フランス貴族の邸宅。  
その一室で、主・シャルロットは机に置かれた書簡へと目を通していた。  
勇猛な剣士であるかの女だが、今は女性らしい、優美なドレスを纏っている。  
「コルデ家の令嬢らしくあれ」とは、長年仕えてくれた老婦人のたっての願いだった。  
それを、シャルロットは半ば根負けする形で受け入れたのである。  
しかし、領主としての仕事も、豪華な屋敷での何不自由ない優雅な生活も、シャルロットにとっては退屈でしかなかった。  
「サムライ」達と切り結んだ日々が、懐かしく思える。  
(彼は、どうしているだろうか・・・)  
 
突如、窓の外で喧騒が沸き起こった。  
何事かと顔を上げたところに、血相を変えた使用人が駆け込んで来る。  
「お嬢様・・・大変でございます!」  
「どうした?」只ならぬ様子に、シャルロットは椅子を離れた。  
使用人が息を切らせながら答える。  
「怪しい男が、庭にっ・・・!奇妙な身なりの東洋人で・・・!お嬢様に、会わせろと・・・」  
シャルロットはそこまで聞くと弾かれたように走り出し、尚も言葉を紡ぐ使用人の横を擦り抜けて行った。  
 
飛び出してきたシャルロットは、使用人が取り囲む中に特徴のあるざんばら頭を確認し、少女のように顔を輝かせる。  
「覇王丸っ!」  
かの女は会いたいと願ってやまなかった人物の名を叫んだ。  
聞き覚えた声に呼ばれ、覇王丸が「よぉ〜!」と声を張る。  
「この者は私の友人だ」  
そう言って使用人達を退けると、シャルロットは覇王丸のもとに駆け寄った。  
「こんな所まで訪ねてくるとは驚いたぞ!久しいな!覇王丸!」  
「お、おう・・・」  
歯切れの悪い応答を返した覇王丸の視線は、シャルロットの豊満な胸のデコルテに注がれている。  
胸元が露わなドレスなど、西洋における貴婦人の正装であり特に珍しいものではないが、思えばそんな女らしい格好を覇王丸に見せるのは初めてだ。  
シャルロットはかあっと頬を染めた。  
「と、ともかく!よく来たな、覇王丸!歓迎する!」  
真っ赤な顔に引き攣り笑いを浮かべながら言うと、シャルロットは使用人に覇王丸の案内を頼み、ドレスを着替える為そそくさと踵を返す。  
「馬子にも衣装ってねえ・・・」  
覇王丸は無精髭を生やした顎を撫で、呟いた。  
 
 
使用人を下がらせ、二人は久方振りに酒を酌み交わした。グラスを満たしているのはこの土地の葡萄酒である。  
覇王丸も異国の酒を気に入ったと見えて、シャルロットは上機嫌だった。他愛の無い話に花が咲く。  
 
「おい・・・大丈夫かぁ?」  
ふいに掛けられた声に、シャルロットはハッと意識を取り戻した。  
(少し、飲み過ぎたか・・・)  
「・・・大丈夫だ」  
答えて、額に掌を当てる。いつの間にか瞑ってしまっていた瞼を開けた。  
「顔赤いじゃねえか」  
シャルロットの視界に映ったのは、至近距離でかの女の顔を覗き込んでいる覇王丸。「!!」驚いて、シャルロットは立ち上がった。  
瞬間、急に酔いが回りよろける。  
倒れそうに傾いだところを、咄嗟に覇王丸の腕が支えていた。  
「言わんこっちゃねえや」  
覇王丸は嘆息すると、朦朧としているシャルロットをそのままひょいと肩に担ぎ上げた。  
「なっ・・・!」  
シャルロットは突然の密着状態に戸惑う。  
「こ、こらっ!どこ触ってる!」  
覇王丸の手が尻に添えられていた。アルコールによって判断能力の鈍っていたかの女だったが、そこはしっかりと抗議をする。  
「あ?ああ、すまんすまん」  
覇王丸が笑い混じりに詫びるのを聞くと、シャルロットはふっと表情を綻ばせた。  
逞しい背中が見える。好意を寄せる男の温もりを感じ、シャルロットは密かな幸福感に包まれていた。  
こんな気持ちになるのはいつ振りだったろうか。  
シャルロットはこの時間が永遠に続けばいいと思った。  
しかし、それは叶わない。  
寝室に着くなりベッドに降ろされ、実にあっさりと、体温が離れる。  
シャルロットは落胆した。  
(一体何を期待しているんだ・・・私は・・・)  
 
