鳴らす純粋すぎる死の恐怖。  
「俺には・・・俺には何もしてやれなかったんです、あの時・・・すんません」  
戦いたい、守りたい。そう思う気持ちが刃に変わるのだとしたら絶対負けないのに。  
思って、俺はがくりとうなだれた。自分の手元の湯飲みに、くだらない役立たずの男の  
顔が映る。  
「ちょ、ちょっとー!大丈夫、平気だってば!ちゃんと動けるからそんなに心配しないで」  
「動ける動けない、そういう問題じゃないのよ」  
自分のせいで元気が無くなった俺とレラを思っての事だったのだろう。リムルルは怪我の  
事を笑い飛ばそうとしたが、それをレラはかなり怖い顔で睨みつけて止めさせた。語調  
こそ荒げていないものの、その目にははっきりとした怒りが見て取れる。  
下げたままのジーンズを上げることも忘れて、リムルルはしゅんとしてしまった。  
「一体、どこの誰。私の・・・私のリムルルにこんな真似をしたのは!」  
がたん。  
レラがさらにリムルルに詰め寄った拍子に、湯飲みが肘を食らって揺らいだ。  
俺は慌てて手を伸ばし、危うくリムルルの方に倒れそうになったのをギリギリで押さえる。  
「あっ、ごめんなさい・・・。ちょっと取り乱してしまったわ」  
「わたしだって・・・わたしだって悔しいよ!」  
羅刹丸が残したのは、肌の外傷だけではないのは明白だ。リムルルもまた、俺と同じ  
ようにあの場面を思い出してしまったに違いない。  
いや、俺の記憶などは実際に戦った戦士の記憶とは比べるのも無理な話なのだろう。  
「あいつ・・・あんなに強いなんて!悪い奴なのにーっ!!」  
湯飲みをひったくると、リムルルはその嫌な記憶全部胃に流してしまえとばかりに、  
ごくごくお茶を飲み始めた。  
 
「リムルル・・・ごめんね驚かせて。だけど許せなかったの。さあ、教えて。一体誰が?」  
「っぷは!・・・羅刹丸って奴だよっ!」  
一気に飲み干して、リムルルはレラより乱暴な仕草で口をぬぐいながら言った。  
「らせつ・・・まる」  
レラは男の名に何か思うところがあるのか、顎に手を当てて何か考えている。  
「あのね、腕をコンルに壊されても、自分で自分の胸を切りつけて血がすっごい出ても  
死なないの」  
「・・・・・・」  
「それに・・・わたしの攻撃全部当たったのに、ちっとも効かなくて!!」  
「なるほど、それは人間じゃないわね。魔界の者だわ」  
「魔界?」  
随分とまたお話めいたものの名前が出てきたなあ、と俺が聞き返すと、レラはこちらを  
見るでもなく淡々と話始めた。  
「そう、魔界。この世界とは別な場所、空間にある、悪しき心を持った化物の住む世界よ。  
この世界の均衡を保っていた大自然の秩序が乱されて、それを救うためにナコルルが今の  
ような状態になったのも、元はといえば全て魔界から吹き込んだ悪しき力が原因よ」  
「そ、そんな事があったんですか・・・。リムルルは江戸時代から来たって言ってたからその  
頃の話なんでしょ?初耳だなぁ。闇の歴史、ってヤツですか?」  
「まあ、そう言って構わないわね。この国を統べていた・・・」  
「江戸幕府ですね」  
「そう。彼らも決してこの魔界の侵攻を表沙汰にしようとはしなかった。国が崩れるのが  
不安だったんでしょうね。当時魔界の者に襲われたり、魔力にあてられて死んだ人々が  
大勢いたけれど、それも全て大飢きんやら内紛、それから異教徒や異国人の仕業として  
片づけてしまった。だから、魔界との闘いはほんの一部の人間が知っている事。あなたも、  
それからこの時代の人間が誰も知らないのは当然よ」  
どんなお話やおとぎ話にも元があるとは言うけれど、まさかそんな事があったとは。  
淡々と語られてしまったが、これで俺は歴史に隠された事実を知った事になる。  
胸がときめく反面、誰かにいきなり後ろから刺されたりはしないかと不安になる。  
 
