−それでさ、暇だから秋葉原行ったわけよ  
−えぇマジで?引くわぁ  
−オタクは引かれて何ぼだし  
−はははは、自虐。  
 
「七市、七市聞いてるのか?七市君!」  
「・・・なんですか?」  
授業がすべて終わり、今は帰宅前のホームルームの時間だ。  
今日はプログラミングやクラブ活動といった、授業らしいものがほとんどない日程だったのでみんな腑抜けている  
しかも明日から連休だ、みんな旅行の打ち合わせや放課後の予定調整に余念がない。  
かく言う俺も、今から遊びに行こうと隣の席の奴と話をしていたところだ。  
「七市!なんでお前ここにいるんだ、今日は北海道からの研修生が来るんだぞ!空港まで迎えに行け、間に合わないぞ。」  
しまった!  
「やば!忘れてた。」  
「おいおい!まずいぞ、到着は18時のJAレ774便だ、急げ七市。」  
「はい!悪いな、後でメールして」  
北海道第二の都市、旭川から研修生が来る。  
だれかホストをやれ。  
先週、ホームルームの時間、突然先生が発表した、男だというのでもちろんホストの募集は男性限定だ。  
「じゃあ、俺やります。」  
「七市か、お前一人暮らしだよな?」  
「ええ。」  
「あんまりハメはずすなよ、飲むのはいいけどタバコはよせ。」  
「はい。」  
 
即決だった、女の子が来るというならよからぬ男立候補するだろうが、野郎一人が来るのではだれもやりたがるはずがない。  
一人暮らしをはじめてまだ一ヶ月しか経っていないので、少し話し相手がほしかったのだ。  
研修期間は半年、むしろ研修というよりも短期の編入に近いそうだ。  
 
駅に向かって走る、もう午後四時ちょうどだ、羽田にはぎりぎりに着く事になるだろう。  
こまごまとしたビルの間の通りをぬけるとロータリーに出る、大きな駅、吉祥寺の駅だ  
吉祥寺、昔は若者の集う町であったが、いまではすっかり"元若者"の集う町になってしまった。  
いまだに駅前に店を構えるジャズ喫茶など、入っているのはみんな枯れかけたおじさんばかりだ、きっと昔を懐かしんでいるのだろう。  
多分第二のゲバはジャズ喫茶から始まる・・・。  
ボロいおじさんたちが白ヘル+タオルで完全武装し  
手に手に角材を持ってジャズ喫茶からわらわらと出てくる図を思い浮かべてにやけてしまった  
 
大急ぎで階段を上ると、タイミングよく渋谷行きの急行が出るところだったので飛び乗る  
これで下北沢まで行ってそこから小田急にのって新宿まで出ればすぐだろう。  
ここ数日の熱気にうだされた車内は露出の多い女の人でたくさんだ、小さな女の子はみんなタンクトップ、かわいいなぁ。  
だけど二十歳後半の男がスネ毛の処理もせずに半ズボンを履いているのには正直閉口してしまった、うへぁ。  
「お客様にお知らせします、ただいま京王本線ですが、明大前駅で架線にビニールが引っかかり・・・」  
 
しまった、これでは新宿へは下北沢に回らないと出られない・・・振り替えしてもらえるかな。  
 
明大前を出て、新代田の駅を通過するとすぐに小田急線の線路が見えてきた、下北沢だ。  
有名だけど井の頭線はかなり短い路線だ、寝過ごすと元乗った駅に戻っていることが多い。  
 
階段を下りて複雑な高架の上を駆け回り、新宿行きの急行に乗る、まだまだ時間はある。  
 
井の頭線とは対照的にがんがんに冷房の効いた車内、これじゃあ女の人は風邪を引いてしまうんじゃないだろうか  
ふとドアの上にある横長の広告を見ると、五月九日から女性専用車ができるとある。  
俺が車掌さんだったら専用車に自意識過剰なブスばっかり乗っていたら冷房の温度を氷点下まで下げるだろう。くけけけ  
 
さて、そろそろ新宿だ、右手にJR各線と高島屋タイムズスクエア、左手に高層ビル街、いつ見てもおしゃれな街だ。  
その上駅から徒歩3分でとらのあながあることも忘れてはならない、そして乱立するゲームセンター、ソフマップまである  
しかもコミケではその立地上初電に乗れば五時半ダッシュより少し遅れたぐらいで列に並ぶことができる。  
まさに最高の街と言えよう!  
 
