ある日、自分のアパートの前で一人の女性が倒れていた。しょうがないと思いつつも介抱したのはいいが実は只の女性ではなかった。  
何と、リムルルと言う女性と一緒に過去から現代に降り立ったという。  
そしてその人物は人間ではなく「氷の精霊」だと答える。  
そして本来は人間みたいな姿ではないらしい。不可不思議な出来事に混乱しながらも彼女の為に出来る限りリムルル探しの協力をする事を約束する。  
しかし彼女自身が一人で抱えているもう一つの悩みがある事をまだ知らない。  
 
 
原作 陸捨肆様「リムルル」より  
 
サムライスピリッツ外伝 もうひとつの物語  
第二章「二日目」  
第五話 「始まりの朝」  
 
 
長かった夜は終わりを告げた。いつもより早くユウキが布団から起き上がる。  
今日は日曜日。外に出て彼女に色々とこの時代の事を教えながらリムルルを探す事にしよう。  
リムルルを探すのは何故か後者に当てはめているユウキ。  
すっと、起き上がるユウキ。ふと横を見る。  
「あっ、おはようございます。ユウキさん」  
「・・・」  
一瞬の沈黙、まだしっかりと目覚めてなかったユウキにとって  
腹の底から出てきた言葉はとても失礼な言葉であった。  
「うわああっ!!」  
「きゃあああっ?」  
驚いたのはユウキだけではなかった。  
目の前で驚かれて反射的に悲鳴を上げたのはコンルも同じであった。  
悲鳴を上げながらもゆっくりと相手を確認し、それがコンルだと分かると頭を下げる。  
 
「ご、ごめん」  
「ど、どうしたんですか、いきなり?」  
「いや、コンルに驚いたんだよ!」  
自分の目の前に人(但しコンルなので精霊)がいたら誰だってびっくりするのは当然だと主張するかのように言う。  
「そ、そんな、私を見たぐらいで驚かないで下さい」  
いきなり驚かれてちょっと傷付いたのかコンルの顔が曇る。  
「いや、言い方が悪かった。コンルの顔に驚いたんだよ」  
言い終わった瞬間だった。ユウキの頭に小さな氷が落ちる。  
コンルが何も言わず氷を落としたのだ。眉が少しつりあがっていた。  
「いててて、何でそんなに怒るんだよ」  
「怒ってません!ただ、ちょっと不機嫌になっただけです!」  
あんまり変わらないんじゃないのかと言いたかったのだが、  
また怒りそうなので黙るユウキ。  
「ところでいつここに戻って来てたの?」  
まさか、本当に扉を使わずに戻ってくるなんて。ふと首飾りを見つめる。  
世の中には本当に常識では考えられない事ってあるものだと感じるユウキ。  
既に過去から現代にやってきたと言うコンルをみると尚更である。  
こういうのをマスコミに報告したら間違いなく「大問題」になるか、「ガセネタ」と言われるかのどちらかだろう。  
まあ、それはいいとして・・・  
「数時間くらい前ですよ。ユウキさんが起きるまでずっとユウキさんの寝顔を見てました」  
「ヘッ?」  
「私は十分に休みましたからこれ以上無理に休む必要は無いと思いましたので」  
何か、コンルにうなされてる夢を見た感じがしたが、その原因がようやく分かったような気がした。  
 
「人の寝顔を見てるなんて君も暇なんだね」  
「いえ、とても眠れる気持ちではありませんでしたから」  
穏やかな表情を見せるコンルとは裏腹にまだしっかりと眠そうに目をこするユウキ。  
ふと、頭の中で何かがよぎった。  
 
(眠れる気持ちではなかった)  
 
と、言うのはどういう事だろう?寝ている余裕もないくらい考え事でもしてたのだろうか?  
昨日散歩しただけで・・・?  
それよりもまだ、意識がしっかりしていない。  
「仕方ない。出掛ける前に朝風呂にでも入っておこうかな。折角だから、コンルも入っていったら?汗臭いでしょ?」  
我ながら女性に凄く失礼な言い方だったかもしれないが、コンルは気にしていない様子だった。  
ユウキは失礼を承知でコンルの肌の匂いを嗅いで見た。  
「うっ」  
それを見て「はぁ」と溜息をつくコンル。  
「ちょっと、ユウキさん。いくら何でも大げさではありませんか?」  
逆だった。ユウキが驚いたのはコンルが汗臭かったからではない。  
この女性の匂いから言葉に表せない優しい匂いがした。  
自然の匂い。特に木の匂いと花の匂いが鼻をかすめた。  
現代の言葉で言うなれば「歩く大自然の香水」である。  
 
