おえんの薬屋に戻るとせがれの番頭が昨夜、辻斬りに襲われかけた女郎が  
二人の黒い人影に救われたという噂が広まっているー  
という噂話を、薬を買いにきている客と話していた。  
 
息子も母親が忍という事はこれからも知る事はないだろう。  
 
番頭に軽く会釈し部屋に入ると、困った表情を浮かべているおえんと、  
にやけた弥彦が茶をすすっていた。  
 
「お前、清純系の正統派なヤマトナデシコ的おなごが好みとばかり思ってたが  
艶っぽいそそる女が好みだったんだなぁ。里にも色っぽいのが何人かいるが、ああいう華のある女いねえもんな。」  
 
「見ていたのか?!」  
半蔵の顔が真っ赤になる。  
 
「団子食べながら鼻の下伸びてたぜ〜。」  
 
弥彦に見られていた事にきづかなかったとは不覚極まりない。  
 
「扇屋は敷居が高い廓で有名でしてね。一緒にいたのは「お蝶」でしょう?  
明日、水揚げされ一人前の花魁になるそうですよ。  
ただ…ね。普通の女郎ならともかく、お蝶は昔から名を馳せる花魁になると言われていますから…  
金三枚では門前払いでしょう。  
それに明日は廻船問屋の旦那との水揚げが決まっているのはここらでは有名な話です。  
他にもたくさんおなごがいますから…ね。」  
 
遠まわしにお蝶はやめておけ。という事らしい。  
 
普段はあまり飲まない酒を弥彦と交わす。  
お蝶の事を考えると胸が熱くなる。  
気を紛らわせようと酒を仰いだはずが、気がつくと弥彦にお蝶の事ばかり話していた。  
 
「お前、その女郎に惚れたのか?」  
「分からぬ…、只、お蝶殿の事を考えると胸が苦しい。これが俗に言う恋患いという病気か?  
…それにまだお蝶は女郎ではない。かむろだ。」  
半蔵が何度も大きな溜息をつく。  
 
弥彦が畳に寝そべる。  
 
ーこれは重症だ。ー  
 
お役目に関しては里一番の手錬れのくせに、おなごに関しては下人の自分以下。  
まあ、そのうち嫁でも貰えば多少の免疫もつくだろう。  
半蔵の若い青年らしい部分を垣間見、弥彦は皮肉を込めて笑う。  
 
「…しかし、拙者は忍。お蝶殿は吉原の女人。住む世界が違いすぎる。その上、拙者の片思いだ。」  
 
「そうだ!良い事思いついた。」  
 
弥彦が起き上がると満面の笑みを浮かべる。  
弥彦がそんな顔をする時は決まってよからぬ事を思いつく時だという事を半蔵は知っていた。  
 
癖のある髪の毛を椿油で固め花魁髷に結い上げる。  
かんざしをさし、煌びやかな羽織に身を包み  
三つ指をたて、しなを作り男を迎える。  
「お蝶」は昨日の引き込かむろ時代の名前。今日からは花魁の「茜」が自分の名前。  
水揚げ用に造られた離れの座敷で初めての相手を待つ。  
 
「旦那様。今夜はたくさん可愛がってくださいまし…。」  
 
 
父が信頼していた兄弟弟子に騙され、多額の借金を背負ってしまい  
自暴自棄になった父は自決。母や兄、姉達と共に毒を服した。  
その前に食した物と一緒に毒を吐いてしまい、自分だけ生き残ってしまった。  
借金を取りにきた輩にそのまま人売り引き渡された。  
毛色が変わっているとこんな遠くの地に売られ今に至る。  
 
父親から教授された技や捌きの鍛錬は怠らなかった。  
毎夜、廓の者達が寝ている時に父親の姿を思い出し型を練習する。  
吉原では武術など必要ない。  
只、父の生きた道を残したかっただけだ。生きた証を…。  
それは幾度となく自分を助ける事になるとは知らずに。  
 
少し変わった毛色で他のかむろから馬鹿にされる事も多かったが  
根っからの負けず嫌いの気性で踊り、琴、三味線、茶道、歌を極め  
将来有望の引込かむろして期待される。  
いかにして男の気を引くか、喜ばせるか、興奮させるか  
姐女郎達の情事を隠し窓から見ては  
目線、しぐさを一人勉強した。  
 