電車は駅ビルの下のピロティー状の地上ホームにもぐり、不便な形のホームに人をどばっと吐き出す  
人の群れはまるで津波のごとく改札に押し寄せ、そしてさっさと駅から去ってゆく  
その群れの中、一人だけ改札の横のところでその津波を眺める人影があった。  
「柳生課長」こと柳生十兵衛である、彼はその人の波を見つめつつ、手元ではポケコンをしっかりと握り締めている  
その液晶画面には写真、何を隠そう、それは紛れもなく七市の写真であった、後姿の。  
「まいったなぁ、誰だよ七市って・・・。」  
 
その横を颯爽と通り抜けていく七市、ピンクパンサーのような一幕だが―――  
 
「・・もしもし?学園人事課?今の電車にも乗ってないよ、第一こんな写真じゃわかりっこないじゃないか!」  
「ふぇぇ、ごめんなさぁい。」  
申し訳なさそうな女の子の声、その声の主こそ、これから半年にわたって起こる騒動の仕掛け人、ドジっ子司書の黒河内夢路嬢であった。  
「まったく!七市は空港で延々待つハメになるぞ、俺しーらね。」  
「あぁ、まってぇ、今写真見つけましたから送ります・・・。」  
「早くしてくれ・・・。」  
 
・・・糞ぉ、遅いな、そろそろH"にするかな・・・。  
・・・待つこと三十秒、送られてきたのはまごう事なき彼女の書いたやおい本の原稿の1ページだった  
 
「・・・行きましたか?お願いですから早く見つけてあげてください・・・。」  
「・・・なあ夢路。」  
「はぁ・・。」  
「くぇーーーーーーーーーーーーっビビビ♂♀バ★バリ*ボリくぁwせdrftgyふじこlp;@!!!!」  
「課長!?課長どうしちゃったんですか?課長!!やだぁ!しんじゃやだよぉ!」  
 
―――このことが羽田で七市をかなり困惑させるとは彼には知る由もない。  
 
 
毎度りんかい線をご利用いただきましてありがとうございます  
お客様にお知らせをいたします  
ただいま、りんかい線は、国際展示場前駅で人が線路に進入したとの通報がありまして、安全確認のため運転を取りやめております  
 
繰り返します  
 
―――ぇ〜ご迷惑をおかけいたしております、ただいまりんかい線、国際展示場前駅にて公衆の立ち入りが発生しました関係で・・。  
 
なんてことだ、大崎の駅に来たのはいいものの、りんかい線が動いていない・・。  
駅から飛び出す、こうなったらほかの手を打つしかない、タクシー乗り場はすでにあぶれた人でごった返している、俺は思い切り手を上げた。  
・・・とまってくれたのはタクシーではなくバイク  
「どこまで!?」  
「羽田までお願いします!」  
「乗りなさい、私もよ!」  
 
運転手は女性らしい、ライダースーツにメロンのようなおっぱいが・・・。  
投げられたヘルメットを受け取ると、ひらりとバイクに飛び乗る。  
二人乗りは去年から合法だ、バイクはすごいスキール音をのこして走り出し、大崎の駅はすぐに見えなくなった。  
 
・・・信号待ちのうちにその人の話を聞くと、その人はJAレのフライトアテンダントで、23時発のフランクフルト便に搭乗する予定なのだそうだ。  
バイクはさっそうと羽田空港ビル二階、到着ゲート前の自動ドアの前に滑り込んだ。  
 
「お待たせ〜。」  
「本当にありがとうございます、お礼をさせてください。」  
「いいわそんな・・・あなた名前は?」  
「はぁ、ななしと申します。」  
「・・・変わった名前ね、漢字でどう書くの?」  
「ああ、数字の七に市場の市です」  
「へぇ、始めて会ったわ、お客さんでもそんな人とは会ったことないな・・・私はしな、色って書くの、かっこよくなったらお礼にに来てね」  
 
わさわさと俺の頭をなでると、しなさんはヘルメットを被り直し、駐車場のほうへすっ飛んで行ってしまった。  
ああいうのをクールビューティって言うんだなぁ。  
 
胸の感触と香水の香りの感慨に浸っている場合ではない、さっさと北海道から来る研修生を拾って学校に戻らなければ。  
「歓迎 〜神居君〜 SNK大学付属高校」  
そう書かれた紙を頭上に上げ、彼の到着を待つ、どうやらつい今しがた飛行機が到着したようだ・・・。  
 
ん?  
 
携帯が震えている。  
「着信 0120-333-XXX」  
なんだ?  
 
「はい、ななしです。」  
「あぁ、二年4組の七市君だねぇ?庶務課の破沙羅だぉ、わかる?」  
「なんだ破沙羅先生、なんですか?」  
「君は神居さんの下の名前をご存知かな?」  
「いえ、知りませんよ。」  
「うはwwっwwwwうぇwうぇwwwっwww」  
 
がちゃん  
 
「破沙羅先生、ちゃんと伝えてもらえましたか?」  
「えぇそりゃもちろん。」  
 
―――なんだいこれは。  
まあいいや、あいつはなんか変なところがあるから放っておこう。  
それにしても神居君遅いなぁ。  
 
すでに774便の客が出てくるであろうゲートからは、歩くのがやっとのおばあさんがひいこら言いながら杖を頼りに歩いてくるだけだ。  
 
―――下の名前をご存知かな?  
・・・まさか。  
ななしさん?  
 
女の子なのか?  
 
ななしさん?  
 