「ちょっと休んでろ、な?俺は向こうで飲んでるからよ」  
気遣うその言葉も、シャルロットが望んでいる類のものとは違って、この年下の男が自分を特別な目で見ていないということを痛感させられる。  
(・・・いつも、こうだ)  
こと恋愛において臆病者の自分は、一歩を踏み出すことすら出来ない。  
友人としての良い関係を壊したくないとか、言い訳ばかりが頭を過ぎる。  
(でも・・・例え届かなくても・・・)  
酒が手伝って、いつの間にか胸中で膨れ上がっていた感傷。  
(・・・想いを告げるなら、今しかない)  
シャルロットは、背を向けた覇王丸の着物の裾を握り締めた。  
「覇王丸・・・」  
「?」  
シャルロットへ向き直った覇王丸のキョトンとした表情に、かの女は小さな後ろめたさを覚える。  
「あ、いや・・・」直視していると昂ぶる気持ちまで殺がれそうで、シャルロットは俯く。  
「何だよ、変だぞ、お前」  
覇王丸が訝むように言うと、いよいよ意志が挫けそうになるが、ここで伝えられなければ同じだと、シャルロットは自らを奮い立たせた。  
「私は・・・っ、お前のことを・・・ずっと・・・!」  
シャルロットは勢い余って、両手で覇王丸の胸倉を掴んでいた。二人の距離が詰まる。  
縋るような視線を送るかの女に、覇王丸はようやく気配を察した。潤んだ青い瞳に、彼の酔いが急速に醒めていく。  
 
「・・・私を、抱いてくれないか」  
続いた言葉を聞いて、一瞬、覇王丸は絶句した。  
「・・・な、な〜に言ってんだ。お前ぇさん、酔ってんだろ」 余裕を失いながらも、何とか軽口を叩いて茶化そうと試みる。  
「覇王丸・・・」シャルロットが傷ついた眼をしたのを見ると、ちりっ、と心が痛み、覇王丸は視線を逸らせた。  
失望と後悔に、着物を掴む細い両腕が小刻みに震えている。  
「・・・ふっ、そうか・・・私など抱けないか・・・!  
生娘でもない、こんな年増女に好かれて、お前はさぞ迷惑なことだろうな・・・!」  
シャルロットは込み上げて来る涙を卑屈な笑みを作って堪え、吐き捨てた。  
(終わった・・・。何もかも・・・)  
そう思った次の瞬間、かの女の身体は、覇王丸の太い腕に抱きすくめられていた。  
「違う!そんなこたぁ関係ねえ!・・・お前さんはべっぴんだよ。  
・・・俺にゃ、勿体ねぇくらいの」  
突然の抱擁に驚き、困惑しながら、シャルロットはただ己が胸の激しい鼓動が、密着した皮膚から覇王丸に伝わってしまうのではないかと考えていた。  
「・・・俺は、知っての通りの風来坊だ。  
流浪の先で斬られて死ぬか、行き倒れて野垂れ死ぬか・・・。何にしろマシな死に方はしねえだろう」  
(そんなこと、知ってる・・・)ようやく覇王丸の言わんとしている事が読めて、愛おしい気持ちが溢れたシャルロットは、彼の広い胸に頬を寄せた。  
「修羅の道を歩む以上、俺は所帯を持たねえと決めてる。  
・・・お前を幸せにしてやることは出来ねぇんだ」  
優しいのだ、この男は。シャルロットは顔を上げ、覇王丸と見詰め合った。  
(今度は、ちゃんと言える)  
「・・・百も承知だ、覇王丸。武人として剣に生き、剣に死ぬ、そんなお前を・・・私は・・・愛してしまったのだ。  
何も言わず・・・私の想いを、受け止めてはくれないか」  
気付かぬうちに頬を伝っていた涙を、覇王丸の武骨な指が拭った。  
「シャルロット・・・。  
お前にそこまで言わせちまうなんてよ・・・俺ぁ情けねぇ男だよな」  
掠れた声。シャルロットは反射的に眼を閉じる。刹那に酒の匂いが濃くなったのを感じ、かの女の唇は覇王丸に塞がれていた。  
重ねた唇を強く激しく、貪る。 やがて舌を絡め合う湿った水音が二人の耳に届く。  
口付けの合間に荒く息を吐きながら、盛りのついた獣のような性急さで互いの纏う物を剥ぎ取り生まれたままの姿を晒した。  
 
