「ただいま帰ったぞー」
家門をくぐりながら、伍助は声を上げた。
玄関に腰を下ろして草鞋を脱ぎながら、伍助は少し不審そうな顔で背後を振り返った。
いつもなら、この声をきっかけにして、どどどどど、と廊下を走ってくる足音が聞こえてくるはずである。
(「ごっちんおかえり〜」「これ、武家の妻女ともあろうものがはしたない」とまでのやりとりが1セット)
「志乃、おらぬのかー?」
ちょっと不満そうに、伍助は居間へ向かった。人の気配がする。
「志乃ー、いるのなら返事くら・・・おわっ」
志乃は横になって自分の腕を枕にして、すーすー寝息をたてていた。その手元には、原因であろう酒瓶が握られていた。
伍助の目が釘付けになったのは、そのはだけた着物の裾・・・部屋の隅の明かりに照らされて、露わになった真っ白な太もも、だった。
ごくり、と唾を飲み込み、片手で自分に目隠ししながら伍助はわざとらしく咳払いした。
「これ。これ、志乃。起きぬか」
ゆさゆさと志乃の肩を揺する。志乃のほんのり温かい体温を手のひらに感じて、伍助は少し動揺した。
「・・・ん。あ、ごっちん、おっかえり〜」
語尾にハートマークでも付きそうな勢いで、志乃はがばっと伍助に抱きついた。硬直する伍助。
「ま、待て。志乃、起きろ」
「起きてるよぉ〜。うふふ〜」
ぎゅう、っと更にしがみつく。ふわっと梅の匂いがした。伍助、一瞬ぼうっとする。
「飲んでおるな」
「ウン! おとなりにもらったの〜。うーめしゅ〜」
志乃は徳利を傾けて口に含んだ。こくり、と白い喉元がゆっくりとおいしそうに嚥下する。伍助、見惚れ、ぶるぶると首を振る。
「し、志乃、そこに座りなさい。武家の妻女ともあろうものが・・・」
「えへへ、ごっちんにも、おすそわけしたげる〜」
再び徳利に直接口をつけて、志乃は伍助にがばっとキスをした。伍助、目を白黒。
口中に送り込まれてきた梅酒を飲み込んで、伍助はなんとか志乃から身を離した。
「あははー、おいしかった〜?」
「・・・・・・」伍助はあせって口をぬぐい、何と言うべきか悩んだ。
「ねぇねぇ、ごっちん。あたしたちってさー、夫婦だよねぇ?」
機先を制したのは志乃だった。
「う、うむ。何を今さら・・・」
「だったらさあ、なんで、あたしに手ぇ出してこないのよう」
言いながら、志乃は胸元を強調するようにしなを作った。残念ながらあまり色気のある様ではないが、伍助には十分だった。
「そ、それはだな、オレ達にはまだ早いし、やっぱり少年誌の限か・・・」
「スキあり〜!」
しどろもどろで答えていた伍助は、突然猫のように飛び掛ってきた志乃にばたん、と押し倒された。
「ななにをする!」
「えへへ、あたしの方から手、出しちゃうねぇ」
伍助に覆いかぶさりながら、ぎゅうぎゅうと胸を押し付ける。伍助、顔真っ赤。
「まてまて、まて! 志乃、待てと言うに!」
「ヤダ、まーたなーいもーん」
志乃は逃げ腰の伍助に密着したまま、いかにも嬉しそうに笑った。
「ごっちんが悪いんだからねー」
「オレの何がわるかったと・・・」
「ごっちんはさー、道場のこととかー、剣術のこととかー、やる事いーっぱいあるかも知れないけど・・・」
言いながら、志乃は伍助の着物の胸元から手を差し込んだ。こちょこちょと乳首をいじる。
「おふゥ」
予想だにしない刺激に伍助は思わず呻いた。
「あたし、結婚してからずーっと、いつ来てくれるのかなーって待ってたんだからー」
「ちょ、ちょっとまて、志乃。まずはその手を止め、ひゃ!」
ヘンな声が出た。志乃は一瞬戸惑って目を瞬かせたが、すぐに今まで以上に嬉しそうな表情になった。
「なぁに、ココ? ココがが気持ちいいのかなーっ」
片手で伍助の帯を緩め、すすすすっ、と志乃の手が、伍助の意外と筋肉質な胸板から腹部へと滑っていく。
「うああ、ふっ、や、やめろ・・・」
「ごっちん、かーわいーいー♪」
くすくす含み笑いしながら、志乃は伍助の細い首筋に吸い付いた。
「し、志乃。よせ、やめぇ・・・ふああ」
伍助は全身の力が抜けつつも、逆に身体の一点にものすごい血が集まっていくのを感じた。
「どう? どう? 気持ちいー? ごっちん、どう・・」
志乃の動きが止まった。下っていった手が、伍助の身体の、ある一点に到達したためだった。
これって・・・こんなに熱くなるの? それに・・・ここって・・・ホネないはずよね?
