アタシはずっと、毎日、毎日、夜が来るのが怖かった。  
 それは夜じゃなくても来る事はあったけれど、やっぱり一番、夜が多くて、だから今も夜は苦手。  
 特に一人の夜は、本当に怖くて、辛くて、悲しくて、どうしようもない位、勝手に涙が溢れてしまうのだ。  
 深夜、シンとした寝床に一人になると、あの人の怒号が勝手に耳に蘇ってくる。  
 押さえつけてくる手の感触だとか、のしかかってくる身体の重みだとか、  
そして、準備の整っていないアタシを貫きにくるアレの痛さだとか、色んな事が頭をグチャグチャにして、  
叫びたいくらい胸が苦しかった。  
 だけど、今は平気。  
 ごっちんは、恥かしがって一緒に寝てくれないけど、夜中に目が覚めても、  
近くに聞こえるごっちんの寝息がアタシを安心させてくれるから。  
 
 でも、ごっちんは、今夜も帰ってこなかった。  
 
「ごっちん…、助けてよぉ……」  
 夜、一人は嫌い。  
 色んな事を思い出すから、怖くて嫌い。  
 嫌な夢を見て、目を覚ましても、シンとした家の中、アタシは一人だ。  
 途端に、無理矢理にアタシの肩を掴む、あの手の感触が蘇る。  
 布団にアタシを投げると、必要な所だけ着物を捲り上げ、彼は自分の好きなようにアタシを陵辱した。  
 ややを生す場所だけじゃなくて、手や口や不浄のための窄まりも、あの人の感触が染み付いている。  
 そういえば、ごっちんと夫婦になって、もうそれなりになるのに、ごっちんと閨を共にしたのは  
まだ数えられるほどの回数だ。それにごっちんは初夜の日以来、一緒に朝までいてくれた事がない。  
 だけど、ごっちんとの、どの房事を思い出しても、彼は凄く、凄く、本当に凄く優しかった。  
 アタシを壊れ物みたいに、慎重に丁重に敷布団の上に寝かせる。そうした後で、まるで失敗したら、  
死んじゃうんじゃないかって位に真剣な顔で、優しく着物を脱がせてくれるのだ。  
 でも、全部脱がせておいて、寒いだろうと布団をかけてくれる。アタシの肌が見たいから、  
脱がすという訳じゃないらしいのが、何とも不思議だ。そんなごっちんは、慌てて時々失敗しながら、  
何とか自分も全裸になって、布団の中におずおずといった感じで入ってくる。  
 で、布団の中でゴソゴソと、なるべくアタシを痛がらせないようにと気を遣うのだ。  
 少しくらい、乱暴にされたって、アタシは平気なのに。  
 ごっちんの指は、『慣らさねば、女子は痛いと聞いたので…』と、柔らかく陰唇に触れてくる。  
 布団の中で、重くならないようにと懸命に腕をついてアタシにのしかからないようにしていた、ごっちん。  
「布団をかけてても、くっついてないと、風が入って寒いよ?」  
 そう言って手を伸ばして、ごっちんを抱きしめたら、顔を真っ赤にして、口をパクパクさせてたっけ。  
 密着した胸は、凄く熱くて、アタシとするのに興奮しているんだと思ったら、急にアタシまで熱くなった。  
 思っていたよりも、ごっちんの身体は筋肉があって、抱きしめられると男の人なんだなあって思わせる腕をしている。  
 手を重ねれば、アタシよりも大きな手のひらがギュッと握り返してくれて、  
それだけでアタシは胸が切なくて泣きそうになった。  
「もう、大丈夫だよ…だから……」  
 延々と焦らすように優しく撫でられた陰唇がジクジクと貫かれるのを待っている。  
 ねだれと命令された訳でもないに、自分からして欲しいとごっちんに願った。  
「…志乃。済まぬが、少しだけ我慢してくれな」  
 グッとごっちんの摩羅がアタシの中に押し入ってくる。  
 久々だから、凄く、大きく感じるのかと思ったけど、3回目の時に、ごっちんの方が大きいのだと分かった。  
 ごっちんの摩羅に指で触れて気付いた大きさの違い。  
 身体の大きい人の手や足が大きいように、身体の大きい人がソコも大きいのかと思っていたので、  
ごっちんとあの人の大きさが見た目と逆なのに気付いた時、少しおかしかった。  
 
「……本当に、ごっちん、早く帰ってきてよぉ…」  
 怖い以上に、何だか切なくて、アタシはフラフラとごっちんの居ない寝間へと向かう。  
 いつ、ごっちんが帰ってきてもイイように拵えた寝床は、主の居ない今、夜の静けさの中で冷え切っていた。  
 バフッと音を立てて布団に倒れこめば、ごっちんの匂いで身体が包まれる。  
 だけど、ココにごっちんはいなかった。  
 布団は本当に芯から冷たくて、アタシの身体の熱が奪われていくばかり。  
 アタシに熱を与え返してくれるごっちんがいなかった。  
「寂しいよぉ…」  
 枕に顔を埋め、ごっちんを思い描く。  
 ごっちんはアタシと離れて、少しでも寂しいと思ってくれているだろうか。  
 アタシはごっちんが戻ってきてくれないのが寂しくて、寂しくて、涙が勝手に溢れてきて、  
せめて旦那様が、この十分の、いや千分の一でもイイから、アタシを想っていてくれたらイイのにと願った。  
 

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