水揚げ代も相場では異例の金百両。  
吉原に名を馳せる花魁になり、吉原で一花咲かせる。  
その後はどこかの金持ちに身請けされて大門を出る。  
 
夢も希望もないここでの唯一の道だ。  
 
姐女郎から貸して貰った本を読み漁る。  
ここでは味わえないような恋愛が綴られている。  
こんなものは絵空言。  
ここでの情は全て仮初め。  
恋は身を滅ぼす…。  
 
 
だが、出会ってしまった。  
一目で恋に落ちてしまった。  
黒い髪、黒い瞳。端正な顔立ちに影があるものの、どこか純粋さを持った瞳。  
自分の気持ちを悟られぬよう思わずはたいてしまった。  
つい気持ちと裏腹な事を口にしてしまう。  
 
すぐにその場を離れるつもりだったが、もう少しだけ一緒にいたいという気持ちが勝ってしまった。  
口数は少ないが、正義感と優しさを秘めている。  
その男に抱かれる事を想像しながら指を吸った。  
いつか自分の元を訪れてくれる事はあるだろうか?  
あの男は生真面目な男。  
嫁を貰えば廓に足を踏み入れる事はないだろう。  
 
今夜から毎夜、好いてもいない男を迎える。  
あの男に抱かれている事と考えれば…きっと耐えられる。  
 
「茜〜。もっとちこう寄れ。ささ、もっと酒を注げ!」  
古狸のような風貌の廻船問屋の主人・荒川が茜の肩を抱き自らの方に寄せる。  
 
「旦那様。酒も良いですが琴などいかがです?わちき、今日のために練習しましたの。」  
 
「音楽なんぞどうでも良い良い。はようお主を味わいたくてワシの愚息がウズいておるわ。」  
茜の耳に酒とヤニ臭い息がかかる。  
 
「その前にちょっと厠に行ってくる。良い子にして待っておれ〜!」  
「旦那様、早く帰ってきてくださいまし。」  
荒川は席を立つと赤ら顔でいやらしい表情を浮かべ、襖を閉め外に出ていく。  
 
 
下品な人…。  
これから毎夜、こんな日が続くのだから慣れなくては。  
茜は大きな溜息をついた。  
 
暫くすると、荒川が部屋に戻り茜の隣に座る。  
 
…?  
 
茜は先程と何か違う違和感を覚える。  
 
「夜風に当たってちょと酔いが覚めた。何か一曲弾いてくれんかのう。」  
 
離れから見事な琴の旋律が響く。  
廓の主人は琴の音を聞きながら、荒川から渡された金百枚を数え、その後の予定を打算する。  
 
 
おかしい…。  
 
先程まで楽に全く興味を示さなかった男が今は奏でた曲について風流な感想を述べた。  
先程のようにしつこくまとわりつかず、一定の距離を保っている。  
酒もあまり進まない。  
 
「旦那様。そろそろ…。」  
茜が布団の敷かれた隣の部屋に目を向ける。  
荒川に違和感を覚えつつもさっさと終わらせてしまいたい気持ちでいっぱいだった。  
 
煌びやかな羽織が何枚も畳に落ちる。  
肌着一枚の姿になり寝所に足を踏み入れる。  
 
この男があの方だったら…。  
ありえない事を思いながら布団に腰を落とす。  
 
「明かりがあってはそちも恥かしかろう。灯を消してやろ…。」  
 
荒川が行灯に手をかけようとすると茜が言葉を遮る。  
「お待ち下さい。その前にもう一口お酒を…。」  
 
寝所に用意されている徳利を出すと茜は右肩の肌着を下にずらす。  
年相応ではない大きめの胸がこぼれ出る。  
とれたての桃のようだ。  
徳利を鎖骨のくぼみに少したらすと溢れ出た酒がほのかに赤みを帯びた胸の中心に流れ落ちる。  
 
