友と敵、両方が居なければならない。  
友は忠告を与えて、敵は警告を与える。 BY ソクラテス  
 
 
原作 陸捨肆様「リムルル」より  
サムライスピリッツ外伝 もうひとつの物語  
第九話「着脱」 (軽い性的表現あり)  
 
先に意識を取り戻したのはユウキであった。びしょ濡れになりながらも辺りを見回す。  
「!!」  
自分のすぐそばでコンルが気を失っていたのだ。湯船の中で浮かんだまま・・・・  
さらに、晴れ着が透けてコンルのやわらかな膨らみと突起部分が浮き出てくる。  
「こ、この人。まさかつけてない・・・・」  
数秒、想像してしまう。すぐに現実の状況に頭を切り替える。そんな事を考えてる場合じゃないと・・・  
「ほ、本当にのぼせてしまったんだ。まさか溶けてしまったんじゃ・・」  
かなりまずい状況だと悟ったユウキが慌ててコンルを抱き抱える。少し、軽くなった感触を身に感じた。  
水滴がぽたぽたと零れ落ちている。急いで部屋に戻り、抱き抱えながらもタンスの中から数枚のバスタオルを取り出す。それをベットの上に敷いてからコンルをゆっくりと寝かせる。  
そこでユウキが自分の置かれた立場に気付く。全裸で歩きまわっていた事に。  
思わず、気を失ってくれてて良かったと思いながら、コンルには悪いと思いつつ、先に適当な衣服を探し出し着替え始める。  
 
 
「着替えさせないと駄目だよな」  
さすがにこのままの格好はいくら氷の精霊でも風邪を引くだろうと思いコンルに声賭けをする。  
「う、う〜ん・・」  
白い息と共にコンルが声を出すがまだ完全に意識を取り戻していない。閉じた目はまだ現実と夢の中を行ったりきたりしているのかもしれない。  
 
一瞬迷った。自分がしなければならないかどうかに・・・  
「仕方ない、ちょっと抵抗があるが俺が着替えさせるしかないな。ごめんコンル、脱がすからね」  
「・・・」  
返答はない。徐々に彼女の息が荒くなってくる。もう、ああだ、こうだ言ってられないぞ。  
「姉貴、あんたの衣服が役立つ時が来たわ。この人の為に使ってもいいよな。少なくとも俺は女装は嫌だからな」  
しかし、コンルに何を着せればいいのか分からない。女性の服装の格好何て分からないぞ。  
姉貴の置き忘れた衣服をあさる。無難に考えながらも厚手の衣服と、下着を持っていく。  
「姉貴の奴、下着まで置いていくなんて、何考えてるんだよ・・・もう」  
皮肉な事にそれが役立ってしまうのが悲しいユウキに溜息を吐かせた。  
 
再びベットの前に辿り着く。最終確認でコンルに声を掛ける。それでも彼女からの返事はない。  
念には念を入れて自分の横に救急箱を置いておく。  
但し、これはコンルの為ではなく自分の為である。万が一コンルが途中で起きてしまったら、どんな理由であろうと最悪の事態(最低平手打ちと氷落としは確定だろう)に発展するのは間違いないので、半分覚悟を決めたユウキ自身の為の救急箱である。  
だったら、着替えさせなきゃいいだろと思われそうだが、それではあまりにも可愛そうなので犠牲を覚悟した着替えになる。  
「何だか、命懸けの着脱だよ」  
コンルの濡れた衣服を見る。長い銀色に染まった髪。  
ふと思い出した。あえて口にはしなかったが初めて彼女を見つけた時、身に付けていた衣装がアイヌの服ってすぐに気付いた事。  
歴史の本で似たような感じの服装を見てたからである。  
と、言う事は「蝦夷=北海道」の人なんだろう。  
覚悟を決めて、まだ意識の戻らないコンルとは裏腹に心臓の鼓動が早くなったユウキがコンルの薄青色の帯に手を掛ける。  
「あっ・・・」  
(わっ・・・!)  
いきなりのコンルの声に驚いたユウキが反射的に帯から手を離す。不意をつかれた声にユウキの心臓の音がさらに大きくなる。  
(た、頼むから変な声を出さないでくれよ)  
少し、深呼吸をする。自分を落ち着かせる為に。もう一度コンルの帯を捉える。風呂から転落した際の弾みだった為か帯が緩んでいた。簡単に動かすだけでしゅるしゅると帯の形が少しずつ結び目のない一直線の紐になっていく。それをゆっくりとたたんで横に置く。  
(さて、問題はここからだ。ここからは直接コンルの衣服に手を掛ける事になるんだよな)  
そっとコンルの胸元に手を掛ける。現実だと俺は確実に逮捕されてるな。  
いや、コンルに訴えられても逮捕されるなこりゃ・・・  
 