「すみません、ななしさん?」  
「はい!はいそうです。」  
俺の後ろにはちょっと小さな女の子がキリッとした目で俺を見上げていた。  
こざっぱりしたボブカット、向こうの制服だろうか?セーラー服を着て、この糞暑いのに灰色のマフラーをしている。  
「よろしくお願いします、私は旭川の中央高校から来ました、神居玲風(れいか)です。」  
「よろしく。」  
「あなたが宿を貸してくださる七市さんですね?」  
「はぁ」  
「ひとつだけ言っておきます。」  
「私は剣術の心得がありますので。」  
「はぁ。」  
「わかりますね?」  
「はぁ・・・。」  
 
この子と半年かぁ・・・。  
俺のコレクション見せたら命はないな・・・やばい、男が来ると思って家の掃除してないや。  
 
それから学校に行ってめんどくさい手続きを済ませた。  
本当にめんどくさかった、なんせ男が来るというのは書類上の間違えだったのだから。  
 
・・・まぁこれじゃあ男が来てくれたほうが気楽でよかったんだけど。  
 
「ななしさん?」  
「何?」  
学校から出たのは午後八時も過ぎてあたりは真っ暗だ  
酔っ払った学生の多い、吉祥寺の駅で僕らは電車を待っていた。  
「あなたの家は・・・。」  
「新宿だよ、ここから明大前まで出てそこから京王線。」  
「・・・そう。」  
ぶっきらぼうに答えるとちょっと寂しそうな顔をして神居さんはそっぽを向いた、なんだ、可愛い所あるじゃないか。  
「神居さんは、文系?」  
「レラ、向こうではそう呼ばれてたの。」  
面白いあだ名だな・・。  
「レラさんは文系?理系?」  
「・・文系よ。」  
「へぇ、おれと一緒だ。」  
「あら、奇遇ね・・・でも現代文は苦手なの。」  
「俺も、英語のほうが好きなんだ。」  
 
「ぁ"あ!ななしんだお!」  
「げ!茂名先輩!」  
酒臭い先輩が二人、俺のサークル仲間だ。  
 
何で俺の周りにはめんどくさい人ばっかり集まるんだろう・・・。  
「ななしん!ななしん!夏は一緒に行くよな!?なっ!なっ・・・・お?」  
「去年はおまえんちにお世話になったから、今回は会場で大学の漫研(うち)のスペース入っていいよ」  
二年上の茂名先輩、それに付き添う提先輩、二人とも今は大学の経済学部で二回目の一年生らしい、満研所属だ。  
この二人は高等部では伝説になっている、創立直後で漫画・アニメ各方面の部活や同好会がまったくなかった一昨年に  
アニ研、満研、現視研を設立し、いまやその三本柱は学校紹介のパンフに乗るほどの盛況ぶりを見せている。  
「らぁれだ!このこわぁ!このこはられぇ?」  
「おい、七市!貴様抜け駆けしやがったな」  
茂名先輩はレラさんに近づいていった  
「こんばんはお嬢さん、可愛い後輩がお世話になっております、ははは、今日は暑い。」  
何がお嬢さんだ、この酔っ払いめ、ころころ態度変えやがって。  
「・・・はぁ」  
「時に、こいつ(ななし)とはどういった関係で?」  
「・・・北海道から研修に来ました、七市君は私に宿を貸してくれます。」  
「んまぁ、それはそれは・・・堤?」  
「うん、七市、ちょっとこっちへ。」  
あぁっ!あぁあああああっ!やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて  
―――なあななし、物は相談だ。  
「これが僕の電話番号です、七市に何かされそうになったらすぐにこちらへ。」  
―――何です?  
「はい、ふふふ。」  
―――このシチュ、新刊に使う、いいな。  
「それにしてもまぁ、なんというか、いい天気ですね。」  
―――はぁ。  
「そうですね、あら、いい月・・・。」  
―――よし、行け、これからは連絡を密に取れ、彼女の何に萌えたかもしっかり報告しろ、いいな。  
「ロマンチックですねぇ、いやはや、美女に月、はははは!」  
―――はい。  
「俺達はこれから擬古ひろってサバイバルゲームしに行くから、それじゃ。」  
「当落わかったら連絡するから電話開けとけよ。」  
「は〜い。」  
 
というわけで俺はむさくるしい男空間から開放された。  
はぁ。  
 
「まもなく列車到着します、黄色い線の内側にお下がりください。」  
「あの人たちは、ななしさんの先輩?」  
「・・・うん、そう思いたくないんだけどね。」  
「・・・。」  
急にレラさんの顔が真っ赤になった  
「どうしたの?」  
「あの・・・さ、そのね。」  
何だ、急に。  
「べべべ、べつに私が行きたいんじゃないのよ、そそそそ、妹がね、妹!」  
「・・・・大丈夫?」  
「だぃだぁあぅ。」  
もしや、この子も・・・。  
「コミックマーケット、見てきてって言われてるの、いも!いもおとにね。」  
・・・なんでこうなるの。  
「そう、じゃあ朝早く長蛇の列だね」  
「そそそそ!そうじゃないのよ!あの・・・。」  
まったく素直じゃないな、この子は。  
「サークル参加したいの?」  
「ば!馬鹿ね!私はそんなの興味ない・・・ないんだから。」  
「じゃあ五時半ダッシュだね」  
「あうぅ・・・。」  
この人もこんな顔をするのか・・・、レラさんは大慌てであわあわ言っている。  
行きたいならいきたいって言えばいいのに。  
 