「さあ…わちきの器でお酒を楽しんでくだしゃんせ…。」  
 
茜が妖艶な笑みを浮かべると荒川は術にかかったかのようにゆっくりと茜に近づく。  
茜の前に膝を落とすと茜の右肩を抱くとゆっくりと口を鎖骨に近づける。  
 
酒と共に茜の鎖骨を口に含む。  
こんなに美味な酒を口にした事はない。  
荒川の体温が一気に上昇する。  
茜の甘い息が耳にかかった。  
 
「…そのお姿で私を抱くおつもりですか?半蔵殿。」  
 
…!…  
 
荒川が一瞬にして茜から離れると大きく跳びながら外に通じている障子まで下がる。  
 
「…何故、分かった?」  
姿は荒川だが声が半蔵の声に変わる。  
 
「厠から戻ってからの荒川様と身なりは同じでも中身は別人…。  
それに荒川様は廻船問屋。常に川の傍にいるので川の水…それにタバコの香りがします。  
でも、…今の荒川様からはほのかに火薬の香りがします。…半蔵殿と同じ香り。」  
 
ふうっ…と荒川の姿をした半蔵が小さなため息をつき、立派な羽織を脱ぎ捨てると  
一瞬のうちに変わった着物の逞しい青年の姿になる。  
 
「常人に見破られるとは、拙者の変装もまだまだのようだ…。見ての通り、拙者は忍。  
…恥ずかしながら、荒川氏に化けたままそなたを夜這いするつもりだったが  
正体を見破られてはもうここにはおれん。それに…拙者はそなたの客にはなれぬ。」  
 
何より、そなたに本気で懸想しているから…この姿では抱けぬ。  
とは、言葉に出せなかった。  
踵を返すと障子に向かう。  
 
「荒川様は…?」  
 
「眠り薬で夢の中だ。厠近くの物置にいる。すぐこちらに戻すから安心されよ。」  
 
「…でしたら、荒川様はしばらくそのままに。今、この場にいる者が私を抱く権利がありましてよ。  
半蔵殿の事ですから、分かっていなかったかもしれませぬが、女郎が自分の花代を出すというのは  
本当に慕ってる殿方のみだけ…。」  
 
それは即ち、この女も自分を慕ってくれているという事なのか?!  
 
半蔵が後ろを振り向く。  
布団の上に座った茜が肌着をめくるとゆっくりと脚を開き、一指し指と中指でゆっくりと未発達な花弁を広げる。  
 
…くぱぁ…  
 
「この花の蜜を吸うてみたいとは思わないのかしら?」  
 
この機会を逃したらこの男とはもう逢えないという事を本能で感じていた。  
ならば、姐女郎が客を虜にするという奥の手で…。  
 
艶を帯び、泣きそうな表情を浮かべた茜が流し目で半蔵を見つめる。  
行灯の弱い明かりに照らされた小さな花弁から蜜が一滴流れ布団を濡らす。  
 
何かが切れたような気がした。  
半蔵は気がつくと着ている忍衣装束を脱ぎ捨て、女人を布団の上に組み敷いていた。  
 
「茜殿…。」  
「『楓』と呼んでくださる?…私の本当の名前…。」  
 
「かえで…。」  
「半蔵殿…。」  
 
楓が半蔵の首に手を回し、どちらともなく唇を合わせる。  
 
…ちゅ…。くちゅ…。  
お互いの舌が絡む。それだけで二人の体温が上がる。  
 
半蔵が器用に楓の帯を解き、肌着を脱がす。  
形の良い胸が二つ踊り出る。  
半蔵は唇から首、鎖骨に舌を這わせると左の楓の胸の中心を口に含む。  
右の胸は揉まれる度に形を手のひらで変え、先をつまむとわずかに楓の身体が跳ねる。  
 
 
「では、次は私が…。」  
楓は半蔵の上に馬乗りになると白い指を身体に這わせる。  
 
「逞しい身体…。」  
身体のいたる所に細かい傷が見える。  
指は胸から腹、下へと下りていく。  
既に半蔵の男根は堅く脈打ち上を向いていた。  
 
「男性は皆、荒ぶる刀を身体にお持ちなのね…。」  
間近で男根を目にしたのは初めて。  
しかし、どうすれば良いかは分かっている。  
 
両の手で男根を優しく包むと股間に顔を沈め、亀頭を口に含む。  
舌を絡めながらゆっくりと頭が上下すると  
半蔵の男根は更に堅く太く、熱を上げていく。  
舌は的確に半蔵の快楽のツボを抑えている。  
 
