我旺の乱が終わってから一年が経った。黒河内夢路は今、旅に出ている。  
 夢路は殺意を感じた。尋常ならざる殺意だった。あたり中からあちこ  
ちから感じられて避けられそうにない。  
 (まさか関係者の掃討?)  
 夢路は密かに用意をした。殺意が、殺意の主がもう見えそうな所にく  
る程近くなってきた。姿を現したのは、おおよそ荒事とは縁がなさそう  
な女性ばかりだった。  
 (何故こんな方々があんな殺意を?)  
 殺意は一向に収まっていない。夢路は神経を研ぎ澄ました。その夢路  
ですら対応できない速さで女達が縄を投げて、夢路の首に、手首に絡み  
ついた。  
 「くっ、何故、このような事を。」  
 「あなたが右京様の寵愛を一身に受けている事位もうわかってるのよ。」  
 「あなたみたいな男だか女だかわからない得体の知れない剣士は右京  
様にふさわしくないの。」  
 「あなたなんかに右京様は渡さない。」  
 口々に女達が罵った。  
 「ただじゃ済まさないわ。」  
 「後悔なさい。」  
 (一体どこで勘違いを…。それにしても、抜けられそうにない…。)  
 夢路が観念した時、縄が一斉に断ち切られた。  
 「右京殿!!」  
 「右京様!!」  
 風に吹かれて木の葉が舞うように右京が着地した。  
 「そんな、右京様、そんな奴をかばって…。」  
 「…。夢路殿は…、私の親友…。あなた方の想いは知っている…。だ  
からこそ…、同じく慕う者を…傷つけないよう頼みたい…。」  
 「あっ。」  
 女達の手が開いて震えた。  
 「私達、凄くひどい事を!!」  
 「ごめんなさい夢路様!!」  
 「許していただく為なら何でも!!」  
 「いえ、解放してくださればもう結構です。」  
 右京が安心して一息ついた  
 
 (あんな事もあったな。)  
 今右京は失意の中、恐山で目が覚めた。魔界の中心に咲くと言われる  
本当の究極の花をとって来ようとしたが、ついにできなかった。  
 (もう二度とこんな好機は来ないだろうな。圭殿を喜ばせるはずだった  
が、無念。)  
 とぼとぼと歩き出した右京は気がついた。  
 (いない!!)  
 いつも自分を追いかけていた彼女達が、どこにもいない。  
 (まさか、死んでしまったか、魔界に閉じ込められてしまったか。)  
 圭殿を幸せに出来なかっただけでなく他の人々に取り返しのつかない不  
幸を与えてしまった。右京の顔が一層暗く沈んだ。その時、右京の後ろの  
方で何かが割れる派手な音がした。振り向くと、真っ黒な穴から女達がド  
サドサと落ちてきた。あの自分を追いかけていた娘達だ。  
 「右京様!!」「確かにとってきました!!」  
 「究極の花です!!」「途中で怖くなったけど、最後まで頑張りました  
!!」「どうぞ右京様!!」  
 右京は隠す事無く苦笑していた。見ると、女達の手は傷だらけだった。  
次いで花を見た。  
 「あ…。カトレアだ…、これ…。究極の花じゃない…。」  
 「そ、そんな。あんなに苦労したのに…!!」  
 「ありがとう…。大変だっただろう…。」  
 右京のねぎらいの言葉で女達は狂喜乱舞した。それを尻目に右京は花を  
見つめていた。  
 (究極の花の代わりに、何かいい贈り物は出来ないだろうか。)   
 (おしまい)  
 

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