天はどこまでも高く、明るい。
その下に広がる尖った山々はどこまでも遠く、果てしない。
その山々の間を縫う大河はどこまでも流れ続け、淀みない。
その川面を行く風はどこまでも心地よく、何にもとらわれない。
明るく、果てしなく、淀みなく、とらわれず。
恵まれた、奇跡の大地。
そんな土地にそびえる山のひとつ。その懐、急な斜面に長い長い石段があった。
もっと左右にくねらせてなるべく崖を避けて登りやすくするとか、他にうまい作り方も
あるものだろうと見た人誰もが思うような、頂上だけを糞真面目に目指すためだけの、
あまりにまっすぐで乱暴な絶対に足を踏み入れたくない石段だ。
だが物好きもいるもので、その石段の上を若い男たちが列をなし、肩天秤で水や食料を
運んで上っていく。見たところ商売人という風体ではない。どの男も上半身は裸で、その
肉体の逞しさといったらない。誰一人として足の運びの速さを変える事も無く、ただ黙々
と石段の頂上・・・・・・尖った山の頂をすっぱりと切り取って作ったような、平たい土地に
建てられた小さな古寺へと肩に乗せた荷物を運んでいるのだった。
とその時、列の最後の男がふいに立ち止まった。
自分の後ろを追いかける足音が止まったのに気がついて、その前の男が振り返る。
「はぁ、はぁ、おい。なぜ止まる」
声を聞いて、列全体も停止した。皆息も荒く、汗は滝のように流れ落ちている。一度立ち
止まっては、次の一歩を踏み出すのにはかなりの根性が必要な状態だ。列をなした男達の
視線は、倒れるでも弱音を吐くでもなく、山の頂に背を向けて向こうの空を眺めている
最後尾の男の背中にじりじりと突き刺さっていた。
険悪な空気が、男達の肩から登る湯気と共に周囲に広がってゆく。
「おい――」
しびれを切らした先頭の男が肩の天秤を下ろして、突っ立っている男を怒鳴りつけようと
したその時、最後尾の男がすっと空の一点を指差した。
何かが宙を漂い、こちらに近づいてくる。
それを見た男達は一瞬それが何かがすぐに悟り、一斉に口を開き子供のようにわめいた。
「おっ、おぉー、師匠だ!」
「雲飛様がお戻りになられるぞっ」
「すごい・・・・・・やはり何度見てもすごいなあ!」
急な斜面の上でわいわいと騒ぎ出し、手まで振る者まで現れて、先頭を切っていた男の
頭に青筋が浮かんだ。
「こらっお前ら!何を楽しんでいる!急げ、師匠に遅れるな!先に寺に到着するのだ!
俺に続け、続け!」
「おっ、応!」
「あっこら!バカ、天秤を振り回すな!周りをよく見――」
ごつぅん
「あいやーッ!?」
「おい大丈夫か!落ちるぞ!」
「う、うわぁ!来るなったら!」
「死ぬ!」
「もう死んでるだろっつの」
やんややんや・・・・・・
「未熟者めらが・・・・・・」
「お師匠!雲飛師匠!!なんて危険な真似をなさるのです?!」
弟子の中でも口うるさい側近の一人が、ぶつくさと言いながら屋敷へと舞い戻った老人を、
待ってましたとばかりになじり始めた。
雲飛と呼ばれた緑色の作業服の老人は、少しうんざりしたため息と共に玄関をくぐった。
「師匠、いくら現世の調査のためとはいえ、いささか悠長が過ぎますぞ」
「お前は心配が過ぎる」
荷物を弟子に預けた雲飛は、疎ましそうに言いながらその横を通り過ぎ、そのまま自室に
向かおうとした。だが弟子は、なおも後ろから食い下がる。
「危うく時間切れ、『冥界への道』が閉ざされるところでした。地上に取り残されるような
事があれば、師匠の力を持ってしても、こちらに戻る事はかないません!」
「だからこうして戻ってきておろうが。うん?」
雲飛はいつまでもうるさい弟子へと、振り向きざまに鋭い一瞥をくれた。
睨まれた弟子の口が、迫力にうっと縫い付けられる。
「全く・・・・・・」
弟子が固まったのを確認し、雲飛は少女に褒められた自慢の顎ひげを撫でつつ、弟子の
知りたがっている事を話して聞かせた。
「現世、事も無し。あの少女は自分の持つ『力』に不自覚であった。『冥界への道』が
開いたのも恐らくは偶然であろう。会話の中に幾度か『力』をほのめかす様な言葉を混ぜ、
それとなく聞き出すつもりであったが・・・・・・全く持ってな。何の反応も得られぬ」
雲飛の眼力から何とか抜け出した弟子は、今度は少し恐縮しつつ尋ねる。
「お、恐れながら、それではかえって危険なのでは?『命を操る力』、悪しき者に渡った
時の事を考えますと」
