第十三話「贈り物」  
「ちょっと人探しを・・・」  
「お前のお母さんか?」  
思わず、顔をむっとさせるユウキ。  
(この年で迷子に何かなったりしません)  
「冗談だよ、でも、奇遇だな。そうだ、お前ちゃんと宿題してんの?」  
いつも通りの会話が発生した。まあ、無理もないと思った。普段は何気ない会話や大学の事についてだし・・・  
「もう終わりました。今年はいつもより早く冬休みに入ってます」  
はぁ、とコウタが溜息をついた。何だか嫉妬しているみたいだ。  
「いいねえ、後輩は。俺はこの後レポートを書かないといけないし、記憶が確かなら期末テストも残ってるよ。まあ後になったらテストの存在を忘れてるけどね」  
「大丈夫です。コウタ先輩はいつも追い詰められた時に実力を発揮する人だと知ってますから」  
「他人事だと思いやがって」  
バツが悪そうにユウキを睨む。ふと思い出したような顔でユウキを見た。  
「そういえば、おまえこの前二十歳になったんだよな」  
「あっ・・・」  
以外にも覚えててくれた事に涙が出てきそうなくらいじ〜〜んと来る。  
「ちょっと待て。特別に先輩からプレゼントをやろう」  
「わお!」  
思わず、声が漏れた。その時コウタが一度何かを確認していた。  
(まだ、リムルルはマネキンに夢中になってるな。今くらいなら目を離してもいいだろう)  
そのままコウタが自販機に向かった。ユウキがふと下着売り場を見ていた。  
「何だか見慣れない小さな女の子がマネキン人形できゃぴきゃぴしてる・・・。子供だなぁ・・・マネキンで悪戯してるよ。無邪気だなぁ」  
そうこうしているうちにコウタが戻ってきた。  
 
「ほらよ!」  
「これは?」  
「見て分からないか?二十歳の記念の「ビール」と「煙草」だよ」  
「・・・・」  
確かに、法律上、二十歳になれば両方ともOKだけど。無理してるコウタを見て何だか申し訳ない事をしたような気がしたユウキ。  
観念したようにコウタが切り返した。  
「先輩として正直に言おう。貧乏学生でスマン・・・」  
ユウキが否定の首を振った。  
「ありがとう先輩。このプレゼント、大事にします」  
(ユウキ・・・煙草はいいがビールは大事にしたらマズイだろ。冷蔵庫にすぐに入れろよ)  
ユウキが大事そうに迷彩服の上着の左右についているポケットの中にしまう。  
ふと、コウタもポケットをあさった。そして一つの何かを取り出した。  
「それは?」  
「煙草を吸うのにライターがないと始まらないだろう。どうせ俺はアクセサリーで持ってるだけだからやるよ」  
そういってコウタが手渡したものは「火縄銃の形をしたライター」のキーホルダーだった。  
「それはライターだけではないぞ。ある愛の言葉が込められてるんだ」  
「何ですか?」  
興味心身でコウタの目を見るユウキ。まるで食いついた魚を放さないようにコウタが話を続けた。  
「火縄銃の火薬の匂いは?」  
「臭いです・・・」  
「そう、臭いだけに「クサい台詞で女の子を射抜け!」って意味があるんだよ!」  
ユウキが「はぁ」と小さな溜息をついた。  
「どうせ、俺の台詞は誰にも受けないんだよ・・・」  
「すねないで下さい先輩。それに、普通は女の子を射止めるのは銃ではなくて弓矢だと思うんですが・・・」  
「し、知ってるさそれくらい」  
言葉をはぐらかすコウタ。それを楽しそうに見つめているユウキ。ああ、いつも通りのコウタ先輩だと。  
「まあ、それは冗談だが、その火縄銃のキーホルダーの本当の意味はな、ほら、火縄銃ってのはポルトガル人によって日本に伝わった銃の原点だろ。だから・・・」  
 
「常に原点を忘れるな。立ち止まったら原点に戻る事」  
 
ユウキは笑った。コウタも笑った。  
コウタ先輩は時折、すごくカッコイイ事も言う。決して不器用な性格でもない事を知っている。  
しかし、別れの時間が近づいてきた。  
 
「悪い、ユウキ。そろそろ俺行かないと行けないから」  
「あっ、すいません。でもどうしてコウタ先輩この下着売り場にいたんですか?」  
「い、いいじゃないかそんなこと」  
凄く困ったそうにコウタが答えた。気になるが嫌がる質問をするのも失礼だ。  
「じゃあな!ユウキ!」  
「はい。コウタ先輩」  
(そういえばアイツ、首元に首飾りみたいなのを付けていたが、アイツ恋人でも出来たのだろうか?どう見てもあれは女性が付ける首飾りだな。  
あいつ、俺以外からもちゃんとプレゼントをもらってるじゃん)  
コウタが心の中で自らの考えをはぐらかした。  
最後にコウタがそのまま立ち去るのを見送った。  
そしてユウキは見た。決定的瞬間を。  
コウタがマネキン人形で遊んでいた小さな女の子を連れて再び下着売り場で何やら品定めをしていたのを・・・  
思わず、唖然としてしまったユウキは持っていたライターを落としてしまう。  
 
(こ、コウタ先輩。とうとう未成年に手を・・・・)  
 
ユウキがぶるぶると首を振った。  
(見なかった事にしよう)  
コウタ先輩は自分の中で「憧れの先輩」である。決して援助交際はしない、未成年にも手を出さないと・・・  
「おっと、コンルを待たせてるんだった。早く行かないとな」  
取り敢えずコンルの前で煙草なんか吸ったら殺されるぞ。コウタ先輩には申し訳ないが煙草はまだ先になりそうだと苦笑いした。  
「残念ながら、ここにはリムルルはいなかったな。皆、現代の服ばかりだよ」  
そして落としたライターを再び拾い胸ポケットにしまうと、人込みの中を駆け抜けながら再びコンルの元に戻るのであった。  
 

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