列車が大きな音を立てて入線してきた、これから彼女の一週間の宿となる我が家には、これに乗って30分といった所か。  
何度も言うけど、この子と一週間か・・・はぁ。  
 
がちゃっ!  
「ただいま。」  
「おじゃまします」  
帰り道の間、レラさんはずっとそわそわそわそわ、ずっと鞄の中を気にしていたようだ。  
これはなにかある、ぜったい。  
まぁなんにせよ明日は休みだし、来週の金曜日になれば新しいホストも決まるだろう。  
男の一人暮らしに女の子が住み込むのはまずい。  
それまでの辛抱だ。  
「レラさん、部屋だけど」  
「広いのね・・・天井も高い。」  
「・・・まぁね、先週までは親も一緒に住んでたから、一人じゃ広いよ。」  
「親御さんは?」  
「ああ、俺をおいて葉山にひっこした。」  
「葉山?」  
「あぁ、三浦とかそっちのほう、わかる?湘南。」  
「・・サOン?」  
「お!サOンすきなの」  
「一応ね。」  
「へぇ、北海道だったらあのハゲた人じゃないの?なんていうんだっけ、え〜と・・・」  
「宗男は嫌いよ。」  
「・・・。」  
 
・・・そいつじゃないんだが。  
まあいいや、とりあえず部屋に案内しちゃえばそれでいいか、あ、レラさんテレビ見るのかな?  
 
「ここが一応金曜まで君の部屋」  
「広い・・・。」  
「両親の寝室だったからね、まぁゆっくりしてってよ。」  
「あの・・」  
「そうそう、トイレと風呂は廊下の突き当たりを右ね、がっこうからそれなりに金は出てるから遠慮なく使って。」  
「・・・はい」  
 
なんだ、やけにうつむいちゃって。  
「あの・・・。」  
「何?」  
「この絵」  
「・・・ぁあああああああああああ!!!」  
 
壁に貼られたピンクを基調としたポスター、紛れもなく秋葉のソフOップでもらった特典の・・。  
 
「レラさん!出て!すぐそっからでるんだ!」  
「やだ。」  
彼女がにやりと笑った瞬間ドアが閉まった。  
中からは押し殺した笑いが聞こえてくる・・・・・・  
くそぉ、レラさんが寝てる間に忍び込んではがしちまおう。  
とりあえず風呂だ、なんだかんだいって今日は暑かったからな、妙な汗もかいたし。  
「俺、風呂はいるね。」  
返事はない、まぁいいか。  
 
「ったくもう、あんなもん見落とすなんて俺としたことが。」  
ばさばさ服を脱いでさっさと風呂場に入る  
どざ〜  
「い〜ぃ湯だな!」  
妙な歌を口ずさみながらシャワーを浴びる、やはり夜になるとまだまだ冷えるな・・・と、震えながらシャワーを止める。  
「それにしてもあの子いい足してたな、一度生で拝みたいもんだ、ふふふ。」  
風呂に入ったとたん独り言が増えるのはよくあることだけど、いつも馬鹿みたいなことしか言えないのは仕様なんだろうか?  
おがががが・・・と風呂のふたを開けて電話で沸かしておいた風呂に入る、ビバ、便利な時代。  
「来週の金曜日までか・・・実際長いなぁ、参ったなぁ。」  
そうだ、あの不愛想な子と丸二週間近く共同生活を送る羽目になったのだ、これならまだ一ヶ月一万円の方がはるかに気が軽いよ。  
とりあえずあのポスターは彼女が寝ている間にはがしてしまおう、絶対に。  
それと・・・あとはどうしようかな、ええと、あれ・・・・。  
 
「ふごごごごご・・・・。」  
湯船が気持ちよかったのか、急に襲ってきた睡魔に七市はいとも容易くノックアウトされてしまった・・・。  
注意*危険なので湯船の中では絶対に寝ないでください。  
 
そのころ、こちらはレラさんの部屋、早速荷物を開いているようです。  
「ふぅ・・・いいチョイスね。」  
部屋の隅には丸められて、丁寧にピンクのリボンで止められた件のポスターが安置されている。  
「・・・。」  
腕を組んで、部屋を見回す、ニヤリとしてから風のような軽やかなステップで大きなかばんに近寄る。  
ふわふわした緩衝材入りの袋からおもむろにノートパソコンを取り出して、電源を入れる  
「ふふ・・。」  
いままでキリッとしていた顔が急に可愛く緩み、さっきまでのクールな雰囲気とは一転して、急に少女チックな笑みを浮かべる。  
パジャマだろうか、少し大きめのサイズの薄紫を基調にした服を着て、彼女はノートパソコンと一緒にベッドに寝転んだ  
パソコンには『しくるぅ号』と書いてある、アイヌ語か?  
「日記つけよう。」  
ぱちぱちと目にも止まらぬ速さでタイピングしてゆく、相当使い込んでいるようだ。  
やけにリムたんとか、かぁいいとか、妹という単語が乱立しているがここではノータッチで行こう。  
・・日記もつけ終わったのだろうか?ふいにレラさんはドアを開き、きょろきょろと辺りを見回す。  
 