「否、あの魂の器量と曇りなき純粋さ、そしてそれを支える人々があの少女の周りには
居た。されば悪しき心に囚われる事はあるまい。心配は要らん」
堂々とした師匠の物言いに、弟子はやっと緊張から解かれた顔をした。
「左様で。師匠、奥様が朝食のご準備を整えてお待ちしております」
「すぐに行く」
「はい。しかし師匠、現世の服も・・・・・・実にお似合いですな」
「心配だの世辞だのばかり修行しおって!ほらもう良い、下がれ」
世話を焼きすぎる弟子を追い払い、自室に辿り着くや否や、雲飛はさっさと部屋着に
着替えた。床に無造作に置かれた現代風の作業着や釣り道具は、すぅとその姿を消して
いく。それらは全て、雲飛の仙術が作り出した幻だったのである。
川べりに持ち込んだ品の中で残ったのは、愛用の襟巻きと、今は空となった水筒、
そして雲飛の操る風が絡め取ったリムルルの鉢巻だけであった。
ここ、雲飛が生活する家のある場所は、現世を遠く離れた天上の冥界――死者の魂が集う、
いわゆる死後の世界である。雲飛もまた自らを縛っていた暗い宿命を断ち切り、数百年前
に現世を去った亡者であった。
その雲飛が、再び現世に姿を現したのには理由があった。
つい先刻、直接には繋がるはずの無い冥界と現世との間に突然、不可思議な力によって
一筋の道がかたち作られてしまったのである。
道といっても正確には冥界の地面を一筋の光が貫き、その下に現世を天高くから覗き見る
事の出来る穴がぽっかりと開いた形である。言わば異次元同士を繋ぐ抜け穴だった。
現世の人間は肉体を失わなければ魂を冥界へと昇らせる事は無いが、冥界に暮らす者の
中には現世に執着を持つ者も少なくは無い。特に現世への転生を固く禁じられた悪霊や
魑魅魍魎などは、隙を狙っては地上に降り立つ機会をと、醜い鼻を四六時中利かせている。
今回の事件の発端となった穴は幸いにして小さなもので、雲飛達のように仙術や特別な
力に通じる者以外に気づいた輩はいなかったが、地上にいる誰かが悪意を持ってこの様な
危機を招いたのだとすれば、それを黙って見過ごすわけにはいかない。
そこで雲飛は弟子達に穴を見張らせ、空を自在に翔る仙術「天機七曜」で穴をくぐって
自ら地上に降り立ち、肉体を持たない霊魂の身でありながら、冥界への道を開いた者に
近づいたのだった。
・・・・・・魂を両断し、完全に滅してしまう半月刀「天閃燕巧」を、釣り道具の中に忍ばせて。
だが、剣には希代の才覚を持つ雲飛の手によって、半月刀が振るわれる事はついに無かった。
冥界への道を開いた張本人である少女は弟子にも伝えた通り、邪念とは程遠い心の清い
少女だったからだ。
床に落ちた青い鉢巻を拾い上げ、雲飛はその表面に縫いこまれた刺繍に目を凝らした。
手の上で垂れ下がる鉢巻には、元気な命の輝きに満ちた子供らしい温かさが、まだ少し
残っているように感じられた。
雲飛はその温もりを辿り、心静かに、地上で出会った少女の事を思い出す。
健康的な肌と、感情をすぐあらわにするあまりに素直で大きな瞳。快活な声を発する
可愛らしい唇。そして強く燃え続ける、「天閃燕巧」であっても打ち砕くことが出来るか
分からない、宝珠のように美しい魂。
「あの少女もまた、『大自然の戦士』・・・・・・。あの力、目の当たりにしたのは数百年ぶりか」
雲飛は目を閉じつぶやいた。
目蓋にはあの頃の記憶が映し出される。
かつて、雲飛が自らの魂と肉体とを委ねた魔界の存在「闇キ皇」を打ち滅ぼすべく、日輪国
へと渡った際に、彼は偶然にも同じ戦場へとひた走る一人の少女の姿を見た。
少女は長い黒髪を後ろに束ね、かの国の一般的な服飾とは違う、一風変わった赤と白の
装束に身を固め、一羽の鷹をお供に連れていた。腰の後ろには、大小ふたつの得物を括り
つけていた。
雲飛は最初、彼女は自分と同じ、幕府のしいた鎖国を潜って侵入した異国の人間なのだろう
という事だけに目を向け、特に意識する事は無かった。
だが、木々の間を風の力で飛び交い日輪国へと一直線に向かう間に、雲飛は何度も少女の
姿を眼下に見る事になったのだった。
永い時を経て何事にも動じなくなった雲飛であったが、幾度も姿を表す不思議な少女の
行動は、朴訥とした年寄りの興味を引くには十分だった。
半分空中を飛んで進む雲飛に迫る足の速さは勿論の事、少女は昼も太陽の光が届かない