ちゅ…ちゅば…じゅる。  
 
そろそろ快楽の波が近づき、半蔵が腰を引くが楓は半蔵を放さなかった。  
 
…!…  
 
楓の口の中にこれまで口にした事のない苦く、どろりした液が広がる。  
半蔵の男根から口を離すと楓の口の端から白い液が流れる。  
 
「無理をしなくても良い…!吐き出せ。」  
昔、性技の指南を受けた年上のくの一から男の精液は苦く不味いものだと教えられたのを思い出す。  
楓の喉が鳴る。どうやら飲んだようだ。  
 
心配そうな表情を浮かべる半蔵を横目に、楓は口の端から流れた白い液を指でぬぐい取り、口へと運ぶ。  
 
…ちゅぱっ…  
 
「姐さん達は不味いと言っていたけれど、半蔵殿の味…、私は嫌いじゃなくてよ。」  
楓が色っぽく、優しく笑いかける。  
 
その顔を見て、半蔵の男根はすぐに熱を取り戻した。  
 
「そなたの花の蜜を吸うてみたい。」  
 
半蔵は楓の腰をかかえ脚を開かせると楓の秘所に口をつける。  
小さな花から少しずつ蜜が溢れてくる。  
どことなく甘く感じる。  
 
「そなたの蜜はとても美味だ。」  
 
楓の顔が真っ赤になる。  
姐女郎達が毎夜客に囁いていた言葉がこんなにも卑猥な事だったと知る。  
 
花の芯を舌で刺激すると楓の息が荒くなるのに気付く。  
芯に吸い付き刺激をあたえ続けると、やがて楓の身体が大きく跳ねる。  
 
「あっ…。」  
一瞬、目の前が白くなった。  
これが姐女郎達が言っていた「極楽」というものだろうか。  
 
更に蜜で湿った花の小さな穴に半蔵の指がねじ込まれる。  
「きゃっ!」  
楓の顔が苦痛に歪む。  
 
「すまぬ…!」  
慌てて楓の中から指を抜く。  
今まで生娘を相手にした事がなかったため、加減が分からない。  
どうしたら良いかと固まっていると、楓が半蔵の指を舐め、自らの花へと導く。  
 
「もういちど…。」  
半蔵が少しずつ楓の中に指を入れ、優しく出し入れする。  
何度も出し入れすると、一定の場所をこすると反応する箇所をみつける。  
そこを何度もこすると楓の身体がもう一度大きく跳ねる。  
 
「あぁ…。」  
半蔵が指を抜くとそこから更に多くの蜜があふれ出る。  
 
半ば惚けた眼を半蔵に向ける。  
 
「女は花の中に殿方の荒ぶる刀を納める鞘があると言います…。…貴方様の刀を私の中へ…。」  
 
半蔵は小さく頷くと荒ぶった自分の刀を楓湿った花にあてがう。  
くちゅり。と蜜が溶け合う音がする。  
 
大きく、堅く、熱いものが楓の中に進入し始める。  
目鼻立ちの整った綺麗な顔が苦悶の表情を浮かべ、首をふるとかんざしがぽとりと布団に落ちる。  
楓が半蔵の背中に爪を立てる。  
 
女人達が初めての時と出産の時は気が遠くなる程の痛みを伴うという。  
だが、頭では分かっていても身体が言う事を聞かない。  
 
根本まで楓の中に静めると中の肉壁が半蔵の男根を締めあげる。  
その時、今まで味わった事のない快楽が半蔵の中を電流のように駆け巡る。  
「…くっ…」  
思わず声が漏れる。  
 
女の中には「名器」を持つ者がいるという。  
それは膣の中に数の子を持っていたり、みみずを千匹飼っていたり、巾着を持っているという。  
半蔵を締めつける楓の中は沢山のみみずがいるかの如く、肉壁が男根を這い、締め上げる。  
 