んごーーーーーー  
 
隣の部屋からファンの音が聞こえる、間違いなく隣ではななしがパソコンを弄っている。  
それを確認すると、レラさんは音も立てずにパソコンに戻り、2ちゃんブラウザを起動させた。  
ブックマーク内のスレを訪問し終わり、いくつかのネタスレを冷やかした後、レラさんはパチンとパソコンを閉じ、立ち上がった  
鞄の中をごそごそとまさぐると、どう詰め込んできたのかバーベルが五つ六つ・・・。  
「えい!でゃぁ!おりゃ!ふん!を”〜〜!」  
腹筋や腕立て伏せ、バーベルを振り回したりヒンズークワットしたり  
おおよそ女の子の鍛錬メニューとは思えない量を次々とこなしてゆく。  
 
「ふぅ!いい汗かいた!・・・お風呂行こ。」  
自前のタオルと歯ブラシを持ってレラさんは風呂場に出かける、調子がよかったからか機嫌がよいようだ、ルンルン言っている。  
やばい!やばいぞななし!  
 
そのころ、風呂場では・・・。  
「うぅ〜妹がたくさん・・・お兄ちゃんは巫女さんが好きだよ・・。ふふ。」  
湯気で熱帯雨林の如く視界のなくなってしまった風呂場で、ななしはまだ寝ていた。  
まずいぞ、まずいぞななし!早く起きるんだ!  
 
がらっ  
・・・更衣室のドアが開く、入ってきたのはレラさんだ、まぁレラさん以外誰も入って来やしないのだが。  
ふんふんふ〜ん♪  
ご機嫌で服を脱ぎにかかるレラさん、風呂場の暖かい電球の光に照らされて  
彼女の引き締まったその肢体が露になる、健康的にうっすらとその腹に存在を主張する腹筋、日々の鍛錬の結晶である。  
飾り気のないスポーツブラを外すと、控えめだが、消して小さくはない胸が姿を現した。  
全体的にシャープなそのルックスは人を選ぶとはいえ美しいものだ、ななしご推薦のカモシカのようなおみ足も見放題だ!  
がららっ!  
「わぁ〜、お風呂もひろいなぁ!」  
黄色い声を上げる、こんな所はとても他人には見せられない、自分で言っておいてなんだがいまさら更衣室のドアからちらりと外を確認してしまった。  
同居人は湯船で寝ているというのに。  
「これならリムちゃんと一緒に入れるのになぁ・・・。」  
カランの近くにおいてあった手桶にお湯を取ると、体にかける、つやつやとした肌が水気を帯び、その艶姿にいっそうの艶を生んだ。  
 
ザザーーー・・・  
「もえあが〜れ〜ガンOム〜。」  
他人には聞かせられないような黄色い声で某巨大ロボのテーマソングを歌いながらのシャワー・・・、妹と寝ているときに次ぐ至福の時だ。  
 
「・・・ううん・・。」  
「ん・・・???・・・・・・??」  
声が聞こえた、きょろきょろと辺りを見回すけどだれも見当たらない・・・気のせいね。  
そうひとりごちて、シャワーを止め、湯船に入る。  
「湯船も広いなぁ、銭湯みたい、ふふふ・・・。」  
レラさんが入ったのはこの長方形の湯船の左側、ななしが寝ているのは湯船の右の隅っこなので、レラさんにはななしが見えないのだ。  
・・・神よ、ねがわくばこのまま二人が出会わずに時が過ぎ去らんことを。  
「・・・泳いじゃお」  
嗚呼、ななしに安らかな眠りあれ。  
 
「それ!」  
ばちゃん!  
「ぎゃあ!!」  
びっくりした!何だよ急に!  
あれ?誰だこいつ・・・。  
 
「誰!?この不届き物っ!!」  
「わあああああああああああ!」  
 
ボカッ!ドカ!バキ!バキ!  
「ななし君!!風呂場にだれかいるわ!ななし君聞いてるの!風呂場に変質者よ!」  
「・・・。」  
「ななし君!ななし君来て!ななしくん・・・なな・・・。」  
「てめぇ、何しやg・・・」  
ざばーん。  
「・・・あら・・・ななし君・・・?ななし君!?」  
 