触れた瞬間ある事に気付いた。この晴れ着、上下別個じゃない。と、言う事はこの晴れ着を脱がしたらコンルは生まれたままの姿になってしまう。  
よく考えたら、精霊だからきっと現代で言うブラジャーとショーツは付けているだろうと踏む。  
ファンタジー本とかでも精霊はちゃんと付けてるし穿いている。心配は無用。  
それでも手の動きが止まる。すぐに着替えさせよう。最悪、裸の状態で起きてしまったら「平手打ちと氷落とし」だけではすまなくなるぞ・・・  
一応、女性の配慮を考えて小さいタオルを二枚持ってくる。コンルが軽く首をこちら側に動かした。  
しかしまぶたは閉じられたままだ。まだ起きてないようだ。  
意を決意してもう一度コンルの胸元に手を掛ける。  
触れられた瞬間、コンルが声を漏らした。  
その大きな胸の膨らみがユウキを求めるかのように、誘うかのように反応する。  
「ああん・・・」  
(が、我慢、我慢・・)  
そのままゆっくりとコンルの右腕から脱がしていく、しかし仰向けのままでは自分の技術では、到底全部脱がせるのは不可能なのでコンルを起こす為にユウキがベットの上に乗る。  
慣れている人なら出来るかもしれないが。  
コンルの上半身を起こし、再び倒れないように両膝を使いコンルの背中を支える。  
言うなれば今のユウキはコンルの後ろで正座している状態である。  
左手でコンルの両胸を押さえる。しかし慌てて抑えたので反射的に強く揉んでしまう。  
「やっ、そんなっ・・・強くしないで・・・」  
ユウキにも見える、コンルの熱い吐息が・・・声と共に発せられる熱を帯びた息が。  
(こ、この人起きてないよな・・・寝言か?)  
しかし、右腕は脱がせてしまったので落ち着いて考えると左手で彼女の体を支えるのは不自然である。これではあまりにも脱がせにくい。  
 
止む無く支える手を交代する。  
「あ、ああっ、だめっ・・・んっ!」  
どうも、また支える手を左から右に変えたときに彼女の胸を揉んでしまったらしい。  
そこから右手で彼女の胸を支えつつ、左手で彼女の左手を軽く持ち、胸を支えながら右手を使い彼女の左袖を脱がしていく。これで後はゆっくりと脱がしていけばよい。  
背中から晴れ着をゆっくりと下ろしていく。そして見た。  
(な、何て白い背中、透き通るようにきれいだ・・・)  
少し強引に「ごめん」と耳元でささやきながらコンルのお尻を起こす。起こしている間に晴れ着の下の部分をこちら側に引き寄せる。そしてコンルの体から晴れ着を引き離す。  
 
 
 
(はあ〜〜〜っ・・・)  
ここで一つの達成感を感じたのかユウキは溜息を漏らした。しかし休んでもいられない。頭の脳が危険信号を常に送らせている。これは夢ではない。起きたら「死」を覚悟しなければならないと・・・・  
その前にコンルの晴れ着を用意しておいたハンガーに掛けておく。ストーブに燃え移らないように距離に注意しながら干しておく。  
すっと横を見る。そして思い出したようにユウキの神経と顔が赤くなる。  
そこには生まれたままの姿のコンルが・・・  
(こ、この精霊はつけてないし、穿いてない)  
やはり、過去の時代はまだ下着と言うものが開発されていなかったか・・・  
コンル見たいな精霊でも例外ではないんだな。  
慌てて現実に戻る。用意した二枚の小さなタオル。勿論一枚はコンルの大事な部分を隠す為に、もう一枚はふっくらとした柔らかそうな二つの乳房に・・・  
ふと思った。まだコンルの体は濡れている。このままじゃ着替えさせても風邪を引く恐れがある。  
(タオル、一枚足りないな)  
仕方なくタンスを開ける。しかしこういう時に限って現実は残酷なのだと実感させられる。  
 
