「見つけたよ……黒羽の…」
目の前には、黒装束の男。
「京次郎、こいつが奉行か」
「そぅ。……こいつがいなくなったら…この天原はどうなるだろうねぇ…」
お京……京次郎が己の方を向く。
目が潤み、
小さな口から熱い吐息がもれ、
美帝骨を握る白い手は、小刻みに震えて…
あぁ……綺麗だ…
こいつは今、とても綺麗だ…
「邪魔、しないでねぇ…」
「わかってるよ……。己はあっちの同心でも斬ってるか…」
騒ぎを聞いて駆けつけてきた同心だ。確か武藤と言ったな…
「お京」
「ッ!…何だよっ!その名で……」
「お前、とても艶っぽいぞ」
「…………」
真っ赤に頬を染めた京次郎など、そうそう見られるものではないな。
そんな事を考えながら、己は鍔を鳴らした。
「……貴様、何度か奉行所に出入りしていたな…」
武藤と適当な間合いを取り、己は柄に手を掛ける。
「野暮用でね」
「己はてっきりいつぞやの怪しい薬売りの仲間かと思っていたが……まさか青門組とはな」
武藤の口がつり上がった。
奴の手も既に柄に掛かっている。
「別に、青門組に荷担しているわけじゃない」
「ほぅ……?」
「そっちで御奉行叩いてるソイツに協力してるだけさ」
己は刀を抜き払って、上段に構えた。
武藤が訝しげな顔をする。
「その刀……」
「……中村クン、噂されてた程じゃなかったね」
「…まさかッ!?」
鮫肌丸。
故中村宗助の元愛刀。
武藤が刀を抜き、横に構える。
「きっさぁまぁぁぁぁっ!!」
激昂した武藤の刀が殺意をまとわりつかせて向かって来た。
今、上段に構えている己の腹はガラ空きである。
まだ下ろさない。
まだ下ろさない。
まだ下ろさない。
「うるぅあぁぁっ!」
…今だ!
鮫肌丸の刃は武藤の刀が己の腹を破る前に、奴の頭蓋骨を叩き割り、脳膜を喰い破った。
眼球が飛び出た武藤の頭を踏みつけ、刀を抜き取る。
被りものに食い込んでいたが、さすが良い刀だ。
刃こぼれが少ない。
武藤の羽織りの袖で刀についた血と脳漿を拭い、鞘に収める。
後ろを向くと、既に決着が着いていた。
黒羽の死体を引きずってその場から逃げようとする満身創痍の同心を京次郎が斬りつけ、やっと静かになった。
チンピラが屋敷に戻って行く中、己と京次郎はどこに行くでもなく祭りの跡に佇んでいた。
「……もっかい、言ってくれよぉ…」
「……何を?」
京次郎がゆっくりと歩み寄ってくる。
「艶っぽいって……言ったじゃないかぁ」
己は瓦礫に腰掛けた。
「…そんな事言ったかな?」
刀を腰帯から取り、脇に置いた。
「ぃ……いじわるは止してくれよぉ」
京次郎…いや、お京が泣きそうな顔になった。
「………お京、とっても艶っぽいぞ。今のお前、綺麗だ」
お京が胸にしだれ掛かって、真っ直ぐな目で見つめてきた。
「……綺麗で、艶やかで、色っぽくて…」
「好きだ」
己はお京と唇を重ねた。
「あぁ……んっ…」
「…………っ!?」
お京を脱がせようと手を伸ばした途端、脇腹に焼け付くような痛みが走った。
どうやら武藤に少しばかり斬られていたようである。
「どうしたんだい?……フフッ」
お京が傷口に手を這わせた。
「痛っ」
「フフフ……アンタ、しくじったみたいだねぇ…」
着物の前をはだけられ、傷口が夜の冷たい空気に触れる。
「そんなに…血は出ていないな…」
「でも……深いんじゃないかい?」
「腹の皮少し斬られただけで、深いなんて言えねぇよ」
ぺろり と、お京が傷口を舐めた。
「カハハッ!…くすぐってぇなぁ!」
こそばゆいのもつかの間、再び焼け付くような痛みが襲った。
お京が舌を傷口に入れてきたのだ。
まるで、男が女の陰に舌を入れるみたいに。
「ぬぅ……っ」
「ああ……アンタの血の匂い……たまんないよぉ……」
「この……変態め」
痛みが快感に変わってきたようで、先程から褌がきつくてたまらない。
人の事など言えぬ。己も変態の仲間入りというわけか。
負けじとお京の腰巻の中に手を入れる。
「おいお京、漏らしたのか?」
そこは小水を漏らしたかと思う程に熱く濡れていた。
「だってぇ……アイツ、なかなかに強いんだ…あの奉行……それに…」
これだって、と再び己の傷口に舌をねじ込む。
お京のおかげでもう出血は止まっていたが、勃ちっぱなしの股間に血が行っているようで頭がクラクラする。
まぁ、このまま全てお京に身を任せるのも…
任せて、そのままお京に殺されるのも…
一興、だな…