「でも、」  
俺と同じく静かにレラの話を聞いていたリムルルが、疑問に首を傾けた。  
「魔界って、こっちからそこに繋がってる門が閉じられちゃったから、もう絶対おばけ  
も悪い奴も出てこないし、二度と悪さは出来ないんだっておじいちゃんが言ってたよ?」  
「そう、そのはずなんだけど。羅刹丸は誰かに魔界から呼ばれた、そう考えるのが妥当ね」  
そう結論づけつつも、レラはかなり難しい顔をしながら湯飲みを口につけたり離したりを  
繰り返して何か落ち着かない様子だ。  
「誰かがあいつを呼んだ・・・って」  
思い当たる節がありすぎて、俺とリムルルは顔を見合わせた。  
「そしたら空からの声だよやっぱり。なぁリムルル」  
「そうだよね、お空から気持ち悪い声した!あいつだね絶対!!わたしもそうじゃないかと  
思ってたんだよ?」  
「空?何、まだ他に誰かいるの?」  
レラが俺たちの言葉に強く反応を示し、新たな敵の存在にさらに目を鋭くする。息巻く  
リムルルの代わりに、今度は俺が説明することにした。  
「そうなんですよ、あのっすね、何か・・・空と周りが急に暗くなって、いきなりその  
雲の上から不気味な声がするんですよ。そしたら雷が落ちてきてぎにゃ」  
なるべく分かりやすく伝えようと俺がゆっくり話していると、いつの間にやら後ろに回り  
こんでいたリムルルが、俺の頭の上に顎をのっけて背中に寄りかかってきた。  
リスみたいな可愛さと素早さだが、風邪の身には少々荷が重い。  
「にいさまは寝てていいよ!風邪で頭の回転まで遅くなってるみたいだし・・・」  
そう思うならどいてくれてもいいのだが、リムルルがそばにいると気分が和らいで身体に  
元気が戻ってくるような気がするのも事実だ。リムルルの方としてもどく気は無いらしい。  
「それでねレラねえさま、雷と一緒に刀が落ちてきて、泥が集まって、こーんな!こんな  
でっかいお化けができちゃって、その刀でわたし達に襲いかかって来たの!そいつはノロマ  
だったから、わたしがひとりでやっつけたんだよ、ねー、にいさま」  
リムルルが背中に張り付いたままオーバーアクション気味の身振り手振りをするので、  
俺の身体もその度にやじろべえみたいに左右に傾いた。風景も揺らぐ。レラも揺らぐ。  
 
「ちょっとリムルル、もう少しお兄さんを大事になさい。病気なのよ。で、そうなの?」  
左から見ても右から見ても精悍なその顔立ちがリムルルに注意をしているが、やっぱり  
リムルルの話の真偽の方がずっと大事なようで、気を遣う言葉を言うだけ言いましたよ、  
な感じだ。  
でも、その投げやりな物言いにめげてはいけない。  
「はぁ、間違ってはないです。羅刹丸と闘ったときもやっぱりそいつはいたんですよ。  
気味悪いんですよね・・・何でも知ってる素振りだし。コンルの事も、ナコルルさんの  
事も、それにリムルルを狙っているみたいだし」  
「うそぉ!?わたしの事?なんで?」  
びっくりした声をあげたリムルルの顔が今度は俺の肩に降りてきて、ヒゲが伸びた俺の  
顔にすべすべの肌が密着する。  
レラがこっちを見てほんの少しむっとしたが、すぐに仕方なさそうにふっと笑った。  
自分の姉が一瞬だけ見せたリムルルへの気持ちが詰まった素直な表情の変化に、当の  
本人は気づいてない。つくづく罪作りな妹だ。ずいぶん愛されているんだなと思う。  
「何でって・・・忘れちゃったのか?」  
「うん」  
「え、あぁそうか。リムルル、あの時の記憶が無いんだよな・・・力の話だよ」  
「あれってホントの話なの?」  
「もちろん。それ見てあいつ、俺達に攻撃すんの止めたんだから。リムルルが素晴らしい  
だの、面白いだの、無限の可能性の力だのってさ」  
「ちから」あたりが俺の口から出たところで、レラの眉がぴくりと動いた。  
「リムルルの・・・ちから?」  
「えーっと、何て言ってたか・・・」  
思い出そうとする俺を前に、珍しくレラは一瞬言葉をためらった。  
「その・・・そいつが言っていたのは、アイヌの戦士の巫力についてかしら?」  
「あーっ、それですそれ!すごかったですよ、見たのはリムルルに会ったばかりの頃  
だったかな、すごい眩しくてきれいな光がリムルルから射して、その光がばらばらに  
なった木々を元通りにしたり、俺の怪我がいつの間にか治ってたり」  
なかなか出ないくしゃみがやっと出たように爽やかな気持ちだった俺は朗々と喋った。  
 