(もう、タオルがない・・・どうしよう)  
激しい罪悪感を感じながら、それでもこうするしか出来ないと自分に言い聞かせ・・・  
(コンル、本当にゴメン)  
さすがに下のタオルを手に掛ける事は出来なかったので、止む無く膨らみの宿る両胸に置いたタオルに手を掛ける。  
「ああっ・・」(あっ)  
二人が同時に声を上げた。思わず我を忘れてコンルの胸に見とれてしまった。  
そりゃ、中学生くらいの時にコウタ先輩に誘われて初めてエロ本を読ませてもらった時、二人で「生涯、恋人は出来ないだろう」と半分諦めたままエロ本で癒されていたなあ。  
でも、本で見るのと現実の女性を見るのとでは刺激の感じ方が全然違う。  
こんなにも、女性の体の作りって男と違うんだと実感させられる。  
自分の下半身を見た。馬鹿見たいに恐る恐る見た。己の欲求は取り敢えず抑えられている。  
でも、理性が保てなくなったら壊れてしまうかもしれない。  
(取り敢えず体、拭いてあげないとな・・)  
コンルの左右の乳房をなるべく見ない様に(よけいに興奮してしまう為)顔から優しく撫でるようにして拭いてあげる。次に長い銀色の髪を丁寧に拭いていく。  
(昔っから髪は女の命って言われてるからな)  
そこまでは良かったが、いよいよ問題点に到達する。上半身の周りを拭かないといけない。  
コンルの視線を見ないように自分の感覚で強くしないように拭いているが胸の突起部分に触れた時に、我慢できなかったのかコンルがまた声を上げる。  
「あ、ああっ、ふあ・・っ・・」  
その吐息がユウキの顔に掛かる。必死に体から湧き出る欲望を押さえ込む。  
「はあっ、はあっ、ユウキさん、そ、そこは・・・」  
とうとう、名前まで呼ぶようになってしまった。もう、起きてるのか寝てるのか寝た振りしてるのか見境が付かなくなる。  
恐らくまだ眠ったままである事に可能性を掛ける。  
しかし、その甲斐あってまずは上半身の体はふき取った。後は・・・  
(わざとじゃないからね)  
そう、コンルに(勝手に)了解を取ってから大切な部分をそっと撫で始めた。  
「だ、だめええっ、そんなに強くしないで・・・んんっ・・」  
あまりの大きな声にたじろいでしまったユウキ。やっぱ、精霊でも感じる所は感じるんだなと・・・  
しなやかに、そして氷のように透き通って見える肢体、特に両足の部分は彼女の女の部分を守るかのように大切に、そしてきつく閉じられている。  
ちょっとだけ股の部分に触れてみた。なぞる様にしてコンルの透き通った脚に到達してその手を離した。びくんとコンルの体が動く。  
「くっ・・・んっ・・」  
どんどん、コンルの顔に赤みが増していく。何かよけいに体温を上昇させているのかもしれない。最後に脚の周りも丁寧に拭いておく。  
「やぁん、くすぐったい・・・」  
さらにコンルの甘い響きの入った声がユウキの耳を揺さぶった。  
人の気も知らないで楽しそうに、それも甘い声だけは喘ぐ様にして出すんだなぁ・・  
(よし、後は下着を着せて服を着せるだけだ)  
もう一度取り出した下着を確認する。  
 
(姉貴め・・・俺に内緒でこんなのを穿いてるんだ・・・)  
コンルの白い肌に等しいように純白な白のブラとショーツのセット。真ん中には可愛らしいフリルもついている。  
(まさか俺は、適当に取ったと言うより、この人に穿いてもらいたい下着は「これだ!」って気持ちで選んでいたかもしれない)  
最低だ・・・と頭の中で落ち込みながら、まずはショーツから穿かせる。  
両足を通し、コンルのお尻を上げる。  
「ひゃん・・・」  
一瞬、瞳の閉じ方が強くなったような気がした。軽く強張った表情を見せる。  
何とかショーツのサイズは姉貴と同じくらいだった。ぴったりと彼女の女の部分を守る。  
(次はブラか・・・)  
タオルを取り、もう一度彼女のはっきりと映し出された思わず掴みたくなりそうな大きな乳房。自分の感覚でブラを当ててみる。  
「んっ・・・」  
ふくよかに、しかし少し触れただけでその胸は左右に動く。  
(あ、姉貴より大きいぞ、この人・・・まさかリムルルも大きいのか?)  
などと考えながらも胸にブラを当て、背中に通した後ホックを掛けようとする。  
中々通らないので一度立ち上がる。  
しかし、ふとした油断でバランスを崩す。倒れないように右手で適当な掴み場所を探す。  
ちょうど、やわらかみのある場所を見つける、確認もせずユウキはそこに手を掛ける。  
「ああっ、あああん、だ、だめ・・・ええ・・・」  
何と、掴んでいたのはユウキの手に収まるか、収まらないくらい微妙な柔らかい胸だった。  
思いっきり、押し付けるような感じで触れた為、その重さに支えきれないコンルの胸が形を変えながら沈んでいく。  
「あううっ・・・ユ、ユウキさん。わざとですね・・・」  
(ち、違う、わざとじゃない・・・)  
 
