第十五話「幸運」  
ショッピングモール入り口前に戻った。  
取り敢えずリムルルがまだ無事だっただけでもよしとしよう。  
「大丈夫かい?」  
 
さっきまで手で鼻を押さえていたコンルの肩をさする。しばらく辛そうな顔をしていたが外の空気を吸う度に元気を取り戻していく。  
「はい、もう大丈夫ですよ。ご迷惑ばかりかけてごめんなさい」  
「大丈夫、気にしなくていいから。俺の方こそリムルルを見つけられなくてゴメン」  
「いえ、気配がしただけでも無事だと言う事がはっきりしましたので気になさらないで下さい」  
ふと、コンルが横を見た。そしてそこに書かれている建物の看板を見た。  
「あら?」  
何かをまじまじと見ていたのでコンルの見た方向をのぞいて見た。  
「江戸は富くじ、そして今は宝くじ、よってらっしゃい、買ってらっしゃい」と、書いてある。  
「この時代にも富くじと呼ばれるものがあったのですね」  
「まあ、今は宝くじって名を改めているけどね」  
折角なので試しに二十歳を記念して買ってみようと思い前を歩こうとしたがコンルに肩を掴まれる。  
その力に逆らえず、体勢を崩したユウキがコンルの足元で尻餅をつく。  
「あっ、ごめんなさい」  
「いいよ。で、何?」  
間髪入れず、話し掛けたユウキに答えるようにコンルも間髪入れず話し掛ける。  
「ユウキさん、賭け事はほどほどにするべきですよ・・・と、言いたい所ですがこの時代ではユウキさんが一番偉いので少しだけなら目をつぶりますよ」  
立ち上がりながら肩から手を離したあどけない表情を見せるコンルを見て思った。  
(偉い割にはこの人が財布の紐を握り閉めてそうな台詞じゃないか)  
苦笑いしながら、すぐに結果が分かる宝くじを10枚注文する。  
別名「スクラッチくじ」と呼ばれる。  
愛想のいい中年の店員から10枚分の券をもらい、今では滅多に見られない2千円札で支払う。  
「小判じゃないんですね」  
誰かさんのポツリと漏らした声が聞こえた。  
 
「さすがに2000両(但し、実際は1両=1円ではない)の小判を出されてもここじゃあ、かさばって困るだけだしね」  
10枚のうち5枚をコンルに手渡す。コンルが不思議そうにこちらを見ている。  
「いきなり、渡されてもどうすればいいか分かりませんよ」  
当然の返事が当たり前のように返ってきた。  
「えっと、とりあえず、「壱」「弐」「参」「肆」「伍」の五つの数字があるでしょ」  
「はい」  
「それを全部削るだけでいいから、当たりかはずれかは調べてあげるから。ちなみにこれで削ってね」  
ユウキが簡単な削り方をコンルに見せる。こうやるんだよと言わんばかりに。  
納得したコンルに、削る為の5円玉を渡す。それをまじまじと眺める。  
(この丸い穴の開いたお金、まるで私達の時代にいた銭を投げて悪党を退治する正義の味方を思い出しますね)  
 
 
取り敢えず、「壱」「弐」「参」「肆」「伍」の数字を削り一つでも「当」の漢字が出ていれば5等が当選する。当然、全部「当」であれば1等である。  
ユウキが「当たりますように」と宝くじ売り場の台の上で一生懸命削っていた。コンルもコンルなりに一つ一つ削っていた。幸いお客は自分達だけなので人目や順番待ちを気にせずに楽しめる。  
今のコンルは取り敢えず、言われた事に従うのみである。  
賭け事はカムイコタンではご法度に近い。そもそも賭け事自体、好きな者はいない。賭け事は人の心を変えてしまう最大の落とし穴である事をコンルは知っているからだ。  
しかし、それは過去の時代。今は時代が違う。この時代であれば少しくらいは多めに見てもらえるだろう。  
(こういう緊張感があるからみんな賭け事をしたくなるのかもしれませんね)  
 
 
先に、ユウキが全てを削り終えた。結果は全部はずれ。やっぱり、世の中上手く行くわけないか。せめて5等の一つが出てもいいのに。  
横目でコンルを見た。まだ彼女は、削り終わってない。終わるのを待つ。  
そしてはずれた無念を背負い、肩を落としながら店員に話し掛けた。  
「やっぱ、一等って当たるものではないですね」  
「そりゃ、そうでしょ、一等なんて全国でたったの五枚しかありませんから」  
「そう言われると、他県に行って挑戦しないと駄目ですね」  
分かりきった事を話し合う。世の中そんな簡単にお金なんか当たるわけがない。  
宝くじで大金持ちになったら誰も仕事をしなくなってしまうよ。  
でも、よくよく考えてみると、実際は仮に一億が当たっても一生遊んで暮らすのは難しいらしい。  
 
などと、考えているうちにコンルが削り終えたみたいだ。きょろきょろと困った素振りを見せる。  
「その人の見てあげてもらえないですか?ほら、店の人に渡してあげて」  
コンルが店の人に届くように渡した。店の人が一枚一枚丁寧に確認をしている。  
途端にガタガタと店の人が震え始めた。一枚一枚、まるで健康診断で余命を宣告されたかのような・・・  
「あの驚きはまさか一等でも当てたのか?」  
「ユウキさん。私にはそんな運なんてありません。賭け事何て程遠い時代に生きてますから」  
途端に、静寂を一瞬でかき消す五月蝿い鐘の音がなった。実際には店員がそこに置いてあるベルを鳴らしただけなのだが。  
「おめでとう、1等当たったよ!」  
「えっ?」  
コンルが声を詰まらせる。ユウキは唖然とする。  
「う、うそ、本当に1等を当てちゃったの・・・」  
何て強運を持ってるんだ。あまりにも予想していなかった。ユウキが震える唇を動かしながら店員の返答を待った。  
「あ、あ、あ・・・」  
「ユウキさん、声が裏返ってます」  
しかし、コンルの強運を思い知らされるのはその後の店員の信じられない一言であった。  
「あなた、どんな強運の持ち主なんですか。どんな方法を使えば一等を五枚連続で当てられるのですか」  
コンルがさらに口元を押さえて驚いた。ユウキはさらなる衝撃発言により、道端であるにも関わらず、座り込んでしまった。  
「な、何なんだ・・・この人は・・・全国の人々の夢の可能性を全部「強運」と言う代金で買い占めたみたいだ」  
「ふふ、ユウキさんの誕生日のいい贈り物になりましたね。でも、お金は本当は良くありませんが、ユウキさんの誕生日と言うことで今回だけ私が許します。大事に使って下さいね」  
 
「いきなり言われても使い道なんて・・・思い付かない」  
店員がコンルにご祝儀袋で手渡す。  
「一等が十万だから五枚分で五十万。もってけ泥棒」  
「私、泥棒ではありません」  
例えすら真に受けてしまうコンル。泥棒と呼ばれて余程悲しかったのか視線をユウキに向ける。  
「その、何かを求めるような目をしないでね・・・」  
 
 
 
その後、その宝くじ売り場は大繁盛する事になったらしい。看板には「幸運の女神。一等を買い占める」と・・・  
ただ、実際その店で買うと当たるのかどうかは俺も知らない・・・  
 
 

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