 
「・・・大丈夫?」  
・・・。  
「悪かったわ。」  
・・・。  
「・・・・。」  
レラさんはあれから俺を居間まで運んで介抱してくれた  
ただでさえ眠ってしまってのぼせていた上に彼女の鍛えられた腕でボコボコにされたのだ、ただで済むはずがない。  
いまだに意識が朦朧としている、レラさんが呼び掛けてくれているのはわかるが、それに答えられない。  
これ、本当に危ないんじゃないかな・・・?  
「飲み物とって来るわね・・。」  
少し沈んだ声でそういうと、彼女は台所のほうへと消えた  
「冷蔵庫、開けるよ。」  
・・・。  
ごめん、答えないんじゃなくて答えられないんだ。  
「ごはん、すっかり忘れてたわ・・・。」  
そうだ、普段は一人だから食わない日もあるけど、今日はレラさんが一緒だったんだ・・・。  
とたとたと規則正しい足音を立てて、レラさんが戻ってきた。  
「飲める?」  
レラさんは冷蔵庫の中においてあったアクエリアスを持ってきてくれたけど、俺は首を横に振ることしかできなかった  
体を起こすことさえままならないんだ、まだ景色が白いもやの中にある・・・。  
「・・・じゃあ上半身起こして」  
・・・。  
「おきられない?」  
首を縦に振った  
 
「・・・力抜いて。」  
背中に腕をあてがわれると、ふっ、と上半身を持ち上げられた。  
細いけど力強い腕、こんなに可愛い顔をして本格的に強いんだな・・・。  
このとき俺はレラさんに、「可愛さ」ではない「美」を感じた、なんというか凛とした感じの、何もひねりのない「美」を。  
情けない話だけど、無条件にレラさんに甘えたくなった、まるで小さな頃にお袋にそうしたように。  
「ごめんなさいね、ちょっと我慢。」  
・・・口移しでくれるのかな?  
「・・・、何考えてるの?」  
・・・。  
「はい、飲んで。」  
ペットボトルを口にあてがわれた、素直に飲もうとしたけど、飲み込めない。  
口の中で行き場を失った物がしずくになって零れ落ちる  
「・・・。もう。」  
鼻をつままれた。  
ごめんなさい  
「うぇ!」  
「わっ!だめよ吐いちゃ!」  
ひどいよそんな  
「はい、飲んで」  
・・・ふう。  
「はい、よくできました。」  
「・・・ありがとう。」  
「あら、気がついたみたいね、よかった。」  
レラさんの顔がぱっと明るくなった・・・なんだ、本気で心配してくれてたんだ。  
「大丈夫?立てる?私が何か作るから、それまで座ってて・・・。」  
「もうちょっと寝かせて。」  
「わかった・・・・、台所使わせてもらうわね。」  
「いいよ。」  
 
それから数分、ことことと鍋の煮える音とおいしそうな香りが漂ってきた。  
煮込みうどんかな・・・?  
「・・・お待たせ、うまくできたかどうかわからないけれど、食べてみて。」  
台所からレラさんが出てきた、手には小さな鍋、ほんとに何でもできるんだな・・・。  
床から立ち上がっていすに座る、小さな鍋が目の前に置かれた、そしておわんが二つ。  
その中からレラさんは俺の分と自分の分とを取り分ける、なんだかお袋が帰ってきたみたいだ・・・。  
「はい、どうぞ、お口に会うといいんだけど・・・。」  
「ありがとう、いただきま〜す」  
味はというとお世辞抜きに本当にうまかった、ちゃんとダシが出てる、本当に冷蔵庫にあった冷凍の奴を使ったんだろうか  
「美味しいなぁ、レラさんは料理上手なんだね。」  
「・・・照れるわね、お世辞はよしてよ。」  
頬を赤らめながらレラさんが頭を掻く、さっきとは違うとても可愛い仕草・・・こんなお嫁さんほしいなぁ。  
「・・・レラさんが行ってる学校はどんな所なの?」  
急に彼女に興味がわいてきた  
「え、えぇとね・・・田舎よ、とても。」  
「でも、旭川じゃぁ・・」  
「旭川も外れのほうよ、神居コタンの近くだから。」  
「そうなんだ、俺も昔北海道に住んでたことがあってね」  
「どこに?」  
「札幌の菊水ってところなんだ、幼稚園の頃に引っ越しちゃったからほとんど覚えてないけどね。」  
「羨ましいわ、大通り公園とか行った?」  
「うん、お袋に連れられてよく行ってたよ」  
「雪祭りとか」  
「うん。」  
「いいなぁ、私は家族と旅行に行ったときに行ったっきり、本州に来たのもこれで二度目よ。」  
「へぇ、うちは普段の生活切り詰めてでも娯楽に使う家だからなぁ、むかしから旅行は欠かしてないよ。」  
「・・・へぇ、今までどんなところに行った?海外?」  
「そうだね、去年なんかは一人でイギリスまで行ってきた、ロンドンだけだけどね。」  
「!! あなた英語喋れるの?」  
「まぁ一般生活に不自由しない程度にね。」  
「私英語2よ・・、信じられないわ・・。」  
「レラさんが?意外だなぁ、なんでもできそうな感じあるけど」  
「古文は好きよ、でも現代文とか回りくどい文章読むと眩暈がしてくるわ。  
 