樹海を迷う事無く横切り、小舟に頼らなくては渡れない河川も、何とお供の鷹に掴まって
難なく飛び越えるのである。
確かにそれらは近道なのだろう。しかしそんな苦難の道を彼女があえて進む理由として、
雲飛は人目を避けているのだろうと察した。外部の人間を厳しく取り締まるこの国ならば
仕方の無い事である。少女は幾度も同じ道を通り地形に精通しているのだ、そう考えていた。
かと思えば、少女は道端に困っている人がいれば手を貸し、卑劣な夜盗をただ一人でこら
しめる事もあった。しかも刀を抜く事さえせず、体術だけで見事に改心させてしまうのである。
さすがの雲飛の頭の上にも疑問符が浮かんだものだった。
そして少女は地図一つ持たないまま、雲飛の下を――すなわちかつての雲飛と同様に魂を
闇キ皇受け渡した、悪しき男の下へと奔走していくのである。
雲飛は彼女の気配を近くに感じては、その様子を実に興味深く眺めていた。
少女は額に汗を浮かべ、息を切らせながら、それでも休むことなく雲飛と同じ方角を目指
してひたすらに走っていた。何かに導かれるように。
その時の少女の表情を、雲飛は今でもはっきりと思い出せる。
少女は、償いと清算という、余りに重い宿命を背負い戦場へと向かう雲飛の目にも余る程の
悲しみと焦燥を、その美しい顔に湛えていたのだった。
そんな少女を最後に見かけた二日ばかり後。あれは幕府と日輪、2つの勢力が激しく衝突
しあっている「黄泉ヶ原」へと、雲飛がついにたどり着いた日の晩だった。
戦場に程近い、火を放たれて今は焼け落ちた木々だらけとなった林に潜み、自らの清算の
機会をうかがっていた時・・・・・・それは闇キ皇との、熾烈な戦いの前夜だったと思い起こ
される。
刻一刻と迫る決戦の夜明けを前に雲飛が座禅を組んで心を静めていると、その林の向こう
から、闇夜を緩く照らす微かな光が浮かんだのだ。
日が昇る直前、世界が最も深い静寂に包まれて、人間が最も無防備な時間帯の出来事だ。
だから初めは、闇に潜んだ落ち武者を狩る幕府の手の者かと思い、雲飛は倒木の陰に
そっと身を隠した。そんな手を使って一人でも多くの敵兵の命を摘まねばならない程、
幕府は手こずっていたのだ。
だが様子が違う。足音もしなければ、戦の空気を纏った人間達の気配も感じられない。
しかも驚いた事に、光はまるで水にでもなったかのように、足元を走りながら林中の
地面へと流れ出していたのだ。たいまつの光でも、太陽の光でもこんな芸当は出来ない。
大陸に伝わるあらゆる仙術を会得した雲飛でさえ、見た事の無い光だった。
そうこうしている間にも身を隠していた倒木の周りにも光が満ち始め、雲飛は身を隠す
術を失いかけていた。
この光を操る呪術者がもしも闇キ皇のしもべだとするならば、見つかるのは時間の問題
である。用があるのは闇キ皇だけだ。決戦の前に深手を負うのは何としても避けねば
ならない。
雲飛は意を決し、倒木の陰からそっと顔を出し、様子を探ろうと光の方をにらんだ。
明るいのに目を刺激しない、奇妙な光の中心。
その眺めを見た瞬間、雲飛は常に細められがちな目を見開いて絶句し、そして直感した。
そこは何人にも侵しがたい神々しい世界なのだ、と。
雲飛の見ている前で、光に包まれた木々が音も無く起き上がり、折れた幹はがっしりと
した樹皮を取り戻していくではないか。
それだけではない。今や灰も残らないはずであろう枝葉が、立ち上がった幹の上から
ざわざわと音を立て、急速に生い茂ってゆくのだ。
不幸な災いに飲み込まれた鳥やリスのような森の獣たちさえ、地面から、草木の陰から
ひょっこり元気に顔を出しては、あるものは走り回り、あるものは飛び立ち、止まり木
の上で歌い始めている。
そしてその押し寄せる光がもたらす命の波は、ついに雲飛の周囲の風景さえ変え始めて
いた。
時をさかのぼる命達に囲まれ、注意も警戒も忘れて立ち尽くした雲飛はぼんやりと思った。
――これは一体何なのだ。
息絶えたはずの、風さえ避けて通っていた焼け跡に、賑やかな命が再び降り立っている。
命が水のように溢れている。たった今噴出した、地の奥底の眠りから覚めた泉のように。
泉。
太陽よりも暖かな光の泉の中心。
――むっ、そうだ。
雲飛はあまりの光景にすっかり忘れていた本題を思い出し、再び光の中心に目を向けた。
だがしかし、再びすぐに我を忘れる事になってしまう。
そこには、胸の前で両手を重ねて静かに祈る、一人の輝ける少女がいたのだった。