男根を出し入れする度に電流のような快楽が支配し、やがて楓の鞘の中に欲望を解き放つ。  
だが、楓の鞘が締め付けると、すぐに中で大きさを取り戻す。  
 
楓を四つんばいにすると更に後ろから責める。  
身体が揺れ、またひとつかんざしがふとんに散る。  
 
初めは痛み以外感じなかったが、楓の中に少しずつ快楽の波が押し寄せる。  
半蔵が貫く度、少しずつ。  
 
…ぬっぷ…じゅぷ…  
 
卑猥な音と腰を打つ音、二人の荒い息使いが部屋に響く。  
 
「はぁ…ん、はんぞ…殿。…あぁ…ん。わた…し、もう…、あっあっ…!」  
 
楓の身体さ大きくのけぞり、同時に半蔵をきつく締め上げると、再度半蔵は楓の中に欲望を流す。  
後ろから楓を抱き込むとそのまま二人で布団に突っ伏す。  
 
楓の中から自身を抜くと、太ももをつたい白い液と紅い血が流れる。  
二つの液は途中で交わり、布団に桃色の染みを作る。  
 
「かえで…殿?」  
緊張が切れたのと疲労と痛み、初めての快楽によりそのまま寝入ってしまったようだ。  
楓の目には涙が浮かんでいた。  
 
快楽の中、夢を見た。  
これが極楽の夢なのだろうか?  
可愛らしい二人の童達が自分を母と呼ぶ。  
自分は台所で食事の用意をする。  
ふり返るとその先には大きな背中の男。  
愛する私の旦那様…。  
 
 
目を開けるとそこは暗闇。  
障子を抜けた月の光が部屋をぼんやり照らす。  
自分には来るはずのない幸せな夢を見ていたようだ。  
 
ゆっくりと身体を起こす。  
少し身体がだるい。そして所々が痛む。  
辺りにはかんざしが散らばっていた。  
布団をめくると汚れていた自分の身体が綺麗になっている事に気がつく。  
だが、隣には誰もいない。  
 
 
「行ってしまったのね。」  
楓が寂しそうに一人呟く。  
 
せめてもの先程の事が夢でなかった事に安堵する。  
もう逢えないと思っていた。  
けれど逢いにきてくれた。  
抱いてくれた。  
これ以上の事は望んではいけない…。自分は吉原の女だから。  
 
隣の部屋からかすかに明かりが漏れている。  
枕元に丁寧にたたまれた肌着に袖を通すと襖を開ける。  
 
部屋の中央には変わった着物を着た半蔵が正座で鎮座していた。  
 
「もうすぐ夜が明けますわ。そろそろ荒川様も帰していただかないと…。」  
まだ男がいた事に喜びを感じつつも、現実に戻らなければならないと自分に言い聞かせる。  
 
「楓殿。そなたに頼みがある。」  
 
楓は半蔵の前に腰を下ろす。  
くせのある前髪と、情事でほどけた後ろ髪がゆらりと揺れる。  
 
半蔵は一度大きく深呼吸をすると畳に額をつける。  
後ろに縛った黒い髪が首から畳へと落ちる。  
つまり、土下座である。  
 
「拙者の嫁になってくれ…!」  
 
楓は想像しなかった願いに驚きの表情と共に目を見開く。  
 
「拙者はこの通り、忍の者。影で生まれ、影に死ぬ。  
お役目で長く留守にする事もあり、いつ命を落とすかも分からぬ身。  
だが、武家以上の暮らしは保証する…!  
 
「半蔵殿…?面を上げてくださいまし。」  
 
「逢って一日だが、拙者はそなたに懸想…いや、愛してしまった!  
これから先、他の男がそなたを抱く事を想像すると拙者の胸が張り裂けそうになる。  
男達を片っ端から闇に葬る鬼と化してしまいそうで自分が恐ろしい。  
そなたが少しでも拙者を想っているというなら…頼む!」  
 
半蔵の耳までもが真っ赤に染まった。  
 
楓がそっと半蔵の肩に手を置く。  
てっきり今晩の事は忘れてくれと頼まれるものだと思っていた…。  
 
「分かりましたから、面を上げてくれないかしら?」  
 
「楓…殿?」  
半蔵がゆっくりと顔を上げる。  
楓が困ったように笑っていた。  
 
「私も逢って一日ですが、貴方を愛しております。  
貴方様が初めての相手で本当に良かった。  
…ひとつ、約束してくださるかしら?…私より、先に死なないで…。」  
 
もう残されるのは嫌だから…。  
 
半蔵が楓の手をとる。  
「では…!」  
 
楓が顔を赤らめながら小さく頷く。  
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします…。あなた…。」  
 
