「ナコルル……」
そう呟いたのは銀髪の忍者、ガルフォード。
先程呟いたのは今は亡き愛しの少女の名前。
小さながらも頼れる相棒パピーは鬼籍には入り、今は一人。
今は己が正義に殉じ、世のため人のため、悪事を働く者共を成敗している。
しかし……
「俺の正義は……本当に正義なのか?」
ガルフォードの成敗とは殺す事。 つい最近自分が殺した悪党の息子に刺された。
幸い命に別状はなかったが、それ以来、子供の投げた言葉が頭から離れない。
ガルフォードの正義とは強さを挫き、弱さを助け、悪を許さぬもの。 しかし、人を殺すことは悪ではないのか? ならば、自分の正義は、本当に正義なのか……?
そう迷っていた。
「むっ?」
ふと森から人の気配を感じ、ガルフォードは背中の刀の柄に手をかける。
出てきたのは……
「待ってよ、リムルル!」
「へへーんだ、追いついてごらんなさーい♪」
(あれはナコルルの妹の……)
森から出てきたのは赤毛の少年と青い頭巾をかぶった茶髪の少女。
顔を見た時、思わず隠れてしまったガルフォードはあの二人の子供を知っている。
一人は“鬼”と呼ばれた剣士“壬無月斬紅朗”にまつわる事件で知り合った傘使いの少年。
もう一人は、自分が愛した少女の妹。
何故、あの二人がここに……
そう思ったガルフォードの耳に二人の会話が入る。
「もう……あれから何発出されたと思ってるんだよ……」
「え? 何がー?」
何発? 出された? 何を?
そう思ったガルフォードの耳に衝撃の言葉が!
「ぎょっ、玉茎の! その……せ、せーえき……」
衝撃のあまり思わず倒れそうになったガルフォード。
無理もない、子供の口から大人しか知らない言葉が出てきたのだ。
(ということはこの二人……)
まさか!と思ったガルフォードの耳に頭巾の妹の声が流れる。
「いーじゃんいーじゃん、そんな細かいこと。
さっきで七回目でしょ、小作りごっこ」
「ごっこじゃなくて、ホントの小作りでしょ!」
「だってアタシ、妊娠してないもーん」
予想はしていた。 まさか愛した少女の妹がこんな事をしていたなんて……。
(しかし、ここは叱ってお……)
そう思った時、脳裏に自分を憎んだ子供の顔が。
(何故、あの子の顔が……)
そんな時、またも二人の会話が耳に入る。
「もし子供出来たらどうするのさ!」
「んー……その時は閑丸がお父さん!」
かぁぁぁっと赤面し、大声でばかーーっと叫ぶ赤毛の少年。
その姿を見て、相棒と共に自分が助けた夫婦の顔を思い出した。
『どうも助けて頂いてありがとうございます』
『どうお礼をすれば良いか……』
『いえいえ、気にしないでください。 正義の味方に見返りはいりませんから!』
そんな事を思いだし、どこか気持ちが晴れた気がした。
「少し続けていくか……正義の味方」
そう言うと、夫婦のようにじゃれ合う二人の子供に、
「幸せにな」
そう呟くように言うと、どこかに飛び去っていった。
「ハッ! 叱るの忘れた」