12月23日  
 
今日もまた、夢を見た。  
 
始まりは今日も、カムイコタンのおうちの、ねえさまの夢。もちろん、ナコルルねえさまの。  
ねえさまは今日も、わたしがにいさまのために鉢巻を作ることに賛成してくれる。  
いろりの灰にすらすらと指で模様を描いて、こんなのはどうかしらって。  
そのたびにわたしもとっても幸せな気分になる。ねえさまのすごさが身に染みる。  
どんな事でもお見通しのねえさま。  
いろりの火なんかより、ずっとずっと大きな温もりをもっているねえさま。  
こうやって寄り添って、ぱちぱち爆ぜる火を見ているだけで幸せで。  
ねえさまが大好きだ。わたしは今日も言った。  
ありがとうって、ねえさまは今日もわたしの頭をよしよしって。  
ずっとこのままならいいね。わたしはねえさまのお膝の上に頭を降ろす。  
ねえさまは、そうね、一緒が良いわねって、わたしの頭をそっと撫でてくれた。  
   
約束したもんね。ずっと一緒だって。  
   
・・・・・・なのに、幸せを照らしていたいろりの火は消えてしまうの。  
   
ふいに頭の下にあったねえさまの感触が無くなって、わたしは床にごつんて頭を打った。  
くらくらする頭をさすりながら玄関の方を見たら、扉が開け放たれていた。  
この後何が起きるのか、わたしはよく知っているんだ。  
行っても無駄なの。  
だって、扉の前まで駆け寄って、歩いていく後ろ姿のねえさまを見つけた途端、信じられ  
ないぐらいの吹雪が突然、びゅうびゅう音を立てて部屋の中に吹き込んでくるから。  
わたしの身体なんて軽々吹き飛ばされちゃって、部屋の壁に転がって止まるまで何もでき  
ない。立ち上がることもできないで、痛いぐらいに吹き付ける雪の下を這って前に進む  
しかない。こんなの追いつけっこない。  
 
ねえさまは悲しいぐらいに真っ白な世界にみるみる消えて、黒い髪だけが辛うじて見えるだけ。  
こんな雪の中、そんな格好で外に出たら死んじゃうよ。  
わたしは叫ぶ。ねえさま、だめだよねえさま!ねえさまー、ねえさま!戻ってよ!!  
でも無駄なの。口の中にまで飛び込んでくる雪と暴風に阻まれて、届かないから。  
自分の耳にさえ聞こえない、弱すぎる声。声が大きいっていつも怒られるのに、こんな  
時ぐらい役に立ったっていいのに。  
そうやってもがいているうちに、わたしの身体の上にも、どんどん雪が降り積もってゆく。  
目が痛い。ばしばしと飛んでくる雪に耐えられなくて、それでもねえさまの姿をどうにか  
捉えて。  
でも、これもやっぱり無駄。あるまばたきを境に、わたしの世界は夜だというのに白一色に  
なってしまう。  
痛みと寒さに耐えかねて、自然と流れた涙が閉じ合わせたまつ毛を一瞬に凍りつかせて、  
まぶたを開くことが出来なくなるの。  
恐くなる。目が見えないんだから。音はごうごうっていう風の叫び声だけだし、コンルに  
助けを求めようとしても、声はその風に押し流されてしまう。どうにか視界だけでもと、  
目をこすろうとしても動けない。だって冷たくて重たい雪の塊が、わたしの上にどっかと  
腰を下ろしてしまっているから。手足の感覚なんて、とうに無くなってしまっていて。  
感じるのは、雪の重みに背中がみしみしって言う音と、ごうごうっていう、聞くだけで  
涙が出ちゃうような、恐ろしい嵐の叫び声。  
そして、わたしの命の音。  
今にも雪に押しつぶされて、風に覆い隠されて、手のひらの上の雪みたいに消えてしまい  
そうな鼓動と、ひゅーっ、ひゅーっていう、斜めに開いた自分の口から漏れる苦しげな  
息の音だけ。  
わたしは死ぬんだなって、今日も。いっつも思う。  
こんな雪の中に出て行ったねえさまにも、別の世界できっとすぐに会える。  
そう思うと、こんな弱々しい、生きているのがやっとの呼吸の音なんてもう聞きたくなく  
なってくる。何でこんなに苦しい思いをして、わたしは生きていなきゃいけないんだろう。  
逆らえない、あきらめの気持ち。心と身体がゆるされて、どこかに消えてゆく心地の良さ。  
 
