とある水無月の日のこと。
日当たりのいい縁側で、手足を投げ出して志乃が気持ち良さそうに寝こけていた。
からりと乾いた洗濯物を取り込んで畳んでいる最中に、急に眠気に襲われたのだろう。一枚の手
拭いを握ったまま大口を開けて涎を垂らしている。
勤めから戻ってすぐ、寝室でそんなしどけない志乃の姿を見た伍助は思わず声を喉奥に押し込ん
でしまった。
全く、無防備にも程がある。幸いにも室内だからいいようなものの、こんな姿を簡単に晒されては
こちらの身が持たない。
「志乃、こら志乃…」
手の甲で軽く頬を叩いてみても、よほどぐっすり寝入っているのか目覚める気配もない。かといっ
て、わざわざ手荒にして起こすのも気が引けてそのまま座り込んでしまうしかなかった。
「この時期なら風邪もひかぬだろうが、困ったものだ」
伍助の困惑も知らず、大層楽しい夢でも見ているのか志乃は時折けらけらと笑いながら寝返りを
打つ。その度に着物の裾から覗く内腿がひどく白く映った。
これほど目の毒があろうか。
日が落ちるまでの暫しの辛抱と男の気概で堪える真似をしてみても一度意識をしたら最後、勝手
に反応するのが哀しいかな下半身というものだ。
「少しだけだぞ、これだけだからな」
大胆にめくれた裾から剥き出しになった腿を恐る恐る撫でてみると、細いのに肉感を感じさせる柔
らかさと温みが手のひらへと伝わってくる。それに、普段隠れている箇所なだけにひどく滑らかだ
った。
夜の褥の中で触れているのとはまた別の感覚が堪らない。心の臓がたちまちにして激しく動悸を
打つ。
「志乃…」
このように浅ましい真似をしている間は目覚めないでくれと願う伍助の思いを知るように、依然とし
て志乃は寝入ったままだ。顔を近付けて寝息を伺ってみても穏やかなままだ。それでようやくわず
かばかりの平静さを取り戻す。
ごくりと唾を飲み込んでから、裾をまくり上げ、襟元も出来うる限りくつろげてみた。震える手で赤
い腰巻を取り去ってしまうと、着物はただ帯一本だけで纏わりついているだけの布切れに過ぎな
くなっていた。
あまりの扇情的な姿に、かあっと頬が染まるのが分かる。
志乃の寝姿につい欲情してこのような真似をしたことすら信じられないほどだが、もうこうなっては
身の内から突き上げるものに従うしかない。男とはそういうものだ。
「志乃、すまんな」
我慢出来ずに腕の中に掻き抱きつつ、片手の指に唾液をたっぷりとまぶしていく。このまま欲情
に目が眩んでしまっては、さすがに志乃に気の毒だと思ったのだ。
こんな時であっても、出来るだけ丁寧にしたい。優しくしたいと逸る心を抑えつけて今日はまだ触
れぬままでいた可憐な花の如き女陰に濡れた指を差し込んでいく。
「ン…」
さすがに、直に感じる感触は夢の中でも届くようだ。無邪気に寝こけていた志乃は指が膣内で蠢
くにつれて頬を染め、女そのものの艶めく表情を纏っていった。
「志乃、いいのか」
「は、ぁぁんっ…」
むやみに動いていた指が、感じる一点ともいうべき箇所を突く毎に何ともなまめかしい声が可愛ら
しい唇から漏れる。伍助自身性に関しては何の技巧も持ち合わせてはいないが、拙い技でも志
乃が反応を返してくることが嬉しくて仕方ない。
指先にぬるりと纏わりつくものが余計に情動を煽る。
まだ幼い志乃の身体が伍助の熱に追い上げられるようにほんのりと染まり、淡く汗を刷いて肌の
匂いが一層強まる。これまで身近には母親以外の女性がいなかった伍助にとっては、その嗅ぎ
慣れぬ香すらもひどく馨しく思えた。
何度も、何度も突き上げる指の動きに合わせるようにして、もう一方の片手ははだけられた襟元
から覗く乳房を揉み、柔らかな肌の感触を楽しんでいく。
「…志、乃っ…」
愛しい女をこうして感じることで、触ってもいない股間の一物は極限まで昂ぶっていた。
「志乃、志乃ぉ…」
「…んー…」
夢中で掻き抱く腕の中で、眠りの中にいた志乃の瞼はゆっくりと開いた。
「…なあーに、ごっちん」
「あ、い、いや…」
この状況だ。てっきり咎められるかとばかり思っていたのに、瞬時に察した志乃はますます頬を鮮
やかに染めて細い腕を回してきた。まっすぐに見上げてくるきらきらした瞳があまりにも綺麗で、思
わず口篭もる。
「すまん、志乃。つい…」
「アタシ、いいよ。ごっちんだもん」
「いい、のか?」
「…ん、いっぱい、して…」
いつもなら闇の中で微笑む妖艶な顔が、そのままこうして真昼の光の中にあった。
ずくずくと一物が収まるべき濡れそぼった膣を求めて疼いている。堪らなくなってもどかしく蕩かさ
れた女陰に突き立てるなり、志乃の真っ白な喉が綺麗に反った。
「あああんっ!」
「志、志乃っ…」
思わず奥まで突き入れると、一物を包み込む柔らかな内壁がぎゅうっと扇情するように悩ましく収
縮した。このままでは、ろくに内部の素晴らしき感覚を楽しまぬ間に達してしまうかも知れないが、
それでも構わなかった。今こうして感じていることが全てなのだから。
それに。
「いっぱい、いっぱいして…何度もして、ごっちんっ…」
しきりに甘い声を零して誘う女がいる。それ以上に、この機を得たことでより深く激しい快感を求め
出した伍助自身がいるのだ。
ほんの軽い悪戯から始まった、この戯れは終わる気配もなかった。
同じ頃、屋敷の玄関で佇む影二つ。
「なんか放っておかれたみたいっスねー」
諦めたような声を発しているのは、上がりで座り込んだまま頬杖をついている千代吉だった。もう
一人は子猫のようにちょこんと隅にいるマロ。
実は伍助と落ち合ってここに来たのだが、肝心の伍助が茶でもどうだと奥に入ったままさっぱり出
て来る気配もない。そのうちに何やら怪しい声が漏れてきて小半時この状態だ。
「まあ、夫婦和合は平和の基本っスから」
とっくに忘れられているにも関わらず、千代吉は呟きながらもうんうんと頷いた。
終わり