「・・・やめるってんなら今のうちだぜ」  
覇王丸が掛けた言葉に、シャルロットは応えない。かの女の視線は、覇王丸のそそり勃つ巨根に釘付けられていた。  
「・・・」  
シャルロットは無言のまま吸い寄せられるように身を屈めると、眼前で起立しているものを躊躇いなく掌で包むと亀頭を唇で覆った。  
「お、おい・・・。う・・・っ」  
敏感な尖端に舌を這わされ、覇王丸がうめく。  
シャルロットは軽く握った手を上下させながら、それを口腔の奥まで咥え込み、吸い上げる動作を繰り返す。  
虚を突かれた覇王丸だったが、次第に意識はかの女の施す奉仕に集中していく。  
「んん・・・」  
シャルロットは全体を充分に湿らせると口を離し、頬を朱に染めて恥じらいつつ白く豊かなふくらみで挟み込んだ。  
とろりと唾液が垂らされ、肉棒は谷間の間で滑っていく。  
「く・・・ゥ!」かの女の大胆な行動に驚きながらも、視覚と感覚がもたらす刺激に自然と覇王丸の息はあがっていた。  
鈴口に溢れた透明な粘液を、シャルロットの舌が掬う。  
「も、もう・・・もたねぇ・・・っ!」  
言って、覇王丸がシャルロットの頭を自らに押し付けるのとほぼ同時に、陰茎が乳房の間でどくどくと脈動し、精液を噴き出す。  
「・・・あっ・・・!」飛沫がシャルロットの胸に、口に、顔に散り、かの女は眉根を寄せ小さく声を発した。  
シャルロットは迸った白濁液を指で拭って口許へ運ぶと、妖艶に舌で舐め取る。  
放出し足りない欲望に駆られ、覇王丸はシャルロットを押し倒した。  
 
