13 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:04/05/22 11:57 ID:r6NXQ18h 
シャル姐萌えの流れぶった斬ってスマソ。職人さん降臨までのあいだ、保守がてら、つまみ程度の駄作投下します。  
わかる人のほうが少ないんじゃねえかと思われる、風間葉月&弟邪っす。妹属性だけど、リム程ロリじゃないのが葉月のツボなのかも。  
背景としては炎邪ED以降のつもり、です。  
 
 
 
 
 
「…ん…」  
 むき出しの肌を焼く熱い空気と、あたりに漂うきな臭い風。そして、とてつもなく大きな邪気にあてられ、葉月は目を覚ました。  
「…えと……私…?」  
 一体どれだけ眠っていたのだろう。  
 気が付けば、無残に焼け焦げた建物や、旗印などが散乱している。  
「…いったい何があったの…」  
 痛む身体を叱咤して、よろよろと立ち上がる。  
 あたりを見渡すと、まるで、何者かによって意図的に破壊され、焼き尽くされたかのような惨状に、葉月は眉を顰める。  
 と。葉月の背後から焼け跡を踏みしめるような足音が聞こえてきた。  
「誰!?」  
 反射的に、腰に下げた短刀を引き抜き、逆手に構える。忍びとしての腕はまだまだ未熟だが、それでも、自分の身体程度は守れるはずだ。  
 しかし。構えた刀は、すぐに下ろされる。視線の先にいた人物が、彼女が最もよく知る相手。彼女の兄だったからだ。  
彼女の位置から見えるのは、肩を落とし佇んでいる、彼の後ろ姿だけではあったが、長年そばにいた肉親だ。兄に違いないと葉月は思った。  
「兄さん!無事だったのね!!」  
 花のような笑みを浮かべて、葉月が火月の元へ駆け寄ろうとする。  
 しかし。葉月の動きが突然止まった。  
(…何だろう…何か…違う…っ…)  
 頭の片隅で、何かが警鐘を鳴らす。あれは、兄ではない、と…。  
 その時だ。葉月の声に呼応するかのごとく、焼け跡の真ん中で佇んでいた男が、ゆっくりと葉月を振り返る。  
 
 日に灼け、色が抜けきったかのような象牙色の髪と、褐色の肌に浮かび上がる刺青状の白い紋様、紅玉のような真紅の瞳。そして…その全身から発せられる禍々しい邪気とも瘴気ともつかないもの。それは…  
「まさか…そんな…!!」  
 炎邪―破壊本能のままに行動する、魔界の精神体―。  
 おそらく、我旺を倒して手に入れた、闇キ皇に宿りし人魔一体の秘術を用いて、火月の身体を乗っ取ったのだろう。  
「…て………兄さんを返してっっ!!!」  
 あどけなさの残る顔を怒りと悲しみに歪ませて、手にした短刀を握り締め、葉月は炎邪に斬りかかった。  
 炎邪と自分の力量の差は、痛いほどよくわかっていた。  
 それでも…敵わないまでも、せめて毛ほどの傷でもいい。最愛の兄を奪った目の前の妖に、一太刀を浴びせたかった。  
 しかし。  
「ゴハアっ!」  
 唐突に目の前で炎が弾ける。次の瞬間、爆風と熱風が吹きつけ、葉月の体を吹き飛ばす。うつし身を、その場で自爆させる技。炎滅。  
 爆心部から距離があったため、大した怪我はしていないが、むき出しの腕や足に、軽い火傷と切り傷を負い、地面に叩きつけられた衝撃で、短刀を手放してしまった。  
 地面に突き刺さっている短刀を掴もうと、身体を翻した葉月の上に、炎邪が覆いかぶさった。  
「嫌っ…!放して…放してっっ!!」  
 背後から抱きすくめられるような形で地面に押し付けられた葉月が、全身の力を振り絞って抵抗する。しかし、彼女を押さえつける炎邪の力が緩む気配は一向にない。  
 暫くして…炎邪の身体の下から、すすり泣くような声が漏れ出してきた。もはや、抵抗する力もないのだろう。  
「ヤダぁ…兄さん…兄さん…」  
 イヤイヤをするように頭を左右に振りながら、大きく見開いた瞳からポロポロと涙を零す。  
 殺されるかもしれないという恐怖でも、兄の身体を乗っ取ってしまった炎邪への怒りでもない。ただ、もう、自分の知っている兄がこの世にはいないということへの悲しさと寂しさだけが、葉月の胸の中を支配していた…。  
「……兄さん……火月兄さん……」  
 
 いつしか、葉月は炎邪の腕の中に抱きすくめられていた。泣きじゃくる葉月の頭を、炎邪が、ぎこちない手つきでそっと撫でる。  
 弾かれたように、葉月が振り返る。  
 刹那。涙に濡れた翡翠色の瞳と、真紅の瞳が交わった。  
「…ハ……ヅ、キ…」  
 喉の奥から搾り出すようにして、炎邪は、ただ、葉月の名前だけを呟くと、頬を伝う透明な雫を舌で舐めとった。  
―…もう泣かせたくない…―  
 破壊することしか思い浮かばない自分の中に、突然沸いてきたこの思い。胸の奥に広がる名前も知らない感情に、炎邪は戸惑っていた。  
(まあ…時間はあるか…)  
 ようやく実体を手に入れた今、時間切れで消滅するということはないだろう。小難しいことを考えることは後回しにして、今はただ…自分の腕の中にある温もりを抱きしめていたかった。  
 彼女の封魔の力によって、自分がもう一度眠りに付くその時まで…。  
 

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