第十一話「出発、そして冒険へ・・・」
すっと、横を見た。辺り一面が田んぼである。時代は変わってもちゃんと米や作物を育てているんだとちょっとだけ安心した。
最初は怖くて中々、目を開ける事が出来なかったが徐々に慣れてきた。
ユウキの後姿が何だか羨ましい。思わず見とれてしまい手の力を抜いてしまう。
次の瞬間ユウキがバイクのスピードを緩め停止する。驚いたコンルが慌ててユウキの体に捕まるが、不意に体勢を崩し前のめりに倒れてしまう。さらに彼女の胸がユウキの背中の中でクッション代わりのようにふわりと揺れる。
びくんと、ユウキの心臓の高まりを増大させた。この人の胸は時として危険だと・・・
「どうしたんですか?」
いきなりの停止に目的地に到達したのかと思い辺りを見回したがこれといって変わったところはない。
「いや、信号機といってここではしばらく止まらないといけないから」
ユウキの顔が上を見上げていた。コンルも空を見上げてみた。空は青い、空気も悪くない。
「もう少し顔を下にしてね。空に信号機はないから・・・」
「あっ・・・」
少し恥ずかしそうにコンルの目は空からもう少し下に視線を合わせた。
ユウキの後姿と共に三つの異なる色の物体を見つける。あれが信号機なのだと自分で納得させた。今は赤色の光が強くなっている。しばらくの間、無言の状態が続いた。
表情一つ変えないユウキ。赤色の光から青色の光が強くなった。
「また、動くから捕まっててね」
ユウキに促され再び動き始めるバイク。再びユウキの体に捕まるコンル。
しばらく、色々な道を回り、何度か信号機と呼ばれる物体と停止を繰り返す。
徐々に田んぼ道から見慣れない景色へと場所が映し出される。ユウキのバイク以外にも見た事のない乗り物が二人の間を交差したりすれ違ったりする。
あれは、「乗用車」、もっと大きいのが「トラック」、で、あそこの子供が乗ってるのは「自転車」と、一つ一つユウキがバイク越しから教えてくれる。
とても勉強になる。もっとこの時代を学びたい。まるで子供に帰るかのようにコンルの好奇心が胸を熱くさせる。
しかし、それを崩してしまう一面もあった。
ユウキ達の前に立ちはだかったトラックから吐き出された白黒の煙。ちょうど、信号機で停止していたのでまともに浴びたコンルが大きく咳き込んだ。
心配そうにユウキがコンルを覗く。苦しそうな表情をしながらも何とか返事を返す。
「これくらいなら大丈夫ですから、気にしないで下さい」
言い終わった後また咳き込んでしまった。仕方がないのでしばらくの間息を止める。
(この時代での生活、やはり思っていた以上に馴染むのは容易ではないかもしれませんね)
バイクが動き出した後再び深呼吸をする。鼻がムズムズして今度はくしゃみをしてしまう。恥ずかしそうに顔を伏せ、顔を赤らめるコンル。
(もしかして気付かれているのでしょうか?)
「別にくしゃみで恥ずかしがる必要はないよ」
まるで心を読まれたようにコンルの顔が驚きの顔になる。
(ど、どうして後ろを向いていないのに私の表情が分かったのでしょうか?)
コンルは知らなかった。ユウキのバイクミラーからコンルがはっきりと映っている事を・・・
(時代は変わっています。一人一人が自由に生活している時代。過去を生きる私達にとってはそれが正しい結末であるのか・・?
そして多くの家や街が増えれば増えるほど新たな道を切り開く為に自然が伐採されていくのもまた事実・・・それが少しだけ悲しいです)
コンル一人ではその答えを出す事は出来なかった。一人一人の意見が必要であると。
いよいよ、コンルの知らない世界が広がり始めた。徐々に人並みが多くなり始める。
ユウキの話によるとここは商店街と呼ばれる所でこういう休日になると特に人ごみで賑わうらしい。
ユウキが駐輪場でバイクを止める。自分のヘルメットとコンルのヘルメットを外す。
ついでに今更過ぎる質問をしてみた。
「寒くないかい?」
「いえ、これくらいならばまだ少し暑いくらいですよ」
さすがだと思った。自分は寒いので二枚着てるのに、この人は一枚しか着ていない。
しかもこの冬に暑いときたものだ。
「とりあえず、この商店街を簡単に探索してみるかな。もしかしたらリムルルが迷子になっているかもしれないし」
「はい!」
いつもよりも元気のいい声が返ってきた。しかしふと表情を変える。
「ユウキさん。迷子でふと思ったのですがこんな人ごみの中では私達もはぐれてしまうかもしれませんから・・・」
ユウキの手を掴みしっかりと自分の手と重ね合わせる。氷の精霊なのに何だか手から伝わる温かい体温が感じられる。
「こうやって一緒に手を繋ぎながら歩くのはいかがでしょうか?」
普段通りの態度を見せるコンルとは反対に少し恥ずかしそうに返答に困るユウキ。
若いカップルが手を繋いでいる。恐らくコンルはそれを見て思いついたのかもしれないが、
基本的に手を繋ぎながら歩くのは男女のカップルや家族連れである。いざ手を握られるとこれほど恥ずかしいものなのかとユウキは思い知った。
「ユウキさん・・?」
ふと黙り込んだユウキを見てコンルがユウキを横から覗き込む。ユウキが自分の置かれた立場を思い出し、はっと我に返った。
「ああ、ごめん。じゃあ、一緒に歩こうか!」
「はい!」