「あ・・・」  
既にシャルロットの乳首は硬くしこり、その存在を主張している。  
覇王丸は荒々しく掴み掛かると、乳房を揉みしだく。  
「ア・・・あんっ」上向いた乳首を吸われ、シャルロットの唇から甘い声が零れた。  
指で金色の茂みを分けてかの女の秘裂を割りまさぐると、そこはもう熱く、滴らんばかりの愛液でぐっしょりと濡れそぼっている。  
「すげえ・・・」  
覇王丸は無意識のうちに感嘆の言葉を洩らしていた。  
すぐにでもそこへ自らを埋め込みたくて、シャルロットの膝裏に手を差し入れ両足を大きく開かせる。  
「アッ・・・!」  
先刻達したばかりの肉棒が、再びいきり勃っていた。  
「・・・本当に良いのかよ」  
今更やめる気は毛頭無いが、逸る気持ちを抑え、覇王丸はシャルロットに伺いを立てる。  
「・・・野暮なことを言うな、馬鹿 」それだけ言い、シャルロットは羞恥に頬を染めてふいと横を向いた。  
そんなシャルロットを覇王丸は可愛いと感じながら、己の怒張したものを女陰にあてがう。  
「・・・ああっ・・・!」  
体内に侵入しようとする巨大な圧力に、シャルロットの身体が弓なりに反った。先端を埋めたところで狭い内壁に阻まれ、覇王丸がウゥ、と唸る。  
「きつ・・・もう少し、力抜けよ・・・」  
その声にシャルロットの身体の強張りが緩んだところへ、一気に腰を突き入れた。  
「・・・あああぁん!!」  
シャルロットの悲鳴とともに深くえぐられた膣壁は、きゅうと締め付けるように覇王丸を包み込んだ。  
「動くぞ・・・ちゃんとつかまってろよ」  
覇王丸に目線で答え、シャルロットはのろのろとその背に腕を回す。  
ゆっくりと抽挿を開始すると、シャルロットから零れる甘い吐息が覇王丸を擽った。  
「ン!あ・・・!はっあぁ・・・!」  
軽く突く度に、シャルロットは嬌声を上げ、繋がった部分からにっちゃにちゃと卑猥な音が生まれ薄暗い空間に響く。  
「ア・・・っ・・・あぁっ!」這い上がってくるような快感、シャルロットは腰をくねらし自らそれを享受した。  
覇王丸は情欲に駆られるまま、激しく腰を打ち込んでいく。  
「・・・はァ・・・!ああ!」  
シャルロットは喘ぎながら、きつくその首にしがみつく。 二人が絶頂へと上り詰めるまで、そう時間は掛からなかった。  
「・・・うっ・・・シャル・・・」  
突き上げながら、覇王丸が苦しげに言った。  
「あ・・・あ・・・!あんっ!」  
乳房を揺らし金髪を振り乱して、シャルロットが一際甲高く鳴く。  
「う、ク・・・!」  
覇王丸は全身を痙攣させて、熱く滾ったものをシャルロットの中に解き放った。  
「あっ・・・あァーっ!!」  
 
ハァハァと肩で息をつく。  
けだるさに、シャルロットは瞼を閉じた。  
心臓の鼓動が激しく脈打ち、目の前がくらくらしている。暫しの間を取って、覇王丸が口を開く。  
「一旦火が点くと手に負えなくなっちまうのが男ってもんだ。特別・・・」  
それを聞き、シャルロットの眼は驚愕に見開かれた。  
「酒の入った男は始末が悪ぃ」息を飲むシャルロットの視線の先で、覇王丸の雄根は早くも硬さを取り戻している。  
「・・・あぁ・・・」  
幾度となく求められ、シャルロットは悦びにうち震えた。  
 
 
心地良い疲労感が二人を包んでいた。  
沈黙を破ったのは、覇王丸だった。  
「しかしよぉ、何だって俺なんかを・・・」  
雰囲気を弁えぬ不粋な質問に、もう少し甘い余韻に浸っていたかったシャルロットは内心溜息をつきたい気分になる。  
だが、そんなところがいかにも覇王丸らしくて、かの女はとても好ましく思うのだった。  
「・・・私の方が聞きたいくらいだ」  
「なんだぁ、そりゃあ」  
わざと素っ気無く答えを返したシャルロットに、覇王丸が間の抜けた声を上げる。  
顔を見合わせると、互いに可笑しさが込み上げてきた。堪えきれなくなった笑い声が、どちらからともなく零れる。  
ひとしきり笑った後、シャルロットはそっと、覇王丸の広い胸に寄り添った。  
「merci、覇王丸・・・」  
囁いて、かの女は聖母のような微笑みを湛えながら、安らかな眠りへと導かれていった。  
 
 
(おしまい)  
 

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