志乃は急に押し黙って、そちらへ目を向けた。
むふーっ、むふーっ、と荒い呼吸音が静かな部屋に響いた。
伍助の鼻息だった。
「あれ・・・ごっちん・・・?」
「・・・志乃」
あ、やばい。伍助の表情を見て、志乃はちょっと酔いが覚めた。
伍助は志乃の背中に手を回して、ごろんと回転した。床の上で、二人の体勢が入れ替わる。
「あ、あれ? えへ、ごっちん、ちょっと待って」
「志乃。悪いが・・・もはや歯止めは効かぬぞ」
伍助は、強引に志乃に唇を重ねた。
突然の変貌に、思わず目を見開いた志乃だった。
「「・・・・・・・・・ぷはっ」」
離れた二人の唇の間を、唾液の透明な糸が引いた。しばし、荒い息を吐きながらじっと見詰め合う。
「必死」と「怯え」。対照的な顔だった。
やおら伍助が動いた。志乃の襟元に強引に手を差し入れながら、もう一度深く、深く唇を奪う。
「んっ・・・んん・・・」
志乃の艶かしいくぐもった声に、伍助ますますヒートアップ。
がばっと着物をはだけさせ、小ぶりな乳房を露出させる。
「ひゃあ!」
慌てて胸を隠す志乃の両手を、伍助が片手でそれぞれ掴んだ。ぐいい、と左右に開いていく。
「あ・・・あ・・やだ」
伍助は真剣な表情で、初めて見る妻の裸身を凝視した。
行灯の橙色の明かりに照らされる白磁の肌。そして、ふっくらとしたふたつの曲線。そして、その頂点にある可愛らしいピンク色のぽっち。
伍助はその乳房の間に顔を埋めた。
やわらかい・・・。
かつてない感触に遭遇し、伍助は思わずぐりぐり、とその間に顔を振った。
手首から手を離し、両手でゆっくりと、確かめるように乳房を揉みしだいた。伍助、大感動。
手のひらの中央に、ちょっと硬いモノを感じる。
たってる・・・。
伍助は、勃起した乳首を、大事な宝石を愛でるように指先で摘んだ。
「あっ・・・ああっ・・・」
志乃が呻くような声を上げた。
伍助は構わず、今度は乳首を口に含んだ。唇で、歯で、舌で、刺激を与える。空いている胸も、餅のようにこね回す。
何かの熱に浮かされたように、伍助は夢中で志乃の身体をむさぼった。
・・・そんな伍助が、志乃の様子に変化に気づいたのは、志乃の胸が唾液でべとべとになった頃だった。
伍助が顔を上げると、志乃は手で顔を覆っていた。しゃくり上げている。
「・・・志乃?」
「・・・ごっちん・・・今日のごっちん、怖いよぅ・・・」
伍助は身を起こすと、慌てて志乃から離れた。泣いてる志乃を見て、ぎゅっと拳を握り、ごくりと喉を鳴らす。
ぼくっ、ずだだっ、と二回鈍い音がした。
「志乃っ、すまぬ! 許してくれっ!」
涙を拭きながら志乃が顔をあげると、頬を腫らした伍助が土下座していた。先ほどの音は、自分で自分を殴って転んだものらしい。
「泣かせるつもりなぞなかったのだ! ただ、その、オレは、志乃が好きで、勢いあまって・・・」
伍助は床板に額をこすりつけた。
「本当にすまない! もう二度とこんな事はせぬから・・・」
「ダメ」
「え・・・?」
伍助が顔を上げると、志乃が鼻をすすりながら見つめていた。
「ごっちん、こっちきて。はやくー」
「む、うむ?」よく理解できない伍助だったが、立ち上がると恐る恐る志乃に近づいていった。
「ね、だっこして」
「何?」
「いいから、はやくー」
伍助は訳もわからないまま、志乃を抱きかかるためしゃがみこんだ。その耳に。
「ごっちん・・・お布団のあるとこで・・・続き、してっ」
布団の上で、正座の体勢のまま、伍助は背後の動きに全神経を集中していた。
しゅるりり、と衣擦れの音がする。やけに自分の心臓の音がうるさかった。
「・・・いいよ、こっち向いて」
伍助は緊張の面持ちで、ギリギリと身体の向きを変えた。
障子越しの月光が、その美しいシルエットをはっきり映し出していた。