にいさま、ごめんなさい。  
ねえさま、ごめんなさい。  
コンル、ごめんなさい。  
みんな、みんな。ごめんなさい。  
誰もゆるしてくれるわけが無いのに、そんなことに何の意味も無いのも知っているのに、  
わたしはこうやってぶつぶつ謝りながら、もたげた頭を雪に埋めてゆくの。  
わたしがこの時に感じる最後の感触は、もうひとしずくの涙。熱い、熱い涙。  
熱くて、熱くて・・・・・・体中が熱くて、そしたら突然、雪が解けていくの。  
重石が無くなった心臓が、強く強く脈打つ。心臓に集まって溜まっていた血が、一回の  
鼓動でざあああっと全身に届いて、凍りついた身体がばらばらになりそうなぐらい。  
ごうごうという鳴り止まない風の中で、わたしは我に返るの。  
ずっと一緒だって言ったじゃないか。  
そうだ、ねえさまを助けなければ、って。  
ばちっと瞳を開き、ぐいと身体を起こして、玄関を睨みつける。  
だけどそこに玄関は無い。遠くに消えたねえさまもいない。  
代わりに、わたしは新たな絶望を突きつけられるの。  
あるのは、焼け焦げた家の柱だけ。  
ごうごうという音は風じゃない。辺りを燃やし尽くす炎の音なの。  
変わり果てた世界。白い雪に包まれていた世界が、目を開けたら今度は  
「白い炎」  
に焼き尽くされているの。  
汗が噴き出す。いやな汗。  
気持ちの悪い音を立てて、背中の壁が外に向かって崩れて落ちる。ぎっぎっぎっぎぎぎぎ、  
ずしん、ばたん、がらがら。って。  
ぺたんと床に尻餅をついて、わたしは一度は奮い立った身体が一気に萎えるのを感じるの。  
本当に恐い。信じられないぐらい。こんな経験、「二度と」したくないのに。  
 
逃げなきゃ、っていつも思うの。だけどやっぱり動けない。壁が倒れて柱も無くなったら、  
このおうちがどうなるかなんて誰でも分かる。分かってるなら見なきゃいいのに、わたしの  
首はいつも勝手に上に曲がる。白く燃え盛る天井の方に。  
それで、ああ、四隅を支える柱が燃え尽きそうだなあって、ぼうっと思うの。  
そして、わたしは死ぬんだなって。ここでもそう頭によぎる。  
思ったとおりに柱の表面が焼け落ち始めて、傾いた屋根からぼろぼろと火の粉が降り注ぐ中、  
わたしはまた涙を流すの。景色が解けて、天井がただの真っ白な塊になって。  
これなら恐くないかもしれない。きっと一瞬ですむだろう。押しつぶされて、炎を全身に  
浴びて。  
そう諦める。諦めかける。  
いつも、いつも。  
だけど風に混じって何か聞こえるの。わたしの名前を呼ぶ声が。リムルル、リムルルって、  
男の人の声。それに気づいた途端、乱暴にわたしの身体は宙に浮いて、暗闇に飛び出すの。  
そして外の地面に放り出されて、身体を打った衝撃を感じるのと同時に、ぐしゃって、  
自分の後ろでわたしの家が潰れる音と地鳴りに驚くの。  
日の暮れたコタンの中、最後に残っていたのがわたしの家。白い炎に焼き尽くされたコタンに  
動く影は二つだけ。  
それはチチウシを振り回して闘うにいさまと、白い炎に包まれた人のかたち。  
その人のかたちをした炎の手には、先っぽの折れた刀。   
血だらけの刀。血だらけの。  
とおさまの、血。  
 
意識が遠のく。  
視界がぐっと下がる。  
背中が熱くしびれて、意識がすぼまって、夢も、現実も・・・・・・今まで生きた時間さえ、  
わたしという形を保っている外側の、全ての境目が曖昧になってゆく。  
 