雲飛は、息を呑んだ。
少女は「あの」少女だったのだ。
自分と同じくこの黄泉ヶ原を目指していた、美しい黒髪の少女。
人の流れを避け、人を寄せ付けない陽の光の届かない深い森を一度も迷うことなく横切り、
そしてこの地にたどり着いた少女。
得体の知れない悲しみと焦りを双眸に湛えていた、あの少女だ。
しかし今の彼女にはあの悲哀に満ちた雰囲気は残されていない。光の塊となった少女は、
元気に走り回る小さな動物たちに囲まれ、口元に微笑さえ浮かべながら祈りを続けている。
光の波には、幸せと慈しみが感じられる。
曇りない、純粋なものが少女の中にある。
これが本当の彼女の姿なのだろうか。だとすれば、何と美しいことだろう。
そして、何と魅力的なのだろう。
光に魅入られた老人の乾いた心に、多くの気持ちがほとばしる。
彼女は何者か。一体どうやってこんな事をしているのか。失われた命を取り戻す術があると
いうのか。償い切れない罪を負った自分、その自分が唯一果たせる罪滅ぼしの時を目前に
して、また別の道を与えてはくれないだろうか。
そう、闇キ皇を打ち滅ぼした暁には、我が最愛の人々をこの世に再び――
ばきっ
林中の動物たちの視線が音の方、老人の元へと集まった。
光が地面に染み込むように消えて、辺りが再び闇に沈んでゆく。
――何とっ!?
押し寄せる緊迫した動物たちの気配と、黒く沈む視界の変化に驚く雲飛には一瞬、いつしか
自分が光へと踏み出していたその一歩目こそが、足元の枝を踏み折り音を発してしまった
のだという事実に気づかなかった。
事態に気づこうとする間にも、蘇った林からは光が失われてゆく。
雲飛は混乱した。
視界の唐突な変化はもちろんだったが、夢心地の世界から戻ってみれば、ここは静かな林だ。
だがしかし未だに謎の光は足元に残り、木々はうっそうと生い茂り、動物は確かに鋭い
視線をこちらに向け、戦場はここからは程近く、闇キ皇は目前に迫り、多くの命が自らの
手によって失われ、浅はかな男の血塗られた両手から幸せはこぼれ出し、永い年月を経て
節くれたその手は今、少女が放ったのとは違う冷たい光を放つ半月刀を背中に探り、
少女、少女は――
「どなた・・・・・・あっ、あのう・・・・・・そこにおられるのは、おじいさんですか?」
雲飛の指が、半月刀に触れたところで止まった。
半月刀を抜いて、一体何をしようというのか。
頭を蹴破らんとばかりに猛っていた不細工な衝動が、ため息一つでいつもの冷静さにまで
すうと静まり返る。
「・・・・・・済まぬ」
雲飛は両手を下ろし目を伏せて、自戒の意味も込め、消え行く光の向こうに浮かぶ白装束に
向けて頭を下げた。
「お主の大切な時にとんだ邪魔を」
「いいえ。驚かれたのではないですか?突然こんな所を見たのですから」
誰がどう見ても神聖極まりない特別な空間を濁されたというのに、少女はいたって穏やかな
気配を崩してはいなかった。むしろこちらに対して親しげなものさえ感じられる。
少女はしっとりとした声で雲飛に言った。
「おじいさんは自然と一つになっていました。私、全然気づかなかったものですから。
すごいです・・・・・・物音が立つまで、動物たちも全く警戒していなかった」
林に舞い戻った風が、その言葉の後に続く彼女の小さな独り言を運ぶ。
「まるで・・・・・・父様のよう」
雲飛にはそう聞こえた。消えてしまいそうな声だった。
と同時に、少女の心の中に、少しの間だけ姿を消していたあの悲しみが戻ったのを痛感した。
――父親があの戦場に。
雲飛は髭を撫でつつ、背を伸ばして少女に呼びかけた。
「お嬢さん、名を何と」
「ナコルルと申します」
暗闇の向こうの白装束も、姿勢を正してそう答えた。やはり敵意の無い落ち着いた声だ。
「ナコルル殿・・・・・・かような場所に、何故一人でおられるのかね」
「おじいさんこそ、自然に溶け込んでいられるとはいっても危険ですよ?ここがどの
ような場所なのかご存知なんですか?」
「知っているとも。お互い、危険を好む散策者というわけだな。わしの名は雲飛、劉雲飛。
その戦場に、どうしても会わねばならない者が居てな」
「私も似たようなものです。人を探して、ここまで参りました。あの、どうぞこちらへ
おいで下さい。声高に話しては、この子達もなかなか緊張が解けないようですし、誰かに
見つからないとも限らないですから。少々ですが食料もございます。ご一緒しませんか?」