半蔵が強く楓を抱きしめると、楓の頬を一滴の涙が伝った。  
 
スパーン…!  
小気味良い音と共に目の前の障子が大きく開く。  
 
半蔵と同じ変わった着物を着た男が荒川を抱えて部屋に入る。  
 
「弥彦…。もう少し空気を読んでくれぬか?」  
半蔵が弥彦と呼ばれる男を見ずに言い放つ。  
 
「お前がお楽しみ中、俺はこの狸おっさんと狭い物置の中で一夜を過ごしたんだぞ!」  
手際よく荒川の肌着をはぎとり、裸にすると寝所に蹴り込む。  
薬が効いているのか荒川は大いびきで布団に転がる。  
 
「おい、そろそろ用意しろ。連れて帰るんだろ?そろそろ夜が明けるぞ。」  
弥彦が荒川の肌着を放り投げる。  
 
「かえでど…楓。何か持ち出したい大事な物はあるか?」  
楓が首を横にふる。  
 
「では…。御免!」  
楓の首にちくりと痛みが走ると意識が遠のいていく。  
 
楓の肌着を手早く脱がせ荒川の着物の近くに放りなげる。  
「弥彦。こちらを見るでない。」  
自分の忍着物の上着で楓を包む。  
 
こりゃ、嫉妬深い旦那になるな。と弥彦は心で思った。  
弥彦が二つの風呂敷を半蔵に投げる。  
「一つはお前の荷物。もう一つはおえん殿から。  
中には女人の旅着物、草履等一式が入っているらしい。女の勘ってすげーな!」  
 
おえんはこうなる事を予想していたのだろうか?  
 
半日前、冗談半分に  
「そんなに好きなら水揚げ相手に化けて夜這いすればいいだろ。どうせ相手が誰でも違いねえんだから。」  
と、軽く言った事が大事になってしまった。  
夜這いした花魁をそのまま嫁に決めてしまったのだから。  
これは大変な事になるなと思いつつ、これから里で起こる事を想像すると笑いが止まらなかった。  
 
 
その朝、一人の女郎が吉原から消えた。  
女郎の持ち物や着物はそのまま。情事の痕跡もある。  
だが、相手の男は厠に行ってからの記憶がないという。  
 
人々は口々に「神隠し」だと噂したという。  
 
外から鳥の鳴き声と多くの人が行き交う声が聞こえる。  
楓が再度目を覚まし見渡すと、見知らぬ部屋の天井が見えた。  
 
「ここは…?」  
 
部屋に急須と湯飲み、ささやかな朝げを盆に乗せた人の良さそうな老婆が部屋に入ってくる。  
「おや、目をさましたのかい?気分はどうだい?」  
老婆の後ろから半蔵が姿を現す。今は武士の着物を着ていた。  
老婆は半蔵に軽く会釈すると襖を閉めて出ていく。  
 
「ここは里近くにある宿。今から出れば昼刻には伊賀の里に着く。」  
 
宿…?!  
 
楓は布団から出ると近くの窓から外を伺うと  
外には旅の路を行き交う大勢の旅人達や馬を連れた者達。  
近くの山々は紅く色付いている。  
 
ここは「外」。  
大粒の涙が楓の頬を伝っては着た覚えのない山吹色の着物を濡らす。  
 
「…どうした?どこか痛むのか?…ここまで来るのにいくつかの関所があり  
荷物と共にそなたを運ぶ必要があり、少々眠って貰う必要があったのだ。許せ。」  
表情はあまり変わらないものの、困っているようだ。  
 
風が部屋に吹き込み楓の髪が上に舞う。  
日光が当たったその髪はより赤みを増して見え  
まさしく大きな「楓」となり風に乗る。  
 
 
宿を出て、山に入り獣道を暫く登ると開けた場所に出る。  
「ここで少し休むとしよう。ここからもう少し先に行くと伊賀領に入る。」  
自分を気遣っての事だろう。  
さりげない優しさに楓の胸が熱くなる。  
 
水を飲むと楓は袖をまくり、着物の裾をまくし上げ裾を帯に入れる。  
白く長い手足が外気にさらけ出される。  
楓は半蔵の前に進み出ると構えた。  
「何を…?!」  
 
