夕方の待ち合わせは、いつも花街の片隅の人気が無い場所だった。  
「お待たせ!」  
「おう。」  
幼馴染のキヨが吉原に入れられてから、2年程が経過していた。  
この頃キヨは、遊女の一歩手前の「引込」となってから、  
琴や唄などの習い事に出るようになり、着物もきれいな物を着ていた。  
彼女の目指す「最高位の遊女」への道を順調に歩んでいた。  
その稽古の帰りにこっそり会っては、お互いの近況を語ったり、  
他愛も無い話をしたりするのが、俺たちの習慣となっていた。  
「やっぱ遊女の趣味ってぇのは、琴や三味線ばっかりか?  
お手玉とかはもうしねぇの?」  
「ん〜・・・そりゃぁ琴なんかが主だけど、  
アタシは今もお手玉はするわよ?ほら。」  
そう言って巾着からお手玉を二つ取り出して、  
ひょいひょいと得意げに投げて見せた。  
膨らんできた胸元や、丸みを帯びてきた身体、  
柔らかなしぐさは大人の女がにおい始めてきている。  
でもその上にちょんと乗っている顔はまだまだ幼い少女の物だ。  
(やっぱまだまだガキだよな)  
俺はいつしかキヨの手の上を跳ね回る二つの玉よりも、  
その無邪気な横顔を見つめていた。  
「ねぇ、ちゃんと見てんの?」  
キヨがふくれっつらをしてこっちをにらんだ。  
玉はいつの間にか四つに増えていた。  
日は沈み始めて、辺りは薄暗くなってきた。  
「お前、そろそろ店に帰らねぇとやばいぞ。  
ほら、送ってやるから。・・・キヨ?」  
「・・・・」  
キヨは下を向いたまま動かなかった。  
あまり店に戻るのが遅くなると、ひどい仕置きが待っているから、  
いつも夕日が沈むまでにキヨを送って帰るのだが、今日は違った。  
テコでも帰りたくないようだ。  
「・・・もう、その名前で呼んじゃだめ。」  
「え?」  
「あたし、もうすぐ客取らないといけないの。」  
 
・・・頭を後ろから何かで殴られたような気分だった。  
覚悟はしていたつもりだったが、まだまだ先のことだと思っていたこし、  
なるべく考えないようにしていた。  
いや、小さい頃から知っているやつが、  
男に身体を開く姿なんて考えたくも無かった。  
俺はどう反応すれば良いのか分からなかった。  
「最高位の遊女」にまた一歩近づいたな、と喜んで見せるべき  
かもしれないが、今のキヨの表情を見て言える台詞ではない。  
かと言って、動揺するのもおかしい(もう充分動揺しているが)。  
俺たちはお互いに恋い慕う関係ではないのだ。  
すくなくともキヨはそうだろう・・・。  
俺が言葉を探してもたもたしている内に、先にキヨが言った。  
「もうこうして普通にあんたに会えなくなるの。」  
もう会えない。次に会うときがあるとすれば、  
その時は俺は客で、こいつは遊女なのだ。  
「・・・ごめん、もう帰らないとね。」  
キヨが帰ろうと歩を進めようとしたそのとき、  
「キヨ!!」  
俺はとっさにキヨの腕をつかんで、身体を近くの壁に押さえ付けた。  
「ま、正雪!?やっ・・・」  
切れ長の潤んだ瞳が脅えた目でこちらを見上げていたが、もう止まらなかった。  
片手で細い両腕をキヨの頭上で押さえつけ、もう片方の手で襟を無理やり開くと、  
白くて細い首、薄い肩がむき出しになった。  
「見ないで・・・」  
拒みつつ恥らう顔も含めて、俺の見たことの無い姿だった。  
 