意外な申し出だった。自分は老いさらばえているし、確かに敵ではないしにしても、少女が
このような戦地で自分のそばに男を招くだろうか。
名前も聞いた、曖昧ながら目的も知った。それ以上に何を知る必要があるだろう。
「わしは・・・・・・」
「あなた達、大丈夫よ。雲飛様はとても良いお方。何もしたりはしないわ。安心して、ね?」
雲飛の疑問をよそに、ナコルルはあくまで自然体だった。その言葉は直接動物達にも届く
らしく、小声で静かに語りかけると、すぐにウサギやリス達は警戒を解き、草木の中に
次々と姿を消していく。鳥達も止まり木の上で羽を休めるばかりである。
人間二人の気配だけを残し、森は、本来あるべき真夜中の雰囲気に落ちた。
時おり戦場へと吹く風が木々をざわめかせる中、雲飛は少女に向かって足を運び出す。
光の絶えた木々の間、雲飛にしか見えない赤く透き通った魂を燃やす少女に向かって。
林の中でも一際太い幹を持つ、ナコルルが耳を当てて命の音を聞いていた大木。
その下に、二人は少し離れて座っていた。
雲飛は手渡された干し魚をちぎってはゆっくりと口に運び、ナコルルは近寄ってきたリスに
餌を手渡していた。
雲飛はその少女の横顔を見やる。
痕跡を残さないために――-無論、林が元に戻っているのだから、それこそが巨大な
痕跡だが――火は焚いていないので、青白い星空の光だけが林の中の世界を、そして
少女の姿を目に見えるものにしている。
あらためて美しい少女だった。黒く長い髪は錦のように輝いて、透き通った白い肌は星
よりも美しい。健康そうな頬はふっくらとしていて、日中であればさぞ可愛らしい桃色が
見られたであろう。そしてこの戦場の隅、若い少女の運命を左右するであろう瞬間の直前に
あっても、小さな動物を思いやり、微笑みながら戯れるその姿は、少女の心の広さを如実に
物語っていた。
「ナコルル殿は若いというのに、随分と自然との調和が取れておるようだな」
「調和、ですか?」
雲飛の言葉に振り向いたナコルルは、少し不思議そうな顔をした。
「ああそうだとも。そのような小さな動物とそんなに親密にしておるではないか。並大抵
の事ではないぞ?」
肩の上に舞い降りた小鳥の頭を指先でくすぐりながら、ナコルルは暗闇に映える白い歯を
少し覗かせて微笑んだ。
「これはその、私は幼い頃から、木々と動物達、それから様々なカムイ・・・・・・ありのままの
自然に囲まれて生きてきましたから。他の方々よりも少しだけ自然と多く接してきた、ただ
それだけの事なんですよ」
「ただそれだけ、か。しかしその様な生まれの理由だけが、ナコルル殿。お主に先程の
ような力を授けるのかね?」
動物達と触れ合うナコルルの顔に、小さな緊張が走る。
「わしは大陸生まれだ。そこで長く仙術というものを修行してな。空を飛ぶ術、風を操る術。
様々な術を身につけた。先程のように気配を消す事も造作も無い。だがナコルル殿。お主が
見せたあのような術は、今まで目の当たりにしたことがのうてな?興味があるのだ」
赤く透明な魂が、ぱちぱちと爆ぜて揺れた。
辛い思いをさせているのだと雲飛は知っている。人を疑う事を知らない純粋な少女には、
自分はただの物好きな、自然に紛れ込む事の出来るおかしな老人なのだというぐらいの
印象しか与えてはいないだろう。
「この力は・・・・・・アイヌモシリの均衡を守るための力なのです」
塞ぐような沈黙の後、緊張に結ばれていた口を開き、ナコルルは力を込めて言った。
「アイヌモシリ、いえ、世界は雄大です。神々や精霊達の恵みによって、私達人間は
生かされています。でも、心を無くしたり魔物に魂を受け渡した人々はその大切な隣人達
を汚し、何の感謝もせずにその恵みを・・・・・・無意味に奪い、破壊する。この林だって
そのひとつに過ぎません。そんな人間達の身勝手で汚された彼らを、私はこの力で・・・・・・」
ナコルルは右手に残った干し魚を握りしめた。魂が強く高く、朱に燃え上がる。
あまりの勢いに、自らを消し去らんとばかりに。
「父様と母様がくれた、この力で・・・・・・!カムイ達を癒しているんです。ずっと彼らの
隣人であり続けるために。世界という天秤が傾かないように。大切な家族を守るために」
「そしてその父が、この戦場にいる・・・・・・そういう事かね」
「! どうしてそれを?!」