「毎日鍛錬を忘れた事がなかったのよ。昨日までは…ね。組み手の相手になっていただける?」  
半蔵は無言で頷くと侍袴から忍装束へと一瞬のうちに着替える。  
 
「手加減は無用。真剣になさらないと骨が折れましてよ。」  
楓がにっこりと妖しく笑う。  
 
拙者はこの顔に弱いのかも知れぬ…だが!  
忍び刀を地面に置くと半蔵も構える。  
 
「いざ…尋常に…!!」  
 
 
女人だからと心のどこかで軽く考えていたのかもしれない。  
だが、彼女の繰り出す技はまともに受ければ間違いなく自分の骨をも砕く。  
隙を付き、寝技に持ち込めば…!  
楓の身体を掴んだはずが、空を掴む。  
半蔵の手から逃れ、白い脚が半蔵の脚を払い、地面へと転ばすと  
体制を立て直した楓のかかとが空を斬り、そのまま半蔵の顔へと降り落とされる。  
 
「参った…!」  
楓のかかとが半蔵の鼻の先で動きを止める。  
 
手をぬいたわけではない。  
刀と忍術を使わなければ今、この女には勝てないだろう。  
我ながらとんでもない女に惚れてしまったと思いつつも  
まだまだ武術に関して修行が足らないと静かに笑う。  
 
「久しぶりに手応えのある人と組み手ができて、私…楽しかったわ。」  
白い脚が半蔵の目前にくる。  
一昨日の夜の事を思い出し、半蔵の身体が急激に熱くなる。  
 
無意識に楓を立ったまま木にもたれかけさせるとそのまま乱暴に唇を奪う。  
 
「すまぬ…我慢できぬ。」  
 
着物の前合わせを乱雑に広げ、踊りでた桃のような胸にしゃぶりつく。  
 
「あ…なた…。」  
指が楓の花をそっと撫でると中に進入する。  
一昨日よりも滑らかに進入する事ができた。  
そのまま傅くと楓の右脚を肩にかけさせ、指を中に進入させたまま花の芯を吸う。  
 
…ちゅり。…  
 
「昼…に、こん…な場所で…、ダメよ…あんっ!」  
楓の身体が跳ねる。  
 
「はあ…。でも、嫌じゃないわ…。私…。」  
熱っぽい視線を投げかける。誘っている目だ。  
 
…ずりゅ…。ぬぷ…  
 
荒ぶった自身を忍袴の隙間から取り出すとそのまま楓の中を貫く。  
またもや電流のような快楽が身体じゅうを走る。  
木に背に立ったままもたれかけさせ、右脚を抱え腰を打つ。  
 
今この場に刺客が現れれば、間違いなく討たれるだろう。  
だが、それでも止められない。  
 
身体が揺れるとその振動が木を伝わり枝をかすかに揺らす。  
二人の上に紅葉がひらひらと降り注ぐ。  
 
半蔵の動きがいっそう速くなると楓の息も激しくなる。  
 
「はぁん…!あな…た。私の中に…出し…て!」  
 
更に大きく身体が揺れると再び半蔵を中から締め上げる。  
それと同時に半蔵の男根が大きく脈打ち、楓の中に自分自身を全て吐き出す。  
 
楓の中から抜くと白くどろりとしたものが脚を伝い足元の落ち葉に落ちる。  
紅い紅葉に白い斑点が広がる。  
楓はゆっくり半蔵の前に腰を下ろすと自分の蜜と半蔵自身の体液で汚れた男根をしゃぶり、綺麗にする。  
 
「綺麗にしないと。その黒い着物が汚れてしまうわ。」  
 
「も、もう良い…!」  
 
これ以上刺激を与えられたらまた抱きたくなる…!とまでは口に出せなかった。  
急いで楓から離れると身支度を整える。  
 
あのまま吉原にいたら、間違いなく名を馳せる花魁となっていただろう…  
と、半蔵は身を持って実感する。  
 
二人が出羽山中にある伊賀の里に着いたのは夕刻を過ぎていた。  
隠居の屋敷の広間で大勢の相談役達が到着を待ちかねている。  
先に里に着いた弥彦から、事の次第が報告され  
先代半蔵が甲賀のくのいちを連れて戻った時以来の衝撃が里を取り巻いた。  
 
里の相談役や、娘を嫁にと企んでいた者達が  
自分達の目論見が崩れ、思い思いに愚痴を吐いていた。  
 
先代半蔵の時もこんな事があったなと隠居は思い返していた。  
現半蔵の師である先代半蔵も同じく、端正な顔立ちだったが、  
今の半蔵と違うのは女人に対して手が早かったという事だった。  
 