 
普通、柔らかい壁、床があるわけがない。ここにあるとすればふかふかのベットくらいである。  
 
 
 
最後に、ネックのついた長袖の上着を着せる。この人は多少の寒さでも大丈夫って言ってたから一枚でもいいかもしれない。万が一寒ければもう一枚着せればいいだけだし。  
水色に染まった何処にでもある一般的な衣服。しいて特徴をあげるならば、後ろに英語でこう書いてあるのだ。  
「ICE GIRL」と・・・まさにコンルそのものを象徴している。  
そのまんまじゃないか。いや、姉貴は周り中の男性に「私は冷たい女」近寄らないで下さいとアピールしてたのか?  
それとも同情を誘っていたのだろうか?同時に姉貴の服のセンスも分からなくなる。  
気を取り直してコンルの前に行き、背中を起こし、頭からかぶせていく。次に両方の袖を通す為にコンルの衣服に自分の腕を通しコンルの腕に通るように引っ張っていく。  
 
「あっ、そこ・・そこはっ・・・」  
どうしても胸に触れてしまう為に過剰に反応するコンルの声からは逃れられない。コンルの前に立っているのでその熱い吐息が顔に掛かる。  
自分自身の体温も上がっていることに気が付いた。このまま限界を超えると良心がなくなるかもしれない。  
(俺、この人の胸にばっかり触ってるよな・・・)  
両袖を通し、彼女の上半身が水色の衣服に包まれた。現代の衣服も似合っているかもしれない。見た目だけでは誰もこの人が精霊だと気付きもしないだろう。  
(後は、下か・・・)  
お揃いのほうが無難だと思い、水色のロングスカートを持ってきた。  
しかしスカートの裾の部分に違和感を感じた。手に触れてみる。  
(何だこれ?何で裾のまわりに安全ピンがついているんだ?それも一つじゃない。最近の女性のアクセサリーの一種か?それとも姉貴独断の代わり映えした趣味か?  
今の女性の考えている事は分からねえ・・・)  
などと考えながら、両足から通し、お尻の部分を持ち上げる。  
 
(よいしょっと・・・)  
「ひゃん・・・」  
またコンルが反射的な声を漏らした。ユウキの耳にもそれは伝わった。  
この人は感じやすいんだと認識しながらも、もうこの人の甘い声を聞くこともないだろうとベットの上に乗る。  
コンルの右横に座り、上手い具合にピッタリと収まったスカートのボタンを留める。  
(ふ〜〜っ、終わった〜〜)  
「んっ・・・」  
(えっ?)  
一瞬気を許した瞬間であった。いきなりコンルが寝返りをうったのだ。  
完全に油断したユウキとコンルの立場が逆になる。何も知らないコンルがそのままユウキに覆いかぶさってしまったのだ。  
まともにコンルの大きな胸がユウキの両手に収まりきらない大きさがユウキの顔に埋め尽くされた。  
(う、ううううん、)  
その大きな果実のような胸はユウキの顔を埋め尽くすだけでは満足せず、鼻と口の呼吸を妨害させる。このままではコンルに窒息死させられてしまう。  
(じょ、冗談じゃないぞ・・・)  
ユウキが必死の抵抗を試みる。全く息が出来ない為、徐々に力が抜け始めてきた。柔らかくも掴むと、ふよふよともっと触れたくなってしまいたくなるコンルの胸を両手で押し上げる。  
「んっ・・ふぁ・・ぁぁっ・・・そ、そんな・・ひゃぅ〜〜」  
(む、むごい)  
 