はぁ、とレラさんはため息をついた  
結構普通の子なんだな、この子も普通の高校生か、研修に来るって言うからかなりの優等生かと思ってたけど。  
何よりもこの煮込みうどんすでに俺は四度目のおかわりだ、レラさんって専業主婦向きだなぁ・・。  
「そうだ、手ぶらじゃ悪いと思ってね、ちょっと待ってて。」  
そういうとレラさんは自分の部屋へと走っていった、何だろう?  
「飲める?」  
「お酒?」  
「そうよ。」  
「飲めるよ。」  
「強いの?」  
「とても」  
「よかった。」  
とてとてと戻ってきたレラさんの抱いていたのは、大きな一升瓶だった  
「完全によくなったみたいね、これなら飲んでも大丈夫かしらね?」  
「大丈夫大丈夫!」  
「・・・でも私、ちょっと弱いところあるから」  
「大丈夫だよ、飲もう飲もう!」  
これが更なるドタバタ劇の序章とも知らずに、二人は嬉々として共にグラスを傾け始めた・・・。  
 
「う〜〜〜」  
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」  
・・・畜生、こんな真夜中に俺たちはいったい何をしてるんだろう。  
最初はレラさんが  
「私は酒が入らないとうまく喋れない」  
と言っていたんだっけ・・・。  
実際ほろ酔いのレラさんは真っ赤な顔をして今まで見せたことない笑顔で笑ったり妹さんのことを話しては萌え萌えしたり  
まるで小動物のような可愛さだった  
だけど、お酒が入るにつれて。  
 
「よ〜しぃ!腹筋しょうぶだぁ!先に50回やったほうが勝ちぃ、罰ゲームありねぇ」  
「のぞむろころ、レラたんに負けてたまるかぁ!」  
「れでぃ〜、ご〜!」  
半裸で目の色変えて腹筋にいそしむ少年  
そのとなりで同じく血眼になってそれに倣う少女、前衛芸術のような光景が繰り広げられた。  
 
「わ〜ん!くやしぃ〜!」  
結局勝ったのは俺だ、いくら鍛えてるからって女の子にまけてられるか。  
約束どおり罰ゲームだが・・・  
「よ〜し、じゃあねぇ!おにごっこ!」  
「うへぇぁ、なんでレラさんが決めてんのさ!わけわかんねぇ!」  
「えへへへ、じゃあなにがいいの?」  
「・・・君が、ホスィ、へへへぇへ」  
「後悔するなぉ・・・たぁ!」  
そのまま俺の方に飛び込んでくるレラさん、おいおい、空港のあの台詞はなんだったんだよ・・・  
まぁ・・・少しうれしかったのは確かだが。  
実際この子は黙ってれば綺麗なのに、ぶっきらぼうにしゃべるもんだから余計に冷たい印象を受けるんだ  
俺だって家に泊めるんじゃなきゃ怖くて近寄れなかっただろう。  
「おぉう、レラたん過激だよ、萌えるゥ!ひんぬーマンセー!フォオオゥ!!」  
「うぅ〜ん、ななしくぅ〜ん、ひんう〜っていうなぁ、ふぅ〜ん・・。」  
首に手を回してしっかりと俺の体にまとわりつくレラさん、ぎゅっと抱きしめられているので身動きが取れない。  
幸せ・・・。  
 
だがしかし、いつまでも酔い任せのめちゃくちゃなテンションでいられるほど現実は甘くない。  
「えへへへぇ、ちゅ〜!」  
「うっ!!」  
首筋に熱い接吻が・・・。  
やばい、レラさん・・・本気?  
『七市茂名之助、上は青少年にあるまじき不純な異性間の交友を行えり  
生徒指導、校長、担任との協議の結果、ここに七市茂名之助を退学処分とする。』  
 
泣き崩れるお袋、白装束を纏い、満面の笑みで日本刀を握り締める親父、俺を見ては「ケダモノ!!」とはき捨てる女子の群れ・・・。  
そんな光景が頭の中で再生される  
 
「まずいよ!レラさん!だめだって!俺たちはまだ・・・」  
「うっさいわね〜!年なんて関係ないわよ!」  
埒が明かない  
手荒だがレラさんを突き飛ばしてこの難を逃れよう、俺はそう考えてレラさんを突き飛ばした  
 
ぷるん!  
 
「痛っ!!!」  
物の弾みで、やおらやわらかい胸を鷲づかみしてしまった、ボカボカ頭を殴られる、痛い!痛い!  
「おかえしだぁっ!」  
ドカッ!  
「あぁああああ!!」  
幸せなじゃれあいはここで終わった。  
なんということだろう、お返しも糞もあるか、愛くるしいあのマイサンが、股間のエレクトスティックが・・・。  
要は股間に膝蹴りを喰らってしまったんだ。  
 
ななし君、本日二度目の失神。  
 
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・」  
「・・・今度という今度は怒るよ。」  
「ごめんなさいごめんなさ・・・。」  
 
