食事の席、俺は沢庵を齧っていた。
味もわからぬ。
今日は志乃に話さなくてはいけないことがあるのだが、糸口をつかめない。
「ごっちん、大丈夫?ずっと沢庵ばっかり食べてるよ?」
「あ、ああ」
「もしかしてほかのおかず美味しくなかった?」
志乃は心配そうに作った料理を眺めている。
アジの煮付け、山菜のてんぷら、山出汁の味噌汁。
どれもいつもどおり、美味いのだが。
「いや、美味い」
アジの煮付けを一切れ、箸で切って口に入れた。
美味いぞ、と見せるように一噛みした瞬間、骨が口に刺さった。
思わず、体が跳ね、口を押さえた。
「ごっちん大丈夫?」
志乃が近づいて肩を触ってくる。
俺は痛みをこらえて志乃の手を握った。
「今夜、おぬしと・・・」
「今夜、なにしたいの?」
「寝たい」
これまでの経路を言おう。
いつもどおり道場に向かった時だった。
道場ではなぜか摂津殿しかいなく、一人タバコをふかしていた。
後でわかったことだが。
穂波殿は城の用事、風間殿は何もしていないのに岡っ引きに捕まり、千代吉は村の仕事、マロは祖父にぼこぼこにされ養生しているらしかった。
「おはよう摂津殿」
「よお、伍助ちゃん」
紫煙を噴出すと、摂津殿が懐から本を取り出し、こちらに投げてきた。
本が足元に落ちる。
「まあ、読んでみな」
くだらない本かと思い、見てみるとやはりくだらなかった。
「春本・・・摂津殿!」
「なあ伍助ちゃん」
「なんだ」
「おたく、女に興味がないのかい?」
「べっべつに女子が好きなのと春本を買うのとは話が別だろう!だいたい、摂津殿は・・・」
「その調子だと、志乃と夫婦の夜も過ごしてねえな」
思いもしない言葉に顔が赤くなる。
「そんなこと関係ないであにょ・・あろう!」
悪びれも無くタバコをふかす。
「志乃は思ってるんじゃねぇか?伍助ちゃんが自分を女として見てくれてないとかよ」
「そんなことはない!」
「じゃあ、具体的に夫婦らしいことしたか?接吻とかよ」
俺と、志乃が・・・。
「とにかく俺達夫婦のことは何もいわないでもらいたい!」
ごまかす為に竹刀を持つ俺をみて摂津殿はいつの間にか姿を消してしまった。
その後、一人でいたせいで考え込んでしまい、俺と志乃の発展の無さを思い出してしまった。
もしかしたら、志乃も、そう思っているかもしれない。
結局。家の掃除をして気を紛らわしていたのだが、今夜、志乃の反応を見てみようと思ったのだ。
志乃は俺の言葉に大きな丸い目をきょとんとさせていた。
そして。
「いつも一緒の部屋に寝てるじゃん」
どうも意味を取り違えたらしい。
「いや、そうではない、今夜、その、夫婦の契りをしたい」
自分で言って恥ずかしくなる。
「うん!いーよ」
しかし志乃は即座に合意してくれたのだった。
「いかん」
志乃が台所の片付けをしている間、寝室で待っていたのだが。
心臓が張り裂けそうだ。
今夜、俺は志乃と。
布団にもぐってしまう。
暗い布団の中で丸くなって想像を打ち消す。
「ごっちーん」
布団の上から衝撃を受ける。
どうやら志乃が飛び込んできたらしい。
「ごっちん」
布団をはがされ、顔を覗かれてしまった。
「なんで泣いてんの?」
「その・・・あのだな、俺は・・・初めてなんだ」
本当に泣いて道場に走って逃げたい。
男としてこんな辱めを受けたのは初めてだった。
摂津殿だったら美味く女子を先導できるだろうに。
春本を本当に読むべきだったか。
「じゃあアタシに任せて」
志乃が布団を引っ張って二人で同じ布団につつまり、視界が暗くなる。
ただ、志乃がひどく近くにいるということは気配でわかった。
「ごっちん・・・」
返事をしようと、口を開いた瞬間、何かが唇に当たった。
やわらかくて湿っている。
「へへ・・・」
吐息が鼻にかかった。
もしかして、今のは志乃の・・・。
暗闇でよかったと思う、今の俺はだるまよりも赤い顔をしているからだ。
着物をはだけさせられ、股間に手を添えられる。
褌の布を隔てて志乃のやわらかい手がなでる様に触っているのがわかる。
初めて、他人から自分のものを触られ、羞恥と快感ですぐきつくなった。
「ごっちん、もう元気だね」
志乃の少し荒くなった呼吸が布団の暗闇から聞こえる。
手が褌の紐を解くと、今度はじかに俺のものを触られた。
なでるように裏側を触られると、今度は握るように根元を掴まれた。
「くっ」
志乃の暖かい手が、今は少しひやりとした感触に感じた。
「ごっちん、やっぱり男の子だね」
両手で包み込むようにされると、上下にさすられる。
ものの皮が動き、中の芯が疼くように気持ちよくなる。
「どう?」
「志乃・・・」
名前を呼ぶだけで精一杯だった。
暗闇の中、志乃が淫らに俺のものを握っている。
それだけで、もう。
最初はゆっくりだったのだが、志乃が徐々に速度を上げてきた。
だんだん分泌されたものの液でくちゅう、と音を立てる。
「気持ちいい?ごっちん」
はだけた胸に志乃の吐息がかかる。
淫靡で、無邪気な声だった。
袋を片手で握られ、もう片方で上下にさすられる。
とうとう我慢できず、志乃の手の中に精を放ってしまった。
予想以上の快感に体がだるくなり、視界がさらに暗くなってくる。
「ごっちん、すごい量」
志乃の楽しそうな声と吐息を感じながら、意識を失ってしまった。
目が覚めると、朝だった。
ぼーっとして周りを見渡すと、隣の布団で志乃が寝ている。
昨日のことがいまいち思い出せなく、少し思考すると、頭に鮮烈に志乃が浮かんだ。
布団を跳ね上げ、服を確認する。
ぴったり綺麗に着ている。
褌は・・・身につけていた。
夢だったか。
おそらく、摂津殿のあの話の影響であろう。
よだれをたらして寝ている志乃を起こす。
「もう朝だぞ、朝食の用意を・・・」
志乃は「ん」と声を出すと上半身を起こし、大きく伸びをした。
昨日の夢を思い出し、志乃の顔が見れない。
「どうしたのごっちん?」
「なんでもない!あれだ、腹が減っているせいだ」
「おなかすいたんだ、昨日は疲れたもんね」
「ああ、そうだ、昨日は大変だったからな」
そう、屋敷の掃除もしたし、道場も磨いたのだからな。
志乃が障子を開けて太陽の明かりを部屋に入れる。
「じゃあご飯の用意するから」
「うむ」
一度背を向けると、今度はまた振り返って笑顔になった。
「また、しようね」
「え?」