里の女はもちろんの事、吉原の遊女や町娘、どうやらとある大名の側室まで手を出していたというのだからタチが悪い。  
それが事もあろうかお役目を邪魔してきた甲賀のくのいちにも手を出した。  
そのくのいちが本気になってしまい、押しかけ女房のような形で伊賀に居着いてしまったのだ。  
 
くのいちは勝気な女で、文句を言う輩達やくのいち達に腕比べを申し込み  
力と技で捻じ伏せた。  
 
「さっさと娘に半蔵殿の床に夜這いをかけさせれば良かった。」  
「ふんっ、お主の娘は顔がいまいちじゃから勃たんじゃろ。」  
「何を?!」  
「誰が半蔵殿に吉原を薦めたんじゃ?!」  
「まさか花魁の色仕掛けに落ちるとは…。」  
 
「そろそろ静かにせんか!!」  
 
隠居の声と共に人々が一斉に声を噤む。  
 
「服部半蔵、只今戻りました。」  
襖が開き、半蔵と若い女人が部屋へと入る。  
誰もが連れてきた女を穴が開くほど見つめる。  
 
「その女がそなたの嫁か?」  
 
茶色の髪の毛をゆらし、ゆっくりと頭を下げる。  
「楓と申します…。よろしくお願いいたします。」  
再びゆっくりと面を上げると流し目で周りの者達を見やり  
艶を含めた瞳で妖しげに笑みを浮かべる。  
 
相談役の男衆達が喉を鳴らした。  
 
面白い…この場にいる男衆達を色仕掛けで落としよった。  
 
隠居はにやりと笑うと静かに口を開く。  
「約束は約束じゃ。三月以内に嫁を決めたのじゃから、その女を嫁にするが良い。  
半蔵よ。今以上にお役目に励めよ。…以上じゃ。」  
 
「御意。」  
 
小さく安堵の息を漏らすと半蔵が深々と頭を下げた。  
 
隠居はいまだに不満を漏らす一部の者達を部屋に残すと、そのまま縁側に出て月を仰ぐ。  
暗闇を丸い月がぼんやりと照らす。  
 
先代半蔵は甲賀の手錬れくのいち。  
今の半蔵は吉原の花魁。  
それぞれ面白い女を嫁に迎えたものだ。  
では…、次に半蔵の名を襲名する者は一体どんな女を嫁にするのか。  
 
「まだまだ長生きせねばならんのう…。」  
 
 
半蔵の屋敷へと歩いている途中、半蔵は自分の首巻を外すと優しく楓の首に巻く。  
「秋の風が一段と冷えるようになった。風邪などを召さぬよう…。」  
「ありがとう…ございます。」  
 
「新しいお役目を先程拝命した。一週間後に発ち、暫く留守にする…大丈夫だ。お主より先には逝かぬ。」  
「あなた…。私に忍術とやらを教えていただけないかしら?私…、負けず嫌いなのよ?  
それに…一方的に待つのは好きじゃなくてよ。」  
 
「分かった。」  
半蔵は優しく楓の肩を抱き、自分の方に寄せるとゆっくりと再び歩き出す。  
 
秋の冷たい風が吹き、楓の首巻を空へと舞い上げるが  
二人の心と身体は暖かかった。  
 
半蔵の肩に真っ赤に染まった紅葉がひらりと舞い落ちた。  
―もうじき冬が来る。  
 
 
(終)  
 
 
 
 
〜おまけ 数年後〜  
 
「父上、はやくかえってきてね!」  
楓に良く似た子供が心配そうに半蔵をみつめる。  
半蔵に似た子供も楓の腕の中から心配そうな瞳を半蔵に向ける。  
 
今回のお役目は三月かかると言われている。  
 
「真蔵。わがままを言って父上を困らせてはいけませんよ。」  
優しく諭すと腕の中の子供を下に下ろす。  
 
「あら、あなた、肩に糸くずが…」  
楓が半蔵に近づき、糸を払う仕草をしながら耳元で囁く。  
 
「あなた…。早く帰ってきてくれないと、私…寂しくて、違う刀を私の鞘に納めてしまうか…も。」  
 
その後、三月かかるであろうと言われたお役目は、一月という異例の早さで遂行されたという。  
 

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