第六話「不思議な力」
ご飯と味噌汁、(コンルの場合はおかずに氷を)差し出され手を添えていただきますとコンルが合掌した。
本当に律儀な人だよな、まじまじと素直なコンルを見やる。
「ユウキさん」
不意にコンルが自分の名前を呼んだ事に気付く。
「折角なのでかき氷食べますか?氷があれば私の力でかき氷を作る事が可能ですから」
その前に突っ込むべきかどうか悩んだ。こんな真冬にかき氷、本当に状況を省みず発言するよなと、ユウキが気付く。
そしてもう一つ。自分の氷を使えばいいのでは?
待てよ。自分の氷を使うと自分に負担がかかるからか・・・
だが、そんな言い方をするのも可愛そうなのであえてコンルの誘いに乗る事にした。
それにどんな風にかき氷を作るのかも見物である。
「それじゃあお願いしようか。コンルにそんな特技があるなんて。かき氷自体の発想がコンルらしいや」
「その前に空いたお皿はないでしょうか?」
ああ、と言いながらユウキが小さな戸棚から予備のお皿を取りにいく。そしてそのお皿をコンルに手渡す。
自分の掌に氷をいくつか取り出す。そして包み込むようにして皿の上から掌を広げた。
まるで砂の粒のようにさらさらと小さな音を立てながら皿の上に盛り付けられていく。
それをコンルは二度繰り返した。それにより手ごろな量になった。
「そのまま食べてもおいしいですよ。ちなみにリムルルもかき氷を作る事が出来ますよ」
ユウキは想像していた。その場合はコンルの力を使ったかき氷なんだろうなと・・・
リムルルには申し訳ないがそれはコンルの身を削って作り上げた命懸けのかき氷じゃないのかと・・・
箸でかき氷をつまみ上げゆっくりと口の中に流し込んだ。
じ〜っと、試験の合格発表を待つかのようにコンルの青い瞳がユウキを見詰めていた。
胃の中に流れた瞬間だった。不意にユウキの箸が止まった。
「ユウキさん?」
コンルは見た。彼の目から涙が零れ落ちるのを。もしかしておいしくなかったのだろうかとコンルが内心焦り始める。
「ち、違うんだ。何と言うかただの氷の筈なのに凄く美味しい。すごく懐かしい味がした。
大げさに言うとまるでお袋の味だよ。ちなみにお袋って言うのは「お母さん」って意味だから」
「そうですか、母親の様な味でしたか・・・」
一瞬、コンルが楽しげに笑ったように見えた。
凄く心のこもった味がした。何だか愛情の、もしくは人に喜びを与えてくれる味だ。
コンルも一口、口に含んでみた。しかし一瞬にして首を傾げてしまった。
「おかしいですね。私にはいつも通りの味なのですが・・・」
作った本人には只の氷にしか感じられないのだろうか?何度も何度も納得のいかない表情を浮かべながら、かき氷を口に含んでいく。
答えは同じであった。
かき氷の皿をユウキの位置に戻す。
「例えお世辞でもおいしいと言っていただけると嬉しいですよ」
「いや、お世辞じゃないよ。本当においしかったから」
このままじゃかき氷だけで満腹になってしまいそうだ。
かき氷を食べている間はしばらく涙を止められないユウキを見て「泣くか、食べるかどちらかにして下さいね」とコンルに念を押されてしまうのであった。