「さっきも言ったけどわたしは覚えてないんだ。だけどホントみたいだよ?」  
リムルルがまだ半信半疑な顔で付け加える。  
「うん本当だぞ。それから――」  
「えっ、まだあるの?わたし・・・」  
「おう、あのな・・・・・・?あれっ、何だっけ?」  
怪訝そうなリムルルの声と顔にはばまれた隙に、俺が話そうとした事柄はひょいと身軽に  
頭のどこかへ逃げてしまった。  
「えーっと・・・」  
最近もその金色の光を見たような気がしたのだが、今度はくしゃみよりもしぶとく出て  
来ようとしない。歯の奥に何か挟まった感じで、楊枝でも無い限り思い出せそうに無い。  
「うーんとなぁ・・・」  
もしかしたら実は単なるデジャヴで、ガキの頃見た夕焼けか何かの遠い記憶がそう思わせ  
ているだけなのかもしれない。それに今日はよく寝ている。夢の記憶が混同されてると  
いう可能性だってあるのだ。  
「うん、何も無かったな。そん時だけだった。ごめん」  
俺は頭の後ろを掻いて、呆れ顔のリムルルに謝った。  
「でしょー?もう、そんなに気を失う事なんてないってばぁ」  
「そうだな、昨日の俺だけで十分てか、ははは」  
レラはここまでの一連のやりとりを、どんな小さな情報も聞き逃すまいと前かがみに  
なったまま聞いていた。  
「そう・・・なるほど。で、そいつはナコルルの事は何て?」  
「えーと・・・ちょっとそこまでは・・・」  
「わかったわ、十分よ。リムルル他には?」  
レラの真剣な目線がリムルルに移る。  
「えと、土のおばけの話をして、羅刹丸の話をして、それで空から聞こえた声の話・・・して。  
うん、変なヤツの話は全部だと思うな。あ、お化けが持ってた刀と羅刹丸の刀は一緒だった  
けど、コンルが粉々に壊しちゃったからそれは大丈夫だと思う」  
 
「なるほど・・・なるほど。わかったわ」  
レラは俺たちに幾つか確認の意味を込めた質問をすると、目を閉じて二回、大げさな  
ぐらい大きく頷いてすっくと腰を上げて靴を履いた。  
シクルゥも相棒の動きを感じ取って伸びをすると、四つの足でその巨体を支えるように  
立ち上がる。  
「え、ちょっとどうしたんですか?」  
きょとんとしている間にもレラはマフラーを巻き、チチウシを腰に下げ、どこかで手に  
入れたという部屋に立てかけてあったライフルを背負うと、明らかに出かけるための  
用意を慣れた様子で手早く終えてしまった。  
「あの、レラさん?」  
しつこく聞くと、レラは振り向いて口元を隠したマフラーをぐいと下げた。  
「急用があるの。行ってくるわ。なるべく早く戻るつもりだけど」  
言い終わるとすぐにマフラーを戻し、窓の方へと身をひるがえした。くすんだ色の長い  
マフラーが、レラの一挙一動に合わせてつむじ風のようにはらりと円を描いて後を追う。  
「急用、って言っても・・・マジ急だなぁ」  
「そんなぁ!だめ、だめだよ!」  
もちろんリムルルが黙っていない。俺のもとからすぐさま離れて、窓へ向かおうとする  
レラの手をぎゅっと握った。  
「なんで・・・レラねえさまどうして?会ったと思ったらまたどこか行っちゃうの?今日は  
お泊り・・・じゃない、ここでずっと暮らすって、さっき言ったばっかりなのに!」  
寂しさと困惑を足して2で割った顔のリムルルを見て、何かの使命に張り詰めていた  
レラの目が少しだけ細められた。隠れている口元もきっと笑っているんだろう。  
「ちゃんと戻ってくるわよ。少し調べ物をするだけだから。あなたはコウタの面倒を  
ちゃんとみてあげて。一人前ならそれぞれの仕事を忘れないようにしなくちゃいけないわ」  
もっともな使命を与えられ、リムルルは口をつぐむ。  
「そ、そうだけど・・・危ないことしないでね?戻ってきてね?」  
「当たり前でしょ。別に誰かと闘うなんて一言も言ってないじゃないの」  
「だけど、だけど・・・」  
 