志乃がくすりと笑った。「どうしたの、ごっちん?」
伍助はとっさに何も言えなかった。口の中がカラカラだった。
「・・・・・・キレイだ」心底、そう思った。
「もう。ごっちんも脱いでよ。あたしだけじゃ恥ずかしいじゃない」
志乃が照れたように言った。伍助は慌てて立ち上がって、帯に手をかけた。
「あまり・・・見つめられると脱ぎにくいのだが」
「えー。いいじゃない。減るモンじゃないし」
自分の時は後ろを向かせといてそれはないだろう、と思いつつも、伍助は志乃に背を向けると、意を決して一気に脱いだ。
「脱いだぞ」
ぶっきらぼうに言って振り向くと、志乃は正座をして三つ指をついていた。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
伍助も慌てて正座をして平伏した。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いするっ」
しばし、ふたりして平伏。
・・・・・・。
「・・・このお布団、ごっちんの匂いがするね」
じっと畏まっていた伍助の背に、そっと志乃の手が置かれた。
伍助ははっと顔を上げた。
志乃の笑顔がすぐ間近だった。楽しげな、でもどこか緊張した表情だった。
その指が、伍助の頬に触れた。先ほど伍助が自分で殴った場所だった。
「痛そう・・・」
「大した傷ではない」
「ごっちん、よく見たらいっぱいケガしてるね・・・」
「・・・大体が昔の傷だ」
「これからも・・・ケガしちゃうよね」
「・・・それが、オレの道だからな」
志乃は、ふっと息をついた。薄く微笑んだように見えた。
「サムライ、だものね」
ぎゅうっと志乃は伍助に抱きついた。
「じゃあさ、あたしがごっちんのケガ治したげる」
ペロ、と腫れた頬を舐める。
伍助は痛みではない、何ともつかないむずがゆい感覚が背筋を走ったのを感じた。
「ずうーっと一緒に、ね」
志乃が甘い息を吐いた。
伍助は答える代わりに唇を重ね、ゆっくりと、布団の上に倒れこんだ。
二人はどちらからともなく、互いに舌を絡めていった。
「・・・んん・・・んっ」
「あ・・・は・・・」
伍助は唇を離すとじっくりと舌を這わせていった。
志乃の顎のラインから首筋、鎖骨のくぼみを経て、胸まで達した。
今度はゆっくりと、質感を確かめるように揉みしだく。
「っは・・・あ・・・ん・・・っん」
志乃が呼吸を荒げた。
「志乃・・・すごくキレイだ・・・」
それ以外の台詞が思い浮かばなかった。ついばむように乳首を口に含み、ころころと舌で転がす。
「んっ、ふ・・・うふ・・・ごっちん・・・赤ちゃんみたいだよ」
さわさわと志乃が伍助の頭を撫でる。伍助、ちょっとむっとする。
「かーわい・・・あっ!」
志乃の声のトーンが一段跳ねた。伍助がそっと志乃の内腿に手を進めたためだった。
伍助、そのまま身をずらして志乃の下半身に移動する。
「やっ・・・あ、ちょっと、待って待って!」
志乃は慌てて腿に力を込めた。
「・・・待つのか?」
おあずけを食った犬みたいな表情。志乃は自然と顔がほころぶのを感じた。
「・・・やっぱいい。待たないで・・・」
伍助は大仰に頷くと、そうっと、まるで氷の結晶に触れるように、そうっと志乃の秘所に指を触れた。
薄い陰毛のさわさわした感触を掻き分けると、そこはしっとりと湿っていた。
ふっくりとした恥丘に、ピンク色の中身がちろっと出ている。
伍助は今まで見た春本の知識をフル回転した。
割れ目を挟んだ両岸の柔肉に指をかけ、割り拡げる。女体の奥から湧き上がるフェロモンに、伍助は脳が痺れるような感覚に襲われた。
「そんなに開いちゃ・・・ダメ。恥ずかしいよ・・・」
志乃は、身をよじった。伍助は指を這わせ、引っ張り、擦り、ゆっくり愛撫する。
