「ううっ…」
赤いリボンをした少女が切り裂かれた。切り裂かれた所から少女は煙のよう
におぼろげになっていき、消えた。
「か、勝った…。」
切り裂いた方の少女が緊張を解いた。
(さてと、まだ優しい所があるあの子に代わってちょっと過激に頑張ろうか
。あの子が復活してまたわたしがやられる前に。)
ドイツ屈指の自動車会社「フェルディナンド」本社で、ヘルムートは残業し
ていた。バブル崩壊が日本の自動車会社に与えた損害は想像以上に少なかった
。それどころか新型エンジンの開発も各社で競い合って急速に進めていると言
う。弱点だった乗員保護も改善しつつある。
(油断できん。)
ヘルムートは深呼吸をしてまた机に向かった。画期的な新工場建設の指揮が
ヘルムートの担当だった。稼動すれば新型車を既存の工場より高効率で生産で
きる様になる。失敗すれば「フェルディナンド」社の計画に大きな影響が出る
のは間違いない。重責と多忙で心身ともに疲労していた。
またヘルムートが一息ついた。もう室内には誰もいない様だ。席を立って背
伸びをした。その時意外なものが目にうつった。
少女がいる。それも、扇情的な衣装でいる。ありえない事だった。ヘルムー
トは自分でも驚くほど冷静な対応をした。
「お嬢さん、どこから入ったか知らんが一緒に保安課まで来てもらうよ。」
だが少女は動かなかった。無視して仕事に戻るにも、職場を引っ掻き回され
てはたまらない。ヘルムートは少女に近づいた。どうやら東アジアの人間のよ
うだ。肌はやや黒い。見た目の幼さとまるで娼婦の様な衣装は不釣合いだった
。近づいたヘルムートに少女が笑いかけた。足が止まった。まるで脳を直接い
じくられるような刺激的な笑みだった。
「あの、お嬢さん、よく聞いてくれ。」
「おじさん、おつかれさま。おじさん頑張ってるんでしょ。わたしおじさん
にご褒美あげる。」
何かと思って困ったヘルムートに少女が近づいてヘルムートの足元にかがみ
こんだ。ズボンのジッパーを器用に下ろして肉茎を取り出した。
「おおっ。」
ヘルムートは驚いた。だが、手が出なかった。驚いてる間に少女は取り出し
たそれをやわらかく手で包む。優しい手だった。それが包みながら前後した。
「うっ、おお…。」
肉茎が立ち上がってきた。少女が片方の手で睾丸をさする。さすって軽くも
み、くすぐる。また軽くこする。
「お、お嬢さん!!」
優しい手だった。肉茎を包んで上下していた手が、肉茎の先端に軽く触れる
。触れて、離れて、また触れる。ヘルムートの心臓はマラソンの鼓動を打って
いる。
ヘルムートは信じられなかった。目の前の少女はまさに純粋無垢と言う言葉
が似合う。少なくとも見た目はそうだった。だが、快楽の技術は大人顔負けだ
った。少なくとも、妻には決して負けない。若い頃遊んだ娼婦と比べても劣る
ところが見当たらない。人間離れしていると言った方がいい。
「おじさん、気持ちよさそうだね。」
ヘルムートの中に一つの疑念が浮かび上がってきた。この少女は生身の人間
なのだろうか。そもそも仕事に没頭していたとは言え気配も無く部屋に入って
きたのだ。明らかに部外者の彼女がここまで来れたのも尋常ではない。そして
この技量だ。おまけに、ドイツ語の流暢な事と言ったら教師並みだ。
「おじさん、何考えてるの?もっと楽にして。」
また少女が笑いかけてくる。まるで見透かされているようだ。汗が垂れた。
冷や汗が雫となって落ちるより先に、少女が息を肉茎に吹きかけた。
「うおおっ。」
これほどまでに興奮しながら、何故かヘルムートは少女を押し倒すと言う発
想が無かった。ただ、少女に為されるがままだった。
「おじさん、横になってくれる?」
少女が笑いかけながら指でヘルムートの机を指し示した。ヘルムートが机の
上に仰向けに寝た。その上に、少女が馬乗りになった。
「あのね、わたしこれから、おじさんに一番で、最後のご褒美あげるの。だ
から、ちょっと目を閉じていてもらえるとうれしいな。」
少女はヘルムートに顔を近づけて言った。軽く、少女の吐息が顔にかかる。
ヘルムートは待ち遠しくてたまらなさそうに顔を輝かせてうなずいて目を閉じ
た。もはや、ヘルムートの中に浮かんだ疑念は欠片もなくなっていた。
「おじさん、もう目を開けていいよ。」
ヘルムートの前に、少女が馬乗りになっている。少女の衣装が変わっていた。
極東の着物のような物に変わっていた。髪に紫色をしたリボンをつけている。少
女が馬乗りになっている位置は、性交するには、あまりにも上だ。手には、短刀
が握られている。顔は、冷酷に、笑っていた。
「いくよおじさん。」
少女が振りかぶり、勢いよく短刀を振り下ろした。狙いをたがわず、短刀は骨
の隙間を通ってヘルムートの胸に深々と刺さった。
「自然の怒りを受けなさい。」
「被害者はドイツの自動車メーカー社員。新工場の計画を担当していました
が書類は血まみれ、パソコンも使い物になりません。」
「後、何件あるのデイビッド?」
「後35件だ。昨日の時点でなジュリアン。この後に続く被害者も工業会社
、観光産業の観光地開発、不動産会社の住宅地やマンション建設、建設会社、土木
会社、大規模農場経営者、油田採掘業者と共通して環境保護団体の抗議の対象と
なり得る仕事に関わっていました。」
「推定犯行時刻と犯行現場を見ると、とても移動にプロペラ機を使っているよ
うには見えないわね。垂直離着陸のブラックバードでも持ってるのかしら。」
「犯人は死体の検分から推測される凶器と体格から見て間違いなく同一人物か
。時間当たりの件数と予想される目的から見て放置できんな。ご苦労だった。」
デイビッド達は部屋を後にした。だがデイビッド達の上司は解明されるとは期
待していなかった。ファイルを見る。そこには今回の事件と酷似した報告が記載
されている。同じような報告は過去に何度も何度もあったようだ。だがどれもこ
れも大勢を殺害した後まるで「心変わり」したかのように事件は途絶えたとされ
る。それからまた再発する。
「二つの心か。」
上司はつぶやいて帰宅しようとした。その時、気がついた。電気を消し忘れて
いたのだ。血相を変えて電気を消した。自分まで殺されたらとてもかなわない。
「オイ君達、今日からうちは臨時環境週間だ。裏を使っていい紙は積極的に
メモ帳にしろ!!水道の蛇口はきちんと開け閉めして用途も大事にしろ!!それと使
わない時は電灯や電化製品の電源を切っておけ!!」
(完)