ナコルルは驚きを隠そうともせず、喋りながら徐々に伏せていた顔を雲飛に振り向かせた。
感情をいきなり表にしたナコルルの声を聞いた動物達が、餌さえ放り出して一斉に背を向け
茂みへと逃げていく。
「ああっ・・・・・・」
自分の肩から飛び立った小鳥の羽ばたきで我に返ったナコルルは、慌てて両手で口を
押さえた。だが、時は既に遅い。大木と二人だけを残し、林は孤独な空気を漂わせた。
「ふっ、若者らしい感情の揺らぎ。その方がお主には似合っておるよ」
がく然としたナコルルに向かって軽口を言って笑う雲飛に、ナコルルは疑惑とも哀願とも
つかない眼差しを向けた。
「父を・・・・・・ご存知なのですか?」
雲飛は冷たく首を横に振った。
「否。知らぬよ。ただナコルル殿程の女性を育てた父上だ。大層立派な方に違いあるまい。
この戦地に渦巻く悪の気配・・・・・・どのくらい前からそれに気づいていたかは知らぬが、
わしと同じように海を隔ててなおそれを察知する鋭さ。並大抵ではない。違うかな?」
父を知る人ではないという落胆だろうか、身を乗り出して雲飛の答えを聞いていたナコ
ルルの肩から、ふっと力が抜けた。
そして細い腰の後ろに手を回すと、横一文字に結わかれていた刀のうち長い方を、雲飛と
自分との間にそっと置いた。
正座した少女と、闇の中でもその闇を吸い込むほどに深い黒塗りの鞘に包まれた刀。
厳かな空気が周囲に満ちる頃、その鞘をじっと見つめながらナコルルが言った。
「これは、チチウシといいます」
「ふむ・・・・・・」
「ここより遥か北の地、私が住むカムイコタンという村に伝わる宝刀です」
説明を聞いた雲飛は手を伸ばす事さえせず、髭を撫でながら刀に見入った。
星の光を受け、眩しいぐらいに黒く輝く鞘。柄との境にはまばゆい金の縁取り。その奥
ゆかしい威厳に満ちた外観だけで、この刀がいかに神聖で強力な、選ばれたものにしか
振るう事の許されない物なのかが伝わってくる。
「父は・・・・・・立派な方です」
その宝刀を前に、ナコルルは静かに、赤々と輝いていた魂さえ沈めて語りだした。
「父は誰よりも強くて、優しい人です。どんなに辛い苦しい事があっても、その知恵で
必ず良い方へと私達を導いてくれます・・・・・・。それに、里に降りかかる色々な危機や
災いから私達を救ってくれるんです。一人の人間として、そして『大自然の戦士』と
して、誰からも尊敬される、本物のアコロアイヌ(私達の尊敬すべき人物)なんです」
ナコルルが空を仰ぎ、おもむろに右手を掲げた。
ばさばさっ。
大木の上から大きな羽音が響き、一羽の鷹が差し伸べられたナコルルの手の上へと舞い
降りる。鋭い目つきと、逞しい筋骨を包み込む茶色の羽毛が美しくりりしい。
「この子はママハハ。この宝刀に宿った、言わばチチウシの守り神です」
「ただのお供ではない、そういう事かね」
ママハハの刺すような視線を眉間に感じつつ、雲飛はチチウシに再び目を落として訊ねた。
「はい。チチウシを帯刀する事が許されるのは、ママハハに認められた大自然の戦士だけに
限られているのです」
「成る程。それで今、その刀を持つものとしてナコルル殿が選ばれているというわけか」
「・・・・・・」
「ナコルル殿――」
返事が無いので雲飛が顔を上げようとしたのと同時に、ナコルルが驚くべき事を伝えた。
「私の父は、この刀を携えて村を出ました」
雲飛の動きがぴたりと止まる。視線をチチウシに落としたまま動かす事が出来ない。
「今、何と」
こう聞き返すのが精一杯である。
夜が永遠であると思わせるような、静かな、静かな沈黙があって、ナコルルはその沈黙を
引き継ぐようにそっと口を開いた。
「遠くで何か災いの気配がある。だから様子を見てくる。それだけ私達家族に告げて、
父様はチチウシを手にコタンを離れました。ですが来る日も来る日も父様は帰らず、
ある日ついにこのチチウシだけを携えたママハハが、私達の元に帰って来たのです。
そしてママハハにこの刀を直接手渡されたのが、娘であるこの私・・・・・・」
――慈しみ深い姿の影から滲み出る悲しみの理由もまた、それだったというわけか。
「ナコルル殿、済まなかった。そんな重大な理由があるとも知らず」
声色さえ変わっていなかったが、目を伏せていても明らかに変わったのが分かるナコルル
の魂の様子を悟り、雲飛は謝りながら少女の体の中心へと目線を上げた。
そして雲飛は見た。