下を向いて食い下がるリムルルを、レラは羽で包むようにそっと抱きしめた。  
「優しい子ね・・・言ったでしょ、もうずっと一緒なんだからすぐ戻るわ。約束する」  
リムルルも、レラの腰にぎゅっと腕を回した。顔が見えないぐらい懐に埋まっている。  
「うん、待ってるね。約束だよ」  
「いい子だわ・・・・・・泣かないで待てる?」  
「な、泣いてなんて・・・ないもん!」  
リムルルの事ならどれもこれもお見通しらしい。姉だけにレラの方が一枚上手だ。  
でも、リムルルの心配もわかる。怖い思いをした話を教えた途端に出来た急用。どう考え  
ても、明らかに俺達を襲った奴らに探りを入れるつもりなのだ。  
「じゃあ行くわね。コウタ、リムルルに何でも言いつけて自分はしっかり休むのよ」  
そんな過酷で危険な仕事を背負いながらも、レラは俺に対する心配を忘れない。  
平常心を保っているどころか、その冷静さが心強ささえ感じさせる。  
「あ、どうも・・・お気をつけて、ホントに」  
――もしかしたら、何の心配もいらないのかもな・・・強そうだし。シクルゥ一緒だし。  
そう思いつつ、俺も心からの願いを込めてレラにそう言った。  
レラが、うん大丈夫よ、と目で返事をした。  
「シクルゥ、行こう」  
リムルルの頭を二度三度撫でて、もう一度抱きしめて、レラは窓を開け放つ。  
マフラーが緩くはためき、部屋に吹く冬の風の動きを目に見えるものにする。  
冬の街の風景に溶け込むようにして窓に映っていたレラの顔は、立ち上がったときに比べ  
いくらか余裕が生まれているように見えた。リムルルに呼び止められる前はどこか、不安  
を無理に使命で押し込めていたように感じたのだ。  
「・・・・・・行ってきます」  
かみ締めるようにレラはそうとだけ言い残すと、突然部屋のどこからか窓の方へと吹いた  
風を背中に受け、シクルゥと共に翔ぶようしてに窓から飛び降りた。  
空中でレラはシクルゥの背中に飛び乗り、少し重力に逆らいながら窓枠の下へと見切れた。  
「!!」  
背中を見ていたリムルルが弾かれるように窓に駆け寄り、叫ぶ。  
「ねえさまー!早く、早くねーっ!?」  
リムルルはそのまましばらく窓辺に立って、時折袖で顔を拭いながら、暮れの近づいた  
街を眺めていた。  
部屋に残された風は冬にしては温かく、どこか懐かしい良い香りがする。  
 
――行ってきます・・・か。  
風を切り疾走するシクルゥの背に身を屈めてまたがりながら、レラは自分がさっき言った  
言葉を何度も心の中で思い返した。  
行ってきます。  
当たり前なようで、レラには特別なあいさつだった。  
なぜならそれは帰る場所があって、迎えてくれる家族がいて初めて言えるもの。  
一人では、意味をなさない台詞だからだ。  
リムルルとの生活らしい生活を始めて、まだ数時間。なのに心の中はもう、山ほどの  
思い出で一杯になっている。  
泣いている自分を抱きしめてくれた。危なっかしい包丁さばきは何としても直してやら  
ないと。自分の料理を美味しい美味しいと一心不乱に食べてくれる。コタツとは便利な  
ものだ。お茶は美味しい。コウタはやっぱり普通の男だ。  
そしてリムルルは、愛すべき妹は相変わらず可愛いかった。笑顔の回数から、自分の名前  
を呼んだ回数、それこそ目じりに寄ったしわの数まで思い出せそうである。  
半日も過ぎないうちにこれだけの幸せを手に入れて、これからの生活は一体どうなって  
しまうのか。思い出に次ぐ思い出に埋め尽くされて、頭が破裂したりはしないだろうか。  
そんな馬鹿げた心配事が浮かぶぐらい、リムルルは・・・家族は楽しくて、温かで、ずっと  
一緒にいたい存在としてレラの心の深くに根付いている。  
 
だからこそレラは野山を駆ける。その家族の下を離れて。  
 
帰る場所を、帰りを待つ人々を護るために。  
戦士としてしか生きる道のなかった自分に、家族を教えてくれたリムルルのために。  
そして、リムルルに「自分では決して成し得ない幸せ」を掴ませるために。  
たとえ何が待っていようと負けない。約束は必ず果たす。  
「リムルル、すぐ帰るから。ただいまって言えるように・・・ね」  
冷たい冬の空気に溶かされた街の景色はまるで川のように流れ、レラの声もまた同様に  
背後へと流され、シクルゥが起こした風の渦の向こうへと吸い込まれていった。  
空は今日も冬晴れ。  
一瞬だけ仰ぎ見た青い空に、リムルルの笑顔が浮かぶ。  

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