そして、知る。  
 
違う、知っているの。もうこれで三回目だから。四回目だったか。  
ううん、もっと前から。ずっとまえからみてた。  
しってたの。ずっとまえから。あのひから。  
 
わたしは、にいさまとわたしがどうなるのか、しってるの。しってるんだよ。  
 
「リムルル、逃げろ!来るんじゃないぞ!こいつはダメだ!早く!!」  
しってるの。そんなのむりだよ。あのときもできなかったから。  
「何してる!」  
にいさまもしんじゃうよ。しんじゃうの。とおさまといっしょなの。  
「はやーあ」  
ほら。かたながささったよ。おむねに。とおさまといっしょなの。  
「ああっ、ああああー、あぁー、あー」  
にいさま、ちがでた。それでまっしろにもえた。とおさまみたいにたおれた。とおさまと  
おなじかたち。にいさま、うごかなくなった。  
しんじゃった。  
でもしってたよ。こうなるの。  
ちかづいてくるよ。しろいのが、ちかづいてくるよ。  
にいさまがおとした、だいじなだいじな、「ちちうし」ひろいあげて。  
もうかたほうのてに、かたなのさきがおれたのをもった、しろいのがちかづいてくるよ。  
みんなしんじゃったよ。もう、だれもたすけてくれないよ。  
わたしはどうすればいいの?しってるよ・・・・・・  
・・・・・・しってるの?  
 
わたし――  
「リムルル」  
しろいのが、わたしのまえにたって、わたしのなまえをよんだ。  
どこかできいたことのあるこえだよ。しってるよ。このひとは――  
「これは、この刀は・・・・・・チチウシは、誰のものだ」  
ねえさまはいないし、ねえさまのとうさまもいないから。  
あいぬのせんしはわたしだけだから、わたしのです。  
「お前の物、と言うのか」  
そうです。  
「いいや、違うな・・・・・・違うんだ。  
 
・・・・・・それは、私の物なんだよ」  
 
・・・・・・白い炎の怪物が、振り上げた二本の刀をわたしのおでこに振り下ろすところで  
夢は終わる。  
 
今朝も、今も・・・・・・そうだ。  
いつの間に布団を蹴り上げて、抜け出したのかなんて知らない。  
どこの辺りから目が覚めていて、いつから部屋の隅に置かれいていたチチウシを手にして、  
こうして震えているのかさえ分からない。  
ただわたしは、生々しすぎる死を連想させる映像の連続の恐ろしさに叫びも上げられない  
まま、不安そうに傾いたコンルが運ぶ穏やかな冷気と、頬を舐めてくれるシクルゥの舌の  
感触に何とか呼び起こされて、冷たい空気をひゅうひゅうと吸っては吐いている自分に  
やっとの事で気づくの。  
見回せば、しわくちゃになったシーツ。カゴの中のみかんの山も崩れている。全部わたしが  
やったんだ。うなされて。  
 
最近、毎日見る。この夢。  
わたしの夢。それは、わたしが作り出した想像。  
「違う・・・・・・」  
知ってる。覚えてる。  
わたしが生きてきた風景の中で一番恐ろしかった風景、それが夢には混じっている。  
血と、恐ろしい白い炎に攻め立てられ、全てを失ったあの日の記憶。  
「あああぁ」  
壁のほうを向いて、子供みたいに泣いた。カーテンも開けずに。  
泣かないって、何度も約束してるのに。  
それでも涙が溢れて止まらなかった。  
 
たしか、こんなだった。  
 
とうさまが死んじゃった日も、こんなだった・・・・・・  
 
 
12月23日 午前  
 
リムルルに何が起きていたのか、シクルゥが全部教えてくれた。  
恐ろしい夢に心を蝕まれていたなんて・・・・・・しかもここ数日に渡って。  
あの子の優しい性格と過去、それに今の状況を考えれば、すぐ予測はついたはずだった  
のに。情けない話ね。あんまり普段どおりに振舞うものだから、戦いのことばかり頭に  
あった状態では全然気づきもしなかった。一方を気にすると、もう一方が見えなくなって  
しまうこの性格、身を滅ぼす種になるわ。気をつけないと。  
だけど悔やんでる時間は無いわ。これからはちゃんとあの子を支えてやればいいだけの話。  
・・・・・・リムルルを苦しめる夢。考えるにその原因は3つ。  
まず、あの子を襲った恐ろしい過去。  
次に、現在の安定した生活。  
そして、この時代に来た理由・・・・・・ナコルルを見つけ出せるのかという、未来への不安。  
この3つが絡まって気が休まる暇も無い。きっとそんなところね。一度全てを失いかけて  
いるんだから、この幸せがいつまで続くか不安になるのも無理ないわ。  
でもこの中で、リムルルを苦しめる元凶になった部分――過去に関しては私にはどうしても  
やれない。リムルルが乗り越えなければならない事だから。過去に蹴りをつけられるのは  
自分だけだものね。  
現在だってそう。あの子が自分の居場所と一緒に生きる人を見つけかけている今、その家族  
と心からの信頼関係を築いてゆくのもリムルルにしか出来ないこと。  
だけど、最後の一つは私が何とかしてあげなきゃいけない。  
そう、ナコルル。  
結論からして、リムルルにはナコルルは見つけられない。どんなに探し回ろうと。  
仮にリムルルが、ナコルルの気配を確実に感じ取れるぐらいに強く成長したしても。  
なぜならナコルルがいるのは、誰も近づけない神聖な森のずっと奥だから。  
その場所を知っているのは、私が知る限りシクルゥとママハハだけ。  
 