ナコルルの魂が、涙していた。
「父様はまだきっと戦場のどこかにいるんじゃないかと、私は信じてここまで来ました」
しかし老人を気遣ってか、ナコルルは魂の様子とは対照的な柔らかな表情のままである。
「そう信じて、でも、一歩また一歩と父様の気配を辿ってここへ近づくたび、肝心の父様の
気配はどんどんと遠く、薄くなって、そのうち強大な、何か途方もない邪な気配に呑まれて
・・・・・・最後はとうとう、私、その悪い気配だけを頼りに・・・・・・ここに辿り着いたんです」
雲飛には、ナコルルにかける言葉は幾らでもあるはずだった。
古いことわざでも、励ましの言葉でも、忠を尽くすあまりに悲痛な最期を遂げた英雄の
話でも、少女を慰める事ぐらいは造作もないはずだった。
だが、出来るはずはなかった。
見ればナコルルは、その美しい顔に微笑を浮かべていたのだ。
無論、静かな緋色の炎に覆われた魂の中心に、青い涙を伝わせたまま。
その笑顔が、乾ききる寸前の心の片隅から絞り取ったぎりぎりの笑みである事は、雲飛には
すぐに分かってしまう。決して作り笑いではない本物の笑顔だが、だからこそ痛々しい。
・・・・・・何事であろうと、泣くのは簡単だ。
魂の器である肉体からは、魂が悲しみに痛めば涙が出る。辛ければ大声で叫ぶ。ナコルル
だって、本当は幾らでも泣きたいはずだ。本心を偽れない魂からは、本物の悲哀が凝縮
された一滴の涙の粒が、炎に乾くことなく流れているのだから。
しかしナコルルは笑っている。今も。胸元に引き寄せた父の姿見を抱きしめて。
「でも、ちゃんとこの戦場に辿り着けて良かった。これでも私もカムイ達に選ばれた戦士
ですから。それが間違えて全く見当違いの方向に進んでいたら・・・・・・ふふ。大自然にも、
みんなにも顔向けできませんから。私、妹がいるんです。可愛い、ちょっと心配性な。
だから私の失敗を聞いたりしたら、きっとあの子は寝込んでしまうかも。『ねえさまったら
何やってるのー』なんて、そんな寝言を言いながら・・・・・・ふふっ」
どこか遠い目をしながらも、ナコルルはくすくすと笑って冗談まで言った。
そして息を吐き、胸に抱いた刀の柄を右の手で逆手に握ると、指にすぅと力を込めた。
小さな手ごたえの後、ナコルルは僅かにだけチチウシの刀身を露出させた。
雲飛達の間にひんやりとした銀色の光が射す。
光は神聖な刀を振るう事を許された少女の白い顔を照らし、また別の表情を浮かべさせた。
「私は、そんな妹にこれ以上心配をかけないためにも、大切な人々を守るためにも、
必ずこの刃で・・・・・・大自然と数多くの魂を汚し、世界の均衡を奪おうとしている魔物を
鎮めてみせます」
ほがらかで温かだったナコルルの肩に、戦士の気迫が沸き立った。
少女は、噛み締めた声で小さく叫んだ。
「必ず・・・・・・私が!父様に代わって!」
ナコルルの魂を彩る炎に突然、激しい紫色のいかずちがほとばしり、涙がもう一つ、また
一つとこぼれ出した。止まらない。
彼女に耳を傾ける雲飛は気が気でなかった。
魂からこぼれる涙に全ての悲しみを込めるというのは、どういう心地なのだろうか。
魂が苦しみを訴えるから人間は泣くのだ。そうする事で魂は辛さを発散させ、破壊を
免れる。
しかしナコルルはそれをしない。魂に閉じ込めて、決して表に出そうとしない。
その魂を伝う涙が弾けたら、それは彼女を飲み込む濁流へと姿を変えるに違いない。魂
を窒息させる狂おしい悲しみの渦だ。芯が強ければ強いほど、魂は我慢するだろう。だが、
一度折れれば元に戻らないのもまた強い魂の常だ。そんな事になれば、積もりに積もった
悲しみに押しつぶされて、彼女はきっと命を落とす事になる。
止められるのは自分だけだ。そう雲飛は思った。
「ナコルル殿」
美しく儚すぎる魂を目の当たりにして止まらなくなった身体の震えをぐっと抑え、雲飛は
かすれそうになる声を何とか形にした。
「ナコルル殿。お主は何も心配する事は・・・・・・無いのだ。その魔物を打ち破るのはお主
ではなく、この」
「私です」
ナコルルは刀身をのぞかせたままのチチウシを膝の上に置きながら、深い決意で
固まった声で雲飛をさえぎった。
「私が、悪しき者を裁きます」
別人のようにがらりと雰囲気を変えたナコルルに、雲飛は無意識に気おされていた。
言い返すこともできず、ただ目の前の少女を見つめるしかない。