「もっと見てえ・・・」  
そう低くキヨの耳元で囁やくと、「はぁ・・・」と、キヨはとろりとした息を吐いた。女は耳からでも感じるらしい。俺の声に感じてくれたのだろうか。  
更に襟を開くと、その華奢な身体には不釣合いなほど豊満な乳房があらわになった。ゆれる二つの白い房は、着物から解放されて、帯の上から溢れていた。  
俺は片方の乳房を撫で回し、もう片方には吸い付いた。初めて触った女子の胸は、思った以上にやわらかくて、でも冷たかった。  
「は・・・ぁ、あぁっ・・ん・・」  
頭上からキヨの喘ぎ声と暖かい吐息がかかる。初めて味わう感触に、  
初めて目にする幼馴染の身体と、初めて耳にする声。  
それら全てが頭を駆け巡って、おかしくなりそうだった。  
自分のこの乱暴な行動が、恋慕の情から来ているのか、  
それともただの欲望からなのか、もう分からなかった。  
仮に恋だったとして、その感情はいつから生じていたのだろう。  
ただ確かなのは、俺はこの身体が他の見知らぬ男たちに抱かれることが  
たまらなく嫌だ、ということだった。  
 
「あ・・・、正、雪・・・ッ」  
胸を揉みしだいていた手は、下半身に伸びていた。  
両太ももの間ではとろとろとした汁が溢れており、割れ目に指を触れると、  
吸い込まれるようにキヨの身体の内側に入っていった。  
キヨの中は乳房よりも柔らかく、熱かった。  
かき回すと、キヨの喘ぎはさらに激しくなった。  
更にかき回すと、きゅうぅっと締め付けられた。  
「ん、ああっあっ・・・!」  
絶頂を迎えたキヨの身体は倒れんばかりに激しくのけぞったため、  
俺は慌てて背中に手を回して、抱きしめるようなかたちで身体を支えた。  
「はぁ・・・はぁ・・・」  
俺の腕の中で、細い身体は息を切らしていた。切なそうに俺を見つめている。  
それでもかまわず、俺は硬くなった自分の物を取り出して、  
キヨの身体の入り口にあてがった。が、拒まれた。  
「それだけは・・・だめ。」  
身体が俺から離れた。  
「あたしの突き出しの客は、もう決まっているの・・・。」  
キヨを初めて抱く客はもう決まっているらしい。  
今ここで俺の身体が入り込んだら、初めてでないことがきっと一発でばれる。  
俺のせいでキヨの「夢」の第一歩を潰してしまう。  
「・・・ごめんな。いきなりこんなこと・・・」  
俺はやっと正気にもどった。と同時に、恥ずかしさと罪悪感が一気にこみあげた。  
だめだ。戻ろう。いつものへらへらした俺に。  
 
「すっかり暗くなっちまったな。ごめん、もう帰ろ・・・ぅあっ」  
キヨがいきなり俺の物をくわえた。  
さっき正気に戻って萎えていたはずが、みるみるうちに蘇えっていった。  
先を柔らかい舌でちろちろと舐められたかと思ったら、  
次の瞬間、根元から吸われたり、ものすごい速さで  
キヨの口の中を出たり入ったりした。  
「こ、こんなことまで・・・仕込まれてんの・・か?」  
「・・・本当にするのは・・・あんたが初めてよ」  
自分の意思とは関係なく押し寄せてくる快感が、たまらなかった。  
キヨの舐める速さは加速した。  
「く・・・はっ・・・だめだ、それ以上やったら・・・あ・・・」  
頭の中が真っ白になった。下を見ると、俺の精をキヨの口が受け止めていた。  
 
 
二人とも着物を直すと、直ぐにキヨの店に向かった。  
「裏口から入って、お湯屋に行ってたって言っとくから大丈夫。」  
ということで、俺はキヨを店の裏まで送った。  
これが、キヨと会う最後の瞬間だ。  
次に会うときは俺は客、キヨは女郎。名前すらも変わっている。  
「じゃぁ、ね。」  
キヨが俺に背を向けて、裏口へ入っていく。  
「キヨ!」思わず呼んだ。  
「なに?」キヨは振り返った。  
「・・・俺と一緒に、その、逃げねぇか。」  
思いがけずでた言葉だった。  
それは俺の本音であり、そしてかなうことの無い願いだった。  
「ふふふ、ばかね。」  
言われると思った。  
「でもね、アンタがあたしの初めての・・・」  
「な、何だよ。”客”?」  
俺は言葉を待った。  
「なーいしょ!」  
そう言いながらキヨは店の中へ消えていった。  
「・・・何だよそれ。」  
最後の瞬間、キヨは笑っていたが、瞳が潤んで見えたのは、  
きっと俺の都合の良い錯覚だったんだろう。  
 
 
(完)  
 
 

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