情けない話だけど、私にだってよく分からない。この世に肉体を得たときにはもう、戦士と  
しての宿命だけに突き動かされていた私は、無意識にチチウシに誘われて、シクルゥと一緒  
にコウタの家に程近いどこかの雑木林の中にいたから。  
だから今も、あの娘の状態が芳しくないというのが、空気や地面から伝わってくる程度。  
だから一番最初にリムルルと出会ったばかりの頃、「会わせてあげる」なんて言ったのは嘘。  
会わせて欲しいと何度かせがまれても、適当にお茶を濁し続けるしかなかった。  
だけどリムルルがあの子を求めるように、私だって気になっている。  
もしもナコルルの身体が、既に悪しき輩の手の中だったらなどと考えると、それこそ私  
まで眠れなくなりそう。しかもそれは、決して有り得ない話だとも言い切れない。これ  
だけ探しても、まだアイヌモシリの崩壊を狙う輩の姿を捉えられていないのだからね。  
だから今朝、シクルゥに思い切ってお願いした。  
この世を繋ぐ最後の鎖になっている、ナコルルと面会することをね。  
シクルゥも最初は拒んだ。ナコルルの周りに邪な気配は感じられない、だから行っても  
時間の無駄でしかないって。  
だけどリムルルの事が頭によぎったのかしら、さっき突然、リムルルのための薬草を摘んで  
いた私の後ろから、シクルゥがついにその森に足を踏み入れることを許してくれた。  
曰く「クリスマスの贈り物」だそうよ。まじめなシクルゥがこんな冗談を言うなんて、  
何だか少し嬉しかった。  
リムルルに教えたら、どんな顔するかしら。喜ぶかしら。喜ぶわよね、絶対に。  
 
いつかナコルルが蘇ったとしても、私の事・・・・・・忘れないでいてくれるかしら。  
 
 
12月23日 お昼前  
 
最近少し、リムルルの様子がおかしいような気はしていたんだ。  
 
時々ため息をついたり、俺の作業を眺めながらぼーっとしてそのまま眠りこけたり、昨日  
俺が学校に行ってた間何してたのかを聞いても、「よく覚えてない」なんて、そんなやる気  
の無い小学生みたいな事を言うから心配してたんだ。  
そんな昨日が明けて、今朝。  
俺達が修行から戻ると、いきなりコンルが俺の顔面まで吹っ飛んできたんだ。その後を  
追って何事かと部屋に入ると、布団がぐしゃぐしゃに蹴り飛ばされていて、みかんのカゴ  
が倒れて、中身が無造作に転がっていた。  
そんな部屋の隅っこでリムルルは、丸めた背中をこっちに向けて静かに泣いていた。  
扉の音にも、足音にさえ気づかなかったらしくて、慌てて後ろから肩を揺すると、リムルル  
はびくっと肩を跳ねさせた。  
そしてすっかり血の気が引いた、涙と鼻水に濡れた真っ白い顔をゆっくりこちらに向けると、  
びしゃびしゃになった大きな瞳で俺を食い入るように見つめてきたんだ。  
そっくりだった。  
コンルの記憶の中で見た、幼少の頃のリムルルに。  
あの不気味な怪物に父親を、そして未来さえ奪われそうになったあの日のリムルルに。  
声をかける事さえためらってしまうぐらい、リムルルはぼろぼろだった。  
レラさんがいてくれて良かった。すぐに介抱を始めてくれて、俺は指示に従ってお湯を  
沸かしたり、部屋を右往左往することしか出来なくて。本当にだらしがなかった。ドラマ  
で見るような、あたふたするばかりで、ここぞで役立たない男の典型例だったんだ。  
そのレラさんは、リムルルに飲ませるのだという薬草を取りにシクルゥと出かけている。  
お昼頃にはと言っていたから、きっともうすぐ帰ってくるだろう。  
 