ナコルルは目つきが鋭くなっていた。ついさっきまで、動物と戯れていた優しい少女の
物とは思えなかった。表情も硬く、闘いに向かう決意以外、一切の感情を排している。
切り裂くような目に収められた瞳には、これまたがらりと変わった魂の色、赤ではなく、
魂に走ったいかずちと同じ紫の炎が浮かび上がっていた。
その、雲飛を見つめるナコルルの右の瞳がゆらりと揺れたかと思うと、ふいに炎が瞳から
こぼれた。
頬を伝うそれを感じるように、ナコルルは両方の瞳を閉じた。
本物の、涙だった。
ナコルルは言う。
「これは悲しみ。安らかな時を願いながら散るしか無かった、無力な人間とカムイの悲しみ」
ナコルルは右手を持ち上げて涙がこぼれた目の下へと運び、すっと人差し指で払うように
撫でた。
涙が作った道が、指の分だけ拭われた。そして爪で横一文字に傷つけられていたそこから、
新たな一筋の川が流れ出した。
真っ赤な、血の川が。
ナコルルは言う。
「そしてこれが戦士の痛み。自らの守るべきもののために流す、誇り高き戦士の痛みよ」
血の雫が頬を伝い涙の川と混じりあい、桃色に輝きながらあごに届いて、膝の上に置かれた
チチウシの冷ややかな刃の上にぽとりと砕けた。
「私は大自然の戦士。人間とカムイ・・・・・・どんな悲しみも痛みも、私が全部受け止めます」
柄頭に手を沿え、ナコルルはぐっと刃を鞘に押し込めた。ガチャッ、と音がした。
その音と同時に、ナコルルの背後、木々の隙間から見える東の空が紫に染まり始めた。
夜明けだった。ついに訪れた、闘いの夜明けだ。
頬を汚したまま、白の装束を紫色に照らされたナコルルが雲飛よりも先に立ち上がる。
「待たれよ。どうしても行くのかね。ナコルル殿・・・・・・大自然の戦士よ」
ついに何も出来ぬまま時を向かえた雲飛は、こちらに背を向けて尻をはたき、チチウシを
腰の後ろにしっかりと結わき直す少女に低い声で語りかけた。
「お主は、立派な戦士だ。人々とこの世の全てを守るため、何よりも大きな大儀を背負う
誇り高き戦士だ。自らの清算のためだけにこの地を訪れた老いぼれとはわけが違う。だが
忘れてはならぬぞ」
ナコルルの背中に浮かぶ、遠い空と同じ紫色に燃える魂に向け、雲飛は念じるように言った。
「独りで抱え込んだ悲しみと痛みは、いつか誰かを不幸にする。父上がお主にもたらした
のと同じ辛い日々を、再び誰かに継がせる事になるのだ」
小高い山の上から、新たな一日を告げる太陽の放つ真っ赤な閃光が届いた。
顔の半分、涙と血に汚した方をこちらに向けた少女の後姿が、はっきりと浮き彫りになる。
しかし、紫と赤・・・・・・複雑に絡み合う二つの朝の光に照らさた少女の顔にどんな表情が
あるのか、雲飛にはついに見えなかった。
ただ一つ知りえたのは、あの遠ざかる少女の背中の中心で、赤々とした火の粉を撒きながら
紫色に燃える魂にはもう、涙の粒は流れてはいなかったという事だけだった。
「はーっはーっ」
「ぜーぜー」
「いてーよ、頭が!あーあひでぇ!血が出てる」
「その出血じゃ死ぬなお前」
「だから死んでるだろっつの」
「うるさいぞバカどもが!結局師匠に遅れをとったではないかっ!」
「バカと言うヤツこそが真のバカなのだと、雲飛様は仰っておられた」
「ウソつくなー!」
やんややんや・・・・・・
石段を登りきり、門扉にもたれかかってぎゃーぎゃーと騒ぎを繰り広げている未熟者達の
声で雲飛は過去から戻った。
「やれやれ・・・・・・」
――後から石段を三往復追加だな。
そう心の中で呟きながら、雲飛は随分と長い時間が経っているのに気づく。
あの少女の事を思い出すときはいつもこうだ。
「姉探し、か」
手に握り締められ、すっかり癖がついてしまった鉢巻を眺めながら、雲飛は皮肉を感じた。
「悲しみは繰り返す・・・・・・」
独りで抱え込んだ悲しみと痛みは、いつか誰かを不幸にする。それは自分の言葉だ。
清算の時を待つ間、長い歴史を傍観していた、雲飛が導いた一つの答えである。
抗い難い過去の歴史は、あの数奇な運命を辿る少女達をもやはり飲み込むのだろうか。
「否・・・・・・断じてそれは違うな」
雲飛は一人だけの部屋で自らの言葉を否定した。
あの元気な少女は、この鉢巻の持ち主は言っていたではないか。
大事な事に、過去の悪習とは違う未来へと向かう道に、自ら気がついたではないか。
独りじゃ戦えないんだ。
リムルル第四章 「新しい姉もやってきた」 おしまい