瞳を閉じたコンルの赤く上気した表情、その口元から溢れ出す白い吐息、止めは男を刺激させる色気の声がユウキの両手の力を奪っていく。抵抗むなしく、とうとうユウキは力尽きた。  
再びコンルの胸がユウキの顔を覆いかぶさる。  
(も、もういいよ。どうせ、この人が起きた後、半殺しにされるのならここでこの人の胸の中で息絶えてもいいや。でも、出来る事なら胸よりも腕の中で息絶えたかった)  
 
(こ、コンルの胸だけに「無念」・・・・)  
 
 
左右の手をベットに下ろす。そのまま惨めな最後の時を迎える準備を待った。  
 
 
 
 
 
・・・さん  
 
何かが俺を呼んでいる。  
 
・・キさん・・・  
 
誰だろう?夢の中で誰かが呼んでいるのかな?  
 
ユ・キさん・・・  
 
ユキさん?いや知らないぞ?どっかの近所の女の子の名前だったっけ?  
 
起きてください、ユウキさん・・・  
 
その瞬間、一瞬にして散らばっていた欠片が一つにつながった。思考回路を一瞬にして回復させる。目を開けて現実へと舞い戻る。  
 
 
気が付くとベットの上にコンルがいた。心配してずっと見守っててくれていたのかもしれない。  
 
少し曇りがかった不安そうな表情が、いかに自分が気を失っていたかを物語る。  
しかしそれは一瞬であった。徐々に穏やかないつもの彼女の表情が戻っていく。この人と言う存在は一言で言うなれば「笑顔」がもっとも似合う人かもしれない。  
しかし、同時に一つの悪夢が現実を呼び覚ます。思わず、口にするのも怖い。  
このままもう一度気を失ってしまいたい。  
諦めてベットから降りるユウキ。  
「あの・・・」  
先にコンルの口が動いた。言い訳しようか、どうしようか、逃げるか?この状況では逃げる事も出来ない。  
「ユウキさんにいくつか聞きたいのですが、この服装は一体何なのでしょうか?」  
やはり、そう来たか。ユウキの心臓の鼓動が一段と早くなった。口を紡ぐユウキ。  
「言い訳をしないで正直に答えてもらえないでしょうか?」  
先手を打たれてしまった。下手に嘘をつけば全てが終わる。だが、本当の事を言ってしまっても全てが終わるような気がする。ならば取るべき行動は限られてくる。  
「さっき、一緒に風呂場から落ちちゃったでしょ」  
「はい」  
「で、コンルがずぶ濡れだったもので、このままでは風邪を引いてしまうと思ったから・・」  
「はい」  
こういう時の返答の答えが「はい」だけっていうのも怖い。何を考えているか分からないから下手な刺激は命取りにつながってしまう。  
恐る恐る、親に成績の悪いテストの答案を見せるかのようにユウキが目を伏せながら説明する。  
「仕方ないから悪いと思いながらも、コンルの服を脱がせて代わりの服を探して着せたんだ」  
「・・・」  
手元に救急箱を用意する。生まれて初めて母親と姉貴以外の女性に怯える自分がいた。  
正確には自分のやった行為は犯罪スレスレ、もしくは犯罪そのものであるので逆らう事が出来ない。  
 
コンルが胸に手を当てて何かを考えるかのように言葉を捜していた。何だろうと考えるまでもなかった。服を着せ替えたと言う事は同時にこの人の裸を見たも同然なのだから。  
落ち着いたように目を開けたコンル。「ふぅ」と、少し小さな溜息を漏らす。  
もう一度閉じていた口を開きだす。  
「と、言う事は見たんですね、私の体を・・・」  
「う・・・」  
思わず冷静に、静かな言葉ゆえに言葉を詰まらせる。返答出来ない・・・  
「あ、あの・・・」  
「見たんですね!!!」  
その容赦ない念押しの言葉の前に縮こまってしまったユウキはただ黙って頭を下げるしかなかった。  
「そうですか・・・」  
もう一度諦めたかのようにコンルが溜息をつく。まるで自分だけの秘密にしておいた宝物を他人に見られてしまったかのように。  
「あ、あのさ・・・」  
何でもいいから少しでも会話で状況を打破したかった。しかしこの状況をコンルは許してくれなかった。  
「ユウキさん・・・」  
コンルがユウキに詰め寄る。その目は真剣そのものであった。もう、無傷ではいられない。  
ユウキの背筋から血の気が引いていくのが分かった。  
(誰か助けて・・・)  
完全に硬直してしまったユウキが全く表情を崩さないコンルを見た。もう、耳を塞いでしまいたかった。  
「ユウキさんにお願いがあります。どうか私の体の事は絶対に秘密にしてもらえないでしょうか?」  
 