俺はコタツの中でレラさん達の帰りを待ちながら、静かに布団の中で眠っているリムルルの  
目覚めを待っていた。コンルも俺の傍らから動こうとしない。  
こち こち こち こち  
普段聞こえもしない時計の音が、やたら耳につく。  
「リムルル・・・・・・」  
名前を呼んでみる。当然返事は無い。熟睡しているんだ。  
命の心配は無いとレラさんは言っていたし、それはそうなんだと思う。  
だけど改めてリムルルの寝顔を見ていると、その小さな口から漏れる吐息はあまりに儚なく、  
何も聞こえない。  
こち こち こち こち  
冷たく機械的な黒の秒針が、規則正しくまた一回りした。  
「リムルル・・・・・・」  
呼んでも答えない。それは分かってる。それでも不安なんだ。  
こち こち こち こち  
だって時計は動いているし、コンルは薄曇の空から降りてきた光を身体の中に捕まえて、  
ちゃんと部屋の中にきらきらと照り返している。  
「リムルル・・・・・・」  
なのにリムルルだけが、切り取られたように静かで動かないから。  
こち こち こち こち  
時間に置き去りにされて、リムルルだけが前進するのを止めてしまっているようだから!  
 
「リムルルッ?おいっ!」  
こちこちこちこちこちこちこっ・・・・・・  
おもむろに立ち上がって、時計から電池を引っこ抜いた。そして耳をそばだてる。  
 
・・・・・・  
 
・・・・・・・・・・・・  
 
・・・・・・ぅ・・・・・・・・・・・・すぅ  
 
微かだった。微かだったけど、確かにリムルルの寝息が俺の耳に届いた。  
はぁーっと大きなため息が出る。  
 
 
「良かった・・・・・・あぁ、コンル、ごめん」  
リムルルの枕元に座り込んだ俺の前にコンルが近づいてきて、おでこにこつんとぶつかって  
きた。「めっ」をされた気分だ。  
「ごめん。心配になっちゃってさ。コイツあんまり静かだから」  
それに寝顔があんまりきれいだったから。なんて。  
 
・・・・・・明日はついにクリスマスだ。  
天気予報じゃ、もしかしたら雪が降るかもしれないなんて言ってる。生粋の道産子のリム  
ルル達にしてみればそう珍しいものじゃないかもしれないけど、やっぱりクリスマスには  
雪がよく似合うし、もしも積もったら次の日も楽しいだろうなぁ。  
プレゼントだってあるんだ。丹精込めて作った、俺特製・メノコマキリの鞘。そうだな、  
名づけて「リム'n'コンルSP(りむんこんるすぺしゃる)」!  
・・・・・・いやー俺のネーミングセンスには、自分でもぶっ倒れそうになる。  
ご馳走だって作ろうな。でっかいケーキを奮発して買おうか。たまにはお酒を飲んだって  
かまやしない。リムルル、俺のビールを見ていつも飲みたがってたもんな。そうだな・・・・・・  
シャンパンにしよう。軽いヤツ。リムルルが酔っ払うとどうなるんだろうな。レラさんも  
興味はあるな。  
 
どうだ?とにかく楽しいんだ。クリスマスって。  
みんなでわいわいやって、プレゼント渡して、窓の外もきれいな白に染まってて、何だか  
ワクワクするし、それなのに静かで厳かな気持ちにもなるんだよ。特別な気分がするんだ。  
それにもうひとつ。  
俺、リムルルに言う事があるんだよ。言わなきゃいけない事が。  
コンルの記憶の中で、心を閉じかけてた小さい頃のリムルルを助けたナコルルさんの言葉  
よりも、もっとずっと強くリムルルを守ってやれるような言葉を。  
だから、だから――  
「リムルル、しっかり寝ろよ?恐い夢の事なんて全部忘れちゃえるぐらい、明日は楽しい  
んだからな」  
少しだけ汗ばんだリムルルの手を布団の中で握って、俺はどういうわけか祈る。  
 
祈るしかない。  
 
 
 
12/24  
 
 
12/25  
 
 
(以下焼失)  
 
 
リムルル第五章 「美しき家族の肖像」 おしまい  
 
 

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