地上からの高さは測ったように15フィート。木の枝に凧が乗っている。  
しかし枝は細く登るには心もとない。  
 「どうしよう」  
 そう悩んでいた子供達の間を一人の若者がすり抜けると、いつの間にか  
凧を持って差し出した。  
 「お兄ちゃんありがとう」  
 不気味な妖術使いと岩から出た悪魔をめぐる冒険譚に比べれば実に小さい  
が立派な正義だ。青い忍者は犬達を連れて手を振って後にした。  
 
 船が何艘も浮かぶ港を、ぼんやりとガルフォードが眺める。  
 「えっ?」  
 パピィの一言に慌てる。  
 「あの小さい女の子に会いに港に来たんだろうって?」  
 パピィがまた一声吠えた。  
 「違う違う。たまたまさ。偶然気が向いて、気が付いたらここにいただけ」  
 しかしパピィは騙せない。だがそこはパピィだった。納得したフリをして  
やる。ガルフォードはまた船を見ていた。  
 ガルフォードは気が付いた。気配がする。覚えがある気配がする。いや、  
忘れるわけがない。  
 「ナコルル!!」  
 あの赤い大きなリボンの少女が転がるように走ってきた。  
 「どうしてここに?」  
 「それは、ガルフォードさんに会いたくなったから!」  
 そう言うなり飛びついてきた。軽い体重が胸にかかる。  
 「え!?え!?」  
 驚いたけれどうれしかった。少し恥ずかしいけれど誇らしい。  
 「ずっと会いたくて…」  
 ナコルルの目が輝いてる。見てるだけで空が桃色に染まって落ちてきそう  
な気分だ。  
 「あの、ちょっとこっちに来てくれませんか」  
 「うん」  
 
 「実は、ガルフォードさんにですね」  
 つばを飲んで続きを待つ。  
 「いや、やっぱり言えない。ああでも言わなきゃ。実はですね、私の、大事な  
人になってもらいたいんです」  
 そこまで聞いて全身がしびれた。立っているのが危なくなる。  
 「それで、それで、ガルフォードさんと、今日はその、一緒になりたいんです」  
 目の前がかすむ。今顔は上を向いてるんだろうか。それとも天を仰いでるんだ  
ろうか。気力を振り絞って正気に返った眼前に、薄い胸を露にしたナコルルが  
立っていた。最大の衝撃だった。柔らかそうなその肌。今まで夢にも見なかった  
全裸のナコルル!!なんてかわいらしく、正気を失わせるに十分な姿か。  
 「ガルフォードさん…裸になって…来て…」  
 言われるままに、人形のように、ゆっくりと服を脱いだ。それにしても、どう  
してあの短刀を手放さないんだろう、と思った時、ナコルルが消えた。後には  
ナコルルに似た服と海草と竹細工、そして粗末な短刀が落ち、その上に忘れも  
しないあの赤いリボン、緑の黒髪、ナコルルが着地した。  
 「ガルフォードさん!!あれは偽者!!大丈夫?」  
 「あ…あ…」  
 「よかった…間に合って」  
 そっと足下に寄って装束を持ってくれた。  
 「私でもビックリするくらいそっくりだったんです。それの後を追っていたら  
ここに」  
 「そうなんだ。ありがとうナコルル!!」  
 あ、と気が付いて顔が赤くなる。目の前にいるのはナコルルなのだ。  
 「そういえば、ガルフォードさんここで何してたんですか?」  
 「ううむ、それはそれは、それはね」  
 「ううん、いいんです。会えてよかった」  
 「そ、そうだね」  
 焦りを滲ませた照れ隠しの笑みが出た。  
 

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