 
 
「???」  
何か、すごい意表をつかれたような気がした。何で怒らないの?  
「ユウキさんの友達には勿論、ユウキさんの家族にもです!」  
「え、ええっ?い、いやコンル。ちょっと聞きたい事が」  
 
質問する前にコンルがさらに追い討ちの一言を発した。  
「いいですね!!」  
「は、はい・・・」  
一切の反論も許されず只、一方的にこの人の言う事を聞くしかなかった。何で体の事を秘密にしないといけないんだろう?  
別に刀で斬られたような傷跡も、特におかしい所もなかったぞ。  
それどころかすごく綺麗な裸体だった。だからよけいに不思議に感じるのだ。  
いくら思い出しても隠さなければならない心当たりが思いつかなかった。  
「約束していただければ、それ以上私は何も言いません」  
ゆっくりと深呼吸して、言いたい事を言い終わったかのように気持ちを落ち着かせ始めたコンル。  
(な、何で怒らないの?折角救急箱まで用意するくらい覚悟を決めてたのに)  
逆に、本調子に戻ってるコンルを見てほっとする自分が本音なのだと溜息をつくしかなかった。  
だが、はっとして何かを思い出したかのように話し出した。  
「忘れてました。私が迷惑を掛けたばかりにこのような変わりの服まで用意させてしまって本当にごめんなさい」  
「あ、ああ別に構わないよ」  
どうせ、姉貴のだし。  
まあ、それに関しては別に言っても言わなくてもいいだろう。  
「ユウキさんは女装もこっそりしたりするのですか?」  
「その衣服は俺の姉ちゃんのです!!!」  
はっとしてコンルが口を紡いだ。どういう基準で俺を見てるんだ?  
「そうですか。ユウキさんにもお姉さんがいるのですね。実はリムルルにも尊敬する姉が一人いるんですよ」  
「えっ?そうなんだ」  
姉もリムルルの様な似たような性格をしているのであろうか?  
 
「ああ、衣装で思い出したけど、コンルの晴れ着、そこに掛けて置いたから」  
ふと、コンルが横を見た。そこにはハンガーでしっかりと自分の大切な晴れ着が掛けられいた。帯もしっかりと掛けられていた。  
自分の目で確認した後、無言で頭を下げる。  
ふと、何かを気にするようにコンルがしきりに胸を押さえる。  
「先程からずっと思ったのですが何か布のようなものがまとわり付いているみたいで・・・」  
(ちなみに下着の方もね・・・)  
さすがにそれを答えるわけにもいかないので、とりあえず胸の方だけ説明する事にした。  
「この時代では女性は胸を隠さないといけないから、見られると恥ずかしいでしょ」  
「しかし、私は精霊ですから必ずしも女性と同じとは限らないと思いますよ」  
な、何でこの人、精霊と言う言い方にこだわり続けてるんだろう。その辺は女性っぽくすればいいのに・・・  
さらにこの人の謎が深まっていく。何だか嫌な予感がしたので、もう一つ質問をする。  
「そういえば、風呂から落ちてしまった後の記憶は覚えているかい?」  
「いえ・・・あの後は全く記憶に残ってません。気が付くと・・・」  
どうも、覚えてないらしい。寝言にしてはかなりありえない発言だらけだし。  
じゃあ、あの声は何だったのだろうか?現時点で最大の謎だぞ。でも、質問する事自体禁句だぞ。  
 
 
「どうして私はユウキさんの上に乗っかっていたのでしょうか?それに私はともかくどうしてユウキさんは気を失っていたのですか?」  
「・・・あっ・・・」  
こればっかりは一番説明のしにくい状況だと、脂汗を流しながら困り果てるユウキであった。  
 
 
しかし、ユウキはふとした油断からコンルの体を事を話してしまう事になる。  
しかし、それが最後の最後である事は言うまでもなかった。  
 

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