「あっ・・・ふああ・・それっ・・・アン・・・いい」
「気持ちいい、のか?」伍助が恐る恐る訊ねた。
「やっ・・・んもう・・・あっ! そ、んなこと、聞かな、い、でよぉ」
志乃は、普段はおしっこを「出す」だけのところなのに、今は「入れる」ところである、という意識が先にたっていることに自分で驚いていた。
伍助は指を恐る恐るスリットに埋めた。志乃はびくん、と身を震えさせた。
まるで口中のような、とろりと濡れた温かな粘膜が絡み付いてきた。
「あ、あ、ああ、い、イイのっ・・・ごっちん・・・」
「志乃・・・」
伍助は上体を起こすと、真白い月光に照らされる妻の姿を改めて見つめた。
いとおしかった。ただ、いとおしかった。
「あっ・・・」
志乃は不意に声を上げた。足指に温かな感触があった。
「そんなトコ・・・舐めちゃダメぇ・・・」
伍助は構わず、志乃の足の指全てを丹念に舐め上げた。
「くすぐったいよぉ」志乃がクスクス笑った。
「志乃、お前の身体の全てが・・・知りたいのだ」
志乃のふくらはぎに強く吸い付きながら、伍助は答えた。
「待って・・・。ごっちん、コッチきて・・・」
そう言って、志乃は伍助のペニスに手を伸ばした。伍助は目を丸くした。
「あたしも・・・したげるから」
伍助は身を硬くして、志乃の柔らかな手のひらを受け入れた。
「へええ・・・こんな形なんだぁ・・・」
志乃は勃起したペニスの棒部分をむぎゅ、と握った。触れられた瞬間、伍助は、ふあぁ、と震える息を吐いた。
「あ、ごめ・・・痛かった?」
「い、や、なんでもない」
志乃は伍助の顔を上目遣いで見つめた。何かムリしてるっぽいな、と面白く思った。
手の内にある肉棒に目をやった。太さは志乃の指三本くらい。長さは中指の倍程度か。
すごいなあ、こんなに硬くて、熱いなんて・・・。
志乃はゆっくりと指を動かした。途端、伍助が顔を歪めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「んー? どーしたのー? 待ってほしいー?」
立場逆転。
志乃は手を前後に動かしながら、イタズラっぽく訊ねた。
伍助悶絶。
志乃の指先はただ乱暴に動くだけだが、他人に触れられた事のない部分を、しかも愛する妻に刺激されていると思うだけで十分強烈だった。
「ま、待つのだ・・・」伍助が呻いた。
志乃は指先が、何かねちょねちょするのに気づいた。
「それ以上されると、出てしまいそうだ・・・」
伍助のペニスの先端から、透明な液体が出ていた。
「男のひとでも濡れるんだ・・・」
志乃は感慨深げに言うと、先走り液の付いた指をぱくっとくわえた。
「あ・・・」
「えへへ、ごっちんの味がするね」
志乃が、にぱっと笑った。その顔を見た伍助、胸が高鳴る。
「志乃・・・その・・・そろそろ・・・」
伍助が語尾を濁らせて、察して欲しそうに言った。
志乃は伍助が何を言いたいのか分かっていたが、あえて伍助の言葉を待った。ただ、じっと見つめている。
伍助は妻の表情を見て、意を決した。
「オレと・・・ひとつに、なろう」
「・・・・・・うん」
志乃は、やや緊張した面持ちで、一度深く頷いた。
横たわる志乃の身体に、伍助は覆いかぶさった。
濡れた秘所に、伍助は自身の先端をあてがう。
「・・・ちがうよー、もうちょっと下」
「ここか?」
「バ、バカぁ。下すぎ! そこはおしり・・・」志乃が恥ずかしそうに言った。
「す、すまぬ!」
志乃は手を伸ばした。伍助の熱くたぎったペニスの場所を移動させる。
「こ・こ」
横を向きながら、志乃は恥ずかしそうに言った。伍助は慌てて頷いた。
「・・・初めてのとき、女はかなり痛いと聞くが、大丈夫か?」
「ガマンするっ。・・・けど、やさしくしてね」