酔いのさめたレラさんは土下座をして許しを乞いていた。  
・・・んな許せるもんか、まだ痛いんだぞ。  
「・・ごめんなさい、何でも言うこと聞くから。」  
「・・・そうか、よし、じゃあまず・・・俺と話すときはにこやかに話せ」  
「・・はい。」  
「それとな・・・。」  
 
にやにやしながらまだ酔いの残る頭で自分の部屋に戻る、半歩後ろからレラさんがしずしずと歩いてきた  
よし、それでいい。  
 
彼女の攻撃は、俺を一匹の畜生に変えてしまったのだよ。  
 
「・・・これで、これでいいの?」  
「いいわけないだろ、ほら、こっちむきな。」  
「・・・すん・・・。」  
「泣いた振りしたってだめ。」  
「・・はぁい。」  
レラさんは今変な格好をしている  
まぁ格好そのものが変ってわけじゃなくて、この場に合わない格好ってだけだけど。  
「浴衣って思ったより動きにくいのね・・・。」  
そう、浴衣だ。  
浴衣・・・夏の祭りに欠かせない必需品にして、ヒロインがこれを着るイベントが発生したら確実にフラグを回収したも同然のアイテム!  
男の夢!  
萌えの境地!  
 
腰で巻く帯によってボディラインは強調され、何よりも本人の体型に如何では胸がより強調される  
そしてなにより、脚フェチにはたまらない、スリットのような前開きのデザイン!チャイナドレスがなんぼのもんかと  
もう独立してしまった姉貴のものだが、レラさんにぴったりだ・・。  
白を基調とした水色の縞模様で、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる彼女にはぴったり。  
「よっしゃ、セットOK、そこに立って。」  
ファインダー越しにレラさんを見ていると、まるでモデルさんを撮影しているみたいだ  
そう!このカメラはいつもイベントでレイヤーさんを撮影している虎の子の一眼レフなのだ!  
今回はレラさんにマイサンをいじめた罰として俺の萌えポインツ、浴衣で撮影してもらうことにしたのだ。  
我ながらナイスアイデア、これで俺のアルバムにもまたコレクションが増えるわけだ。  
「う・・・仕方ないなぁ」  
レラさん、そんなことを言いながら結構まんざらでもないみたいだけど。  
外から入ってきた風に、レラさんの綺麗な黒髪がなびく、ふわっとシャンプーの香りが香ってきた。  
本当にきれいなんだなぁ、すべすべの肌、きりっとした目、正に「凛」をコンセプトにしたような、そんな雰囲気だ。  
今日何度目か知らないが、思わず見とれてしまう・・・。  
 
「・・・なっ、何?そんなにじろじろ見ないでよ・・・。」  
「いや、なんていうか・・きれいだなぁ〜って。」  
「ば・・・!馬鹿!・・・さっきは酔っ払ってたんだから・・・許してよ・・。」  
なんだか写真を取る気が急になくなってしまった。  
なんというか、そんなことを考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど綺麗に見えてきたから。  
「レラさん、ごめんね・・・やっぱいいよ、悪かった。」  
「え?・・・あ・・そう・・・。」  
またもしゅん、となるレラさん、何度見てもこの表情は見飽きないな・・。  
「ひとつだけお願い。」  
「?」  
「その浴衣、貰ってくれないかな?」  
「え、そ、そんな・・悪いわ・・・。」  
「いいんだ、貰ってってよ、姉貴が置いてった奴だからさ、うちじゃ誰も着る人がいないんだ、だから。」  
「・・・わかったわ、貰う、有難う。」  
急にドキドキして来た、なんだろう、いやらしい意味じゃなくて、レラさんの浴衣姿をいつも見ていたいような感覚に襲われた。  
「はは、よかった。」  
 
時計を見るともう夜の一時だ、明日は休みだって言っても夜更かしは体に毒だろう。  
・・・酒よりはましかもしれないが。  
「ごめんね、レラさん、こんな夜遅くまで。」  
「ううん、いいの、わたしが悪いんだし、ごめんなさい・・・お酒はやっぱりだめね。」  
「・・・そうだね、でもさ、酔ったレラさん、なんかすごい可愛かったな〜」  
「え?・・・・・・もう!やだぁ!」  
ドサッ!  
「わっ!」  
枕が顔に飛んできた、それを受け止めると、レラさんはにっこりと笑って  
「じゃあまた明日、何時に起きるの?」  
「・・・そうだなぁ、明日はちょっと早起きで6時に起きよう、レラさんをいろいろ案内したいんだ。」  
「本当・・・じゃあ、楽しみにしておくわ。」  
「うん、じゃあお休み。」  
 
レラさんはそういって僕の部屋から出て行った、俺は大きくあくびをすると、パジャマを着てベッドにもぐりこんだ。  
ベッドだと布団を引く手間が省けていいな・・・。  
とりあえず、あしたはレラさんが電車の中で「新宿行って見たい」っていってたから新宿行って  
それから、趣味合いそうだから秋葉原行って・・・・。  
 
そうこう考えているうちに、ななしの意識はまたミルク色の世界へと落ちていった・・・。  
 

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