「俺の時代とは程遠い所に住んでるんだな。この時代を見ればきっとがっかりするだろうな」  
「えっ?」  
「後でゆっくりと見せるよ。ちょっと風呂の用意してくるからそこで待ってな」  
少し曇った表情をしたユウキをコンルははっきりと見た。立ち去ったユウキを見送った後、  
無言で隣の窓を見た。朝日が綺麗である。朝の始まりを象徴するかのようにコンルを照らす。  
「大丈夫よね?リムルル・・・・」  
ぼそりと口にしてしまう言葉。この数日間の間に、それも氷邪よりも先に見つけ出さないといけない。  
すーっと、深呼吸しながら目を閉じるコンル。  
「確かにユウキさんの言うとおり、空気の匂いが違うかもしれませんね。でもそんなに気にする事はないと思いますよ」  
 
 
しばらくしてユウキが顔を出した。  
「あれ?もう準備が出来たのですか?」  
現代の時代は楽になったんだと、ふふりと笑うコンル。だがユウキは首を振った。  
「いや、もう少し時間が掛かるから、その間に簡単な朝食を取っておこうかと」  
ユウキが冷蔵庫を開ける。材料からして昨日と一緒になりそうだとつぶやいた。  
だが、相手がコンルである以上彼女の為にも昔ながらの料理も悪く無いと思った。  
同時に経費の節約にもなる。  
ご飯は昨日の残りがあるし、味噌汁もまだ今日の分が残ってる。  
楽に済みそうだとユウキは鼻で笑った。  
ガスのスイッチを入れ、味噌汁を温める。テーブルの上にコンルの為の氷の袋を置いておく。  
テーブルの横でちょこんと座っていたコンルが「いつもすいません」と頭を下げる。  
「テレビでも見るかい?」とコンルに促してみた。  
「てれびって何ですか?」と当然の返答が返って来た。  
しまったと、頭を抑えたユウキ。過去から来てるのにいつもの癖で何気なく話してしまった事に気付く。  
仕方なくテレビのスイッチを入れる。やがてぼやけていた画像から人物が映し出されていく。  
「ええっ?こ、この人達は何処から出てるんですか?」  
テレビの画像を見たコンルがそれに取り込まれたようにして見詰める。  
当然の反応だよな、と温まった味噌汁をお椀に寄せながら見守っていた。  
「詳しくは分かりませんが、私達が考えもしなかった発明や、知恵がこの時代では大いに生かされているのですね」  
「そんな事はないさ。コンル達の様な過去の時代を生きた人々が居たから今の時代があるんだよ。  
その知恵や歴史の繰り返しがなければ今の時代は出来上がっていなかったはずだし」  
 
時代と言われて一つコンルが気になった事があった。  
本来、過去の人間がその後の事を聞くのは未来を変えてしまう危険がある事は知っていたが、差し支えのない程度に聞いてみた。  
「徳川幕府は今も健在なのでしょうか?」  
さりげなくコンルが口を開いてみた。案の定ユウキが言葉を詰まらせていた。  
「結末は知っているがそれはコンル自身の目で見たほうがいいよ。俺が喋ったらコンルの時代に何らかの影響を与えるかもしれないし・・・」  
「ええ、分かってますよ。だからこれ以上の追求もしませんし、ユウキさんが答える必要もありませんよ」  
コンルには分かっていた。徳川幕府が鎖国をして他国との接触を断り続けてもいつの日にか終わりが来る事を。  
鎌倉幕府、室町幕府が滅びたようにいずれ江戸幕府もなんらかの形で。  
そしてユウキさんの様に何時の日にか一人一人が自由な生き方を出来るようになる  
時代が来る事を。  
自分が心配するまでも無いと。  
必要なのはその時が来るまでの「時間」なのだと・・・  
 

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