口をきゅっと結んで、志乃は伍助の耳元で小さく言った。
「・・・いいよ、入ってきて」
「うむ」
伍助は真剣な表情で、腰をゆっくり沈めていった。
「っあ、あ、は、あーーーーーっ!」
志乃は予想以上の痛さに、伍助の背に必死にしがみついて耐えた。
「はっ、はっ、はっ、は、ああ、あはぁぁ・・・」
「志乃、大丈夫か?!」
「だ、い、じょぶ・・・ぜんっ、ぜん平気」
呼吸を荒げながらも、にぱっと明るい笑顔。
「・・・ごっちんの、だから、痛くなんか、ないよ」
だが、目尻にうっすら涙が浮かんでいるのが見て取れた。
「でも、ちょっと、だけ、動かないでね」
ふーっ、ふーっ、と息を整えながら志乃が言った。
伍助は伍助の方で結構いっぱいいっぱいだった。
その頭の中は様々な感情に入り乱れていた。
志乃と一緒になれた幸福感。志乃の痛そうな顔をみた罪悪感。ねっとりとした肉襞に包み込まれたペニスの快感。
この狂おしいまでの愛おしさを、これ以上どう伝えれば良いのだろう。わからない。
伍助は志乃の背に手を回すと、そのまま抱き起こしてぎゅっと抱きしめた。
「ふ? え、なに?」
「志乃・・・好きだっ!」
志乃の胸に顔を埋めて、伍助は目を閉じて言った。
「・・・ふっふふ・・・ごっちん、初めて言ってくれた」
「・・・そう、だったか?」
志乃を見上げる伍助。
「いいよ・・・動いても・・・」
促されて、伍助は腰に力を込めて動き始めた。
「あっ・・・はっ、はん、あはぁっ、あん、あんっ・・・や、ひぃ、ん・・・」
まだ痛みはあったが、それよりも精神的な充足感が強かった。
「いっ、いた、い、けどぉ・・・いい・・・きもっち、いいっ、のぉ・・・」
「志乃っ、志乃っ!」
二人は見つめあうと、深く唇を重ねた。
もっと一緒になろうとするように、必死に腰を合わせる。
「ごっちん、好きっ! 好きっ! 大好きっ!」
「オレも、志乃がっ、大好きっ、だっ!」
二人は競うように、悲鳴のような叫びを上げて絶頂に達した。
次 日 談
翌朝。
伍助は寝坊したふりをして、布団から出なかった。
正確には、出られなかった、である。
昨夜の記憶が、まざまざと蘇える。
思い出すだけで顔から火が出そうだった。
アリエナイ・・・あれは、有り得ないだろう・・・。
どんな顔で志乃に会えばいいのか、分からなかった。
「おっはよーっ! ごっちん、朝だよーっ!」
ばっさーっ、と布団が勢いよく引き剥がされた。
朝日をバックに志乃が立っていた。
「む、おはよ・・・」
小声で返す。
「どしたのー、元気ないよー?」
何と言うべきか言葉を選んでいると、ごはんできてるからね、と志乃は去っていった。
伍助は布団を片付けながら、昨夜のことは夢だったのだろうか? と思った。
お膳の前に座り、よそってもらったご飯を見て、伍助はちょっと硬直した。
「赤飯・・・」
「そ。大事な記念日になるもんね」
志乃は伍助の顔を下から覗き込むように言った。
「いいでしょ。あたしたち、ふたりの、最初の日♪」
「う、うむ」
伍助は動じてない風を装って、食事を始めた。
あまり大きくはないが、それでも皿には尾頭付きの立派な鯛が乗っていた。
「ね、ごっちん・・・」
「うむ?」
「今夜もしよーね」
伍助は危うく口中の食べ物を吹き出すところだった。
「志乃・・・昼間っからそんな話を」
「いいじゃない。それともぉ・・・今から、しちゃう?」
イタズラっぽく笑う。伍助は吹いた。
「あー、もう。きったなーい」
口中の残った食べ物を一気にお茶で流し込んで、伍助は言った。
「し、志乃。なんということを・・・!」
「ごっちん、真っ赤だ。かーわいー」
志乃は飛び上がって笑い転げた。伍助は憮然とした表情で腕を組んだ。
・・・そんな日常の光景の中をフェードアウト。
おしまい。