真夏の朝は、朝とは思えないほどに暑い。
まるでだらだらと身体中が溶けてしまいそうなほどだ。
「では、行って来るぞ」
その日も変わらず、伍助は律儀に支度をして勤めに出掛けようとしていた。この時期でも同じ時間
に起床、洗顔、朝餉と変わりなくこなすのは習慣もあるし、何より生真面目過ぎると人に言われる
性格にもよる。
まあ、それも仕方なかろう。今更変えられぬと玄関先まで出た頃。
「ごっちん、忘れ物」
後ろから志乃が声をかけてきた。
「む?忘れた物など別に」
「こーれ♪」
振り返るなり、抱き着かれて唇に柔らかい感触。
「……ぅぐ」
一体何が起こったのか分からなかったのは一瞬のこと。すぐに茹蛸のように真っ赤な顔になってじ
たばたと慌てる羽目になった。
「ごっちん、今日も暑いから気合い入れたの。お勤め頑張ってね」
わずかに顔を離した志乃は、魂を蕩かしそうなほど可愛らしく笑っている。
「…う、うむ。では行って来るぞ」
「うん、行ってらっしゃーい」
元気に手を振る志乃に見送られて、伍助はまだ赤い顔を隠すことも出来ずに照れ隠し代わりにわ
ざとむっつり顔をしながら、勤め先までの道を急ぎ足になるしかなかった。
確かに気合は入ったのだが、やはり今日も浅野殿に「どーん!!」されたことは言うまでもない。
終わり